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生産性向上の重要性とは?目的や具体的な施策、助成金制度を徹底解説

公開日:2022.09.13

更新日:2023.07.19

企業の課題

企業が人材不足の解消や、グローバルでの競争力を強化するために、生産性向上に向けた取り組みがますます注目されています。しかし、

「そもそも生産性の定義について理解できていない」
「生産性向上に向けてどのように取り組めばよいのかわからない」
「生産性向上でどのような効果があるのか知りたい」

など、悩みや疑問も多いのではないでしょうか。

本記事では、生産性とは何か、生産性向上の基本的な考え方、取り組みにより得られるメリット、生産性向上活動のプロセスや施策を解説します。取り組みの注意点や政府からの支援についてもご紹介していますので参考にしてください。

目次

生産性とは「投入した資源に対してどのくらい成果を生み出すことができたか」を表す指標

ヨーロッパ生産性本部(EPA)によると「生産性とは、生産諸要素の有効利用の度合いである」と定義されています。

例えば、有形・無形にかかわらず商品やサービスを生み出すためには、原材料や機械設備、ノウハウ、作業するスタッフの人件費などさまざまな資源が必要になります。これらの投入した資源に対してどのくらい成果を生み出せたかを表す指標として使われています。

生産性は「成果(アウトプット)÷投入する資源(インプット)」で算出できます。

生産性の種類

生産性は大きく分けて資本の視点から見た「資本生産性」、労働の視点から見た「労働生産性」、資本や労働など投入したすべての生産要素から見た「全要素生産性」の3種類があります。生産性の中でもっとも多く使われているのが「労働生産性」です。労働生産性では、社員1人当たりまたは1時間当たりどの程度の「成果(アウトプット)」を生み出せたかを、算出できます。

さらに、労働生産性は生産するものの大きさや重さ、個数から算出する「物的生産性」と、企業が新たに生み出した金額ベースの付加価値から算出する「付加価値生産性」の2つに分けられます。

それぞれの生産性がどのような場合に用いられるのかは、以下の通りです。

生産性の種類 概要 算出方法
物的生産性 資本生産性 設備投資や固定資産など資本に対してどの程度の生産量が得られたか 生産量÷資本ストック数
労働生産性
(1人当たり)
1人当たりどの程度の生産量を生んだか 生産量÷労働者数
労働生産性
(1時間当たり)
1時間当たりどの程度の生産量を生んだか 生産量÷(労働者数×労働時間)
全要素生産性 労働や資本、原材料など全ての投入に対してどの程度の生産量が得られたか 生産量÷(労働+資本+原材料)合成投入量
付加価値
生産性
資本生産性 設備投資や固定資産など資本に対してどの程度の付加価値が得られたか 付加価値額÷資本ストック数
労働生産性
(1人当たり)
1人当たりどの程度の付加価値を生んだか 付加価値額÷労働者数
労働生産性
(1時間当たり)
1時間当たりどの程度の付加価値を生んだか 付加価値額÷(労働者数×労働時間)
全要素生産性 労働や資本、原材料など全ての投入に対してどの程度の付加価値が得られたか 付加価値額÷(労働+資本+原材料)合成投入量

生産性向上の基本的な考え方

生産性向上とは、「投入する資源(インプット)」でどれだけの「成果(アウトプット)」を得られたか評価する考え方です。生産性を向上させる基本的な取り組みには「投入する資源(インプット)の効率化」と「成果(アウトプット)を増やす」2つの方法があります。

この章では、生産性向上を目指す2つの取り組みと、間違えられやすい業務効率化との違いについて解説します。

投入する資源(インプット)の効率化

「投入する資源(インプット)」の効率化とは、プロセスを効率化したり自動化したりするなど、工数やコストを軽減し労働力を効率的に活用する取り組みです。

効率化やコスト削減できる業務が多ければ、短期的に「成果(アウトプット)」を出すことが可能です。

成果(アウトプット)を増やす

「成果(アウトプット)」を増やす取り組みとは、新規商品・サービスの展開や既存商品・サービスの高付加価値化、販売エリアの拡大などを通して企業の利益を増やす方法です。

