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派遣スタッフの教育訓練とは?目的と実施する際の留意点も含めて解説

公開日:2023.07.19

法律

2020年4月の派遣法改正に伴い、派遣先企業による教育訓練が義務化されました。しかし、どのように教育訓練を行えばよいのかわからない企業も多いのではないでしょうか?本記事では、派遣法の概要や教育訓練の種類、実施する手順や注意点などについて解説します。

派遣スタッフの教育訓練とは

派遣スタッフを受け入れる側である派遣先企業は、派遣スタッフへ業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練を実施する義務があります。

派遣法改正による派遣スタッフの教育訓練義務化について

厚生労働省は、適切なワークルールの確立のため、時代の要請である待遇改善や派遣先責任の強化が重要な課題であるとして、労働者派遣法の改正をたびたび実施しています。改正により、派遣スタッフの教育訓練に関する内容も変化しています。

  • 2015年9月の労働者派遣法改正

2015年9月の派遣法改正により、人材派遣会社が派遣スタッフに教育訓練を受けさせることが義務化されました。また、派遣先企業に対しては、教育訓練の実施に対する配慮義務が課せられました。人材派遣会社から依頼があった場合、派遣先企業は派遣スタッフが教育訓練を受けられるように可能な限り協力をすることが定められました。

  • 2020年4月の労働者派遣法改正

2017年に厚生労働省が実施した「平成29年派遣労働者実態調査の概況」で、4割の派遣先企業が教育訓練を実施していないことが明らかとなりました。その状況を受け、派遣先企業にとってそれまで「配慮義務」だった教育訓練が2020年4月以降は「義務」になったのです。

派遣スタッフの教育訓練を行う目的

派遣スタッフの教育訓練を行う目的として、以下の2つがあります。

  • 派遣スタッフのスキル向上・キャリア形成
  • 同一企業内における不合理な待遇差の解消

それぞれについて解説します。

派遣スタッフのスキル向上・キャリア形成

2020年4月の派遣法改正の目的は、派遣スタッフのより一層の雇用の安定、キャリアアップを図ることです。

教育訓練を派遣先企業の義務とすることで、派遣スタッフにも自社の社員と同様に学ぶ機会が与えられるようになりました。教育訓練の義務化には、派遣スタッフがキャリアアップのための能力向上を目指せるようにする狙いがあります。

同一企業内における不合理な待遇差の解消

2020年の派遣法改正により、派遣先企業は自社の社員と派遣スタッフの待遇差を解消することが義務付けられました。給与や福利厚生などさまざまな待遇面の見直しが検討され、その中には教育訓練も含まれます。

これまでは派遣先企業にとって配慮義務だった派遣スタッフへの教育訓練が、2020年4月以降は義務となりました。キャリア形成がしにくい傾向にあった派遣スタッフに、社員と同程度で学ぶ機会を与えることも法改正の目的の一つです。

派遣先が行うべき教育訓練

派遣先が派遣スタッフに行うべき教育訓練として、以下の2つの種類があります。

  • 業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練
  • キャリアアップのための教育訓練

それぞれについて解説します。

業務の遂行に必要な能力を付与するための教育訓練

労働者派遣法第40条第2項により、派遣先企業は「派遣元の求めに応じて、派遣先企業の労働者と同様の訓練を実施する」ことが義務として課せられています。

派遣スタッフへの教育訓練は、雇用主である人材派遣会社も実施する義務があります。しかし、派遣先企業の業務に密接にかかわる教育訓練は、実際の就業場所である派遣先企業が実施するほうが適しています。そのため、派遣先企業の社員と同じ教育訓練を行うことが義務化されました。

キャリアアップのための教育訓練

厚生労働省の「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の9(3)により、派遣先企業は「派遣元の求めがある場合、派遣労働者が教育訓練を受けられるよう可能な限り協力するほか、必要に応じた教育訓練に係る便宜を図るよう努めなければならない努力義務」が課せられています。

