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【ナレッジインタビュー 】
ゆめみ 片岡氏
成長企業 ゆめみが実現する“人と組織”

公開日:2024.02.13

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【ナレッジインタビュー 】ゆめみ 片岡氏 成長企業 ゆめみが実現する“人と組織”

株式会社ゆめみ 代表取締役
片岡 俊行 氏

ナレッジインタビューvol.008は、HRナレッジセミナー2024 SpringのDAY2で「自律型人材を育てるアジャイル組織の要諦 ー 成長企業 ゆめみが実現する“人と組織” ー」をテーマに講演いただく株式会社ゆめみ 代表取締役の片岡俊行氏です。講演を前に、自律型人材やインターネットのような組織をどうつくっているのか、またコミュニケーション方法の詳細や意図、片岡さんの目指すこれからの日本の組織などについてお話いただきました。

― 成長企業として、またユニークな組織づくりや制度で注目されているゆめみさんですが、改めて事業内容や目指すものについて、教えてください。

私たちゆめみは、皆さんが知っている6,000万人の方が使うアプリケーションを中心としたサービスを法人のお客さまと一緒につくる事業を行っています。特にお客さまと一緒にコンシューマー向けのサービスをつくることが多いのですが、受託や請負というよりは「共同開発していく」というようなスタンスで行っています。
最近のお客さまは「社内で作れるようにしていきたい」というニーズがあるので、受託ではなく内製化支援という形で、ベンダーロックインのような形ではなく卒業モデルのような形で、お客さまが内製でインターネットサービス、DXを自社で実現できるようにするための事業を行っています。そのためにも、ゆめみ自身、社内で内製している人たちが活躍できる組織にしていく必要があります。2023年6月に発表された、一般社団法人 日本CTO協会が調査した 『エンジニアが選ぶ「開発者体験が良い」イメージのある企業「Developer eXperience AWARD 2023」ランキング上位30を発表』では、たくさんの大手企業が並ぶ中で6位にランクインし、テックブランドという領域の中でも高い評価をいただくようになってきました。

私たちは、新しいインターネット時代における新しい組織のつくり方として、オープンソースコミュニティに代表されるような「インターネットのような組織」という形を探求しています。最近は、お客さまにも開発などのサービスだけでなく、内製化支援という事業という形で価値提供をしていこうと、採用やコンサルティングも行っています。最終的にお客さまのEXを実現させていけたらと思っています。

― 片岡さんは、学生時代に起業されています。他の企業に一旦就職し、キャリアを積んだ後に起業するという流れではなく、ご自身で会社を設立されてここまで大きく会社をしてこられたわけですが、そのようなキャリアだからこそできたことなどは、どう感じていらっしゃいますか。

学生だった2000年に起業したのですが、当時は経営やマネジメントに関する情報が少なく、結果としていろいろと回り道をしました。一方で、そのようなことに関して一つひとつ「そもそもこれって本当なのかな」というふうに、本質的な思考であったり、ちょっと疑ってみるという思考が培えたことはよかった点でした。だからこそ、既存の常識や固定概念にとらわれない組織のあり方を今探究できているのかなと思いますが、回り道をした部分があるので、これから自律型人材育成やインターネットのような組織を目指す企業の皆さまに同じような回り道をしてほしくないという想いがあります。ですから、そのような知見をまとめてオープンにしていき、参考にしていただけたらと思っています。

― 会社が大きくなっていく中で、さまざまな人たちがジョインしていると思います。ゆめみさんの組織風土や組織づくりにおいて、人事に携わる担当の方と片岡さんとの間でどのようなコミュニケーションをとり、従業員の皆さんを巻き込まれていかれたのでしょうか。

ちょうどCHROが2023年の4月に入社したんです。大前提として、私たちは特定の人事とかCHROが組織づくりをしていくというよりは、それこそまさに、セミナーテーマでもある自律型人材育成につながるのですが、メンバー一人ひとりが自分たちの組織をつくっていくという組織づくりを行っています。約400名の従業員がいる中で管理職がいない組織になっており、現在マネジメントに関わる人は50%以上、採用に関わる人も40%であったりと、多くの人がマネジメントや採用などの業務に関わっています。人事や組織づくりについても特定の人に対して私がコミュニケーションを取るというというスタイルは取っていません。

ゲームに例えて言うと、スタート地点からいきなり最終ボスを倒しに行くこともできれば、地道に小さいモンスターを倒しながら経験値を貯め、充分な武器を揃え、パーティーを作って、ボスを倒しに行くこともできるというような、すごくオープンなゲームを作り、その中でみんなが楽しんでもらえるようにしているというような感じですね。そのゲーム自体が「マインクラフト」のように自分たちの世界をつくることができるような、つまり組織づくりをみんなが行うことができるようになっているので、「こういう方針でやってください」というよりは「こういうゲームがあるのでいろいろ楽しんでください」というような組織づくりをしています。特定の人事やHR層だけとのコミュニケーションというよりは、場を作り、みんなで楽しんでフラットにコミュニケーションをしているという感じです。