時代や顧客のニーズに合った商品やサービス展開ができれば、長期的に「成果(アウトプット)」を出すことが可能です。

生産性向上と業務効率化の違い

生産性向上と混同されやすい「業務効率化」とは、業務にかかる工数やコストを抑える取り組みを指します。例えば、余裕を持ったスケジュール設定で無理をなくす、非効率な業務の遂行を見直し適切な人員配置で無駄をなくす、繁忙期と閑散期の業務のムラをなくすなどの施策が考えられます。

業務効率化はあくまでも、業務上の課題に対する「改善活動」であり、必ずしも「成果(アウトプット)」に結びつくとは限りません。

生産性向上は前述した通り、「投入する資源(インプット)」でどれだけの「成果(アウトプット)」を得られたか評価する考え方で、その評価は決められた計算式で算出されます。どちらも人的資源やコストを抑えるという点では共通していますが、生産性向上は現在よりも「成果(アウトプット)」を上げることが目的であり、そのために業務効率化を行うこともあります。

つまり、生産性向上は経営資源の最適化をするための目的(目標)であり、業務効率化はそのための手段や施策の一つなのです。

生産性が注目される背景と日本の生産性の現状

前章で生産性と生産性向上の考え方について説明しましたが、なぜ生産性向上が注目されているのでしょうか。この章では、データを用いて日本の生産性の推移と、世界と比較した日本の生産性の現状を解説します。

日本国内の労働生産性の推移は横ばい傾向

公益財団法人日本生産性本部が公表した「日本の労働生産性の動向2021」では、1995年以降日本国内の名目労働生産性(就業者1時間当たりの付加価値額から算出)が横ばい傾向にあることがわかります。

1995年に比べ大きくテクノロジーが発展し、自動化できる業務が増えつつあります。しかしテクノロジーを活用した業務体制は進んでおらず、生産性が上がっていない一つの要因といえます。

総務省が公表した「令和3年通信利用動向調査の結果」では、IoTやAIなどのシステムやサービスを導入している企業(導入予定も含める)は26.5%程度に留まっています。その一方で、IoTやAIなどのシステムやサービスを実際に導入した企業のうち「非常に効果があった」「ある程度効果があった」と回答した企業は約83.4%となっており、成果や生産性の向上につながっています。

このように、企業は時代に合った業務体制に変化しながら、生産性向上を目指す必要があります。

日本の生産性は世界と比較しても低い水準

公益財団法人日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較2021」では、日本の労働生産性がOECD(経済協力開発機構)加盟国38ヶ国中28位の日本の労働生産性は世界と比較しても低く、OECD平均よりも低いのが現状です。

グローバル展開で国際的な競争力をつけていきたいと考える企業こそ、生産性向上に向けた課題に取り組む必要があります。

生産性向上が求められる3つの理由

生産性向上が求められる理由には、前章でご紹介した日本の生産性が低い傾向にある以外にも、以下3つの社会的な要因があります。

  • 少子高齢化による労働人口の減少
  • 誰もが働きやすい職場の実現
  • グローバルでの競争力を強化

この章では、生産性向上が求められる3つの社会的な要因について詳しく解説します。

少子高齢化による労働人口の減少

少子高齢化が進む日本では、15歳〜64歳までの労働人口の減少が社会的な課題となっています。

2018年10月23日に公表されたパーソル総合研究所と中央大学が共同研究した「労働市場の未来推計 2030」によると、日本の労働人口(生産年齢人口)は減り続けていくことが予想され、2017年から2030年にかけて767万人の労働人口(生産年齢人口)が減少すると試算されています。

労働人口が減少していく中で、企業が持続的に成長を続けていくためには、社員1人当たりまたは1時間当たりの生産性を上げる取り組みが必要となります。

誰もが働きやすい職場の実現

2022年2月10日に帝国テータバンクが公表した「2022年度の賃金動向に関する企業の意識調査」によると、企業の人件費の推移は増加傾向にあります。2017年から2022年まで、前年度の実績に比べて毎年1〜3%の人件費が増えていることがわかります。

人件費を増加させた企業の約80%が、社員が働きやすい職場をつくることや、経験や実績が豊富な人材を採用することを目的に人件費を改善しています。

労働人口が減少していく中で、人材の定着率を上げたり、人材を採用したりするためには、誰もが働きやすい制度や環境づくりが重要な取り組みとなります。そのためには、従来よりもコストが発生しやすくなります。

