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【ナレッジインタビュー 】
hint 斉藤氏
だから僕たちは、組織を変えていける

公開日:2024.04.26

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【ナレッジインタビュー 】 hint 斉藤氏 だから僕たちは、組織を変えていける

ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授
株式会社hint 代表取締役
株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役
斉藤 徹 氏

今回のナレッジインタビューは、HRナレッジセミナー2024 Spring DAY1『だから僕たちは、組織を変えていけるー組織を自走させる「人事のアジャイル型組織変革」ー』の講演をいただいた株式会社hint 代表取締役 斉藤徹さんのイベント後インタビューです。講演内容を踏まえて、時間内にお答えしきれなかった質問や相談に回答をいただきました。

Q : 組織変革の取り組みに対し、部門のメンバーや従業員一人ひとりに参画してもらい、やらされ感が生まれないようにすることに悩みを感じています。そこで人事から「所属の組織をどんな組織にしたいのか」「その組織を実現するために自分は何ができるのか」「大事にしている言葉は何か」という質問を投げかけようと考えているのですが、アドバイスをいただきたいです。

今日の講演でもお話しましたが、まずは「自分から」です。また、自分とメンバー、人事と従業員の位置や関係性をフラットにした上で話をしなければなりません。伝え方によっては「私は正しいけども、あなたたちはどうなの?」というふうに聞こえてしまいかねません。
「私はこういう問題があって、まだ道半ばですが、今こういうことを考えています。皆さんはどうですか。一緒に会社をこういうふうにしたいと思う方はいらっしゃいますか」と。その上で「もし、そういう方がいらっしゃったら、こんなことを教えてもらえるとうれしいです。こういうことをシェアするような会議を開きませんか」と。そのように伝え、投げかけると相手の反応は全く違ってくるはずです。

「仕組みを変えて全社を変えよう」という感覚で、自分自身や自分の組織を置いておいて、そういったことを伝えてしまうことが多いんです。そうではなく、まずは自分のこと、自分の組織のことからなのです。「自分はこういうことをやろうとしているけれど、なかなかうまくいかないんです」とまず伝えることで、初めてみんな「なるほど」と聞くんです。「みんながこんなふうになるために、こういうことをやっているがなかなかうまくいかない、そしてこんなことを今やっている途中なんです」そのような前段があるかないかで全く違ってくるんです。先程の講演でお話した「強がりの仮面を外そう」です。素の自分を背負う、そういうことなんです。

講演や本で、まずは表面的に理解から入った後に、本当の意味で「自分ごととして結びつける」ところにいくことが実際難しいんですね。おそらくそういうふうに考えられてはいるんですが、そのことを伝えていないというだけなんです。多分、この質問を書いている時はそういうふうに思っているはずなんです。だから、それをそのまま、「こういう悩みがあって、なかなかうまくいかなくて困っているんですよ。それで、こうやっていろいろ今考えているんです」と伝えればいいのです。
人事もそうですし、リーダーから「こういうことに困っている」と投げかていかないといけないと思います。そうやって自分を出してコミュニケーションする。全員ではなくても、そのうち「じゃあ一緒にやろうか」と言ってくれる人が出たら、自分がうれしいじゃないですか。

Q : 組織改革を全社で進めていくプロジェクトの中で、社内のリーダーに斉藤さんの考え方を共有し、本も読んでもらいましたが、なんだかピンときていない様子でした。このまま従来の延長線上の施策に走りそうな気がしていて危機感を感じています。何かアドバイスをいただけますか。

これも、まずは「自分」からです。「全体」として捉えているから、そう考えてしまうんです。全体を平均して捉えて「どうも反応が悪い」と捉えないことです。それぞれ全員が人生の主人公で生きている、そういう前提というか感覚をしっかり自分の中でまずは持っていないと、つい「全体」「一対N」で見てしまいます。それは、今までの統制する組織がそういう見方で、そのなかでずっと仕事してきたのでそうなってしまいがちなんです。

どんな組織でもピンときている人が必ず10%、20%は、いるんです。なかなか自分はできていないけれども「そうだな、そういうことをしたいな」と思っている人がいるんですよ。それが「変革者の発見」です。変革者を発見して、その人たちを応援することなんですよ。おそらくその変革者たちは、その組織の中では変わり者な可能性が高く、半ば諦めざるを得ないみたいな感覚の人が多いんです。でも、仲間がいる。違う組織だけれど、仲間がいるということはうれしいですよね。変えたい思う現場の人たちは、きっと何人もいるんです。でも、その人たちは、連帯することは初めてなんです。だから連帯できるようなきっかけや場をつくって、同志がいるんだと思ってもらうことです。そんなに簡単にはうまくいかないけれども、励ましてくれる人がいると「自分もそうだったんだよ」「そうなんだよ、全く同じ状況だよ」「でもこういうことをしてみたら、ちょっと良くなったんだけどね」というようなことを話し合える仲間がいたら、全く違うじゃないですか。

Q : 製造業では現場作業の方々に、この種の話は通用しないと言われています。定型作業をしていればよい、という立ち位置にある(とされている)ためです。製造業で当てはめるのは難しいのでしょうか。

現場の作業も、今までお話したことと同じです。工場や現場の中のそのはたらきがなかったら、製品ができないわけです。現場作業の方はずっと定型的な作業をやっているかもしれないけど、そこにはノウハウがたまっているはずです。本物の定型作業はロボットに完全代替されますから。だから必ず人が関与する意味があるはずなんです。人が関与する意味というのは、実はそんな定型という一言で表せないものだと思います。今までがそういう工業社会の考え方でそう使われていますけれども、「定型」という言葉もよくないですよね。

