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危惧されている2025年問題の概要と企業が取り組むべきこととは

公開日:2024.04.12

企業の課題

超高齢社会や少子化が深刻化する日本では、「2025年問題」が懸念されています。医療や介護面だけでなく社会全体に大きな影響をもたらす2025年問題は、企業にとっても深刻な問題です。企業が経営活動を存続するためには、適切な対策を早急に施さなければなりません。

今回は、2025年問題の概要や社会・企業に与える影響をご紹介するとともに、企業が取り組むべきことを解説します。

2025年問題とは

「2025年問題とは、少子高齢化により引き起こされる問題の総称です。総務省が公表した『統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-』によると、2023年の日本における75歳以上の人口は前年に比べて72万人が増加し、2,000万人を超えました。この背景として、第一次ベビーブーム(1947~1949)に生まれた「団塊世代」が、2022年から75歳を迎えていることが挙げられます。2025年には2,155万人が75歳以上になると推計されており、その割合は日本の人口全体の約17.5%です。

※引用:総務省|『統計からみた我が国の高齢者-「敬老の日」にちなんで-

超高齢社会が加速する中、少子化も進んでいます。同省が公表した『我が国のこどもの数ー「こどもの日」にちなんでー』によると、2023年4月1日時点での日本の総人口に占める15歳未満の子どもの割合は11.5%となっており、49年連続で低下している状況です。

※引用:総務省|『我が国のこどもの数ー「こどもの日」にちなんでー

厚生労働省の「今後の高齢化の進展~2025年の超高齢社会像~」では、超高齢化が進む2025年になると、高齢者の人口増加に伴って認知症高齢者数が増加すると発表されています。2025年の高齢者世帯は約1,840万世帯で、そのうち70%が一人暮らしもしくは夫婦のみで暮らす世帯です。高齢者を支える若年層が少なくなる中で、増え続ける高齢者を支えることは大きな課題の一つとなっています。

さらに、2025年問題は社会的な課題だけでなく企業にも深刻な影響を与えます。特に問題となっているのが人材不足と事業継承者の不足です。2025年が目前に迫る今、社会・企業ともに早急な対策が求められます。

※引用:厚生労働省|今後の高齢化の進展~2025年の超高齢社会像~

2030年問題との違い

団塊世代が後期高齢者になる2025年問題に続いて、2030年問題も課題となっています。2030年問題とは、団塊世代よりも若い世代が労働から離れ、ますます労働力が減少することにより懸念される問題の総称です。

内閣府による「令和5年版高齢社会白書」によると2025年における75歳以上の人口は3,653万人に達し、高齢化率は29.6%になると推計されています。このまま高齢化が進んだ場合、2030年の高齢化率は30.8%で、その後も上昇傾向です。

その一方で、生産年齢人口にあたる15歳以上65歳未満の人口は2025年の段階で7,310万人と推計されていますが、2030年には7,076万人で2035年には6,722万人と以降も引き続き減少するといわれています。これにより人材不足が顕著になるばかりではなく、国内市場の縮小にもつながりかねません。

※引用:内閣府|令和5年版高齢社会白書

2025年に日本の人口構成が大きく変わったのち、さらなる変化が訪れるのが2030年です。生産年齢人口の減少は2030年以降も加速すると推測されています。高齢化は先進国の多くが直面する課題ですが、その中でも日本は深刻です。これまでにないペースで加速する高齢化と生産年齢人口の減少を踏まえて、労働力の確保に対する取り組みは急務といえます。

2025年問題が社会に与える影響

2025年問題は社会全体に多くの影響を与えます。考えられる主な影響として3点を解説します。

医療費・介護費などの増大

日本では医療保険や介護保険、年金、生活保護といった社会保障制度があり、これらを支えるために国が支出する費用を社会保障給付費といいます。2025年問題によって後期高齢者が増加すると、社会保障費の増大は避けられません。

国立社会保障・人口問題研究所が2023年8月4日に発表した「令和3(2021)年度 社会保障費用統計の概要」では、2021年度の社会保障給付費の総額は138兆7,433億円であり、1950年度の集計開始以降の最高額を更新しました。前年度と比べても4.9%の増加であり、高齢化社会の影響がうかがえます。また、人口一人あたりの社会保障給付費は110万5,500円となっており、前年度よりも5.5%増という結果でした。

加えて、内閣官房全世代型社会保障構築本部事務局が2022年3月に開催した会議に関する「基礎資料集」でも、社会保障給付費が年金、医療、介護などそれぞれの分野において年々増加していることがまとめられています。同資料において、2018年度の介護費と医療費の合計が49.9兆円という結果だったのに対して、現状を投影した2025年の予測は62.9~63.3兆円です。