生産性を上げ利益を増やすことで、働きやすい制度や環境をつくるための費用の確保が可能となります。

グローバルでの競争力を強化

公益財団法人日本生産性本部が公表した「労働生産性の国際比較2021」の以下のグラフでは、主要先進7ヶ国のうち日本の労働生産性は低い傾向にあることがわかります。また、2018年以降順位が下がっています。

  • ※引用:公益財団法人日本生産性本部|労働生産性の国際比較2021

グローバル展開で国際的な競争力をつけていくためにも、企業の生産性を上げ、利益を拡大する必要があります。また、日本国内の生産性を上げることは、日本社会の発展にも直結するため社会全体で生産性向上への取り組みが不可欠といえます。

生産性向上で得られる4つのメリット

前章では、企業が持続的な成長やグローバルでの競争力強化のためには、生産性を向上させることが重要であることをご紹介しました。また、企業が生産性向上に取り組むことで、以下のようなメリットが得られます。

  • 人材不足解消につながる
  • 社員の労働環境を改善できる
  • コストの軽減ができる
  • 企業の競争力を強化できる

この章では、それぞれのメリットについて詳しく解説します。

人材不足解消につながる

業務改善を行い「投入する資源(インプット)」を効率化できれば、少ない人員でも業務を遂行することが可能です。また「投入する資源(インプット)」の効率化と合わせて「成果(アウトプット)」の拡大にも取り組むことで、労働人口が減少していく中でも持続的な成長が目指せるでしょう。

さらに、売上や事業規模の継続的な成長は、企業の認知度も上がり、実績や経験が豊富な人材の採用につながる可能性があります。

社員の労働環境を改善できる

業務効率化やシステムを使った自動化などで生産性を向上できれば、社員の業務負荷が軽減されます。それにより残業や休日出勤を減らせたり、有給休暇が取りやすくなったりするなど、労働環境が改善され、ワークライフバランスが整いやすくなります。また、社員の労働環境改善は、モチベーションを向上させることにもつながります。

コストの軽減ができる

社員一人ひとりの生産性向上ができれば、残業や休日出勤が減り、人件費や職場の光熱費を軽減させられます。軽減できたコストを、人材育成や商品開発などに投入できれば、企業の利益拡大に向けた取り組みに活かすことができます。

企業の競争力を強化できる

「投入する資源(インプット)」を抑え多くの「成果(アウトプット)」が出せれば、経営資源(ヒト・モノ・カネ)の選択と集中が可能となり企業の競争力を強化できます。具体的には「強化したい部門に資源(リソース)を集中させる」ような適切な投資ができるようになるため、企業の利益の拡大につながります。

生産性向上の6つのステップ

生産性向上は、社会的にも必要な取り組みであることは理解しているものの、どのように進めていけばよいかわからないという方も多いのではないでしょうか。生産性向上は、現状の課題を把握した上でPDCAサイクルを回しながら継続的に取り組む必要があります。生産性向上に向けた一連のステップは以下の通りです。

  1. 生産性向上に向けた準備をする
  2. 現状の課題を「見える化」する
  3. 課題解決に向けた取り組み計画を立てる
  4. 取り組み計画を実行に移す
  5. 取り組み内容の結果を振り返る
  6. 振り返りをもとに取り組み計画を練り直す

この章では、生産性向上へ取り組む6つのステップを詳しくご紹介します。

【ステップ1】生産性向上に向けた準備

生産性向上に向けた取り組みを成功させるためには、事前の準備が必要です。主な準備は、活動を組織全体に周知することと、生産性向上の方針を決めることです。

生産性向上活動を組織全体へ周知する

生産性向上活動を始めることを、組織全体に周知します。活動開始時には、活動を通して企業が目指すものを明確に伝えます。部や課単位で取り組みを始める場合は、それぞれの部や課で取りまとめるリーダーを決めて行いましょう。

組織で生産性向上の方針を決める

生産性向上に向けた取り組みには、以下4つの方針などが挙げられます。取り組みを行う際は、自社がどの方針で生産性向上活動を行うのかを決めた上で、具体的な施策を検討するとよいでしょう。

