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職業安定法の概要や定められた背景についてわかりやすく解説
公開日:2023.10.24
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職業安定法は、主に労働者募集、職業紹介、労働者供給について定められた法律です。また2022年の改正により、求人に関するルールが追加・厳格化されました。
企業が人材を募集する際にも職業安定法は重要です。違反した場合は罰則を受けることになる厳しい法律です。また、違反により企業の信用・風評を下げてしまうリスクも考えられるため、内容を十分に理解しておく必要があります。
- 職業安定法の概要
- 職業安定法が定められた背景
- 職業安定法改正の内容 など
これらを知ることで、最新の職業安定法の理解がより深まるでしょう。本記事では職業安定法について、わかりやすく解説します。
職業安定法とは
職業安定法とは求人や職業紹介におけるルールに関する法律の一つで、労働者募集、職業紹介、労働力の供給の3つについて定めた内容です。求人や職業紹介を適正に運営するために必要なルールが定められています。
職業安定法の目的は、それぞれの労働者の能力に合った職業に就く機会を提供することによって、職業の安定を図り、経済および社会を発展させていくことです。また、職業安定法第2条によって、公共の福祉に反しない限り、誰でも自由に職業を選択することができると定められています。
職業安定法が定められた背景
江戸時代から戦前までは労働者供給業者(労働ブローカー)による労働者の不当な支配があり、賃金の搾取や劣悪な労働環境も問題となっていました。そこで、人身売買、強制労働、中間搾取などを防ぐために、原則として労働者供給事業を禁止する職業安定法が1947年11月に制定されました。
職業安定法のルール
職業安定法は求人や職業紹介に関してのルールを定めた法律で、主に以下3つの面から成り立っています。
- 職業紹介
- 労働者募集
- 労働者供給
職業安定法を構成するそれぞれのルールについて、解説します。
職業紹介におけるルール
職業安定法における「職業紹介」とは、求人者と求職者との間における雇用関係の成立をあっせんすることをいいます。職業安定法では、職業紹介においてさまざまなルールを設けています。
・有料の職業紹介は、厚生労働大臣の許可が必要
民間の職業紹介には無料と有料の2種類の職業紹介があり、有料職業紹介を行うには厚生労働大臣の許可が必要です。その際に、人材紹介会社は事前に「職業紹介責任者講習会」を受講し、さらに申請書を厚労省に提出することが義務付けられています(職業安定法第30条)。
・求人の申し込みは原則的にすべて受理しなければならない
有料職業紹介を行う場合、人材紹介会社は、以下の場合を除いて、すべての求人の申し込みを受理することが義務付けられています(職業安定法第5条の6)。
- 法令に違反する求人
- 労働条件(賃金、労働時間など)が通常の労働条件と比べて著しく不適当な求人
- 一定の労働関係法令違反の求人者からの求人
- 暴力団員や法人の役員に暴力団員がいる者からの求人
労働者募集におけるルール
労働者を募る際のルールについて、職業安定法第5条の3では以下のように記されています。
公共職業安定所、特定地方公共団体及び職業紹介事業者、労働者の募集を行う者及び募集受託者並びに労働者供給事業者は、それぞれ、職業紹介、労働者の募集又は労働者供給に当たり、求職者、募集に応じて労働者になろうとする者又は供給される労働者に対し、その者が従事すべき業務の内容及び賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない
2018年における職業安定法改正に伴って大きく変更されたのが、労働条件の明示範囲です。改正前と比べて、企業は詳細な労働条件の明示が課せられるようになりました。
労働者供給におけるルール
職業安定法は、人材ビジネスのルールを定めた法律です。そして労働者供給とは、契約に基づき支配下にある労働者を別の企業の雇用下におき指揮命令を受けて労働に従事させることを指します。
※引用:厚生労働省|第1労働者供給事業の意義等
労働者供給を行う会社は、業務運営の改善向上を図るため、以下のような措置を講ずる必要があります。
- 供給される労働者に対し、供給される労働者でなくなる自由を保障しなければならない
- 労働組合法により必要とされている労働組合の規約を定め、これを遵守するなど、民主的な方法により運営しなければならない
- 労働者供給事業は無料で行わなければならない
- 供給される労働者から過度に高額な組合費を徴収してはならない
