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(情報掲載日:2014年9月10日)

人材マネジメントライブラリ

災害対応力を高める教育

VOL.32

東日本大震災をきっかけとして事業継続計画(BCP)を策定する企業が増えていますが、どんなに精緻な計画を練っても、その通りに実施できるとは限りません。トラブルを具体的にシミュレーションした教育・訓練を通じて実効性をいかに確保するかが重要です。災害対応力を高めるための教育のポイントについてご紹介します。

従業員の災害対応力を高める教育・啓発活動とは

●災害時はまず第1に「自助」

地震などによる災害から1人でも多くの生命及び貴重な財産を守るためには、まず第1に「自らの生命は自らが守る」という自己責任原則による自助の考え方が求められます。もしも勤務中に大きな災害が発生すると、誰もが異常な心理と環境の中に置かれるために、会社に防災マニュアルなどがあったとしても、いざというときに実際の行動が伴わず、何もできないという事態に陥ることも想定されます。全員が的確に活動できるようにするには、日ごろの訓練により、各自のとるべき行動を体で覚えておくことが必要です。
東京消防庁の「職場の地震対策」には、職場で行うべき防災訓練のチェックポイントとして下記のような項目を掲げています。全てに対応できているか確認し、できていないものについては見直しをする必要があります。

防災訓練のチェックポイント

□訓練を定期的に行うように実施日を定めているか
□実際の被害を具体的に想定した訓練を実施しているか
□帰宅困難者の一斉帰宅の抑制に対応する訓練を実施しているか
□近隣の町会などが行う地域の防災訓練に積極的に参加しているか

東京消防庁「職場の地震対策」(※1)をもとに作成

自分の身の安全を確保した後は、他の人々を助ける「共助」が求められます。その中には職場の仲間、顧客や取引先はもちろん、近隣の地域住民など、逃げ場を失って助けを求めてくる人々も含まれます。企業の社会的責任の一環として、災害時には従業員1人ひとりが共助の活動に参加することが求められます。そのような行動が自然にできるようにするためには、日ごろの意識づけが重要であり、社会の中で会社が果たしている役割や意義、貢献といったものを社員にしっかりと理解してもらうことが望ましいでしょう。

●帰宅困難者の一斉帰宅を抑制・解除する方法を決めておく

東日本大震災では地震の影響で東京都内の交通機関が停止したため、約515万人の帰宅困難者が発生し、首都圏を中心に大混乱が起きました。地震発生直後の一斉帰宅行動は、建物倒壊や火災に巻き込まれるなどで帰宅困難者自身が危険にさらされるばかりでなく、救助・救護・消火活動・緊急輸送等の妨げになりかねません。そのため、混乱を防止するには「むやみに移動を開始しない」ことを研修等で従業員等に徹底することが重要です。
「帰宅困難者の一斉帰宅の抑制」については、東京都が帰宅困難者対策条例を平成25年4月1日に施行し、企業に対して次のような取組を努力義務として求めています(※2)。

東京都帰宅困難者対策条例で求められる事業者の取組

■従業員の一斉帰宅の抑制
・施設の安全を確認した上で、従業員を事業所内に留まらせる
・必要な3日分の水や食料などの備蓄に務める
■従業員との連絡手段の確保など事前準備
・あらかじめ、従業員との連絡手段を確保するとともに、従業員に対して、家族等との連絡手段を複数確保することなどを周知する

「東京都帰宅困難者対策条例の概要」をもとに作成(※2)

また、一斉帰宅の抑制を解除するに際しては、次のような事前の計画が求められます。

帰宅ルール策定時のポイント

・日頃から従業員等の居住地、家庭の事情などの把握に努め、帰宅開始の順序等をあらかじめ定めておく(時差退社計画表の作成)
・従業員等が安全に帰宅したことをメール等の方法により確認する
・従業員を班編成し、帰宅させる場合には、その班ごとにあらかじめ連絡要員を指定し、定期的に企業等と所在確認等をすることなども検討する

東京消防庁「職場の地震対策」(※1)をもとに作成

このほか、共助の観点から、来社中の顧客・取引先の方など施設利用者の保護や、10%程度余分に水や食料を備蓄するといった取り組みを実施するように求められています。

●地震を想定した訓練に盛り込むべき内容とは

東京消防庁がまとめた「職場の地震対策」(※1)には、震度6強程度の地震を想定した訓練の実施要領の例が掲載されているので、これを参考にして自社の規模、収容人員、従業員の実態に応じて、訓練内容を詳しく策定しておくとよいでしょう。

地震を想定した訓練の実施要領の例
地震を想定した訓練の実施要領の例
東京消防庁「職場の地震対策」(※1)をもとに作成

●想定外のトラブルに対応する力をつけるには

BCPをどれほど精緻化しても、想定外のトラブルは起こり得ます。防災マニュアルを厚くすればするほど、依存心や油断が生まれてしまう可能性もあるでしょう。したがって、防災マニュアルに基づく定型的な防災訓練に加え、「想定にとらわれない」「自分から率先して避難行動をとる」「最善を尽くし、やれることをやりきる」といった行動原則を従業員1人ひとりが身につけ、実践できるようなシミュレーションが必要になってきます。そのためには、実際に起きた災害と災害時の対応事例をたどっていくケースメソッド方式が有効であると言われています。

※1 東京消防庁「職場の地震対策」
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/hp-sidouka/office-earthquake/all.pdf

※2 東京都総合防災部「東京都帰宅困難者対策条例の概要」
http://www.bousai.metro.tokyo.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/000/536/jyoureirihu.pdf