生産性向上の方針 内容
投入する資源の縮小型 「成果(アウトプット)」は維持しつつ、業務効率化やコスト削減で「投入する資源(インプット)」を縮小させることで生産性向上を実現する方法。
投入する資源と成果の縮小型 「成果(アウトプット)」の縮小も避けられないが、生産性の質を上げることを目的に、事業の縮小や廃止など大幅に資源を縮小させることで生産性向上を実現する方法。
成果の拡大型 「投入する資源(インプット)」は維持しつつ、社員のスキルアップやDX化(デジタルオートメーション化)で「成果(アウトプット)」の拡大を実現する方法。
投入する資源と成果の拡大型 強化したい事業や部門に人員配置や設備など資源(リソース)を大幅に投入することで「成果(アウトプット)」の拡大を実現する方法。

【ステップ2】現状の課題を「見える化」する

生産性向上の取り組みを始める前に、企業における現状の課題を「見える化」する必要があります。社員に課題をヒアリングしまとめたものを公開(共有)します。 生産性向上の取り組みは課題感を共有しないまま施策から入ってしまうと、施策による効果を実感しにくくなってしまったり、かえってコストが増えてしまったりする可能性があります。まずは、課題を「見える化」することで、自社にどのような施策が合っているのかを検討します。

【ステップ3】課題解決に向けた取り組み計画を立てる

生産性向上活動を行う部や課単位で、現状どのような課題があるのが話し合いましょう。部や課の社員全員が課題の原因や影響を認識した上で、課題を解消するためにはどのような施策が必要なのかを検討します。もし課題が多い場合は、影響度を考慮しながら、優先的に取り組むべき課題を決めるとよいでしょう。 具体的な課題解決方法が決まれば、進捗を管理できるシートやファイルなどを作成し、定期的に結果を管理できるような体制をつくります。

【ステップ4】取り組み計画を実行に移す

ステップ3で決めた具体的な施策を実行に移します。まずは3ヶ月を目安にするなど、一定期間取り組みましょう。個々の小さな知識や経験、事例であっても、チームや組織内に共有することで、社員のモチベーションを維持することにつながります。

【ステップ5】取り組み内容の結果を振り返る

ステップ3で作成した進捗管理シートやファイルを用いて、活動内容の結果を振り返ります。結果の確認と合わせて、活動の進捗管理や計画を変更した方がよい取り組みがないかを振り返ります。

【ステップ6】振り返りをもとに取り組み計画を練り直す

ステップ5で振り返った活動内容をもとに、今後の取り組み計画を練り直します。うまくいった点やうまくいかなかった点を明らかにし、改善内容を今後の計画に反映させるとよいでしょう。

実行計画は3ヶ月など、一定期間を目安に作成し、定期的に振り返りをしながらPDCAサイクルを回すのがおすすめです。

生産性向上を実現する具体的な施策

前章では、生産性向上のプロセスをご紹介しました。この章では、生産性向上を実現するための、具体的な施策を4つご紹介します。

  • 業務効率化をする
  • テクノロジーの活用で業務を自動化する
  • アウトソーシングを活用する
  • 社員のエンゲージメントを向上させる

具体例を交えながら解説します。

業務効率化をする

「投入する資源(インプット)」の効率化に効果的な施策として、業務効率化が挙げられます。業務効率化を行うための具体的な取り組みは以下の通りです。

  • 業務の無駄を解消する
  • 業務を標準化する
  • 適材適所へ人材を配置する

業務の無駄を解消する

まずは、業務を棚卸しし、無駄な作業はないか、非効率的なフローになっていないかなど、業務遂行における現状の課題を把握することが重要です。課題を把握した上で、効率化できる業務の改善を図るとよいでしょう。 業務改善をする際は、現場で作業をする社員の意見も取り入れることが大切です。作業担当者だからこそ気づける無駄なフローや過剰なコストを発見できる可能性があります。

業務を標準化する

業務が標準化されると、成果の品質にムラがなくなり、安定的な運用が可能となります。また、業務の属人化が解消され非効率やミスを誘発しやすい業務の改善にもつながります。

業務の標準化には、業務内容をマニュアル化することの他に、社内書類のフォーマットを統一させることも効果的です。フォーマットの統一は、作成や確認作業も削減できます。

適材適所へ人材を配置する

社員が持つスキルに応じて、人材を適切に配置できれば生産性向上が期待できます。社員の習熟度やスキルなどに適していない配置になっていた場合、作業に時間がかかるなど、業務効率が下がる可能性があります。

