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【人事ライン】
ZOZO 小金氏
ZOZOのなりたい姿へ、「ZOZOらしさ」で人と組織に向き合い考え抜く

公開日:2024.04.12

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【人事ライン】 ZOZO 小金氏 ZOZOのなりたい姿へ、「ZOZOらしさ」で人と組織に向き合い考え抜く

株式会社ZOZO
人自本部 組織・人材開発部
ディレクター
小金 蔵人 氏

「他の会社の人事ってどうやっているんだろう」「同じような悩みを抱えているのかな」ちょっと知りたい、知っておきたいさまざまな企業の人事インタビュー『人事ライン』。
今回は、「組織の中にいるからこそできる組織開発の実践家」とご自身を語る株式会社ZOZO人自本部 組織・人材開発部 ディレクター 小金 蔵人さんです。今いる組織をよくするため、会社がなりたい姿を実現するための取り組みや想いをお話しいただきました。

― 小金さんの今までのキャリアを教えてください。

私の人事歴は現在まで8年間で、決して長い方ではないんです。40歳になるまでは、ずっとビジネス部門側にいたこともあり、 “生粋の「THE人事」”とは違うキャリアを歩んできたのではないかと思っています。
20代の頃は食品メーカーで営業を経験後、インターネット業界に転職しました。30代終わりに差し掛かった頃の私は、営業や営業企画、サービス企画など複数の職種を経験して、食品メーカーもインターネット業界も知っているし、経験や知識のバランスはいいのかもしれないけれど、器用貧乏というか何をやらせても及第点だったんです。そんな私に「小金さんはもうすぐ40代になるけれど、何を本気でやりたいの?」と当時の上司から言われました。それをきっかけに自分のやりたいことやこれからのキャリアをいろいろ考えたんです。振り返ってみると、今までどこで何をやっていても「周りで一緒にはたらいている人や組織が、うまくワークしているか、していないか」ということが気になっていたなと。それならば、人・組織に関わることを本気でやってみようと、40歳のときに手を挙げて人事部門に異動しました。それが8年前で、それからのキャリアは「人材開発」「組織開発」というテーマに取り組んでいます。2020年にZOZOテクノロジーズに入社し、2021年10月にZOZOに統合され、現在に至ります。

― 「人材開発」「組織開発」はとても広義ですが、小金さんはその意味や意義をどういうものと捉えていらっしゃいますか。

いろいろな表現がありますが、「開発」という言葉は“無理やり変える”という印象をもたれやすい言葉なので、「人材開発」「組織開発」の意味も誤解されていることが多いのではないかと思っています。「開発」という言葉の中には、本来は“もともと持っている力を解き放つ”とか“発展成長する”という意味…「街をデベロップメントする」とかもそういう意味ですね、無理やり改造するという意味ではないんです。「人材開発」「組織開発」とは「人や組織がもともと持っている力を解き放つお手伝いをする」ことなのではないかと捉えています。
また「なりたい姿を一緒に見つけて、その姿になっていくサポートをする」ことともいえますね。“人”に対して「コーチングをしながらキャリアデベロップメントする」ことはもちろん、“組織”に対しても人と同じで「ZOZOがどうなりたいのか」ということを一番に捉えて、そこに向けていろいろな手を打っていくことが「人材開発」「組織開発」の仕事であると思っています。私自身は「組織開発」というテーマの中に「人材開発」も含まれると捉えていて、すべての仕事は会社組織が長く強くなっていくためにやっていく。そのためのその打ち手として、人材開発とか研修のようなものがあるというような捉え方、価値観ではたらいています。

ZOZOは今、グループ全体で約1,600人スタッフが所属していますが、ミニマムで言うと2、3人から組織って始まっています。フラクタル(図形の全体をいくつかの部分に分解していった時に全体と同じ形が再現されていく構造)のように、小さな形がそのまま拡大して同じ大きな形を形成しているような感じで、個人間で起こっていることが組織全体でも同じように起こっている。人が集まったら、必ず何かしらのズレや分かりあえなさが起きるのは当たり前で、それをいかに乗り越えていくかということが組織の一番の肝なのではないかと。「自分が誰かと物事を進めるとき」もそうですし、「AさんとBさんが物事を進めるときにどうサポートするか」もそうです。それを部門や会社全体の中で、どうサポートするか。結局どの場面でも大事になるのは対話だったりするので、「対話の機会をどれだけ増やすか」とか「対話をどれだけよいものにするか」が大事な仕事になってくると思っています。

