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BCP対策(事業継続計画)とは?目的や策定の流れを解説

公開日:2024.04.12

企業の課題

地震や台風などの自然災害、感染症の流行、大規模なシステム障害などの緊急事態は事前に予測することはできず、突然発生します。危機的状況に陥ると事業の存続が危ぶまれるため、普段から万が一の事態に備えておく必要があります。そこで役立つのが、緊急時における損害をできるだけ抑えて早期復旧を目指し、事業を継続するための計画であるBCP(事業継続計画)です。混乱した状況下で正確な判断をするためには、具体的で実現可能な計画を策定しなければなりません。
今回はBCP対策の概要や目的、メリットと併せて、基本的な策定の流れやポイントを解説します。

BCP対策とは

BCPとは事業継続計画(Business Continuity Plan)の略称で、自然災害や大火災、システム障害といった緊急事態に際し、事業資産の損害をできるだけ抑えて企業の中枢を担う業務の継続もしくは早期復旧を実現するための計画を指します。

突発的な事態は事前に予測できるものではなく、事象によって状況が異なるため、計画なくしては適切な対応ができません。万が一、企業の中枢を担う業務が中断すれば取引先や顧客、社員の雇用にも影響が出ます。さらには、事業縮小や倒産の判断をせざるを得ないケースもあるでしょう。こうした窮地を避けるためにも、普段からBCP対策をとることが大切です。

BCP対策を推進する背景

日本でBCP対策が注目され始めたのは、2011年に発生した東日本大震災がきっかけでした。未曽有の事態により被災した多くの企業が倒産を余儀なくされた経緯から、BCP対策の重要性が広く認知されるようになりました。

日本は地震だけでなく台風や豪雨といった自然災害が頻発する国です。自然災害が発生するとインフラが停止するケースも多く、企業の経営活動にも大きく影響します。また、直接的な被害に見舞われなかったとしても、取引先が被災したことで事業の継続が難しくなる可能性もあるでしょう。その他、事業の存続を脅かす存在として、テロやサイバー攻撃といった脅威も挙げられます。

従来はこうした危機的状況が起こった場合、事業ごとに対策を立てるケースが一般的でした。しかし、個別の対策では安定して事業を継続することは困難であり、包括的な対策が欠かせません。そこで、中小企業庁や内閣府などが中心となり、BCP策定の普及を促進するようになりました。特に中小企業庁ではBCP策定に関する特設サイト「中小企業BCP策定運用指針」を設け、日常的に運用するための支援を行っています。

BCP対策の目的やメリット

BCPを適切に策定する上で、目的やメリットを把握しておくことが大切です。主な目的やメリットを3点解説します。

事業縮小・停止のリスクを軽減

BCPを策定する大きな目的は事業の縮小や停止を避け、企業の中枢を担う業務を継続することです。緊急事態の発生によって事業活動が長期停止すれば、業績低下へと追い込まれます。事態が落ち着き、事業を再開したとしても、停止期間中に既存顧客が他社へ流出していた場合、事業規模の縮小を余儀なくされる恐れもあるでしょう。日々変化する経営環境への敏感な対応が難航し、緊急事態に対する対策が打てなければ廃業せざるを得ないケースも少なくありません。

BCP策定により、普段から緊急事態に備えた体制を整備しておくと、万が一の事態が発生しても企業の中枢を担う業務の継続や早期復旧が可能になり、事業縮小や停止のリスク軽減につながります。

安心してはたらける環境づくり

BCPは社員を守るために必要な対策でもあります。緊急事態により事業縮小や停止となれば、社員の雇用にも影響しかねません。社員にとっては収入を失う事態であり、安定した生活が危ぶまれます。勤めている企業がBCP策定に取り組んでいなかった場合、社員に不信感を抱かせる要因となり、人材が流出する可能性も考えられるでしょう。
企業が積極的にBCP策定に取り組むことで社員が安心してはたらける環境が整い、社員の満足度向上や離職防止にもつながります。

労働者災害補償保険については、こちらの記事で詳しくご説明しています。
>> 労働者災害補償保険とは?企業における労災保険の重要性や補償内容を解説

社会的信用の維持・獲得

緊急の際は自社の事業だけでなく、顧客にも多大なる損害を与えかねません。取引する上でもBCP策定が講じられているかどうかは重要な要素となるでしょう。BCPに取り組んでいない場合はリスクが高いと判断され、取引先の候補に入らない可能性もあります。