また、効率的に人材を育成するために、部署内で業務への理解度や習熟度が偏りすぎないことも大切です。教育が必要な社員が多いと、人材育成がスムーズに進まない、教育する社員に負荷が掛かるなど、効率を下げてしまいます。

人材を配置する場合は、本人の希望や配属部署の状況と合わせて、社員の適正やスキルを考慮した上で配置するとよいでしょう。

テクノロジーの活用で業務を自動化する

テクノロジーの活用は、コスト軽減や社員の負荷軽減など業務効率化に役立ちます。テクノロジーの活用の代表例としてRPAが挙げられます。RPAとは「ロボティック プロセス オートメーション」の略で、業務を自動化できるシステムです。

RPAの導入は、以下のようなものがあります。

  • データ入力
  • チェック作業
  • データの分析社内システムと業務アプリのデータ連携 など

RPAは24時間稼働させることができるため、作業期間の短縮も可能です。

アウトソーシングを活用する

アウトソーシングを活用し、業務を外部企業に委託することで、社員の業務負担を軽減させ、強化したい部門や業務に資源を集中させることができます。さらにアウトソーシングの活用は、採用や教育にかかる時間やコストの軽減にもつながります。 アウトソーシングの詳細は、こちらの記事をご覧ください。

社員のエンゲージメントを向上させる

エンゲージメントとは「自社に愛着を持ち、理念やビジョンに共感すること」を指します。エンゲージメントが向上すれば、社員のモチベーションが上がり高いパフォーマンスが期待できます。

社員のエンゲージメントを向上させる施策には以下のようなものがあります。

  • 社員が働きやすい環境や制度を整える
  • 組織のコミュニケーションを活性化させる
  • 納得感のある評価制度を取り入れる

まずは社員が、自社の何に満足していて、何に満足していないかなどを調査した上で、自社の現状を把握し、エンゲージメントを向上させる具体的な施策を実践するとよいでしょう。

生産性向上へ取り組む際の3つの注意点

生産性向上への取り組みには注意点もあります。この章では、気を付けたい3つの注意点について解説します。

  • 過剰なマルチタスクを避ける
  • 多様なはたらき方に合わせた体制づくりをする
  • 生産性向上の成果を「見える化」する

注意点となる理由を一つずつご紹介します。

過剰なマルチタスクを避ける

「投入する資源(インプット)」を効率化、削減するためにマルチタスクになることがあります。

業務によっては負荷の高低や煩雑さ、難易度が異なります。そのため、それらを加味しないままマルチタスクになってしまうと、生産性が下がるだけでなく、社員が疲弊してしまう可能性があります。業務を調整しながら、社員が過剰なマルチタスクにならないように配慮する必要があります。

多様な働き方に合わせた体制づくりをする

女性・シニア・外国人など多様な人材の雇用をする場合は、社員の要望に合わせて業務に取り組みやすい環境づくりが必要です。

多様なバックグラウンドを持つ人材を雇用しても、体制や制度が整っていなければ、能力を発揮できず早期離職につながる可能性があります。テレワークやフレックス制度など、働きやすい制度や納得感の高い評価制度・給与体系を整えた上で、人材を採用しましょう。

生産性向上の成果を「見える化」する

生産性向上の取り組みをする前に、どのような指標を用いるのか、また現在の数値はどうなのか現状を明確にしましょう。生産性向上に向けた活動をしたものの、施策を行う前と行った後の成果を適正に評価できなければ、施策が成功したのか、改善の余地があるのかがわかりません。

計画と取り組みの方向性が間違っていないか客観的に判断することが、生産性向上の成功につながります。また、成果の「見える化」は、生産性向上に取り組む社員のモチベーションアップにつながります。

生産性向上へ取り組む企業が知っておくべき助成金・補助金

生産性向上への取り組み内容によって、政府から支援を受けることができます。政府からの支援制度には、生産性向上へ取り組みをすることで受け取れる「補助金」と、生産性向上の結果によって割増がある「助成金」があります。

この章では、受け取れる補助金と助成金について詳しくご紹介します。今回ご紹介する補助金と助成金は2022年7月時点の情報となっています。最新情報や詳細は管轄の窓口などで確認するようにしてください。

