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変形労働時間制とは?概要と種類、企業と労働者にとってのメリット

公開日:2023.12.11

法律

労働基準法では労働時間は1日8時間、1週40時間までと定められており、この基準を超えると時間外労働として割増賃金を支払わなければなりません。

しかし、繁忙期と閑散期がある場合、時期によっては労働時間が1日8時間を超えることもあります。一方で閑散期は、法定労働時間よりも短くなることも想定できます。こういった企業に有効なのが、労働時間を1年単位や1ヶ月単位で調節するはたらき方「変形労働時間制」です。この制度を導入することで労働者の総労働時間の短縮につながることが期待されます。

本記事では、変形労働時間制とは何か、その種類や残業時間の考え方、導入の流れまでを分かりやすく解説します。

変形労働時間制とは

変形労働時間制とは、繁忙期の所定労働時間を長くする代わりに、閑散期の所定労働時間を短くするといったように、業務の繁閑や特殊性に応じて、労使が工夫しながら労働時間の配分等を行い、これによって全体としての労働時間の短縮を図ろうとするものです。

労働基準法では労働時間は1日8時間まで、1週40時間と定められています。しかし、変形労働時間制を取り入れていれば、繁忙期や閑散期に合わせて1日の労働時間を柔軟に設定し、月単位・年単位・週単位で労働時間を設定できます。

例えば、やるべき仕事がたくさんある繁忙期には、労働時間を1日8時間以上に設定することで必要な仕事を対応できるでしょう。逆に、閑散期は早く帰ることで労働時間を短く調整できます。つまりこの制度による結果、「1日8時間」という1日単位で労働時間を決めるのではなく、労働時間を一定期間内で配分することで、繁忙期の時間外労働を調整することが可能となります。

みなし労働時間制(裁量労働制)との違い

みなし労働時間制(裁量労働制)は、労使協定であらかじめ決定した時間分を労働したとみなし、労働時間を算定する制度です。例えば、1日8時間とみなして契約した場合、実際の労働時間に関係なく8時間分の賃金を支払えばよいということです。

よってみなし労働時間制は、進め方などを労働者の裁量に委ねられる、変形労働時間制より自由度の高いはたらき方といえます。ただし、実際は長時間の労働があったとしても時間外労働という考え方がないため、残業代などの賃金は発生しません。

交代勤務制(シフト制)との違い

交代勤務制(シフト制)は、原則24時間にわたって対応している病院やコンビニエンスストアなどで多く利用されています。勤務時間については労働契約に基づき決定され、職場はいくつかのパターン(「早番・中番・遅番」など)を決めておき、出勤可能な日・時間帯を選択します。そして、曜日や複数に分けられた時間帯ごとに労働者が入れ替わり、勤務します。

変形労働時間制は繁忙期や閑散期に合わせ、労働時間の長さを柔軟に細かく調整できる制度です。ただし、労働時間や対象期間などの確定には労使協定を締結しなければなりません。一方のシフト制は、職場側が労働者の希望を踏まえてシフトパターンを作成します。そのため、労働者が任意で始業・終了時刻を決めることはできません。

変形労働時間制の種類と残業について

労働基準法では、変形労働時間制として以下の4種類を定めています。

変形労働時間制は繁忙期や閑散期に合わせて1日の労働時間を柔軟に設定できますが、定められた法定労働時間の上限を超えた場合は時間外労働扱いになります。

1ヶ月単位の変形労働時間制 1年単位の変形労働時間制 1週間単位の非定型的変形労働時間制 フレックスタイム制
休日の付与日数と連続労働日数の制限 週1日または4週4日の休日 週1日(※1) 週1日または4週4日の休日 週1日または4週4日の休日
1日の労働時間の上限 10時間 10時間
1週の労働時間の上限 52時間(※2)
1週平均の労働時間 40時間
(特例44時間)
40時間 40時間 40時間
(特例44時間)
時間・時刻は会社が指示する あり あり あり
出退勤時刻の個人選択制 あり
あらかじめ就業規則などで時間・日を明記 あり あり(※3)
特定の事業・規模のみ あり(労働者数30人未満の小売業・旅館・料理店・飲食店)
  • ※1 対象期間における連続労働日数は6日(特定期間については12日)です。
  • ※2 対象期間が3ヶ月を超える場合は、回数などの制限があります。
  • ※3 1ヶ月以上の期間ごとに区分を設け労働日、労働時間を特定する場合、休日、始・終業時刻に関する考え方、周知方法などの定めを行うこととなります。
  • 引用:徳島労働局|労働時間:変形労働時間制(変形労働時間制)

