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(情報掲載日:2020年8月17日)


アート思考とは、自らテーマや課題を設定し、その答えを個々の信念や哲学に基づいて見出していく思考法です。既存の判断基準や価値観では解決できない問題に対して、新たな見方や捉え方によって問いを立てて解決を図るもので、イノベーションにつながる思考としても注目されています。仕事にアート思考を取り入れる方策について考えます。

●自ら考えるべきテーマを見つけ出す思考法

アート思考(アートシンキング)とは、一般的には、自ら考えるべきテーマや課題を設定し、その答えを個々の信念や哲学に基づいて見出していく思考法を指します。既存の判断基準や価値観では解決できない問題に対して、これまでとは違った見方や捉え方から自ら問いを立て、新たな価値の創造によって解決を図っていく考え方です。アート作品を生み出すアーティストのように、何もないところから「今、何をどう表現すべきか」といった問いを立てて自分の内なる声を聞いて思考し、その答えを表現することからアート思考と呼ばれています。

●ロジカル思考、デザイン思考との違いは「自分発信で物事に臨むこと」

では、アート思考と、これまでビジネスで活用されてきた思考である「デザイン思考、ロジカル思考」にはどのような違いがあるのでしょうか。まとめると以下のようになります。アート思考と、「デザイン思考、ロジカル思考」の大きな違いは、「デザイン思考、ロジカル思考」が顧客を出発点として考えていくのに対して、アート思考は自分発信で問いを立てていく点にあります。

アート思考、デザイン思考、ロジカル思考の違い


これまでビジネスで広く用いられてきたのはロジカル思考でした。顧客の課題に対して、論理的に答えを出していきます。2010年ごろから聞かれるようになったのがデザイン思考です。顧客からの要求に従い、消費者や利用者の声を聞きながら直観的・総合的に課題を解決していていきます。ロジカル思考やデザイン思考では、顧客が提示する問題に対処すればよかったのですが、最近は問いを立てるところから始める必要性が生まれています。ただし、これら3つの思考は個々に独立して使うものではありません。相手や状況、タイミングに応じて、これらを組み合わせながらビジネスを進める必要があります。


●複数の要因が絡み合う社会では、問いを立てることに価値がある

なぜ今、アート思考が注目されるのか。その大きな要因は次のような複雑系(複数の要因が複雑に絡み合って物事が動くこと)の社会現象がみられるようになり、これまでの前例や常識に捉われていては解決できない問題が増えているからです。こうした問題を解決していくには、個人が信念や哲学を持ち、観察力や洞察力を駆使して、あるべき姿を追い求めていく必要があります。

複雑系の社会現象を示す事例

・VUCA(不安定、不確実、複雑、曖昧)時代を迎え、先行きが読めなくなった
・地球温暖化、異常気象、マイクロプラスチック問題など、環境問題が複雑化した
・IT時代を迎え、物事がインターネットを通じて相互に影響し合うなど、仕組みが複雑化した
・グローバル化した人間社会、ビジネス社会において、さまざまな主張が聞かれるようになり、解決が困難になった
・SDGs(持続可能な開発目標)など、企業は利益を出すだけでなく、社会貢献も求められるようになった


米国では現在、STEAM教育が推奨されています。これは米国で推奨されてきたSTEM教育(Science:科学、Technology:技術、Engineering:ものづくり、Mathematics:数学)に、米国の教員であるヤークマン氏がArt(芸術)を加えたもので、この言葉は2008年ごろから聞かれるようになりました。Art(芸術)にはリベラルアーツも含まれており、幅広い教養の必要性もうたわれています。また、最近は世界レベルで活躍するビジネスパーソンがMBAだけでなく、MFA(美術学修士)を取得する動きも広まっており、アートを学ぶことの意義が見出されています。

