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(情報掲載日:2015年4月10日)

どうする?どうなる!「ニッポンの人材」

採用の「なぜ?」を科学する「採用学」

VOL.39


「採用活動の非効率」「新入社員の職場への不適応」など、新卒採用には多くの課題があります。これらは、採用活動にムダな時間や労力を使うことになったり、入社後の社員一人ひとりのパフォーマンスを低下させることにもつながり、企業組織全体の活動の停滞、さらには経済社会全体にマイナスの影響を与えかねません。横浜国立大学・服部泰宏研究室が推進する「採用学」は、こうした問題を科学的手法で捉え、問題を引き起こす要因を明らかにすることを目的に生まれた学問です。ここでは、日本企業の採用の特徴とは何か、これからの採用に必要な要素は何かなど、採用学で研究されている内容についてご紹介します。

採用活動において、企業や学生に不満が起こるのはなぜか

●採用とはどのような活動か

採用には「時間軸」と「マッチング」の2つの観点があります。まず、時間軸で見ると、その過程は「募集」「選抜」「社会化」の3つのプロセスに分かれます。



「募集」では、企業と合うか合わないかを求職者自身に判断させる自己選択が行われます。「選抜」では、企業が自社に必要と思う人材、自社に合う人材を選び出します。「社会化」では、選ばれて入社した人材が企業に馴染み、仕事で業績を上げ、企業の一員となります。

次にマッチングで見ると、「期待」「フィーリング」「能力」の3種類があります。



「期待」のミスマッチはまさにそれぞれが求める条件が違うこととなり、「フィーリング」のミスマッチは職務満足や組織への愛着、離職・残留の決断に影響を与えます。「能力」がミスマッチを起こすと、ストレートに仕事の成果に影響を与えることになります。


●「応募者が多ければ優秀な人材も多い」という幻想

日本の伝統的な新卒採用では「応募者が多ければ優秀な人材も多い」と考えられており、応募者の中から「優秀な人材を選り分けることは可能」だと考えてきました。だからこそ、企業は多くの学生にエントリーしてほしいと思い、曖昧でポジティブな情報や魅力的なイメージを学生に与え、働きかけてきたわけです。このような考え方は、1969年に会社情報誌であるリクルートブックが登場して以降、日本企業に一般的に広がった思想だといえます。しかし、現実には応募者数が増えれば、採用担当者は多くの学生を相手にすることになり、選抜の精度は低下します。その分、優秀な人材の選抜も困難になっていきます。


●「曖昧な情報」がミスマッチにつながる

応募者を増やす戦略による新卒採用は、採用の工数を増やすばかりでなく、ひいては入社後のミスマッチも起こします。曖昧でポジティブな情報や魅力的なイメージばかりを与えられた学生が入社しても、現実の企業は厳しく、情報との違いを感じて、「期待を裏切られた感覚」を抱えて働くことになります。しかし、個人から見れば、裏切られたからといって、早々に退社すれば個人としてのキャリアが積めず、自身が不利になるため簡単には辞められません。企業としてもすぐに辞められては困りますから、その状況において頑張らせるという構図になります。


応募者を増やす採用戦略から、ミスマッチへと至る過程


採用活動の過熱化が起きる仕組みとは

●選考で見られるポイントは常に「曖昧」

企業が応募数を集めることに熱中し、応募する学生を絞り込むような具体的な採用基準を示さず、多くの学生を集めるために抽象的な採用基準を提示するようになると、学生もその誘いに乗るように応募する企業を増やし、採用活動の過熱化が起こります。経団連調査(※1)によれば、選考で重視した点は1位「コミュニケーション能力」、2位「協調性」、3位「主体性」で、どれも基準が曖昧で分かりにくいものばかりです。特に「コミュニケーション能力」は常に1位となっています。その結果、企業間における評価基準は画一化され、各社が相互に類似する基準で学生を囲い込み合うことになります。

【選考にあたって特に重視した点(5つ選択)】
第1位 「コミュニケーション能力」82.8%
第2位 「主体性」61.1%
第3位 「チャレンジ精神」52.9%
第4位 「協調性」48.2%
第5位 「誠実性」40.3%

※1:社団法人日本経済団体連合会「新卒採用(2014年4月入社対象)に関するアンケート調査」をもとに作成
https://www.keidanren.or.jp/policy/2014/080.html


●「曖昧さ」「過熱化」がミスマッチを引き起こす

新卒採用では、雇用条件、労働環境、人間関係などエントリーに必要な情報が曖昧となり、魅力的なイメージで働きかけられ、企業から個人、そして個人から企業への「期待のマッチング」は曖昧化されていきます。また、「能力」評価も企業の設定する基準は画一的となり、「能力のマッチング」も曖昧化されます。その中で、企業は「大規模母集団形成」「母集団からの選抜」にコストや手間をかけていき、「フィーリングのマッチング」にかける手間や時間は圧縮されていきます。少数の優秀な人材をめぐる企業間競争は激化し、学生側も必死に対応していきます。その結果、活動の過熱化を招き、企業はより曖昧な言葉で学生を説得し、それがさらに期待や能力のミスマッチを引き起こします。