1ヶ月単位の変形労働時間制

1ヶ月単位の変形労働時間制では、1ヶ月以内の一定の期間で各週の平均が40時間以下となるよう労働日を決定します。平均40時間を超えなければ、1日の労働時間が8時間を超えたり、週の労働時間が40時間を超えたりしても残業とはみなされず、労働日や労働時間を柔軟に分配することが可能です。1ヶ月単位の変形労働時間制では、1日や1週間の労働時間の上限が設けられていません。

また1週間の法定労働時間については、特例的に44時間にすることが認められる場合があります(労働基準法施行規則第25条の2)。つまり、1週間で4時間、1ヶ月で約16時間の残業が発生しないで済むケースがあるという考え方です。

常時10人(パートやアルバイトを含む)未満の労働者を使用しており、病院などの医療系や社会福祉施設など特定の業種に該当する事業場は、週44時間の法定労働時間の特例が適用されます。

注意点として、特例は「1年単位の変形労働時間制」には適用されず、週44時間という前提で労働時間の総枠は計算できないと認識する必要があります。

1年単位の変形労働時間制

1年単位の変形労働時間制とは、1ヶ月から1年までの労働時間を平均して週40時間以内に収まるように調整する制度です。

また、1年単位の変形労働時間制の場合、1日8時間、週40時間を超えて設定することは可能ですが、労働時間の制限が設けられています。1日あたりの労働時間の上限は10時間、1週間あたりの労働時間の上限は52時間とされています。

1週間単位の非定型的変形労働時間制

1週間単位の非定型的変形労働時間制とは、1日の労働時間を10時間以内、1週間の労働時間を40時間以内という条件にし、1週間単位で毎日の労働時間を柔軟に調整できる制度です。

導入できる業種は、労働者が30人未満の小売業や旅館、料理店、飲食店などに限定されます。これらの業種は繁閑差が大きくなります。繁閑のサイクルが決まっていないためその状況に適した労働時間が特定しにくいと考えられるためです。

この状況を改善するために、各日の労働時間を就業規則等に特定せず、上限を超えない範囲に、週単位で毎日の労働時間を効率的に配分できるようにしています。

フレックスタイム制

フレックスタイム制も変形労働時間制の一つです。フレックスタイム制ではたらく期間(最大3ヶ月以内)の総労働時間の上限をあらかじめ定めておき、その中で日々の出退勤時刻や労働時間を労働者が自身の裁量で決めて柔軟にはたらける制度です。

そのため、ある特定の日の労働時間が1日8時間、あるいは週40時間を超えても、必ずしも残業扱いにはなりません。ただし清算期間全体を平均し、1週間あたりの労働時間が40時間(特別措置対象の事業場の場合は44時間)を超えた場合は残業扱いになります。

変形労働時間制のメリット

業務の繁閑に合わせて柔軟に労働時間を調整できる変形労働時間制を導入する企業のメリットは主に以下の2つがあります。それぞれ具体的なメリットを挙げて説明します。

  • はたらきやすさの向上
  • 残業時間の削減

はたらきやすさの向上

変形労働時間制が設定された目的は、多様なはたらき方への対応です。毎日の勤務時間帯が一定の場合、仕事が少ない閑散期も仕事をすることになり、「やることがないのに会社にいなければならない」という状態になってしまいます。

企業のメリットとしては、繁忙期には長くはたらき、閑散期には労働時間を削減するなどメリハリをつけることでリソースが最適化されます。さらにはたらく人のモチベーションや健康状態も高まり、業務の効率化が期待できます。結果的に総労働時間は減少するため、その時間を休暇や自分のための時間に充てられ、ワーク・ライフ・バランスが整うメリットもあります。

労働者のメリットとしては、変形労働時間制を導入すれば仕事の状況に応じてはたらき方を変えることができるでしょう。

残業時間の削減

労働基準法では、労働時間は原則として1日8時間、1週40時間と定められており、これを超えた際は時間外労働として扱われます。その場合、企業は時間外労働時間に対する割増賃金を支払う必要があります。一方、閑期においては仕事が少ない状態でも一定の給与を支払わなくてはなりません。

企業のメリットとして、変形労働時間制を導入すれば一定期間の中で柔軟に労働時間が調整できます。閑散期は労働時間を短く設定し、その分を繁忙期に充てて労働時間を長くすることで、残業代が発生しにくくなります。その結果、企業は人件費や残業代の支出を抑えることができるでしょう。

変形労働時間制の留意点

変形労働時間制は残業時間の削減が可能などメリットもありますが、間違いやすい点や気をつけるべき点もあります。導入する上で注意しておきたいポイントを2つご紹介します。