- 供給される労働者の就業の状況等を踏まえ、労働者供給事業者または労働者供給を受ける者が社会保険および労働保険の適用手続を適切に進めるように管理することが必要
- 職業安定機関、特定地方公共団体などと連携しつつ、供給される労働者からの苦情を迅速、適切に処理するための体制の整備および改善向上に努めることが必要
人材派遣との違い
人材派遣は、人材派遣会社との間に雇用関係のある派遣スタッフが企業に派遣され、派遣先企業の指揮命令のもとではたらきます。派遣スタッフの賃金は人材派遣会社が支払います。人材派遣会社(派遣元)が雇用主としての責任を負い、派遣先企業は業務指示を行う仕組みです。
2022年10月の職業安定法の改正について
2022年10月1日に職業安定法が改正され、規制が強化されました。違反した場合、改善命令や業務停止命令などにつながる可能性があります。
具体的に何が変わり、どこに気を付けるべきかを解説します。
改正の目的
2022年の職業安定法の改正について、厚生労働省による「令和4年職業安定法の改正の概要について」で以下のように記載されています。
求職活動におけるインターネットの利用が拡大する中、就職・転職の主要なツールとなっている求人メディア等の幅広い雇用仲介事業を法的に位置づけ、ハローワーク等との相互の協力の対象に含めるとともに、安心してサービスを利用できる環境とするため、求人メディア等が依拠すべきルールを明確にする
これまで人材紹介・人材派遣事業の運営には国の許認可が必要でした。一方、インターネットを活用した求人・求職活動の拡大に伴い、インターネット上の求人情報を集めて提供するポータルサイトのような、新しい形の職業紹介事業者が登場してきました。
このような状況を受け、「募集情報等提供」の定義を拡大して統一的なルールを定めることで、求職者が安心してサービスを利用できるようにすること、企業と求職者とのマッチング機能の質を向上させることを目的に、職業安定法は改正されました。
改正のポイント
2022年には職業安定法が改訂されました。法改正のポイントをそれぞれ解説します。どのような部分が変わったのか理解しておきましょう。
募集情報等提供事業の定義の拡大
「募集情報等提供事業者」とは、求人・求職の情報を提供する事業者のことです。それまでは、企業からの依頼で求人情報を提供するサービス(求人誌など)や、求職者からの依頼で情報提供(人材データベースなど)を行うサービスを指していました。
2022年の改正によりあらたに、依頼がなくとも求人・求職の情報提供が行われるクローリング型の求人メディアや人材データベースなども「募集情報等提供事業者」に含まれることになりました。これによって、法改正以前より多くの求人・求職サービスが募集情報等提供事業者を対象とした法律の影響を受けると予想されます。
求人情報の的確な表示が義務化
求人企業や募集情報等提供事業者、職業紹介事業者に対して、求人に関する以下の情報(募集情報)についての的確な表示が義務付けられました。
- 求人情報
- 求職者情報
- 求人を行う企業に関する情報
- 自社に関する情報
- 事業の実績に関する情報
厚生労働省による「募集情報等提供事業の運営ルールが変わります」にて、的確な表示を求める対象を、「新聞・雑誌・その他の刊行物に掲載する広告、文書の掲出・頒布、書面、ファックス、 ウェブサイト、電子メール・メッセージアプリ・アプリ等、 放送(テレビ・ラジオ等)、オンデマンド放送等」と発表しています。
また、求人企業や募集情報等提供事業者、職業紹介事業者は、虚偽の表示・誤解を生じさせる表示はしてはなりません。具体的には、以下のような例が挙げられます。
・固定残業代について
固定残業代を採用する場合の表示にも注意が必要です。基礎となる労働時間数等を明示せず、基本給に含めて表示してはなりません。
【記入例】
×【月給】32万円
○【基本給】25万円 【固定残業代】7万円
※時間外労働の有無にかかわらず、15時間分支給。15時間を超える時間外労働分についての割増賃金は追加で支給します。
・給与について
モデル収入例を、必ず支払われる基本給のように表示してはなりません。
【記入例】
×【給与】400万円~ 【モデル給与】1,000万円~
(社内で特に給与が高い労働者の給与をすべての労働者の給与であるかのように例示)
○【給与】400万円~600万円
○【給与】400万円~600万円 【モデル給与】555万円
(同職種社員の給与の平均を例示)
加えて、以下の措置を行うなど求人情報を正確・最新の内容に保たなければなりません。
- 募集を終了・内容変更したら、速やかに求人情報の提供を終了・内容を変更する
- 求人メディア等の募集情報等提供事業者を活用している場合は、募集の終了や内容変更を反映するよう依頼する
- いつの時点の求人情報かを明らかにする
