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自治体アウトソーシングが注目される背景|委託できる業務とメリット

公開日:2024.04.12

更新日:2024.04.26

企業の課題

少子高齢化に伴う労働人口の減少は、企業だけでなく自治体にも大きな影響を与えています。また、テクノロジーの進化や多様化する生き方など社会情勢の変化により、住民のニーズも従来とは異なってきています。こうした現状に対応するべく、注目されている手段が「自治体アウトソーシング」です。

今回は、自治体アウトソーシングの概要やメリット、委託できる業務を解説します。自治体アウトソーシングの活用例にも触れますので、ぜひご一読ください。

自治体アウトソーシングとは、自治体業務の一部を外部に委託すること

アウトソーシングとは業務に必要な人材やサービスを外部から調達し、業務効率化や生産性向上などを目指す経営手法です。自治体や行政でも活用されるケースが増えており、民間企業に自治体業務の一部を委託することを「自治体アウトソーシング」といいます。

アウトソーシングでは契約後の業務を受託会社に一任するため、職員からスタッフに直接指示を出すことはありません。契約形態は「業務委託契約」であり、スタッフは受託会社が雇用します。

アウトソーシングについてはこちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>【わかりやすく解説】アウトソーシングとは?活用方法と派遣との違い

自治体アウトソーシングが注目されている背景

自治体アウトソーシングが注目されている背景として、以下の3点が挙げられます。

少子高齢化の加速による人材不足

株式会社日本総研が発表した「地方公務員は足りているか―地方自治体の人手不足の現状把握と課題―」によると、2030年の地方公務員の需要が89.6万人であるのに対して、供給は82.3万人と試算されています。さらに、2045年は83.9万人の需要に対して供給は65.4万人です。充足率は78.0%であり、行政サービスの維持が困難になることが懸念されます。

特に地方では職員の高齢化が加速する一方で、若者は都市部へ流出する傾向にあります。また、過疎化や平成の大合併により面積が広がった自治体では、職員一人が担当するエリアも拡大しており、迅速かつ十分な対応ができないケースも少なくありません。このように限られた人的リソースの中で、充実した行政サービスを住民に提供することを目的として、自治体アウトソーシングが重宝されています。

社会環境の変化と共に多様化する市民の要望への対応

高度経済成長期における日本の行政サービスは、公共交通機関や上下水道の整備など、国民の基本的な生活を支えるための社会基盤を作ることがメインであり、土木や建築、建設分野が主流でした。しかし、インフラの整備が整い、いわゆる「成長社会」から「成熟社会」へと変容した現在は、ライフスタイルや考え方の多様化・複雑化、テクノロジーの進化なども影響し、市民が求める住民サービスが大きく変わりつつあります。例えば、ハード面の整備よりも子育て支援や福祉の充実、地域産業振興といったソフト面のサポートを求める声が増えています。

こうした幅広いニーズに対応するには従来の考え方や知識、スキルだけでは困難です。そこで、専門的かつ先進的な技術やノウハウを持つ民間企業にアウトソーシングを依頼し、住民の希望に寄り添った行政サービスを目指す自治体が増えています。

緊急課題となったデジタル変革への推進

少子高齢化が進む地域の自治体では、行政サービスを求める高齢者が増える一方で、それを担う職員が減少しているのが現状です。こうした中でも快適な行政サービスを提供するには、自治体の業務効率化につながるDX推進が欠かせません。

しかし、企業と比較して行政のDX化は遅れています。2023年4月に総務省が発表した「自治体DX・情報化推進概要」において、DXを推進するための全体方針の策定を行っている市区町村は1,741団体中565団体で、全体の32.5%という結果でした。一方で「未定」と答えた市区町村が31.6%となっており、DX化が浸透しているとはいえません。

その要因として挙げられるのがデジタル人材の不足です。デジタルスキルや知識に長けた人材がいない自治体ではDXの推進が困難であり、遅れを取っています。デジタル人材を育成するとしても、日々の業務の中で時間や手間をかけられないという自治体も多いでしょう。

こうした課題を解決するために注目されているのがアウトソーシングです。専門知識を持った外部の企業に依頼することで、本来の業務に集中しながらDX化を進められます。

自治体DXが進まない理由や推進のポイントは、こちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>自治体DXの推進に立ちはだかる6つ課題と推進するポイントを解説