労働時間の管理が必要

特に注意しておきたいのは、年間の労働時間が法定労働時間をオーバーしていないかという点です。変形労働時間制を導入している場合、労働時間が時期により変動するため、正しい労働時間が把握できず、法定労働時間を超えていることに気付かない場合もあるためです。

また、変形労働時間制を導入していてもオーバーした分には割増賃金を支払う必要がありますが、その分まで規定時間内と考えてしまう企業も少なくありません。そんな状況を避けるためにも、就業規則の確認は重要です。さらに時期によって労働時間が変わるため、勤怠管理、賃金計算などが複雑化する可能性があることも認識しておきましょう。

所定労働時間は繰り越せないため注意が必要

変形労働時間制は、対象期間内の労働時間を一定の範囲内で自由に変形させられる点が魅力です。ただし、残業時間と所定労働時間を相殺することはできません。

例えば、所定労働時間で8時間と定められた期間に1日9時間はたらいたとします。しかし、8時間を超えた分を繰り越して翌日の労働時間を1時間短くしても、平均して8時間はたらいたことにはなりません。日をまたいでの労働時間の調整は不可能です。つまり、8時間を超えて仕事をした日は、労働基準法に則って1時間分の残業代が発生することになります。

変形労働時間制手続きの流れ

変形労働時間制を導入する際は、必要事項を決定した上で所轄の労働基準監督署へ届出が必要です。ここからは、変形労働時間制の届出をするときの流れを手順に沿って解説します。実際に手続きを進めるときは参考にしてください。

対象者と労働時間の選定

まず自社の労働状況を調査し、現状を把握することが大切です。繁忙期と閑散期はどの期間で、所定労働時間はどれくらいが適切かを具体的に把握しておかないと、変形労働時間制の採否の判断や効果的な運用ができないためです。

次に、変形労働時間制の対象となる労働者の範囲や労働時間について具体的に決定します。調査内容と照らし合わせながら、繁忙期に残業が多くなりがちな労働者や労働時間が超過しやすい時期、どのように変形労働時間制を適用すればよいかを検討していきましょう。

就業規則の見直し

変形労働時間制を導入すると、労働時間を柔軟に調整するため、従来の就業規則に合わない場合があります。よって労働時間、休暇、残業などに関する規定を変更し、労働者と企業のニーズを合致させる必要があります。就業規則では、以下のような内容を追記するとよいでしょう。

  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間および起算日
  • 労働日および労働日ごとの労働時間
  • 各労働日の始業・終業時刻
  • 労使協定の有効期限

労使協定の締結

1年単位の変形労働時間制を導入する場合、必要とされるのが労使協定の締結です。

労使協定に定めなければならない項目は以下の通りです。

  • 対象労働者の範囲
  • 対象期間と起算日
  • 特定期間
  • 労働日と労働日ごとの労働時間
  • 当該労使協定の有効期限

1週間単位、1ヶ月単位、1年単位、いずれの変形労働時間制も労使協定条項の要件を満たしていない労働があった場合、労働基準法32条違反として罰則が適用される可能性があります。

労働基準監督署に届出を提出

労使協定を締結したら、速やかに所轄の労働基準監督署に提出します。1ヶ月単位の変形労働時間制を就業規則に定めている場合はその就業規則の提出が必要です。その際は、厚生労働省ホームページよりダウンロードできる「変形労働時間制に関する協定届」が必要です。印刷して提出用と控え用に1部ずつ用意しましょう。

また、添付書類として就業規則や労使協定、勤務カレンダーなども一緒に提出します。なお、労使協定には有効期限があるため、更新する場合はその都度改めて届け出なければなりません。

変形労働時間制は、労使協定の届出をせずに導入をスタートすると労働基準法違反となり、30万円以下の罰金が課せられてしまうため注意しましょう。

変形労働時間制の種類やメリットを理解しておく

変形労働時間制とは、繁忙期や閑散期がある企業において業務の繁閑に合わせて労働時間を柔軟に変更できる制度です。1週間、1ヶ月、1年単位の変形労働時間制、フレックスタイム制があり、4つの中から自社に合った勤務体制を選択できます。

適切に変形労働時間制を活用できれば、企業にとっては残業時間の抑制や社員の総労働時間の短縮が可能です。労働者にとってもメリハリのあるはたらき方が可能になるため、就業満足度の向上やワーク・ライフ・バランスの実現が期待できます。変形労働時間制は従来の労働体系とは異なるため、導入後の管理も煩雑になる傾向があります。法律を遵守し、正しい運用を徹底しましょう。

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