一方で、社会保障費を支える生産年齢人口は減少の一途をたどっており、さらなる負担が予想されます。これまで、政府は社会保障の安定財源確保と財政健全化を目指し、段階的に消費税率の引き上げを実施しました。また従来、後期高齢者の医療負担は1割でしたが、2022年10月1日から一定以上の所得がある場合は窓口負担が2割となっています。

医療・介護サービス提供の困難化

高齢者や後期高齢者の増大に伴い、医療や介護サービスを受ける人も増えます。厚生労働省では、2021年7月9日に第8期介護保険事業計画の介護サービス見込み量などに基づいて、介護職員の必要数を発表しました。「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の将来推計について」によると、介護職員の必要数は2023年には約233万人、2025年には約243万人、2040年には約280万人と推計されています。

なお同資料には、介護サービスにおける人材不足の理由として主に採用の困難が挙げられており、このままの状況が続けば2025年に必要な介護職員を確保できないことが考えられます。その結果、介護職員1人あたりが抱える負担が多くなり、サービスを十分に提供できない事態も起こり得るでしょう。負担の増加は離職率が上がる要因にもなり、ますますサービス提供の困難化に陥ります。

労働力の不足

※引用:パーソル総合研究所・中央大学|労働市場の未来推計 2030

パーソル総合研究所では、中央大学経済学部の阿部正浩教授と共同開発した「予測モデル」を活用したデータ「労働市場の未来推計 2030」をまとめています。この中で、2030年の労働需要が7,073万人であるのに対して労働供給は6,429万人であり、644万人もの人材が不足するという結果が出ています。

特に労働力の不足が懸念されている産業がサービス業、医療・福祉業です。これらの業種は現在でも人材不足に悩まされており、この先さらなる需要の伸びが予測され、労働供給の伸びがそれに追いつかないと考えられます。こうした労働力の不足は2030年以降に限ったことではありません。例えば、物流業界では2024年からトラックドライバーの時間外労働が規制され、輸送力が不足することが懸念されています。このように労働力の不足は多くの業界で課題となっており、2025年問題においても早急に対策を講じなければなりません。

2025年問題が企業に与える影響

2025年問題は社会だけでなく企業にも大きな影響を与えます。企業が経営活動を存続するには、どのような影響があるかを把握することが大切です。ここでは、主な影響を2つご紹介します。

人材確保の困難化

超高齢社会が進み、生産年齢人口が低下する中で懸念されているのが人材確保の困難化です。内閣府による「令和5年版高齢社会白書」によると、減少の一途をたどっている日本の人口ですが、2060年にはついに1億人を下回り9,615万人になると推計されています。

労働市場の未来推計 2030」のデータでも分かるように、すでに医療や介護業界の人材不足は深刻な問題であり、この先人口の減少が続けば慢性的な人材不足は避けられません。必要な人材が採用できなければ経営自体が危ぶまれ、倒産する企業が増えることも予想されます。

事業後継者の不足

人材不足とあわせて懸念されているのが事業後継者の不足です。中小企業庁による「中小企業・小規模事業者における M&Aの現状と課題」では、2025年までに平均引退年齢である70歳を迎える中小企業・小規模事業者の経営者は約245万人になると推計されています。そのうち、約半数にあたる約127万人の後継者が決まっていない状態です。

自社が持つノウハウや技術を継承し、次世代につなぐためには後継者の育成が欠かせません。しかし、少子化が進む中で優れた人材を見つけることは困難であり、会社経営が続けられなくなる企業も増えるでしょう。こうした背景から、中小企業庁では事業を継承することを目的とした第三者承継(事業承継型M&A)が一気に増えるとも予測しています。

人手不足による倒産については、こちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>人手不足倒産とは?深刻化の原因と解決策を詳しく解説

2025年問題に対して企業が取り組むべきこと

2025年問題を乗り越えて、経営を継続していくには早急な対策が不可欠です。ここでは、企業が取り組むべき4つの対策を解説します。

労働環境の整備

2025年問題による人材不足を回避するには、労働環境の整備が不可欠です。特に高齢者の増加に伴い、介護と仕事を両立するビジネスケアラーも急増するため、介護をしながらでもはたらきやすい環境づくりに配慮する必要があります。例えば、テレワークやフレックスタイム制を導入すると、ビジネスケアラーだけでなく育児世代もはたらきやすくなります。

また、長時間労働を強いられる環境も人材不足につながりかねません。DX化の推進によって生産効率が向上すると、時間外労働や休日出勤の削減が期待できます。

社内コミュニケーションの活性化も押さえておきたいポイントです。社員同士がコミュニケーションを取りづらい環境は、居心地が悪く離職の原因になります。気軽に情報共有や相談ができるように、チャットツールの導入や定期的な面談の実施などを検討するとよいでしょう。

