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自治体DXの推進に立ちはだかる6つ課題と推進するポイントを解説

公開日:2024.01.29

企業の課題

2025年の壁が懸念される中、あらゆる業界でDX化が進んでいます。民間企業に限らず自治体でも早急な対応が求められる中、DX化が進まないケースも少なくありません。自治体DXをスムーズに進めるためには、重要性や現状の課題を把握した上で対策を立てることが大切です。

今回は、自治体DXの重要性や課題を解説すると共に、推進するポイントや事例をご紹介します。

民間企業だけではない?「自治体DX」の必要性

自治体DXに向けた取り組みを検討する前に、DXの概要を理解することが大切です。DXの意味や自治体DXの必要性について詳しく解説します。

DXとは「Digital Transformation」の略称で、2004年にスウェーデンの大学教授だったエリック・ストルターマンによって提唱されました。「デジタルによる変容」という意味があり、デジタル化によって社会やライフスタイルをよりよくすることを指します。

日本でDXが浸透し始めたのは、2018年に経済産業省が公開した資料「DXレポート」がきっかけでした。DXレポートによると、技術面の老朽化に加えて複雑化・ブラックボックス化しやすい既存システムがDXの足かせとなっており、この課題を解決できない場合、大幅な経済損失が生じる可能性があるといわれています。

DX化とは、あらたなデジタル技術や大量のデータを活用した業務改善だけを指しているわけではありません。商品やサービス、ビジネスモデルの変革のほか、組織や企業風土、文化の変革も含まれます。つまり、DX化は民間企業だけでなく社会全体や公共サービスにおいても重要な施策です。

自治体がDXを推進する背景

当初、DX化は民間企業の取り組みとして注目されていました。しかし、近年は自治体でもDXが必要と考えられています。その背景として挙げられるのが、少子高齢化の加速に伴う労働人口の減少です。財務省が作成した「税制調査会 2020年度の説明資料」によると、日本の生産年齢は2065年に約4,500万人になると予測されています。2020年の生産人口と比較すると約2,900万人の減少であり、職員の確保が困難になることが懸念されるでしょう。こうした中でどのように人材不足を解決するかが課題となっており、自治体DXが重要視されています。

また、新型コロナウイルス感染症の流行もDX推進のきっかけとなりました。対応が急がれる中、自治体では地域・組織間でのデータ活用や手続きのオンライン化が遅れている状況です。対面主義や押印、紙ベースの管理といった古い慣例が問題視され、速やかなDX化が求められています。

日本では、2021年9月1日にデジタル社会の実現をリードする行政機関としてデジタル庁が発足しました。デジタル庁は、社会全体のデジタル化を通して国民生活の利便性向上や、官民業務を効率化させて国民一人ひとりへの丁寧なサービスの提供など、誰もが幸せに暮らせる社会を目指しています。

また、2020年12月には「デジタル社会の実現に向けた改革の基本方針」、2022年6月には「デジタル社会の実現に向けた重点計画」が閣議決定されました。ビジョンとして「デジタルの活用により、一人ひとりのニーズに合ったサービスを選ぶことができ、多様な幸せが実現できる社会~誰一人取り残さない、人に優しいデジタル化~」が掲げられています。こうした社会を実現するためには、地域住民と密接な関係にある自治体のDXが必要です。

自治体のDXで効果が期待できる5つの要素

自治体DXの大きな目的は、「職員の働き方改革」と「住民の利便性向上」です。これらの目的に沿ってDXで効果が期待できる要素を5つ解説します。

業務効率化を図れる

従来、自治体では紙媒体を用いた手続きが一般的でした。しかし、労働人口が減少していく中で、こうしたアナログ業務は大変な手間がかかる上に人為的ミスの要因となりかねません。

一方でDX化が進み、デジタル技術やデータを用いた手続きが浸透すると、手作業による負担軽減やスムーズな情報共有が実現します。その他のメリットとして、オンライン手続きによって窓口業務が削減されれば、より注力すべきコア業務に人員を配置しやすくなり、人材不足のカバーが可能です。

個人情報の漏えいリスクを防止できる

自治体のDX化は、個人情報漏えいのリスク防止にも役立ちます。紙媒体で運用する場合、書類の紛失や誤配送が懸念点です。住民の個人情報を取り扱う自治体で、漏えいにつながるトラブルは避けなければなりません。