― フラットな形で従業員の皆さんと一緒にコミュニケーションしていくのは、実際とても大変なのではないかと思います。どのような形でコミュニケーションや情報伝達を行っているのでしょうか。

Slackというコミュニケーションツールの「Maturity Score(成熟度)」というスコアリングで、SaaSの企業が重視しているスコアがあり、私たちはこのスコアにおいて日本の企業で一位になっています。これだけを見ると「業務時間中もSlackばかりやっている会社なんだな」と思われてしまいかねないのですが、そうではなくSlackの価値を最大限に活用している会社だと言っていただいています。このような特徴に代表されるように、社内のコミュニケーションが、ある意味インターネットのようなコミュニケーションになっています。

例えばこのSlackの使い方で言うと、X(旧Twitter)のような使い方になっていて、個人個人のタイムラインのようなつぶやく場所が用意されていて、そこでつぶやいた内容が他の人の役に立ったり、ちょっと物申すような、話題になるような内容であれば、瞬く間にそれが社内に伝播していくんです。そのように情報流通の仕組みをコミュニケーションデザインしているので、日本で一番Slackを活発に利用している状況になっています。それは単純にリテラシーの高さとかSlack漬けとか、そういうことではなくて、コミュニケーションデザインがインターネットのように設計されていることの結果といえます。

マネージャーを中心として情報伝播していくというようなモデルではなく、ティール組織における情報流通の方法として、ある発言がどんどんツイートされて広まっていくようなイメージで情報が流れていっています。例えば会社の方針などについても、Xでバズるような感じで、日々、個人がタイムラインで呟いている内容が「いや、それ違うんじゃないの?もっといいやり方があるよ」とか「そんなの、うまくはいかないよ」というような言説が社内で巻き起こるんです。その中で議論が自然に行われたり、いろいろな人が関心を持つ。「そういえば新しい会社の制度に関して、最近社内のSlackでいろいろ話題になっているね」というような感じで、みんなの話題になるよう設計されています。

インターネット時代というのは、情報が一夜にして伝わり話題にする中で、結果として不確実性が高い時代になっていると思っています。インターネットによって引き起こる不確実性にどう対応するか、適応していくのかが課題となりますが、インターネットを活用し、インターネットのような組織にしていくというのが、適応戦略となるのではないかと思っています。情報流通のやり方も今までのような指示系統を通じた間違いのない情報伝達していくやり方も残しつつ、Xのように情報が伝播していくというコミュニケーションの情報流通のやり方もしっかり設計していくことが必要になります。
そうすることによって、指示が降りてくるのではなく、部下、従業員から経営に新しい取り組みの報告があって、経営側が「そんな取り組みがあるなら全社展開しようよ」ということになったり、ある部署の取り組みが一夜にしてみんなの話題になって「これいいね、すごいね」というように情報が流通して、「じゃあ、うちの部署でもやってみよう」というように、情報が伝播する中で、新しい取り組みが瞬く間に社内に知られるようになるようなことが起こります。

私たちはこのような情報流通のやり方を意図し、設計しているので、先程のようにSlackが活発に利用されている結果になっています。このようなコミュニケーションを設計すれば、部署が違っても、離れていても、それぞれの取り組みが全社に広がっていく仕組みが多くの企業で作れるのではないかと思っています。

― 大企業はたくさんの役職があり、上の方まですごく遠いような環境では、役職や部署を飛び越えて、気軽に話せないかもしれません。また、自律的かつ活発な意見交換というのもなかなか進まないことも多いように思います。フラットな形で情報流通する風土や環境にするにはどういったことが肝になるのでしょうか。

上司に対して言いにくいという構造は、評価される立場からすると、私たちの組織でも同じように発生しうるということは分かっていて、それは仕方ない部分ではあると思っています。「ゆめみはフラットな組織だから風通しがいい」と言われますが、どこまでいっても「評価される立場」と「評価する立場」の間には権威勾配と呼ばれる「その人の言うことを従わないといけない」という力が働きますよね。

この部分は仕方なくて、むしろ上司から見たときには「いや、フラットだから言いたいことを言いなよ」と言ったとしても、どこまでいっても部下からすると何かしらの権威勾配というものがあるものです。そして、フラットな組織を目指そうという中で起こりがちなことなのですが、上司が「うちはフラットだから」と言うようになってしまうと、むしろフラットではなかったりする。どこまでいっても部下の言葉というのは遠慮しがちになってしまうものなんです。