デジタル人材の不足を解決する方法については、こちらの記事をご覧ください。
>>デジタル人材の不足を解決する方法|採用・育成以外の選択肢も解説

アウトソーシングが可能な自治体業務

アウトソーシングで対応できる主な自治体の業務は以下の通りです。

  1. 窓口業務(各種証明書対応、児童手当の受付、税務関連など)
  2. 電話対応
  3. マイナンバー申請
  4. 支援金・給付金などの関連業務
  5. 行政サービスのデジタル化
  6. 多言語対応
  7. バックオフィス業務(申請書類の確認、不備の確認・差し戻し、システム入力、市民への郵送・振込など)
  8. 行政事務センターの運営(郵送・オンライン申請の受付・処理、書類の発送・振込など)

自治体でアウトソーシングが活用されるシーンとして多く見られるのが、窓口業務や電話対応です。対面のサポートだけでなく、コールセンターの設置によって業務効率向上につながります。また、窓口で受けた申請を処理するバックオフィス業務や行政事務センターの運営なども一括してアウトソーシングできます。

お問い合わせが多く膨大な作業が発生しやすい支援金・給付金などの関連業務も、アウトソーシングが有効です。その他、行政サービスのデジタル化や多様化するニーズに備えた多言語対応なども、外部の専門的な知識を活かすとより効率的に進められます。

人材不足が懸念される中、良質なサービスを住民に提供する上でDX化は急務であり、あらたなツールやシステムの導入が必要になります。例えば、窓口や郵送にて紙で行ってきた申請のオンライン化です。スマホやパソコンから申請できることで、住民は24時間いつでもどこからでも申請が可能になり利便性が向上します。

また、窓口や郵送で受け取った紙の申請は、AI-OCRでデータ化し、RPA(Robotic Process Automation)を活用して作業を自動化することも可能です。

導入するツールやシステムを選ぶ際はある程度の知見が必要ですが、選定基準が分からずなかなか進められないという方も多いでしょう。アウトソーシングでは、オンライン申請の導入やAI-OCRとRPAの活用支援を依頼することが可能です。このように、アウトソーシングで対応できる自治体の業務は、住民対応業務だけでなくDX化のサポートなど多岐にわたります。

行政のデジタル化にも役立つAI-OCRのメリットやポイントについては、こちらの記事で詳しくご説明しています。
>>【分かりやすく解説】AI-OCRとは?メリットや導入時の選定ポイント

自治体がアウトソーシングを活用する4つのメリット

自治体がアウトソーシングを活用する4つのメリット

アウトソーシングを活用するにあたって、どのようなメリットが得られるかを把握しておくことが大切です。自治体がアウトソーシングを活用する4つのメリットをご紹介します。

コストを削減できる

繁閑に合わせた適切な人員配置ができず、余剰人件費がかかっている自治体も多いでしょう。アウトソーシングを活用することでプロセスや業務フローの見直しにつながり、オンライン化やRPA導入といったデジタル変革を活用した最適な人員体制設計が実現します。

例えば、週末や月末など特定の時期に業務が忙しくなる部署があれば、パートスタッフを多く配置する必要があります。状況に合わせて適した人員体制を構築すると、余剰になりがちな人件費の削減が可能です。併せて、業務に必要なスキルに応じて専門性のある人材を適材適所に配置することで、業務効率が上がり、労働時間の短縮や残業費削減につながります。

人材不足の解消につながる

少子高齢化に伴い生産人口が年々減少する中、自治体における人材不足も深刻な問題です。その一方で多様化・複雑化が進む住民のニーズに対応するためには、サービスの向上が求められます。しかし、限られた人数では質の高い行政サービスを提供することが困難であり、さらには既存の職員への過度な負担も懸念されます。

また、通常の採用方式では、自治体が求めるスキルを持った人材の採用につながらないといった課題もあるでしょう。特に専門性の高いスキルを持つ人材へのニーズは企業だけでなく、自治体でも増えています。そんな中、アウトソーシング活用を考慮に入れれば、人材不足や付随する課題の解消が実現します。

サービスや住民満足度の向上につながる

アウトソーシングによって日常的に発生する煩雑な業務を外部の企業に任せられれば、職員は注力すべき業務に集中できるようになり、より住民に寄り添ったサービスを提供しやすくなります。また、専門知識やスキルが必要な業務においても、その分野に精通した業務委託会社に依頼することで高品質なサービスの提供が実現するでしょう。

自治体は住民の生活をサポートし、暮らしやすい地域社会を築く役割を持っています。アウトソーシングの活用によって住民サービスの品質が改善されると、住民満足度の向上にもつながるでしょう。

DXの推進につながる

自治体のDX化は喫緊の課題ですが、デジタル人材の不足も相まって取り組みが進んでいないケースがあります。そもそもDX化とはデジタル技術の活用により、業務そのものや組織、プロセス、風土を変革することです。単にデジタル化を進めたからといってDX化が成功するわけではありません。

