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(情報掲載日:2019年6月10日)


ストレッチ教育とは、個人の力量よりも難易度の高い仕事を与えて成長を促す育成手法です。壁を乗り越えることで最大限の能力を引き出し、その経験が個人を大きく成長させます。ただし、成長には的確な目標設定や上司のフォローが必要です。どうすれば効果的なストレッチ教育が行えるのか、その手法について解説します。

●人が大きく成長するのは、背伸びをしようとするとき

ストレッチ(stretch)には「引き伸ばす、引っ張る」という意味があります。ストレッチ教育とは、個人に背伸びをしないと届かない目標を与えて成長を促す育成手法です。人材開発・組織開発を研究する立教大学教授の中原淳氏は、仕事における人の心理状態には主に3つのパターンがあると述べています。現在の能力で十分に対応が可能な「コンフォートゾーン(快適空間)」、現在の能力や実力に比べて大きな挑戦となる「パニックゾーン(緊張空間)」、背伸びをすることで対応が可能な「ストレッチゾーン(成長空間)」です。この中で人がより成長できるのは、現在の能力では少し難しさを感じる状況で背伸びをしながら仕事にあたるストレッチゾーンであると述べています。「頑張れば克服できそう」と思うことでやる気を維持し、その目標をクリアすることで達成感が得られ、それが個人の成長につながります。

●人は壁を乗り越える必要がある:成長の5段階モデル

どのような段階でストレッチ教育が必要となるのか。経営組織論を研究する北海道大学大学院教授の松尾睦氏は、人の成長には「初心者」「見習い」「(とりあえず)一人前」「中堅」「熟達者」の5段階があると述べています。松尾氏がさまざまな組織で「中堅」「熟達者」の割合を調べたところ、組織の中核である「中堅」は全体の約30%、職場のエースであり熟達者は約10%が平均的な数値となりました。

人の成長の5段階モデル

(松尾睦『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』ダイヤモンド社を参考に作成)

過半数を超える約60%が「(とりあえず)一人前」以下という組織が多く存在しており、「現状維持」となってしまうことがある個人に対し、いかに成長を促すかが企業にとって重要な問題となっています。松尾氏は「一人前から中堅に上がる段階」「中堅から熟達者に上がる段階」に成長の壁が存在すると指摘しており、そのような壁を乗り越える過程においてストレッチ教育の効果が期待されます。

●ストレッチ教育のメリット・デメリット

ストレッチ教育にはどのようなメリット・デメリットがあるでしょうか。大きなメリットといえるのは個人に刺激を与え、新たな能力やスキルが得られることです。一方、デメリットは的確な目標設定が難しく、目標が高過ぎた場合に個人に大きな負担となることです。個人の力量を把握し、それに合った負荷を与えることが求められます。

ストレッチ教育のメリット・デメリット


●効果的な目標とは「その後の行動によい影響を与えられること」

ストレッチ目標を与える最大の意義は、当事者に対して新たな行動を促すことにあります。目標に対して行動を起こしたことにより、その後の行動に、成長へと向かうよい影響を与えることが目的です。実施後にどのような行動ができるようにしたいのか、目的となる行動内容を考慮した目標を立てることが必要です。

・現在の部下の状況を上司自らが確認する
ストレッチ目標を立てるうえでは、上司は部下に対する思い込みや、部下の査定内容に捉われずに、現在の部下の状況を上司自身が直接確認し把握することが重要になります。部下と直接話して仕事ぶりを確認したり、取引先など仕事の現場に同行したり、職場の同僚にもヒアリングしながら、正確に個人の状況や能力を把握します。

・SMARTの法則を活用する
SMARTの法則とは、目標達成の実現可能性を最大限に高める目標設定法です。以下の5項目をクリアすることで、行動に移しやすく、モチベーションを維持しやすく、PDCAを回しやすい目標を立てることができます。そのうえで目標を具体的な行動に落とし込むことが望ましいといえます。ストレッチ目標の難易度の目安は、通常の業務の1.2〜1.5倍程度の負荷といわれています。必要な場合は目標の進捗を段階的に確認できるマイルストーン(中間目標)を設けるとよいでしょう。

SMARTの法則

pecific(明確性)……内容は具体的か?
easurable(計量性)……定量的に達成が確認できるか?
ssignable(割当設定)……目標達成に必要な役割や権限を与えているか?
ealistic(実現可能性)……目標は現実的な内容になっているか?
ime-related(期限設定)……目標達成までの期間は明確か?


・「三方よし」を意識しながら目標を考える
ストレッチ目標は、単に売上を伸ばす、契約数を増やすといった企業側の一方的な内容では、個人のやる気も削がれ、社内への効果的な影響も望めません。効果を生むストレッチ目標には、企業と個人、世間(顧客)といった三方を意識した要素が考慮されています。効果が期待されるストレッチ目標の例としては、管理職層であれば、新規事業の立ち上げ、大規模な業務改革、組織マネジメント業務など。若手・中堅層であれば、業務改善、部門横断のプロジェクト、後輩の育成の委託といったものがあげられます。そして、企業はストレッチ目標によって「今よりも頑張って働く」ではなく、「より賢く、考えながら働く」というメッセージを出すことが重要です。これまでと同じやり方で頑張ってもすぐに限界がきますが、仕事のやり方を考え、ムダを省き、創意工夫をすることで、より大きな成果をあげることができます。仕事に対して新たな考え方やアイデアを生む方向につながる目標こそ効果的な目標といえます。

●「成長イメージ」「周囲の期待」「土台づくり」

ストレッチ教育は難易度の高い目標に挑戦するため、その分失敗する確率も高いといえます。ストレッチ教育を成功させるうえで意識すべきポイントとは何か。前述の松尾氏は、成長のイメージと周囲の期待、そして土台づくりの大切さをあげています。本人をやる気にさせ、周囲にも育成への意識を持たせ、事前にできる限りの準備を行うことが重要です。

ストレッチ教育を成功させるための工夫

(松尾睦『職場が生きる人が育つ「経験学習」入門』ダイヤモンド社を参考に作成)

●上司のフォローが失敗を防ぐ

ストレッチ教育では、上司は部下に目標を持たせて任せっぱなしにするのではなく、常に進捗を確認し、相談を促すことが求められます。報告があがってこないときは上司から声をかけて、進捗を報告できる時間を取り、常に取組みが見える環境をつくります。目標が高過ぎて、挑戦への意欲を削がないようにするためにも、上司は常に部下の現状を把握しておき、場合によっては目標の難易度を調整することも必要になります。

●終了後はポジティブフィードバックをしつつ内省を促す

部下のストレッチ目標へのトライアルが終わったら、上司は成功でも失敗でも労をねぎらう言葉をかけます。結果が悪い場合でもプロセスでよかった点をほめ、仕事の中で成長した部分があれば本人に伝えます。その上で内省を促し、なぜそうなったのかを考えさせます。成功した場合でももっと合理的な方法がなかったかを検証させます。内省によって、成功のパターンおよび失敗のパターンについての認識を整理します。

困難への挑戦となるストレッチ教育は、上司と部下の間に信頼関係がなければ成立しません。お互いに「人の成長が企業の成長につながる」という信念を持ち、成長をイメージしながら挑戦について話し合っていくことが、ストレッチ教育を成功に導くでしょう。

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