派遣元が講ずべきキャリアアップのための教育訓練

派遣先企業のみならず、派遣元もキャリアアップのための教育訓練を実施する必要があります。
以下が、労働者派遣法において定められている、派遣元が実施すべきキャリアップを目的とする教育訓練の要件です。

  • 雇用するすべての派遣スタッフが対象
  • 実施する教育訓練が、派遣スタッフのキャリアアップに資する内容であること
  • 派遣スタッフとして雇用する際に必要な教育訓練(入社時の教育訓練)が含まれている
  • 無期雇用の派遣スタッフへの教育訓練は、長期的なキャリア形成を念頭に置いた内容であること

また、キャリアアップのための教育訓練の時期・頻度・時間数等として、以下の定めがあります。

  • 入社して3年間は毎年1回以上
  • フルタイムで週40時間勤務する場合、毎年8時間以上

時短勤務の場合は、最低でも上記に比例する教育訓練の時間を設けなければなりません。例えば、週20時間勤務の派遣スタッフには、毎年4時間以上の教育訓練をする義務があります。

キャリアアップのための教育訓練は、「キャリアアップに資する内容であること」が要件になっています。「キャリアアップに資する」とは、例えば以下のようなことを指します。

  • 派遣スタッフの賃金などの処遇が上がること
  • 派遣スタッフから社員として雇用されること
  • 職務を遂行するにあたっての技術的レベルを上げること

教育訓練の主な形式

教育訓練の主な形式として、以下の3つがあります。

  • 集合研修
  • OJT
  • eラーニング

それぞれについて解説します。

集合研修

複数の派遣スタッフを一ヶ所に集めて、講師が講義をする方法です。最近では、オンラインで集合研修を行うケースも増えてきています。まとまった人数の派遣スタッフを一度に教育し、質疑応答で素早く疑問を解決できることや、受講者の理解度、学習状況を講師が把握しやすいというメリットもあります。

一方で、派遣先企業で講義を行う際には教材などの配布物を作る必要があるため、外部に委託する場合は高いコストが発生することや、状況に応じて会場の手配を行うなど、それぞれの受講者に合わせた教育がしにくいという面もあります。また、派遣スタッフにとっては、研修日程に合わせたスケジュール調整が必要となることにも留意が必要です。

OJT

OJTは「On-the-Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)」の略で、実務の中で能力を身につける訓練です。業務中に行われる教育なので、派遣スタッフに業務の指示を出す派遣先企業の社員が指導にあたります。

OJTでは、業務を通じた方法なので実践的な技能が習得でき、教育がそのまま仕事に反映されるというメリットがあります。またOJT担当者とのコミュニケーション活性化が期待できることも、メリットと言えるでしょう。

一方で、指導にあたるOJT担当者が忙しい場合は教育が後回しになったり、計画的な実施が難しくなるという面もあります。

派遣スタッフの立場からすると、業務中ということで質問を遠慮してしまい、理解しきれないまま指導が進んでしまうケースが起こりがちです。OJTを実施する場合は、質問時間なども考慮し、計画的に進める必要があります。

eラーニング

eラーニングとは、インターネットを介して教育するオンライン学習です。受講者はパソコンやタブレットなどを用いてテキストや動画などの学習コンテンツを視聴し、知識やスキルを身に付けます。

学習コンテンツを作成すると繰り返し活用することが可能です。また、学習の記録を残せるので受講者の進捗状況を把握でき、派遣スタッフにとっては、時間や場所を選ばず学習できるというメリットがあります。

しかし、IT(端末の操作)に不慣れな人にはサポートが必要です。また、一方通行な教育形態なので、受講者に疑問が生まれた場合に解決しづらいという面もあります。実技を伴う学習には不向きという点も留意することが必要です。