●原因の一つといえるのは「新卒一括採用」

新卒一括採用を前提とすると、社会人経験がない学生を雇うことになります。当然、採用時点では、その会社で仕事をするにあたって必要な能力や技術のすべてを、社員が身に着けているということは期待できません。しかも、人材を採用する時点で、その人が将来的にどのような職種に就くのか、どのようなキャリアを歩むのか、ということも明確になっていません。

そこで採用側としては、仕事に直接必要な能力や技術そのものではなく、「将来的にそうした能力を高いレベルで身に着けられる、であろう人材」を推測して採用する、という発想になり、その結果、熾烈な母集団獲得競争を引き起こすことになります。

どうすれば、効率的な採用ができるのか

●学生に「自己選抜」をうながす

過熱を防ぐには、企業とのマッチングを学生に判断させ、合わない場合はエントリーを控える「自己選抜」をうながす必要があります。このことが母集団の数を抑制しつつ、その質を高めることにつながっていきます。具体的には以下のような手段により、募集段階における期待のマッチングを行います。

  • 募集段階で可能な限りリアルな情報(雇用のための条件、提供される仕事環境、組織の雰囲気など)を提供する
  • エントリーの負荷を上げる
  • エントリー要件を明示する

ここで、必ずしも学生にとって魅力的ではないかもしれない情報も含めて、自社で伝えておくべき実態を伝えます。「ここだけは譲れない」「これだけは受け入れてもらう」「ここはかなり重視している」というポイントを伝え、学生に「それでもその企業を受けるのか」を判断させます。結果的に、自社のことを理解した求職者が受けに来るので、採用の効率・効果が上がることになります。


●情報を「読み飛ばす」学生を上手く誘導

ただし、学生に自己選抜をしてもらうためには、企業が提供する情報を注意深く見てもらう必要があります。しかし、実際には学生はかなりの情報を「読み飛ばす」傾向にあります。一般的に学生は「リクルーターや採用担当者の印象」「企業の製品サービスの印象」「特定のキーワード(グローバル、海外勤務など)」といった周辺的な情報を手掛かりにエントリーを行っています。しかも、就職活動の初期段階ほど、その傾向が強いと言われています。
自己選抜をうまく作動させるには、求職者が注目する情報ソース(リクルーターや採用担当者など)から、彼らが注目するようなわかりやすいキーワードを用いて、エントリーを判断するに十分な情報を提示する必要があります。


●いかに他社と違った戦略を取るか

現状での企業の新卒採用戦略は、他社から優位に立てるだけの大きな母集団を作る「採用リソース型」と、他社とは異なる特徴を打ち出し、それに反応する人材を採用する「特異性・ユニークさ型」に分けることができます。

企業戦略に詳しい一橋大学大学院教授の楠木建氏は「他社とは違った、良いことをすること」が重要だと述べています。「『他社と違う』からこそ、他社よりも自社が儲かる可能性が開かれる。『良いこと』だからこそ利益が出る。しかし、『良いこと』はたちどころに他社に真似されるため、それは早晩『他者と違う』ことではなくなる」。新卒採用もこれと同じで、もし「リソース」や「物量」で差別化できる「採用リソース型」の戦略が取れるのであれば、それは容易には模倣されず、これは採用リソースを持てる一部の企業のみが取りうる戦略といえます。「特異性・ユニークさ」の戦略では、母集団は少なくても企業が望む学生に絞り込まれることになり、模倣はされやすいものの採用リソースがなくても取り入れられる戦略であり、望む人材が確保できることになります。

どちらのポジションで採用に臨むのかをはっきりさせないと、企業は採用成果を上げることができません。どっちつかずの戦略は実行する採用担当者が「採用リソース型」と「特異性・ユニークさ型」の間で迷い、戦略がぶれる原因にもなります。



●16年卒の新卒採用活動はどうなるのか

16年卒新卒採用から、企業の採用活動期間が後ろ倒しになっています。広報の開始時期は従来の12月から3月になり、選抜の開始時期は4月から8月になります。企業が学生と関わることができる期間は10ヶ月間から7ヶ月間へと3ヶ月短縮されています。そのためにこれまで以上に短い期間で母集団を集め、採用活動を進め、採用数を確保する必要が生じてきます。つまり、素早く求職者を自社に引き付けることが極めて重要になります。

そのような状況下で、企業および学生の行動には2つの形が予想されます。一つは「見えざる競争の激化」です。採用活動の時期が全体として後ろ倒しになったため、その中でいかに優秀な人材の採用を行うのかが重要な課題となります。そこで、一部の優秀な人材の採用については、企業と学生がダイレクトにつながるといった採用が水面下で進行すると予想されます。例えば、リクルーターによる学生への接触やインターンシップからの囲い込みといった動きです。もう一つは「見える競争の激化」で、より熾烈な母集団形成の競争が起こると考えられます。例えば、大規模な会社説明会の開催や、就活サイトなどネット上での大規模な広告展開といった動きです。採用の過熱化が進むだけに、採用リソース型、特異性・ユニークさ型による採用戦略の差別化が、より重要になっていくと思われます。

企業において、16年卒採用は大きな転換期であり、これを節目に、これまで慣習や経験則で行われがちだった採用活動全体が見直される可能性も高まっています。これからの新卒採用における変革が、採用学において正しく分析、定義され、それが企業と学生の双方にとってより良い採用活動につながることが期待されます。

※採用学プロジェクト
http://saiyougaku.org/

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