DX化によって個人情報をデジタル化すると、こうした紙媒体での運用リスクを防止できます。住民のプライバシーを保護し、自治体の信頼を高めるためにも重要なポイントといえるでしょう。

ただし、自治体のデータはサイバー攻撃の標的となる可能性も高く、徹底したセキュリティ対策が必要です。また、職員が適切にデータを運用し、問題があれば速やかに対応できるように、ネットリテラシーの向上も求められます。

なお、業務効率化や個人情報漏えいのリスク防止は、自治体DXの目的である「職員の働き方改革」に該当します。

サービスの向上につながる

ライフスタイルが多様化する中で、住民のニーズに対応するためには行政サービスの向上が重要です。しかし、従来のアナログ作業を続けていれば、ニーズに対して業務スピードが追いつきません。また、事務処理でリソースがひっ迫されれば、サービス改善に向けた取り組みがおろそかになることも考えられます。

DXの推進によって業務効率が上がると、事務作業や窓口業務にかかっていた手間が削減可能です。その結果、現状の見直しにリソースを割けるようになり、住民一人ひとりに見合ったサービスの提供につながります。

住民の満足度向上につながる

自治体のDX化は、職員だけでなく住民の利便性向上にもつながります。例えば、オンライン手続きが可能になり窓口まで出向く必要がなくなれば、時間を気にせずに行政サービスを活用することが可能です。体調が悪くて出かけられない方や育児・介護で時間に余裕がない方にとって、大変役立つ仕組みといえるでしょう。

その他、住民からの要望をデータ化して全体共有することで、住民目線の取り組みを実施しやすくなり、満足度の向上も期待できます。

地域全体のDX化を促せる

自治体のDX化は、その地域に拠点を持つ企業や地元住民にも大きく影響します。

例えば、公共サービスがデジタル化することで年代を問わずデジタル技術を使用する機会が増え、操作に苦手意識を持つ方にも自然と浸透させることが可能です。また、自治体のDX化をきっかけに、これまでデジタル化に踏み切れなかった中小企業や農林漁業などでもDXを検討するケースが増えるでしょう。

このように自治体が先頭に立ってDX化に取り組むことで、民間企業や住民もデジタル技術を受け入れやすくなり、地域全体のDX化が実現可能です。

なお、サービスの向上や住民の満足度向上、地域全体のDX化促進は、自治体DXの目的である「住民の利便性向上」に該当します。

自治体におけるDX推進の6つの課題

自治体におけるDX推進の6つの課題

早急な対応が求められる自治体のDX化ですが、思うように進まないケースが散見されます。自治体DXが進まない要因として挙げられるのが以下の6つです。それぞれの課題について解説します。

DX人材の不足

DX推進に向けたビジョンや目的を管理職が理解しておくことは重要ですが、実際に現場で対応する人材が不足していてはスムーズに実行できません。デジタルに関する知識やスキルがあり、経験値の高い人材が不可欠です。

しかし、どの業界においてもデジタル技術に長けた人材が不足している状況にあります。内閣官房が2022年12月23日に閣議決定した「デジタル田園都市国家構想総合戦略」では、デジタル社会を推進するために必要な人材を330万人と推計しています。しかし、2022年時点における情報処理・通信技術者の数は100万人です。こうした現状を受けて、2024年度末までに年間45万人のデジタル人材を育成する体制を構築し、2026年度末までには2022年との差分である230万人の育成を政府全体で実現するという目標を掲げています。

リスキリングを通して既存の職員に知識やスキルを習得してもらう手段もありますが、自治体によっては専門知識を教える環境が整っていないことが考えられます。また、すでにデジタルに長けた人材を雇用していながら、そのポテンシャルを雇用側が活用しきれていないケースも少なくありません。現場を担う人材のスキルを把握し、適したポジションに再配置することでDXを推進しやすくなります。

根深いアナログ文化

自治体では紙媒体を用いた手続きを行うケースが一般的でした。こうしたアナログ文化は、企業よりも自治体の方が根深い傾向にあります。

企業がデジタル化やペーパレス化に向けて取り組む中、現在も書面や押印がベースとなっている自治体は多いです。加えて、自治体の職員だけでなく、行政サービスを活用する住民にもアナログ文化が定着している点も、自治体DXの推進を阻む課題といえます。