メリット 留意点
集合研修
  • 大勢の受講者を、一度にまとめて教育できる
  • 受講者の疑問を素早く解決できる
  • 受講者の理解度や学習状況を把握しやすい
  • 教材を作る必要がある
  • 外部に委託する場合、高いコストが発生する
  • 会場の手配が必要な場合がある
  • それぞれの受講者に合わせた教育がしづらい
  • 受講者はスケジュール調整が必要
OJT
  • 実践的な技能が習得できる
  • 教育がそのまま仕事に反映される
  • コストが発生しない
  • 社員と派遣スタッフのコミュニケーションが活性化する
  • 教育が後回しになる可能性がある
  • 計画的な教育が難しい
  • 受講者が質問しにくいケースがある
  • 理解していない状態で指導が進む可能性がある
eラーニング
  • 学習コンテンツを作成してしまえば、コストを抑えられる
  • 受講者の進捗状況が把握しやすい
  • 時間や場所を選ばず学習できる
  • 端末の操作に不慣れな人はサポートが必要
  • 受講者の疑問が解決しづらい
  • 実技を伴う学習には不向き

教育訓練を実施する際の留意点

教育訓練を実施する際の留意点として、主に以下の2つがあります。

  • 派遣元から教育訓練の求めがあったときは、可能な限り協力する
  • 派遣先管理台帳で派遣元に通知する

それぞれについて解説します。

派遣元から教育訓練の求めがあったときは、可能な限り協力する

厚生労働省の「派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の9(3)において、以下のように定められています。

「派遣先企業は、派遣元事業主が派遣労働者に対し段階的かつ体系的な教育訓練を実施するに当たって、求めがあったときは、派遣元事業主と協議等を行い、当該派遣労働者が当該教育訓練を受けられるよう可能な限り協力するほか、必要に応じた教育訓練に係る便宜を図るよう努めなければならない。」

人材派遣会社が実施する派遣スタッフへの体系的な教育訓練に関して、派遣先企業には、協力や便宜を図る努力義務が課せられています。

また、派遣先が講ずべき措置に関する指針」第2の9(3)では、次のようにも定められています。

「本来、派遣労働者に対しては、雇用主である派遣元事業主が必要な教育訓練を行うべきであるが、派遣先企業の業務に密接に関連した教育訓練については、実際の就業場所である派遣先が実施することが適当であり、また、実施可能な訓練も想定されるところである。(中略)派遣先は、派遣元事業主からの求めに応じて、派遣先企業の労働者と同様の訓練を実施する等必要な措置を講ずる義務を課したものである。」

段階的かつ体系的な教育訓練は、基本的に人材派遣会社が実施しますが、派遣先企業の業務に密接にかかわる教育訓練については、派遣先企業は人材派遣会社からの求めに応じ、派遣スタッフに正社員と同様の教育訓練を行うことが義務化されたのです。

派遣先管理台帳で人材派遣会社に通知する

派遣先企業は教育訓練を実施した際、実施証明として、いつ・どのような教育訓練を行ったかを派遣先管理台帳に記載し、人材派遣会社に報告する必要があります。「〇年△月□日~~の教育訓練を行った」といった、日付と具体的な教育訓練の内容を記載しなければなりません。

派遣先管理台帳とは、派遣先が派遣社員の就業実態を的確に把握するための書類であり、その記載内容の一部を派遣元に通知することで、派遣元の雇用管理に必要な資料となります。派遣先管理台帳の作成・保管は法令によって義務付けられており、これを怠った場合は、30万円以下の罰金が科せられるケースもあります。

派遣先管理台帳について、こちらでさらに詳しく説明しています。
>>派遣先管理台帳とは?記載内容や保管方法をわかりやすく解説

教育訓練を行う目的を理解する

派遣スタッフの教育訓練は、2015年の法改正で人材派遣会社の義務となり、2020年の改正では派遣先企業に対しても「配慮義務」から「義務」へと変わりました。派遣先企業は、業務の遂行に必要な能力を派遣スタッフに付与するための教育訓練を実施する義務があります。

また、派遣スタッフのキャリアアップ教育への協力も求められています。教育訓練を実施することで派遣スタッフの能力は上がり、社内の業務効率がアップすることも期待できるでしょう。労働者派遣法は今後も改正される可能性があるため、人材派遣会社とのコミュニケーションを図り、最新の情報を確認することが大切です。

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