― いろいろな人や部門の状況や希望をどういう形でキャッチアップしたり、対話やコミュニケーションをされているのでしょうか。

新型コロナウイルス感染症流行で、リモート下の時期に入社した当時は会社の雰囲気などがどうしてもわかりづらかったので、一人ひとりに話を聞いていこうと「1on1おじさん」という活動をしました。入社時のZOZOテクノロジーズで社長から始めて、執行役員、本部長、現場のメンバーまで話を聞いていきました。ZOZOに合併された後も、社長から順番に1on1を申し込んで話を聞いていきました。結局、その中にいる人たちの話を聞かないと何もわからないというのが組織だと思うので、週に5人ぐらいのペースで話を聞いていきました。結局2年で200名以上の話を聞きましたが、この活動は基本動作としてすごく大事でした。これをしていなかったら自分の今の仕事はどうなっていたかと思うぐらいに、どのような会社なのかを知るには大事でしたし、自分を知ってもらう効果もありました。でも、昨日と今日では人も組織も違うので、一回知ったら終わりではないんですよね。今は休止していますが、これは続けていかなければならない活動だと思っています。

― 人事になって、いままでやってきたことで、大変だったことは何ですか。

ZOZOに在籍して3年ちょっと経ちましたが、入社してすぐに行ったZOZOテクノロジーズの新たな人事制度のリリースと1on1の ガイドラインを整えたことが、一番記憶に残っています。その1年後にはZOZOテクノロジーズとZOZOの合併に伴い、また新たな 人事制度を出しました。人事制度を3年という短い間に2回出したことは大きな経験です。
ZOZOには、「ZOZOが好き」「ZOZOTOWNが好き」などといった理由で入社しているスタッフが多かったのですが、ZOZOテクノロジーズでは、同じようなタイプの人もいたけれども、中途でさまざまなバックグラウンドを持つスタッフが入ってきていたので、本体であるZOZOとは文化が少し違っていました。

本体とは違うカルチャーになっていったグループ会社と、もともとのカルチャーの会社が一緒になって統合する、その中での制度づくりでした。

― ZOZOテクノロジーズとZOZO、2社が一緒になって3年目になりますが、制度づくりの後、融合していくにあたり大切なことは何だったのでしょうか。

融合していくにあたって大切だと思うのは、まず「言葉を揃える」ことではないかと思います。ZOZOでは「ソウゾウのナナメウエ」「日々進歩」「愛」という3つのバリューを「ZOZOらしさ」と呼んでいます。皆でこの「ZOZOらしさ」を発揮していこうということで、 言葉を揃えました。そして、その揃えた言葉をそのまま形骸化させないように制度の中に盛り込みました。人事だけで考えることではなくて、社員が皆で「やっぱりそれ大事だよね」「日々進歩することは大事だね」「相手を思うことは大事だよね」というようなことを考えてもらう。さまざまな部署と一緒にカルチャー醸成につながる取り組みもしています。また、会社全体で一つのカルチャーがあるわけですが、サブカルチャーのように、部門や職種ごとのカルチャーというものもあります。社内でイベントをしたり混在する組織を作ったりすることで、異なるカルチャーの人たちの融合が進んでいくので、そういうことも大事ですね。研修なども、「インプットする」とか「共有する」とか学んでもらうという場というよりは、いろいろな部署の人がなるべく同じテーマで対話をしてもらう、対話の場として設計した方がよいと思っているので、私は「研修というよりワークショップ」という意識で企画・運営をしています。