セキュリティ対策の基盤づくりの難しさ

アナログ文化が定着している自治体では、ITリテラシーに長けた人材が少ない点も課題です。ITリテラシーとはネットワークやセキュリティに関連する技術や知識を指し、DX化を推進する上で必要になります。

特に多くの個人情報を取り扱う自治体では、徹底したセキュリティ対策が求められます。しかし、IT人材が確保されていない状態でセキュリティ対策の基盤をつくるのは困難です。また、必要なセキュリティを満たすシステムが備わっていない点も課題といえます。

2025年の崖

経済産業省が2018年9月7日に発表した「DXレポート~IT システム『2025年の崖』の克服とDX の本格的な展開~」において、複雑化・ブラックボックス化した既存システムを使用し続けることでDX化が進まないと、2025年以降、最大12兆円の経済損失が発生すると予測されています。

いわゆる「2025年の崖」問題であり、2022年7月に同じく経済産業省から発表された「DXレポート2.2」によると、DX化の取り組みを進める企業は着実に増えているものの、実際に成果が出ている企業は少ないことが分かりました。

自治体におけるDX化はさらに遅れており、このまま進めば古い仕組みで構築されたレガシーシステムが残存する可能性は高いでしょう。その結果、保守運用に関するコストやセキュリティリスクの増加が懸念されます。これらの課題を解決するためにも、早急な取り組みが必要です。

デジタル技術の活用に関する年代格差

株式会社ProgateとMMD研究所が共同で行った「企業のDXおよびデジタル課題に関する実態調査」では、「社内のデジタルスキルに格差がある」と感じた人の割合は全体で29.3%、大企業では33.1%という結果が出ています。

また、社員教育を担当している社員または経営者、役員に対して行った調査では、「若手社員とミドル・ベテラン社員間にデジタルスキルの格差が大きい」と感じた人の割合が29.8%、「ミドル・ベテラン社員の習得意識が低い」と答えた人の割合は26.1%でした。

デジタル技術の活用に関する年代格差は、自治体においても課題となっています。また、職員だけでなくサービスを活用する住民の年代格差も、DX化が進まない課題の一つです。

財政状況

2020年11月24日に総務省が発表した「デジタル専門人材の確保に係るアンケート」では、DX推進の課題として財源の確保を挙げる自治体が多く見られました。

DX化を進めるには既存システムを見直さなければならず、それに伴う予算が必要です。自治体の規模が大きくなれば、その分予算も膨れ上がります。しかし、自治体の財政状況を左右する税金は住民や企業から徴収したものであり、少子高齢化が進む中で十分な予算をDXの推進にあてることは容易ではありません。

自治体DXを推進するポイント

自治体DXをスムーズに進める上で押さえておきたいポイントは以下の4つです。それぞれのポイントについて詳しく解説します。

組織全体でのDXに向けた体制構築

自治体がDX化を進めるには、組織全体の体制を見直す必要があります。部署ごとにDX化を進めても手続き方法が統一されないため、部署間での連携が取りづらく業務効率化が進みません。また、DX化の重要性を把握していない職員がいれば、トラブルが生じる可能性もあるでしょう。

自治体におけるDX化は、業務効率化はもちろん住民に対する最適な行政サービスを提供する上でも重要な取り組みです。職員の意識が統一されていない状態では、良質な行政サービスの提供はできません。組織全体で一丸となってDX化に取り組み、共通認を持って進められる体制を構築することが重要です。

長期的な計画の策定

アナログ文化が定着している自治体では根本的な意識改革が必要であり、DX化の効果が出るまでに時間を要します。職員全体がDX化を理解し、住民の利便性向上につなげるには数年かかることもあるでしょう。

短期的な計画だけでは思うような効果が感じられず、DX化に疑問を持つ職員が出てくる可能性もあります。職員が一丸となってDX化を推進していくには、長期的な計画を策定して組織全体で共有することが大切です。