一方で普段から緊急時に対する備えが十分にできている企業は、顧客や株主から高い信用を得られます。また、実際に緊急事態が発生した際も、事前に策定したBCPの実行によって早期復旧ができれば、企業イメージが向上して新規顧客の獲得にもつながるでしょう。

BCP策定の基本的な流れ

BCPを策定する際は、基本的な流れを押さえておくことが大切です。BCPの策定方法を3つのステップで解説します。

  • STEP1. 基本方針の決定
  • STEP2. BCPの策定
  • STEP3. BCS(事業継続戦略)の構築

STEP1.基本方針の決定

BCPを策定する前に、緊急の際に事業を継続させる上での方向性や考え方などの基本方針を決めます。基本方針を検討する際は、自社の理念やこれまでに地域で発生した災害などを踏まえるとイメージしやすくなります。

例えば、顧客との助け合いのほか企業の特性を活かした地域貢献活動なども、BCP策定の基本方針として挙げられます。また、日本では緊急の際の公的支援制度が充実しており、どの程度活用するかもあらかじめ検討しておくとよいでしょう。

STEP2.BCPの策定

基本方針が決まったらBCPを策定します。以下のポイントを押さえて検討すると、より効果的なBCPを策定することが可能です。

事業優先度の決定

緊急の事態が発生した場合、事業継続が困難になる可能性があります。そのため、業務内容に優先順位をつけることが大切です。どのように優先順位をつければよいか迷う場合は、「作業の遅延により多大な影響を被る可能性がある」「売上の多くを占める」など判断基準を設けるとよいでしょう。

リスクの洗い出し

BCPを策定するにあたって、事業の存続に影響するリスクが何かを把握しておかなければなりません。起こりうる事態をすべて洗い出し、想定される被害の規模やリスクの発生頻度、状況を詳しく調査します。

リスクの一例として地震・台風・豪雨といった自然災害や火災、感染症の流行、事件、事故、大規模なシステム障害などが挙げられます。本社や各営業所などの地域やこれまでに起こった事象を踏まえて、具体的にイメージすることが大切です。

RTO(目標復旧時間)の決定

RTOとは目標復旧時間(Recovery Time Objective)の略称で、緊急事態が発生した場合に業務を復旧させるまでの目標時間を示す指標です。

復旧にかかる時間は被害の大きさや業務内容によって異なります。例えば、食品業界や医療、介護業界などが停止すると人命に影響が出る可能性が高いため、RTOはできるだけ短くする必要があるでしょう。

また、事業全体でなく業務ごとのRTOを決めることも重要です。事前に決定した優先順位を踏まえて、各業務におけるRTOを時間・分・秒単位で具体的に決定します。なお、RTOは実現可能な時間を設定しなければなりません。無理な目標を立てると社員に負荷がかかり、復旧したとしても継続が困難になります。

STEP3.BCS(事業継続戦略)の構築

BCSとは事業継続戦略(Business Continuity Strategy)の略称で、策定したBCPをもとに立てる具体的な戦略です。

例えば本社が被災して設備が破損した場合に、在宅勤務で対応や拠点を複数設置するといった戦略が挙げられます。また、協力会社との相互支援協定の締結やアウトソーシングを検討するケースもあるでしょう。その他、甚大な被害を受けた場合は復旧を断念し、あらたな事業へシフトする可能性も考えられます。

このようにBCPを策定する際は、起こりうる事態や自社の状況を照合しながら実現可能な戦略を立てることが重要です。

BCP策定時に参考にすべきポイント

BCPは緊急の際の重要な指針となるため、適切に策定することが大切です。しかし、はじめてBCP策定に取り組む場合、自社に適した内容がイメージできず思うようにまとめられないこともあります。こうした場合に役立つのがBCPの「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」や「事業継続計画(BCP)の文書構成モデル例 第一版」です。続いては、BCP策定時に参考にすべきポイントを解説します。

事業継続ガイドラインを参照する

内閣府では、2023年3月に「事業継続ガイドライン-あらゆる危機的事象を乗り越えるための戦略と対応-」の改訂版を発表しました。事業継続ガイドラインは業種や業態、企業の規模を問わず、すべての民間企業を対象としており、BCPを含めた事業継続マネジメントの重要性や実施方法、策定方法などを示したものです。緊急の際に企業の自主的な早期復旧や事業継続の取り組みを促進し、日本全体の事業継続能力の向上を図ることを目的としています。改訂版ではテレワークやオンラインの活用、情報セキュリティーの強化に関する内容に言及しており、最新の情報を踏まえたBCPを策定する際のマニュアルとして役立ちます。