― ZOZOらしさ、カルチャーをベースにした組織開発、組織づくりにどう取り組まれていますか。

どういう組織にしていくかを考える際には、まず「ZOZOがどうなりたいのか」ということが出発点にあります。今日どんな人が何を言っているか、何を思っているのかというようなことは、先程お話ししたように日々変わるものですので、私だけではなく部署のメンバー にも日々キャッチアップするように伝えています。組織サーベイのフリーコメントなどで上がってくる情報もありますが、日々の何気ないチャットなどの情報が会社のコンディションを表していたりするんです。
新しい施策の企画を進めるときには、ZOZOの今のコンディションと今後のありたい姿をセットにして、必ずたくさんの人と対話をします。人事がやりたいからとか、自分がやった方がいいと思うからといって進むことってほとんどないです。着想をつくったら、まずはいろいろな人とたくさんの壁打ちをして、「今のZOZOにとって必要な打ち手はどういうものだろう」と喧々諤々の議論をするようにしています。
最近も、前職の施策を元に企画をして、いろいろな人と話をし、トライアルもしましたが「ZOZOで本当にうまくいくのか」という話になり再検討になった施策がありました。「企画して、トライアルして、関係者との対話も重ねたけれど、それでも通らないのか…」とも考えましたが、それはZOZOがどういう会社なのか、どういう会社になりたいのか、ということを私がちゃんと捉えられてなかったんだなと反省しました。逆にそこを捉えられていれば、もっと合意しやすい提案にできたと思うんです。いまのZOZOにアジャストして工夫したつもりだったのですが、まだ足りなかったんだなと。この仕事の奥深さを思い知る出来事でした。

― 「ZOZOがなりたい姿」とはどんな組織を目指しているのでしょうか。

企業理念そのままで「世界中をカッコよく、世界中に笑顔を。」を実現する会社を目指していますし、皆もそう思っています。もちろん、ビジネスは勝ち負けがあると思いますが、ただ勝てばいいという感覚は社長以下全員が思っていないはずです。ZOZOらしく勝たないと意味がないし、勝つというより、ZOZOらしく成長、発展し、社会に貢献していかないと意味がないという感覚ではたらいている。そういう強い想いを個々が持っている会社ですね。

― 企業理念や3つの「ZOZOらしさ(バリュー)」についてお話しいただきましたが、人事としてそれを社内にどう浸透させていますか。

企業理念やバリューなどの言葉を、社内に“落とし込む”という感覚はないんですよね。企業理念はもともと掲げられているものなので少し違うのですが、ZOZOらしさ(バリュー)は新しい言葉をつくったとか、経営や人事がいきなり言い出したとかではなくて、そもそもこの会社の中で大事にしてきた感覚とか価値観、実際に使われていた言葉やそこから派生するものをバリューにしたという経緯があります。キャッチーな言葉やイベント的に新しい言葉をお仕着せ的に浸透させようとしても、特にZOZOでは絶対にうまくいきません。
もともとZOZOのスタッフや組織が大事にしてきたことを「これからもZOZOらしさを発揮していきたいよね」「今まで通り発揮するだけじゃなくてアップデートしていきたいよね」という想いで経営層とも話し合い、3つの「ZOZOらしさ(バリュー)」として「ソウゾウのナナメウエ」「日々進歩」「愛」が決まりました。
この3つの言葉を決めて出した後に、概念としてコーポレートサイトへの掲載や施策の名前などに掲げていますが、ポスターを貼るとか、何か浸透させるための取り組みをするわけでもなく、社内では自然に使われています。もともとスタッフから預かった価値観をそのまま言葉として返しているだけのような感覚ですから、馴染みやすいのも当然だと思います。

こういうことを言葉にするとウソっぽくなってしまうかもしれませんが、本当によい会社なんです。なので、変えるべきところは変えますが、今までのよいところをいかによりよくしていけるか、そして変えてはいけないよいところをいかに変えずに進んでいくか。どんな会社もそうだと思いますが、ZOZOは本当に強いカルチャーがある会社なので、この点を強く意識しながら組織開発を進めていかなければならないと思っています。

― 終わりのない組織開発の過程で、小金さんが「よくなってきたな」と感じるのはどのような時ですか。

人事の施策は数年がかりで効果が出ることも多々あるので「あのときの打ち手がここに効いた」と確認できないことがほとんどなんですよね。
どういうときによくなったことを実感するか考えてみると、「自分のことよりも他のスタッフや組織のことを考えて、考え抜いた上でしか言えないようなことを言ってくれる人が増えているかどうか」これが一番見えやすいように思います。