その他、空調や照明の調整、社内動線の確保といった物理的な整備も重要です。デスクや什器を誰もが使いやすい位置に配置するほか、整理整頓を心がけるといった細かな点に留意するだけでも、作業効率が上がってストレスのない労働環境を提供できます。

社員の定着率を上げる取り組みについては、こちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>社員定着率が低い原因とは?定着率を上げる取り組み

多様なはたらき方の推進

人材が不足する中で経験や実績が豊富な人材を採用するには、多様なはたらき方を取り入れて企業の魅力を高めることが大切です。例えば、1週間の所定労働時間がフルタイムではたらく正社員より短い「短時間正社員制度」を導入すると、育児や介護と仕事を両立したい社員や、さまざまな事情によりフルタイム勤務が難しい社員などの採用につながります。フルタイムではたらく社員だけでなく時間に制約のある人材にも目を向けることで、意欲や能力の高い人材を見つけやすくなるでしょう。

また、副業や兼業を容認するのも一つの手段です。社員が他分野で副業をすれば、これまでになかったノウハウやスキルを得て本業に活かせるほか、あらたな分野にチャレンジするために離職を検討する人材の流出防止にもつながります。

多様なはたらき方やダイバーシティについては、こちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>ダイバーシティとは?必要性や取り組み事例などをご紹介

事業承継の早期対策

経営者の高齢化に伴い事業承継を検討している場合は、速やかに対策を講じる必要があります。一般的に、事業承継をスムーズに進めるには5~10年程度の期間を要するとされており、経営者の平均引退年齢である70歳を踏まえると60歳頃には準備を始めなければなりません。

事業承継の方法は、「親族内承継」「従業員承継」「M&A」の3パターンに分けられます。2025年問題では、経営者の高齢化だけでなく人材不足も課題となる中で有効とされているのがM&Aです。M&Aとは、社外の企業や創業希望者などの第三者への株式譲渡や事業譲渡、新株発行及び引き受け、株式交換、合併、会社分割などをする方法で、親族や社内に適した人材がいない場合でも会社を存続できます。

中小企業庁では、M&Aのマッチング支援や事業承継・引継ぎ補助金といった支援施策を講じているほか、日本弁護士会連合会や日本税理士会連合会、日本公認会計士協会などでもサポートを受けることが可能です。

シニア人材の活用

労働力の減少に伴い、注目されている手段がシニア人材の活用です。シニアとは一般的に65歳以上を指し、「令和5年版高齢社会白書」によると2022年の段階でシニア人口は3,624万人と、日本の総人口の29.0%を占めています。高度経済成長やバブル期を体験したシニア世代は人生経験やスキル、知識が豊富で企業にとっても貴重な存在です。こうしたシニア人材の活用によって、2025年問題の人材不足の解消も期待できるでしょう。

シニア人材を活用する際は、健康状態への配慮や労働条件の調整が重要です。例えば、定期的な健康診断や体調チェックシートなどを導入するとよいでしょう。その他、体力に応じた業務の割り振りや、無理なくスキルを発揮してもらうための環境整備も大切です。また、再雇用後に勤務時間の短縮や労働条件の変更について、認識のズレが発生しないように、あらかじめ認識合わせをし、合意しておく必要があります。

なお、厚生労働省では「65歳超雇用推進助成金」や「特定求職者雇用開発助成金」など、シニア人材の活用に積極的な企業を対象とした助成金制度を設けています。うまく活用して職場環境を整えることが大切です。

シニア採用については、こちらの記事でさらに詳しくご説明しています。
>>シニア採用が必要とされる背景、メリットと留意点

目前に迫る2025年問題

2025年問題とは、団塊の世代が75歳以上を迎えて超高齢社会が加速することで、社会や企業に影響を与える問題の総称です。社会においては医療費や介護費の増大、医療・介護サービスの困難化、労働力の不足などが挙げられます。また、企業でも人材確保の困難化や事業後継者の不足が懸念されており、早急な対策が必要です。

目前に迫る2025年問題に向けて、事業を存続させるためには労働環境の整備が欠かせません。テレワークやフレックス制の導入などを検討し、誰もがはたらきやすい職場をつくることが大切です。また、後継者問題については、経営者が引退する5~10年前から事業承継に向けた準備を始める必要があります。

2025年問題に限らず、その先には団塊の世代より若い世代が高齢者となる2030年問題も待ち構えています。少子化も進む中で、企業は長期的な視点での対策を講じることが大切です。

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