生産性向上の取り組みへのサポートとして支払われる「補助金」

生産性向上へ取り組みをすることで受け取れる補助金には以下の3つがあります。

  • ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金
  • 小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)
  • IT導入補助金

対象者や補助金額、管轄元をご紹介します。

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金

ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金は、革新的な新製品・サービス開発や生産プロセス改善などのための設備投資を行いたい事業者が受け取れる補助金です。

ものづくり・商業・サービス補助金は、「一般型・グローバル展開型」と「ビジネスモデル構築型」の2種類があります。一般型・グローバル展開型は、革新的な事業計画実行のための設備投資などに対する補助で、ビジネスモデル構築型は、中小企業30社に対して革新的な事業計画策定のための支援として補助金が受け取れます。

対象者
  • 中小企業者
  • 特定事業者の一部
  • 特定非営利活動法人
  • ※対象者ごとに要件が異なります。
条件
  1. 付加価値額+3%以上/年
  2. 給与支給総額+1.5%以上/年
  3. 事業場内最低賃金≧地域別最低賃金+30円
  • ※申請する枠・類型や従業員の人数などによって異なります。
補助上限額 750万円~3,000万円
補助率1/2もしくは2/3
  • ※補助上限額や補助率は、申請される枠・類型や従業員の人数によって異なります。
参照先 経済産業省 中小企業庁「ものづくり補助金総合サイト」
https://portal.monodukuri-hojo.jp/

小規模事業者持続化補助金(持続化補助金)

小規模事業者持続化補助金は、小規模事業者が自社の経営を見直し、持続的な経営に向けた経営計画を作成した上で行う販路開拓や生産性向上の取り組みを支援する制度です。

対象者 下記に該当する法人、個人事業、特定非営利活動法人
  • 商業・サービス業(宿泊業・娯楽業除く):
    常時使用する従業員の数5人以下
  • サービス業のうち宿泊業・娯楽業:
    常時使用する従業員の数20人以下
  • 製造業その他:
    常時使用する従業員の数20人以下
条件 ※申請される枠によって条件が異なります。詳細は公募要項をご覧ください。
補助上限額 通常枠:50万円
賃金引上げ枠:200万円
卒業枠:200万円
後継者支援枠:200万円
創業枠:200万円
インボイス枠:100万円
参照先 全国商工会連合会
商工会地区 https://www.shokokai.or.jp/jizokuka_r1h/
商工会議所地区 https://r3.jizokukahojokin.info/

IT導入補助金

IT導入補助金は、生産性向上のためにITツール(ソフトウェア、サービスなど)の導入を行いたい事業者が受け取れる補助金です。

対象者
  • 日本国内に本社を有する中小企業者
  • 小規模事業者であること
条件
  • 日本国内で法人登記され、日本国内で事業を営む法人であること
  • gBizID プライムを取得していること
など、条件の詳細は公募要項をご覧ください。
補助上限額 通常枠A:30万~150万円未満
通常枠B:150万~450万円以下
デジタル化基盤導入類型:5万円〜350万円
複数社連携IT導入類型:200万円〜3,000万円
参照先 全国商工会連合会
一般社団法人 サービスデザイン推進協議会
https://www.it-hojo.jp/applicant/

生産性向上の結果によって割増がある「助成金」

政府が支援している助成金の中には、生産性を向上させた場合に受け取れる金額が割増される助成金があります。

割増が受けられる要件と算出方法や具体的な助成金をご紹介します。

生産性向上で割増になる助成金

生産性向上で割増になる助成金は、以下の9つあります。

  1. 労働移動支援助成金
  2. 地域雇用開発助成金
  3. 生涯現役起業支援助成金
  4. 人材確保等支援助成金
  5. 65歳超雇用推進助成金
  6. キャリアアップ助成金
  7. 両立支援等助成金
  8. 人材開発支援助成金
  9. 業務改善助成金

現在または今後、上記の助成金を申請する場合は、助成金の内容に合わせた取り組みと共に生産性向上への取り組みも行うとよいでしょう

割増の対象となる生産性要件の算出方法

助成金の割増が受けられる条件を詳しくご紹介します。

【割増を行う生産性要件の基準】

  • 会計年度前に比べて6%以上伸びていること

または

  • 会計年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること

1%以上(6%未満)の場合は、与信などの取引がある金融機関から一定の「事業評価」を得ていることが条件となっています。しかし、助成金によっては、計画などから一定期間経過後に生産性を向上させた場合(伸び率が6%以上)にのみ支給されるものもあります。