「なんだかわからないけれど、とにかく小金さんの言うとおりにやってみます」と言っていたような部門のメンバーが「小金さん、でもそれは違うじゃないですか」というようなことを言ってくれた時に、自分の引退の時期が近づいた気がしました(笑)。少なくともこの会社を健全にするために、正しくそれに取り組める人や取り組むために思考をはたらかせることのできる人が増えれば、確実にその会社はよくなるなって思ったんです。そういう土台が増えていったらいいなって。
最近、営業部門のスタッフに「組織開発に興味があるから勉強させてほしい」と言われて、一度話をしたんです。人事に異動したいという想いもあったようなのですが、私からは「人や組織をよくすることはどこにいてもできるから、営業部門の仕事をやりながら、できることから始めてみるのでもいいんじゃないか」と話をしました。しばらくしてそのスタッフから「まずは自分の組織をよくすることからやってみようと思います」って言ってくれて。本当にうれしかったです。こういうことが、一個一個増えていくとき、「少しは役に立てているのかな」みたいなことを思う、そういう瞬間です。

― 小金さんご自身で副業でも組織開発に取り組まれていますが、ZOZOでの仕事とのバランスや位置づけはどのようなものなのでしょうか。

自分のアイデンティティは「組織開発の内部の実践者」で、組織の中にいるからこそできる組織開発が自分の職域だと思っています。なので、自分のミッションはあくまで「いま所属する会社の中でその組織を長く強くすること」。「現場の現実」と言っていますが、そういったものに常に囲まれて組織開発に取り組み続けることこそが私の存在意義だと思っています。
パラレルキャリアとか複業という言葉もありますが、自分の中では、本業と副業を完全に分けていますし、明確な優先順位があります。「今いる会社の組織をよくする」ということのフォーカスレベルを落としたら存在意義がないと思っているので、そこだけは絶対に履き違えない、間違えないようにと思っています。

― 最後に、小金さんが人と組織、そして人事パーソンとして「こうなったらいいな」と思う姿を教えてください。

転職をすることが当たり前の時代でもあると思うのですが、そのように安易に流れていけばいいというわけではなくて、今いる会社と自分の関係性をよいものにしていける人の方が幸せであり、会社の機能とか仕組みや環境を自分にとってよいものにしていくことが大切なのではないかと思っています。どうせはたらくなら楽しくはたらく方が絶対にいいですし、「楽しくはたらくために今いる会社を自分にとってよりよい環境にしよう」と思う人が増えるといいなと。

また、ZOZOでの組織開発事例を訊かれることが多いのですが、結局その会社がどうなりたいのかが一番大事なのではないかと思っていますし、それを考え抜いて打つ手が正しいのではないかとも思います。他の会社が何をやっているとか本で書いてあったよいこととか、もちろんヒントにはなると思うのですが、最後はこの会社がどうなりたいのかと自分がその会社をどうしていきたいかの価値観の接続点で打ち手を講じていかなければと。自分の組織をちゃんと見て向き合うことが、一番のヒントになるのではないでしょうか。自分自身、それをどれくらいできているのか分からないですが、そうしていきたいと思っています。

ZOZOの人材開発や組織開発の施策が他社の参考になるとは思っていませんが、ZOZOの「楽しくはたらく」スタッフやカルチャーがひろがることはとてもポジティブなことだと思っています。ZOZOの組織や制度の事例ということではなく、そのベースになっているZOZOのカルチャーや、会社や社員としてのあり方みたいなものが他社様のよいヒントとなって広がっていくといいなと、心から思っています。

ZOZOでは、「人事」のことを「人自」、「仕事」のことを「自事」と表記されていています。これには「人事(ひとごと)」ではなく、スタッフ一人ひとりが他人の事も自分の事として考えるという意味と、「仕事(仕えること)」ではなく「自事(自然なこと)」であるという意味が込められているそうです。小金さんのお話からは、「人自」を「自事」として実践しているそのものの姿を感じました。

Profile

ZOZO小金 蔵人 氏

株式会社ZOZO
人自本部 組織・人材開発部
ディレクター
小金 蔵人 氏

大学卒業後、味の素株式会社に入社し、営業マーケティングに従事。2006年にヤフー株式会社へ転職し、新規ビジネス開発・サービス企画のリリースを経験。2016年に人事に異動後、全社の人材開発・組織開発を担当。1on1ミーティングをはじめとしたピープルマネジメントツールの推進や管理職のマネジメント支援と併せて、現場の組織課題解決をサポート。2020年に株式会社ZOZOテクノロジーズ(現株式会社ZOZO)へ転職し、現在はZOZO全社の人事企画・人材開発・組織開発に携わる。

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