●ビジネスの世界で活用されるアート思考

こうしたアート思考は画期的な製品やサービスの開発でも活かされています。例えば、コンピュータを開発したスティーブ・ジョブズ氏は、大学でカリグラフィー(文字の書体デザイン)を学んでおり、それがコンピュータ開発時の文字表現に活かされました。その後、世界で初めてのスマートフォンを開発した際には、自身が「cool!(かっこいい)」と思えるものをつくることを目指し、独自の製品を生み出しました。他にも、スポーツ動画を撮影するアクションカメラを開発したニック・ウッドマン氏は視覚芸術を学んでいます。世界で活用されている民泊サイトを生み出したブライアン・チェスキー氏、ジョー・ゲビアー氏は元美大生で、部屋の装飾やサイトデザインなどでその美的感覚を活かしています。

また、以下のように企業も研修やオフィスでアートとの接触の機会を増やす動きが増えています。事業面におけるトピックスを見ても「広告代理店がビジネスにおけるアートの活用を支援するコンサルティング事業を開始(2019年)」「東京大学がIT企業と『アート思考によるイノベーション創出手法に関する研究プロジェクト』を開始(2020年)」「京都大学と印刷会社が、芸術家の思考の道筋をフレームワーク化し、ビジネスの現場で使える『アートイノベーションフレームワーク』を開発(2020年)」「東京芸術大学が商事会社とアート思考を活かした人材・事業開発で相互協力(2020年)」など、アート思考を事業開発や人材育成に取り入れる動きが活発化しています。

企業におけるアートを取り入れる動き

・新入社員向け研修の中で名画を鑑賞する
・グローバルな教養修得のセミナーで、西洋美術の鑑賞法を学ぶ
・本社オフィスの装飾にウォールアートを取り入れる
・公募で選ばれたアーティストの作品を社内に1年間に展示する
・現代アートを社内に展示する



●アート思考の実践ステップを身に付ける

アート思考では自ら問いを立てるため、普段から幅広い観察力、洞察力、質問力、実験力といった力が試されます。そこから得られた情報や培った教養をもとに、次のようなステップで思考を進めます。問いを立てるときは「今ままでなかったもの」「あり得なかったもの」「これまでになかった組み合わせ」「今よりも美しいもの」といった大胆な発想をしてみるとよいでしょう。アート思考は基本的に一人で考えを巡らせるために、常日頃から考えるクセをつけ、そのうえで日々身に付く学びをしていくことが大事です。

アート思考のステップの例

@自分の内なる声を聞き、「自分は何をやりたいのか」という感情を見つめる
A自ら問いを立て、「それは実現可能か」「未知の需要はないか」「それは美しいか」などをチェックする
B問いが生み出す状況と現状との違いを認識し、広く共感されるものかを確認する
Cすべての情報、考えをもとに、自分なりの答えを導き出す
D答えが自分の信条や哲学に合っているかを照らし合わせる



●アート作品に触れ、そこにある思考を学ぶ

アーティストは作品をつくる工程で、「自分の見方」で世界を見て、そこに何らかの答えを見出し、また新たな問いを立てています。アート作品とは作者の問いの集まりであり、作品に触れることで主体的な学びを促し、観察力や思考力が身に付き、それが問いを立てる力につながります。もちろん、自分で作品をつくることも大いに勉強になります。こうした力は事業のイノベーションに活かされるだけでなく、職場の人間関係や組織開発、意思の決定などに広く役立ちます。

●気持ちを落ち着けて、自分を見つめる場をつくる

アートを察する直感や感性は、誰もが子どものころには持っているものです。大人になるにつれて、それを呼び覚ますことが難しくなってきます。そこで気持ちを落ち着けて、自分を見つめる場を設けることが大事になります。例えば「感情をありのままにノートに書いてみる」「パーソナルな体験(自然の中に行く、制作物をつくる、旅行に行くなど)をする」「自由に発想するワークショップへ参加してみる」「マインドフルネス(今、この瞬間を大切に考える生き方)による瞑想に取り組む」など、自分を開放できるような場を設けることが大事になります。

アート思考の実践では、自分が「何をしたいのか」「何を達成したいのか」「他者に何を提供したいのか」といった、自分の奥底にある感情を見つめることになります。チームでアート思考を行うことは、「個々がどういう人間で、どんな仕事をしたいのか」を理解し合うよい機会でもあります。互いに気兼ねなく意見し合い、新たなアイデアを生み出しましょう。

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