ではどうしたらいいのかというと、一つは部下から提案してきたことを「権威勾配がある中で、今それを言うほどの重要性や問題意識があって提案されているものなんだ」というふうに受け取るということです。そのような中でも部下から意見や提案をくれたものは、むしろ進言に近いと思っているので、私は部下からのちょっとした提案というのは「もうこれはやらないとまずいよ」と、危機的な状況だというくらいに少し変換して拡声器のような役割でシェアするようにしています。

もう一つは、権威勾配があっても提言できる人材を育成することによって全体が意見しやすくなったり、心理的安全性という形で本音が言いやすい関係性づくりを行うことでいろんな意見が出てくるようにすることです。ただ、たとえ自分の意見を言うという取り組みや環境面が強化されたとしても、どこまでいってもやっぱり言えないことと言えることという境界はそれぞれの中に残り続けます。外から見て言いたいことを言っていると思われる人の中にも必ず境界があります。誰もが全部言いたいことを言えるはずはなく「ここから先はちょっとなかなか言いづらいな」という境界が必ずあるんですよね。

その境界値がどんどん緩やかになっていって、今までは言えないことが9割だったのが、7割になり6割になり5割になって、最終的に言いたいことを言えるということが増えていくことはありますが、言えないことというのは必ず何割か残ります。ですので、その「なかなか言えないこと」「やっぱり、結局言えないこと」の何割かを可視化することが必要になります。

例えばSlackの自分のタイムラインのようなつぶやける場所を作っておいて、そこに関しては他の人は書き込みをしない。掲示版形式でみんなが書き込むのではなくて、タイムライン形式でそこに流れる情報はあくまで自分が投稿した内容のみが流れる。そのようなものをつくると、「ここは自分のパーソナルスペースだ」というメンタルモデルになるので、進言はできないし意見はできないけれども、独り言のように自分の心の内としてつぶやくことができる。そうすると「なかなか言えなかった何割」の中の一部が出てくる足がかりになります。

それを、上司なり関係者の人が、のぞくというわけではないですが、フォローしてその人がつぶやいている心の内の考え方や気持ちを見るというような取り組みをすることによって、進言や提案はしていなくても、それに近い書き込みが出てくる。そういったものを見ていくことによって、現場で起きている課題などを観測することができるというやり方があるんです。これもインターネットっぽいやり方だと思います。社内の課題とか問題をいち早く察知できるような、そういう嗅覚があるタイプの人のつぶやきをフォローしておくことによって、いち早くトレンドを知ることができる。Xにおけるインフルエンサー的な人をフォローして情報をちょっと見ておくように。

そのように社内の声を大事にして「課題や提言を自ら言うタイプ」というよりは、社内の課題などをいち早く知れるようなトレンドに敏感な人、トレンドをキャッチすることができる人、未来を予測できる人の言説、つぶやきをしっかり観測していくこと。それを可能な状態にすることを、組織としてしっかり作っていくことがポイントになってきます。一般的なマネジメントで言うと「意見できるような風土作り」とか「アサーティブネス」などに着目するのですが、観測性、観測可能性を上げていくという「オブザーバビリティ」という考え方というのも、今後の新しいやり方の一つかなと思っています。

― ありがとうございます。このような組織づくりをされてきた片岡さんからご覧になられて、今言われているさまざまなHR課題について、気になっていることがあれば教えてください。

ミドルマネージャーが大変な時代になっていると思っています。インターネットにより情報の不確実性が上がり、変化が激しくなっているのでマネージャーも実際の現場の状況をつぶさに知らなければならなくなり、現場との兼務というプレイングマネジメントが多くなります。

一方でマネジメントに求められる専門性も高くなり、パワハラの問題や働き方改革でメンバーの労働時間の制約もある。プレイングマネジメントをやりながらマネジメントの専門性が高くなり、環境としても制約が大きくなっているので、大変な状況になってきていると思います。実際にそういった問題というのは2011年頃からゆめみでは起きていて、私も大きな問題を感じていました。多くの会社は比較的まだ役職主導で、役職というラベルに役割を紐づけ、特定の人に役職を紐づけることにより、自然的に役割もついてきています。その役割がトレードオフの関係になっていて、どれかを取ると、他のものを取ることが難しくなっています。そういうものがマネジメントでは本質ではあるものの、先程お話ししたようなプレイングマネジメントをやらないといけない。さまざまな制約がある中で、正直、無理になってきているのではないでしょうか。