- 求人メディア等の募集情報等提供事業者から、求人情報の訂正・変更を依頼された場合には、 速やかに対応する
個人情報の取り扱いに関するルールの整備
2022年の改正前から、求人企業や職業紹介事業者を対象に個人情報に関する取り決めはすでに定められていました。そして法改正に伴い、募集情報等提供事業者も主に以下の4つの規制を受けることとなりました。
- 業務の目的達成に必要な範囲内で、求職者の個人情報を収集・使用・保管する必要がある
- 求職者の個人情報を収集する際には、業務の目的を具体的に明らかにしなくてはならない
- 業務上知り得た人の秘密を漏らしてはならない
- 個人情報をみだりに第三者に提供してはならない
求職者の個人情報を収集する際には、収集・使用・保管する業務の目的をより具体的に明らかにするよう求められているのです。
特定募集情報等提供事業者の届出制を創設
特定募集情報等提供事業者(労働者になろうとする者に関する情報を収集する募集情報等提供事業者)は、厚生労働省に届出を提出する必要があります(職業安定法43条の2第1項)。
届出が必要な例は、以下の通りです。
- 会員登録を求めている場合
- メールアドレスを集めて配信している場合
- 閲覧履歴に基づく情報提供をしている場合
届出が不要な例は以下の通りです。
- 紙媒体でのみ情報提供している場合
職業安定法で特に気を付けるべき条項
職業安定法では、職業紹介に関してさまざまなルールを定めています。そのなかでも特に、以下の3つが気を付けるべき条項です。
- 労働条件の明記
- 手数料の禁止
- 個人情報の取り扱い
労働条件の明記
企業は労働者を募集する際、書面にて以下を最低限明示する必要があります。求職者が希望すれば、メールによる明示でも構いません。通知のタイミングは、初回の面接など「求職者と最初に接触する時点まで」と定められています。人材紹介会社を通さない場合でも明示は必要です。
- 業務内容
- 賃金
- 契約期間
- 試用期間
- 就業場所
- 就業時間
- 休憩時間
- 休日
- 時間外労働時間
- 健康保険、厚生年金、労災保険及び雇用保険の適用の有無
- 募集者の氏名または名称
- 受動喫煙防止措置の状況
なお、労働条件に変更があった場合は速やかに明示しなくてはなりません。
手数料の禁止
有料の人材紹介会社は、職業紹介に際して、以下の場合を除いて実費その他の手数料又は報酬を受けてはなりません。
- 職業紹介に通常必要となる経費等を勘案して厚生労働省令で定める種類および額の手数料を徴収する場合
- あらかじめ厚生労働大臣に届け出た手数料表(手数料の種類、額その他手数料に関する事項を定めた表)に基づき手数料を徴収する場合
また、有料の人材紹介会社は、求職者から手数料を徴収することを原則的に禁止されています(職業安定法第32条の3)。
個人情報の取り扱い
人材紹介会社は、求職者の個人情報について適正な管理が求められます。業務の目的達成に必要な範囲内で、個人情報を収集・保管・使用しなくてはなりません。下記のような個人情報の収集は原則として認められていません(職業安定法第5条の5)。
- 人種、民族、社会的身分、門地、本籍、出生地その他社会的差別の原因となるおそれのある事項(家族の職業、収入、本人の資産等の情報、容姿やスリーサイズなど)
- 思想及び信条(人生観、生活信条、支持政党、購読新聞・雑誌、愛読書など)
- 労働組合への加入状況(労働運動、学生運動、社会運動に関する情報など)
職業安定法の罰則について
職業安定法の改正に伴い、法律に違反した場合の罰則の範囲は拡大しています。どのような罰則となるか、一覧でご紹介します。
罰則内容 | 罰則事項 |
---|---|
1年以上10年以下の懲役、または20万円以上300万円以下の罰金 |
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1年以下の懲役または100万円以下の罰金 |
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6カ月以下の懲役または30万円以下の罰金 |
|
30万円以下の罰金 |
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職業安定法のルールについて理解する
労働者募集や職業紹介についてのルールを定める職業安定法は、人材を必要とする企業にとって非常にかかわりの深い法律です。
また、職業安定法は労働者保護の観点から2022年に改正され、人材募集に関する規制が強化されました。
人材の募集を行う企業は、職業安定法の内容をよく理解し、ルールを遵守して採用活動を行いましょう。
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