【生産性の算出方法】

生産性 = 付加価値 ÷ 雇用保険被保険者数

付加価値とは「営業利益+人件費+減価償却費+動産・不動産賃借料+租税公課」としています。

生産性向上における人材派遣・BPOの活用事例2選

実際に生産性向上を実現できた、パーソルテンプスタッフの人材派遣とBPOの導入事例を2つご紹介します。

1年半で15種類の業務をRPA化して定型業務を削減/シェアード会社 人事部門

あるシェアード会社は生産性向上を図るため、メンテナンス不足で使用できていなかったRPAの活用を見直し、定型的な業務の工数を削減したいと考えていました。しかし、RPAに関する知見を持つ人材がおらず、何から着手したらよいか分からないという課題がありました。

同社はRPAの経験者を受け入れ、社内のノウハウを高める必要があると考え、今後の内製化も見据えて、業務委託ではなく直接指揮命令ができる人材派遣の活用を決定しました。具体的には、パーソルテンプスタッフのRPA専門人材の「RPAアソシエイツ」を活用し、以下の取り組みを行いました。

  • 開発済みRPAの改修(現状の業務ヒアリングとそれに合わせた改修)
  • 新規開発に向けた業務選定(業務のヒアリング、対象業務の選定、開発~テスト、部署への納品、運用レクチャー)

結果的に、課題だった定型・定例業務の対応工数が不要となりました。さらに、RPAの改修が進むだけでなく、社内のRPAに対する理解が向上しました。他業務に関してもRPAの活用で効率化を図りたいという相談が増加し、自社内でRPA推進をできる体制が整ったことで、1年半の間に15種類の業務のRPA化を実現しました。

パーソルテンプスタッフではRPA業務全般のスペシャリスト人材を派遣するサービス「RPAアソシエイツ」をご提案しています。

RPAアソシエイツの活用事例を詳しく知りたい方はこちらをご覧ください。

BPOとRPA導入でコア業務に集中、売り上げアップを狙う/株式会社NTTドコモ

NTTドコモ様の複数部門では、社員向け業務として「消耗品管理、福利厚生」などの庶務業務、「請求書発行」の会計業務、「検証用と業務用の端末貸出」の端末管理業務があります。しかし、これらの業務を「部門ごとのやり方」で実施していたため非効率でした。また「担当社員がいなくなったら周囲では分からない」という属人的な状態になっていました。

これらの課題を解決する手段として、同社はBPO導入することにし、パーソルテンプスタッフが受託して以下のように業務を進めて行きました。

  • 最初は法人5部門の「庶務業務」を集約、センター化して業務委託開始
  • その後「会計業務」「端末管理業務」と段階的にセンター化、部門も7部門に拡大

BPOの範囲を広げていく過程では、誰が業務を行っても一定のクオリティが保てるように、新たなルールの策定や運用フローの整理を行い属人化が解消しました。

また繁忙期が異なる3つのセンターの間で、それぞれ人員が必要なときに他のセンターからフォローできる体制を構築。さらに、月初や月末に4名体制で残業しながら行っていた入金業務へRPAを導入し、約10時間で2,000件以上の処理が可能になりました。

BPO導入によって、こうしたコスト削減や業務効率化が実現されただけでなく、売上アップにつながるコア業務に社員が集中することができるようになったことも大きな成果のひとつです。

企業の持続的な成長のために生産性向上に向けた取り組みをしよう

生産性向上は、「投入する資源(インプット)」でどれくらいの「成果(アウトプット)」が得られたか評価する考え方です。今後、日本国内の労働人口が減少していく中で、企業が競争力をつけていくために取り組むべき課題の一つです。

企業は生産性向上への取り組みを通して、人材不足の解消やコスト削減、社員の労働環境を改善できるなどのメリットを得られます。生産性向上の具体的な施策には、業務標準化や社員のスキルアップ、新商品やサービス展開などが挙げられます。自社でできる施策以外にも、アウトソーシングの活用やテクノロジーの導入なども効果的です。

また、政府も生産性向上への取り組みに対して補助金や助成金などで支援しています。そのため、支援制度をうまく活用しながら、生産性向上に向けた取り組みを行ってください。

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