いろいろな考え方がありますが、そのような中で今は役職主導から役割主導になり、役割を紐づけている流れになってきています。役割を明確に定義し、その役割に対して複数の人が担当していくような役割主導型の組織が少しずつ広がっているなと感じています。不確実性が高い環境下での役割主導の一つの典型例として、IT企業を中心に役割を大きく2つに責任分解し、それぞれの役割を担当する人をマトリックス的に置くというモデルがあります。このようなモデルはアジャイル組織などの分野で大企業にも少しずつ広がっているのですが、個人的にはこれでも役割範囲がまだまだ広いと思っています。マネジメントのやり方の細分化は進んでいて、さらに責任を分解していき、もっと細かく分けていくようになっています。一人のマネージャーが担う役割が非常に多岐に渡っていたところから、一部の自分が得意な領域、例えばコーチング的なアプローチでメンバーマネジメントをするっという役割であったり、プロセスマネジメントとして業務フローをしっかり定めてはたらきやすい標準を作っていくことが得意な人に関しては、そこに専念するようになっていくと思います。

このような分担をするということは、企業の人数の規模が大きくなればなるほどしやすくなるはずです。スタートアップ企業で数名規模の場合はなかなか難しいのですが、大きい企業だからこそ、マネジメントの役割を細分化し分担していき、みんなでやることによって、ミドルマネージャーの人の負担を減らしていくことができるはずです。そして、どのように分解し、皆を巻き込み、「みんなでやっていこう」と推進していく役割こそがマネジメントの役割だと思います。究極、マネージャーがいなくなるようにする組織設計や職務設計、それを推進していくという役割がマネージャーの役割としてもいい位になっています。実際に組織支援という形でこのようなやり方を導入していただくことにより、マネージャーの負担が減っている実例が生まれているので、このような取り組み方が広がっていくといいなと思っています。

― これから、会社が成長され、もっと大きくなっていかれると思いますが、これからのゆめみさんの課題や、片岡さんご自身がこれからやっていきたいことをぜひ教えてください。

これからますます大企業を中心に内製化が重要になっていきます。そのお手伝いをしていく上では、私たち自身の組織がよくならないとよいプロダクトを作れない、よい事業が生み出せないと思っているので、新しい組織のやり方を常に実験し失敗を繰り返しながら続けています。比較的規模が大きい企業でも自律型組織が体現されていると大企業の方にも参考になるのではないかと、1,000名くらいの規模を想定していろいろな新しい組織づくりにもチャレンジしています。また、規模に関わらない汎用的なやり方を作っていくことは、私たちの課題として実現していくことが必要だと考えています。

今度のHRナレッジセミナー2024 Springでも、事例としてお伝えしますが、大手の企業で自律型の組織が少しずつ事例として出てきていて、マネージャーがいない中、皆でマネジメントを分担する構造つくれているので、私たちが支援することで、自律型組織を実現する企業をもっと増やしていきたいです。

また、新しいモデルを作っていきながらも、日本らしい、世界に通用するような組織モデルというものが作れるのではないかと思っています。古くは小集団におけるQC(Quality Control)活動のような、組織の中でそれぞれの小集団が全社的に活動していくことは、日本らしい過去の取り組みの成功事例だったなと。当時はQCサークルと呼ばれるような品質改善などのアプローチが多かったのですが、今も委員会組織というような活動がある企業も多いと思います。そこでより具体的にマネージャーの役割を責務分解していき、委員会活動として多くの従業員が管理できるような仕組みというのは、日本的な「皆でやっていく」という典型例だなと。私たちの場合ですと、委員会活動に新卒も関わって1年目から組織づくりの活動に参加し、それが結果として自律的な人材の育成にもつながっているので、そのような日本ならではの成功事例や、組織づくりのしくみをつくりたいという思いを強く持っています。

ゆめみさんが、なぜ話題になっているのか。その理由がわかる、片岡さんのお話でした。組織やコミュニケーションの在り方をしっかり設計・意図した上で、フラットに活発にコミュニケーションをし、人も組織も成長する形を体現されています。お客さまにノウハウを提供していきたい、これからの組織づくりに寄与していきたい、日本ならではの組織づくりのしくみをつくりたい…片岡さんの今までとこれからの想いをたくさんお話いただきました。企業規模に関わらず、これからの人と組織をつくっていける、変わっていくヒントをこれから開催されるセミナーで、さらに詳細やたくさんのお話を伺えることが楽しみです。

Profile

ゆめみ 片岡 俊行 氏

株式会社ゆめみ 代表取締役/Co-founder
片岡 俊行 氏

1976年生まれ。京都大学大学院情報学研究科在学中の2000年1月、株式会社ゆめみ設立・代表取締役就任。在学中に100万人規模のコミュニティサービスを立ち上げ、その後も1,000万人規模のモバイルコミュニティ・モバイルECサービスを成功させる。また、大手企業向けのデジタルマーケティングの立ち上げ支援を行い、共創型で関わったインターネットサービスの規模は6,000万人規模を誇り、スマートデバイスを活用したデジタル変革(DX)支援を行うリーディングカンパニーとしてゆめみグループを成長させた。

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