また、内閣府の「防災情報のページ」では、リスクの内容や業種ごとにまとめたガイドラインなどが掲載されています。自社に必要な情報を収集し、より効果的かつ実用性の高いBCP策定につなげることが大切です。

事業継続計画(BCP)の文書構成モデル例を参照する

内閣府の事業継続ガイドラインにおける補足資料として発表された「事業継続計画(BCP)の文書構成モデル例 第一版」では、小売業や製造業をモデルにしたBCP策定に関する文書構成例が紹介されています。こうした具体的なサンプルを参照するとBCP策定にかかる負担が軽減され、よりスムーズに計画を立てることが可能です。

ただし、あくまでも参考事例であり、すべての項目が自社に適しているとは限りません。モデル例を参考にした上で自社の業務内容や規模、考えられるリスクなどを踏まえた実現可能なBCPを策定するように留意しましょう。

災害発生時に対応すべきこと

万が一、災害が発生した場合に冷静に対応するためには、事前にポイントを押さえておくことが大切です。災害発生時に対応すべきことを3点解説します。

被害状況の確認

災害発生時には、まず被害の状況を正確に把握することが肝要です。その中でも社員の安否確認をいち早く行う必要があります。しかし、一人ずつ連絡を取っていては初動が遅れてしまい、策定したBCPに沿って行動できません。そこで役立つのが、自動的に安否確認ができるシステムです。

安否確認システムを活用すると、事前に登録した社員に対してプッシュ通知やメールなどを一斉に自動送信できます。返信を自動集計する機能もあり、速やかに状況を把握する上で役立つツールです。なお、社員の安否確認に加えて顧客の状況やオフィス・機器の損傷具合、ライフラインや周囲の状況も確認しておくとよいでしょう。

運用体制の切り替え

被害状況に合わせた運用体制の切り替えも、災害発生時に対応すべきポイントです。万が一、本社が機能できない状況であっても、リモートワークに適した環境を構築できていれば速やかに業務を復旧できます。

また、被害規模が大きい場合は、RTO(目標復旧時間)内に企業の中枢を担う業務を復旧させる方法を速やかに検討しなければなりません。例えば、生産機器を代替拠点に移動して業務を再開したり、協力会社に業務を一時的に移管したりする方法が挙げられます。事前に策定したBCPをもとに、状況に見合った代替案を実行することが重要です。なお、状況によっては複数の方法を組み合わせて事業を復旧させるケースもあるでしょう。

復旧作業

緊急事態発生時の代替手段を用いた企業の中枢を担う業務の復旧は、あくまでも応急処置的な対策です。最終的な目標は平常業務に戻すことであり、全面復旧に向けた速やかな作業が求められます。

まず必要となるのが建物や設備といったハード面と、ネットワークやサーバーなどのソフト面の復旧です。緊急の際に迅速な復旧を目指すには、普段から平常時の設備やシステムの設定、稼働状況などを具体的に把握しておかなければなりません。また、どのような状況でもデータをスムーズに取り出せるように、バックアップを取っておくことも重要です。

その他、自社の状況が安定したら顧客との取引復元を実施します。他社に生産を移管していた場合は、代替生産を引き上げて被災前の取引に戻しますが、この時に認識違いがあるとトラブルにつながりかねません。こうしたリスクを避けるためにも、BCP策定の段階で取引に関するルールを設定する必要があります。

緊急時に備えてBCPについて理解し、策定しておくことが大切

自然災害や大規模なシステム障害などは突然発生するため予測は不可能です。BCPはこうした緊急時の備えであり、企業の中枢を担う業務の早期復旧に役立ちます。また、社員が安心してはたらける職場づくりや社会的な信頼を得る上でも重要な計画といえるでしょう。

しかし、緊急の際に実行する復旧作業は被害状況や業務内容、企業の規模などによって異なるため一概にはいえません。内閣府によるガイドラインやモデル例なども活用しながら、あらゆる事象を想定した上で自社に適したBCPを策定しておくことが大切です。

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