DX化を成功に導くためにはデジタル技術だけではなく、組織全体を俯瞰的に見て業務を改善するマネジメント力や、あらたな業務を展開する想像力などが必要です。アウトソーシングを活用すると、自治体の課題を踏まえた上で施策の提案を受けられ、効率的にDX化を進められます。

自治体のDX化についてはこちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>DXに失敗しないために企業や自治体が取り組むべきことをご紹介

自治体がアウトソーシング委託先を選ぶ際の注意点

自治体がアウトソーシングの業務委託会社を選ぶ際は、主に3つの項目を押さえておくことが大切です。

料金体系

アウトソーシングの料金体系はサービス内容によってさまざまです。例えば、人材派遣の場合は業務内容にかかわらず時間単位で料金が設定されます。一方でデザインやシステム構築などを請負契約で依頼する場合は、納品物や業務ごとに料金が決まるケースが一般的です。

また、法律行為以外の業務を外部に委託する準委任契約であれば、委託を希望する業務の範囲や項目を定めた上で、業務処理に必要な工数やツールなどをもとに体制を設計して見積もりを出します。

いずれの料金体系においても業務の難易度や量によっては料金が変動する可能性があるため、アウトソーシングを依頼したい外部企業に事前に相談して見積もりを取ることが大切です。

実績の豊富さ

業務委託会社として豊富な経験があるかどうかは重要なポイントです。しかし、民間企業と自治体では業務内容や必要な専門知識が異なることがあります。実績が豊富だとしても、自治体アウトソーシングの経験がない場合は、期待する効果が得られない可能性も考えられるでしょう。

アウトソーシングの効果を得るためには、依頼する前に自治体アウトソーシングの実績や類似する業務実績の有無を確認することが重要です。

セキュリティ体制

自治体では地域住民の個人情報や公的なデータを取り扱います。アウトソーシングを活用する場合、こうした重要な情報を外部企業に渡すことになるため、情報漏えいが発生しないように留意しなければなりません。

例えば、セキュリティポリシーやアクセス制限・データの暗号化といった対策が施されているかなどを確認し、万全なセキュリティ体制を構築している業務委託会社を選ぶことが大切です。併せて、プライバシーマークやISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の取得有無についても確かめておくとよいでしょう。

なお、万が一トラブルが発生した場合に速やかな対処ができるように、契約の段階で責任の所在や機密保持などに関する詳細な規定を設定し、双方で合意することが重要です。

自治体のアウトソーシング活用事例

自治体のアウトソーシング活用事例を2つご紹介します。アウトソーシングを活用する際の参考に、ぜひご一読ください。

特別定額給付金のスピード支給をアウトソーシングがサポート/神戸市様

新型コロナウイルス感染症の流行拡大により、経済活動の停止を余儀なくされた2020年、緊急経済対策として打ち出されたのが特別定額給付金でした。どの自治体でも生活に不安を抱える住民が多く見られる中、速やかに給付する体制構築が急がれました。神戸市も例外ではなく、少しでも早く住民に届けるべく「2020年6月には9割の世帯に給付する」という目標を掲げます。そこでパーソルテンプスタッフでは、神戸市における特別定額給付金の早急な支給を支援しました。

目標を掲げた当初、人口150万人を有する神戸市は規模が大きく、行政内で体制を考える時間がないのが実情でした。そこで、給付金のノウハウを持つパーソルテンプスタッフが神戸市に給付事務局を設置し、パーソルワークスデザインが宮崎に1次コールセンターを開設しました。お問い合わせはすぐに殺到し、1日で最大5万件に達するほどでした。また、郵送による申請がスタートすると最大で25万通が届くこともありました。

事務局では、日中200人のスタッフを配置して業務にあたっていましたが、それだけではとても間に合うような状況ではありませんでした。そこで、夜間にも開封作業だけに専念するスタッフを50人配置し、最大で250人の体制を組んで進行します。さらに、スピードが求められる入力業務はスタッフのスキルを確認した上で、入力経験のあるスタッフに入れ替えて随時運用をアップデートしました。

1次コールセンターの人員はスーパーバイザーを含めて80人を用意し、土日も含めて毎日対応しました。コールセンターの構築を工夫し、1次コールセンターでは申請書の書き方や概要といった簡単なお問い合わせの対応に絞ります。個人情報に関するお問い合わせや1次コールセンターで解決できなかった質問については、神戸市内に設けたパーソルテンプスタッフの2次コールセンターで対応しました。

これだけの体制を構築しても、すべてのお問い合わせに対応することは困難でした。そこで、市民自らが申請者番号から申請状況などを確認できるサイトの導入を実施します。また、コールセンターの営業終了後も対応できるように、質問に自動で応答するチャットボットも用意しました。