災害対応力を高めるケースメソッド方式の防災教育

●ケースメソッド方式の意義とメリットとは

ケースメソッド方式とは、実際に起きた事例とその対応策を教材としてグループで討議する中で、問題意識を深めていく手法です。過去の災害で起きた想定外のトラブルを事例として用いることにより、防災マニュアルに対応した型どおりの防災教育では身につけることが難しい、主体的に考え、判断し、行動する力を養うことにつながると考えられます。災害時には、想定外のトラブルに対する臨機応変な対応力が求められます。厳しい状況下で実際に行われた事例を当事者の立場になって、疑似体験的に学習することにより、大きな効果が得られると期待できます。

●ケースメソッド方式の進め方とは

ケースメソッド方式を進める際には、防災教育を行う到達目標として、あらかじめ次の3点を明確化しておくことが必要です。

ケースメソッド方式による防災教育の到達目標

1)災害時に活かされた(活かされなかった)事前の準備が何であったかを理解する
2)基本ルールやマニュアルを超えた非常時の対応について理解する
3)情報通信が途絶した中での組織の連携、協力のあり方について理解する

土木学会「建設分野における災害対応マネジメント力の育成に関する研究」(※3)をもとに作成

(1) 想定外のトラブルを具体的に記述したケースを用いる

数多くの災害対応の事例の中から、災害対応力を高める教育の教材としてふさわしいケースを選定します。災害対応の事例については、東日本大震災の対応事例や、土木学会がネット上で公開している「ケースメソッドによる災害対応マネジメント力育成シリーズ」(※3)が参考になります。また、BCPに関するコンサルティング会社などが有償で研修プログラムを提供しています。自社で教材を制作する場合は、主人公となる人物が遭遇した場面の中で、「判断に困ったこと」「マニュアルに書かれていない事象に対応しなければならなかったこと」などにポイントを置き、受講者が主人公の立場に立って考えることを促します。

(2) ケースのストーリー展開の勘所

教材の具体的な内容としては、①主人公の立場(所属する職場、役職と責任等)、②災害対応の場面や状況、③想定外のトラブルの何に困ったか、何をどのようにマネジメントしなければならなかったのか、④このケースを通じて鍛えられる災害対応力とはどのような能力か、⑤身につけておくべき知識は何か、⑥グループ討議のポイントはどこか等を明らかにします。実際の事例報告を教材用にアレンジして使う場合、ストーリー展開の勘所としては、①架空の名称でもいいので登場人物などに具体的な固有名詞を使って臨場感を出す、②登場人物の心の動きが見えるような具体的な挙動を記述する、③報告書等の資料にあれば、当事者の生の声を掲載する、④具体的なエピソードをつけて情感を出す等、受講者が共感的に理解でき、疑似体験に入り込めるような工夫をします。

(3) 研修の構成

研修の構成としては、①講師によるオリエンテーション(進め方についての説明)、②グループ討議、③グループの発表とクラス全体でのシェア、④講師によるまとめなどとするのが適切でしょう。ケースの読み込みは事前課題とすることで時間の短縮を図れます。

(4)グループ及びクラスの規模とグループ討議の進め方

1グループの人数は、全員が発言しやすいように6〜8人で、1クラスの人数は全体シェアにかかる時間が長くなりすぎないように20〜40人程度が適切でしょう。グループ討議の目的は、必ずしもケースに望まれる最善策を出すことではなく、主人公の立場に立ち、「私ならこういう理由でこういう対応をとる」といった意見を述べ合うことが重要です。

(5)講師はファシリテーター役を務める

講師の役割としては、受講者が災害対応についての何らかの「気づき」を得られるように促進していくファシリテーター役に徹することが求められます。やるべきこととしては、受講者への質問、問題提起、発言の促進、グループ討議のポイントを板書することによるシェアとさらなる質問の投げかけなどで、やってはならないこととしては、講師の意見の押しつけ、受講者の意見の否定、結論の提示等です。

※3 土木学会「建設分野における災害対応マネジメント力の育成に関する研究」
http://committees.jsce.or.jp/cmc/system/files/25.2-0.pdf

災害対応力は平時にも役立つ

●想定外のトラブルが起きても冷静に対処できるようになる

ケースメソッドで想定外のトラブルを疑似体験することにより、1人ひとりの従業員が「想定外のことは常に起こりえる」という意識を持つことができれば、平時にもメリットがあります。たとえば、想定外のトラブルに直面したときにもストレスを感じたりパニックになったりすることなく、「プランAがうまくいかなかったときにはプランBに移る」といった切り換えが冷静にできるなど、臨機応変に対応できる力が身につくと期待できます。
また、資源や情報が不足している中でいかに最適行動を取るかという視点をもつことにより、ビジネス環境の急激な変化に強い人材が育成されると期待できます。「あって当たり前」であったビジネス環境が、ある日突然、会社や取引先の都合で変更されたり、なくなってしまうことはよくあります。あり合わせの資源や情報手段を活用してやりくりする力があれば、慌てることはないでしょう。

●チームの結束力が高まる

災害時を想定した訓練や研修を職場で行うことにより、危機管理意識をチームで共有し、「共助」の力で想定外のトラブルに立ち向かっていく結束力が身に付くと期待できます。非常時には、その時、職場に残されたメンバーが組織横断的に結束して行動することが求められます。このような活動を平時に行うことにより、組織の壁を越えてチームを組み、結束力をもって協働する力が備わってくると期待できます。

昔から「天災は忘れたころにやって来る」と言いますが、事業継続のためには天災などの想定外のトラブルを忘れることはできません。過去の事例に学び、「想定外のトラブルは必ず起こり得る」という問題意識と対応力を身につける教育・訓練を行うことにより、災害対応力が高まります。さらには、平時にも役立つリスク対応力が1人ひとりの従業員に醸成され、強い組織を作ることにつながっていくでしょう。

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