少し話がそれてしまいますが、マーケティングなどで使う「囲い込み」とか「刈り取り」などの言葉も同じで、ユーザー目の前にして言える言葉以外は使ってはダメだと私は思います。社内であっても、一つひとつのその言葉自体を無意識に発してコミュニケーションをとってしまうことを反省すべきではないかと。
『ソーシャルシフト: これからの企業にとって一番大切なこと』という本で書いたのですが、要するに何でも見えてしまう透明な社会になってしまったんですよね。例えば、退職した人がひと言ポッと言ったりする、それが何年も前のことであっても、ソーシャルメディアで広がってしまいます。社内のクローズドな空間で使っている何気ない言葉も、出てしまうかもしれない。それを思うと、ユーザーを目の前にして使える言葉以外、使えないんですよ。たぶんどの会社にも社内だからよいというような風潮はあると思いますが、これからは、思っていること、言っていること、やっていることが自分や組織を支えるものであることを相当意識していないといけなくなっています。

Q :セミナーでお話された「働きがいは自分で手作りできる」というフレーズがとても印象的でした。サンテグジュペリの「海」に関する言葉は納得しつつも、メンバーに伝え・共感してもらうことの難しさも感じています。社内で理解してもらうためにはどうすればよいでしょうか。

私は、講演でも本でもワークショップでも、本当に心の底からそう思ってお伝えしています。自分が心からそう思っていないことは、メンバーに伝えられない、伝わらないものです。自分自身の仕事に対してそう向き合っていると、言葉に迫力が出るし、説得力が出ます。その人自身が思っていなかったり、人から聞いた話をそのまま言おうとするのではなく、まずは一旦自分でやってみて、腹の底から「こういう考え方ややり方にすると仕事が幸せになるな」ということを実感する経験をしてください。

それから「以前はこういう仕事のやり方をしていて本当につまらなかったのだけど、あるときこういうことがあって、こう変わったんだ」と伝えてみてください。他者を変えようとするのではなく、まず自分のこと。自分が変わりたい、変わるためにどうしたらいいのか、どうしたいのかを自分の心からの言葉で伝えること。そうして初めて「そういう考え方もあるかもしれないな」と聞く耳を持ってもらい、共感を得ることができるのです。

自分より外側の問題や課題に目が行ってしまうことは、自然なことです。特に組織の中にいると環境順応型になりがちで、人に言われたことをやるということは、外に意識がいってるわけなんですね。
頭ではわかっていても、自分と向き合うことに対して抵抗感を持つ人が多いように感じます。痛みを伴う自己変革を、意識の壁を乗り越えてできる人は、まだまだ少ないのではないかと思います。何でも同じなんです。スポーツやダイエットや、語学だってそうなのですが、継続するのはなかなか難しいです。すぐに結果に出ないものに継続して向き合うというのは、自分と向き合った先に、自分の幸せのためなんだとか、自分のためだと思わないと、なかなか継続しないものなんです。

自分が成長していきたいとか、自分が幸せになりたいと思うことが私は大切だと思うんですよね。自分自身で継続する、継続していくという思いをしっかり持つことは、簡単じゃないんですよ。簡単だったらみんなこんな悩んでないんです。
その前に、自分がこうしたい、こうなりたいという想いを追求することですね。1年後3年後の自分を想像してみて、今とずっと同じでいいのかとか。仕事を義務にせずに楽しみたいし、自己成長したいじゃないですか。そのためにはまず自分に問いかけてみることです。人生の時間を使って、その組織に行き、その仕事をしているのであれば、やっぱり楽しくやりたいですし成長もしたい。それはまず自分自身。それを意識してからじゃないと。まずはそこを追求することです。

「疑問や不安は共通していますね。角度は違っても、根底にあるのは。全部そこにつながりますね。結局自分からなんですよね。」講演での「人を変えるではなく、まず自分から」。どの質問や相談も、全てそこにつながるお話でした。頭ではわかっていても、まず自分から変わる、自分に向き合ってから伝えることが自然に身に付くようになることは、すぐには難しいようです。斉藤さんのヒントゼミでもチームラーニングを3ヶ月間に10回行うそうです。「みなさん最初からすぐに今までお話したような考え方や行動に切り替えられるわけではなく、繰り返しやっていく中で、変容されていくんです」と仰っていました。今日の講演がみなさんの自己変容するきっかけ、ヒントになれば幸いです。

Profile

hint 斉藤 徹 氏

ビジネス・ブレークスルー大学 経営学部 教授
株式会社hint 代表取締役
株式会社ループス・コミュニケーションズ 代表取締役
斉藤 徹 氏

慶應義塾大学理工学部を卒業し、1985年、日本IBM株式会社入社。29歳で日本IBMを退職。1991年、株式会社フレックスファームを創業、ベンチャーの世界に飛び込む。激しいアップダウンの後、2005年、株式会社ループス・コミュニケーションズを創業。詳細は著書『再起動 〜 リブート』をどうぞ。2016年、学習院大学経済学部特別客員教授に就任。2020年、ビジネス・ブレークスルー大学経営学部教授に就任。専門分野は組織論と起業論。2019年には「hintゼミ」を創設、卒業生は1,200名を超えている。最新著書『だから僕たちは、組織を変えていける』は10万部を超え「読者が選ぶビジネス書グランプリ2023」(マネジメント部門)を受賞した。他にも著書は多数。

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