DX人材の採用・育成

DX化にはデジタル技術や知識、ITリテラシーに長けたDX人材が不可欠です。しかし、アナログな手続きが主流だった自治体では、DX化を牽引できる人材が少ないケースが多いでしょう。

あらたに人材を採用する方法もありますが、労働人口が減少する中でどの業界においてもDX人材の確保は困難です。新規採用が難しい場合は、既存の職員があらたに技術や知識を習得するリスキリングの環境を整える必要があります。

アウトソーシングの活用

普段の業務に加えて、DX化に向けた体制構築や長期計画の策定、人材確保などをすべて対応することは難しいでしょう。特にDX人材の不足は深刻な状況であり、既存の職員を育成するとしてもコストや時間がかかります。

迅速に自治体DXを進める上で役立つのが、アウトソーシングです。アウトソーシングを活用すれば、DX人材の確保が容易にできます。また、データ活用に長けた外部企業に依頼すれば、多様化する住民のニーズに対して円滑に対応することも可能です。既存の職員はDX推進に向けた取り組みに追われることなく、本来の業務に注力できます。

自治体DXの取り組み事例

自治体DXを円滑に進める上で役立つ取り組み事例を3つご紹介します。

福島県西会津町

福島県西会津町では、DX化を推進するために最高デジタル責任者(CDO)を据え、デジタル戦略室を設けました。さらに、複業人材や地域おこし協力隊などの外部のノウハウを取り入れて、DX推進に向けた体制を整備しています。

また、DX化に対して協力体制が整った職員や事業から少しずつ改革を進め、成功事例を積み重ねることに重点を置いている点も特徴です。

参照:総務省|⾃治体DX推進参考事例集【1.体制整備】

兵庫県神戸市

兵庫県神戸市では、2022年度からDX推進として全庁的なDX人材の育成を進めています。現場でデジタルツールを活用する係長級以下の職員とその他管理者に対し、それぞれに見合った人材育成研修を実施している点が特徴です。目的や求められる専門性・レベルに応じた研修を実施することで、より効率的にDX化を進めています。

また、2023年度以降の研修メニューは、すでに受講した職員からのフィードバッグを踏まえて構築していくことで育成精度の向上を図っています。

参照:総務省|⾃治体DX推進参考事例集【2.⼈材確保・育成】

アウトソーシングにより行政手続きの一元管理に成功した事例

ある官公庁は、ICT(情報通信技術)を活用した行政サービスの向上を目指していましたが、区役所ごとの運営だったことから思うように効率が上がらない点が課題でした。

そこで、パーソルテンプスタッフのサポートにより、各区役所が行っていた行政手続きを集約しました。また、スタッフの採用や教育、研修もパーソルテンプスタッフが一括対応したことにより、職員が市民のサービス向上に注力できる体制を確立しています。窓口の待ち時間も減らせ、住民の満足度向上にもつながりました。

さらに、人材とテクノロジーを最適活用するための業務フローを設計する、オペレーションデザインチームをアウトソーシングチーム内に配置し、より適切なICT化を実現しています。

官公庁の事例については、こちらの記事で詳しくご説明しています。
>>官公庁様の事例1|業務委託・アウトソーシング(BPO)ならパーソルテンプスタッフ

自治体のDX推進でお悩みの際はパーソルテンプスタッフへご相談ください

自治体のDX推進は、職員の業務効率化や住民の利便性向上を図る上で欠かせません。また、「2025年の崖」を回避するためにも、早急な取り組みが求められます。

しかし、古い体制が根強く残る自治体において、あらたなシステムや体制を構築することは簡単ではありません。労働人口が減少する中でDX人材を確保しづらい上に、厳しい財政状況において予算を捻出することは難しいでしょう。こうした課題に悩んでいる場合は、アウトソーシングの活用が適しています。

パーソルテンプスタッフでは、官庁・地方公共団体においてデジタル化を通して業務の効率化を図る支援をメインに行っています。例えば窓口業務や書類手続き、データ入力などのデジタル化によって職員の負担を軽減させることで、リソースを有効にご活用いただけます。国民健康保険関連業務、介護保険関連業務など幅広い業務改善に対応しており、お客さまの状況に合わせたご提案が可能です。

自治体のDX推進でお悩みの際は、ぜひパーソルテンプスタッフへご相談ください。

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