こうした取り組みの結果、給付率は5月末の時点で約80%、7月8日には99%を達成し、79日目で振込がほぼ完了しました。また、サイトとチャットボットの導入がお問い合わせの抑制につながったこともあり、コールセンターに殺到していたお問い合わせは、6月には1次コールセンターで82%を解決でき、2次コールセンターでは98%を解決できました。

神戸市の自治体アウトソーシング活用例については、こちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>“10万円の特別定額給付金”を79日間で99%の世帯にスピード給付できた、神戸市の裏側

アウトソーシングで業務分担を行い、円滑な業務遂行を実現/大阪市様

2020年における大阪市の人口は約275万人で、そのうち要介護認定者は18万人と全国トップの人数を有します(2021年度実績)。パーソルテンプスタッフでは、大阪市福祉局における要介護認定の申請処理を支援しました。

大阪市では、要介護認定の関連業務を大阪市内の24区がそれぞれで実施している状況でしたが、効果的・効率的に事務を進めるため、業務を集約した「大阪市認定事務センター」を2012年に開設します。従来は、各区の窓口で申請を受け付けていましたが、郵送に切り替えたことで一つのセンターで業務を進められるようになりました。この「郵送での申請受付」を含む認定業務を、2015年にパーソルテンプスタッフが受託しました。

受託後は大阪市とパーソルテンプスタッフで業務を分担しました。要介護度の判定や認定の結果通知、契約関係の支払いは大阪市が担う必要がありましたが、申請書類のチェックや審査会の資料作成、郵送は委託が可能な業務であり、パーソルテンプスタッフの担当となります。

人口の多い大阪市では年間16万件を超える申請があり、さらに月初や月末に集中するという繁閑の差がある点が課題でした。また、「電話がつながりにくい」という市民からのクレームに対して、実態が把握できていない状況でもありました。

そこで、パーソルテンプスタッフは郵送での申請受付を含む認定業務に160人のスタッフで対応します。多くの郵送物を送付する必要があるため、郵送物の種類ごとにチームを分けて誤送付を防止しました。さらに、各スタッフに同じ作業を繰り返し対応してもらい、熟練度を高めるよう工夫した点もポイントです。繁閑の差については、ほかのチームが忙しいときにサポートできる体制を整備しました。時間に余裕のあるスタッフに対して研修を行い、一人ひとりが幅広く活躍できるようにしました。

また、センターの代表電話については、コールセンターシステムの導入を提案して2021年より開始しています。お問い合わせの種類ごとに対応するオペレーターを限定するほか、スタッフの熟練度に合わせて自動的につながる回数を変えるような仕組みにしました。コールセンターシステムを導入した結果、受電率や応答率の可視化に成功しています。

ほかにも問題となったのが、コロナ禍において電話を受ける余裕がない医師が増えた点です。この状況を受けて、パーソルテンプスタッフは情報提供の方法を電話から文書に切り替えるようにご提案し、大阪市様に対応していただきました。

このように要介護認定業務を明確に分けることで、安定したセンターの運営を実現しています。また、コールセンターの導入により、月1万件にのぼるお問い合わせの受電状況を可視化でき、状況に合わせて回線を増やしながら高い水準の応答率を維持できるようになりました。

大阪市の自治体アウトソーシング活用例については、こちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>大量の申請、繁閑の差、電話がつながらない…。問題解決に向けて試行錯誤を重ねて『円滑な業務』を実現。

自治体アウトソーシングの活用を検討される際はパーソルテンプスタッフへご相談ください

少子高齢化が進む中で上質な住民サービスを提供し、住民の満足度向上につなげることは非常に難しい課題です。自治体アウトソーシングは人材不足や多様化・複雑化する住民のニーズ、喫緊の課題であるDX化などを効率的に進める上で役立ちます。また、既存の職員を教育したりスキルのある職員を採用したりするには費用がかかりますが、すでに高いスキルやノウハウを持った人材に業務を任せられるアウトソーシングを活用すればコスト削減も期待できます。

自治体アウトソーシングを活用する際は、希望する業務の実績が豊富な業務委託会社に依頼することが大切です。また、住民の大切な個人情報や公的なデータを共有することになるため、セキュリティ体制を確認する必要もあります。

パーソルテンプスタッフでは、官庁・地方公共団体のさまざまな業務のアウトソーシングに対応しています。豊富な受託実績があり、状況に合わせた最適なご提案が可能です。また、コンプライアンスに基づく適正な体制を構築しており、スタッフへの教育も徹底しているため安心して業務をお任せいただけます。

自治体アウトソーシングの活用をご検討の方は、お気軽にご相談ください。

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