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【ナレッジコラム】
人事の徒労感をゼロにする退職思考 vol.001
採用しても、育てても繰り返す「退職」をどう捉えるか?
公開日:2023.11.09
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著者/企業顧問/退職学®の研究家
佐野 創太 氏
さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
著者/企業顧問(退職人事、コンテンツ戦略、自動生成AI活用メンター)/退職学®の研究家である佐野 創太氏による「退職ありき」の人事戦略について6回連載でお届けします。
採用しても、育てても繰り返す「退職」をどう捉えるか? ー 人事の徒労感をゼロにする思考法 ー
採用や育成の現場に、徒労感が漂っている
「社員って、どうせ退職してしまうんですよ。それなのに採用や育成する意味なんてあるんでしょうか?転職前提で入ってくる社員すらいますよ。穴の空いたバケツで水をすくっている気分です。」
ある上場企業の人事役員のAさんが、キャリア相談にいらした時の言葉です。現場の徒労感は、募るばかりのようです。
皆さんの企業ではいかがでしょうか?
コロナ禍やテレワークの普及によって、「大退職(Great Resignation)が訪れた」なんて言葉も欧米から聞こえてきます。日本を代表する大手企業や団体が「終身雇用は現実的ではない」と認めました。「日本も大退職時代に入る」という考え方には、説得力があります。
でも、本当にそうでしょうか?退職してしまうとわかっていながらも、これからも企業は「しぶしぶ」採用や育成を続けないといけないのでしょうか?
なぜアルムナイや出戻り採用を、大企業も推進し始めているのか
一方で、退職する社員を見送る時に、こんな言葉も聞こえてきます。
「退職後もまた一緒に働こう」
きれい事でも社交辞令でもありません。実際に「退職した部下には、副業として仕事を発注しています」と話す管理職や、「独立した社員の会社のエンジェル投資家になりました」なんて話す経営者もいます。
アルムナイや出戻り採用を推進する企業も増えました。採用の説明会に退職者を呼ぶ企業も話題になりました。どの施策も「退職は逃げだ」「退職は裏切りだ」という価値観からすると、あり得ないことです。
退職の価値観そのものを見直す「退職シフト」は、ベンチャーや中小企業に限らず、大企業にも起きつつあるようです。
いったい退職をどう捉え、採用や育成に活かしているのでしょうか?これまでの「退職は悪」とは、違った考え方をしているようです。
「社員は退職する」が前提の組織づくりがある
私はこういった「社員が退職することを前提」とした採用や育成、組織づくりをしている企業の手法や考え方を、「リザイン・マネジメント(Resign Management)」として体系化しました。導入した企業はこんな効果を話してくれます。
「退職者が採用の候補者をつれてきてくれます」
「現場から“なんでこんな人を採ったんだ”なんて言われなくなりました」
「部下のガス抜きをしなくてよくなり、今は本来のマネジメント業務に集中できています」
「退職を引き止めようとして、疲弊する管理職がいなくなりました」
本連載では、「退職することを前提とした時、採用や育成、組織づくりはどう変わるか」をテーマにお伝えします。基になっている経験は3つです。
一つ目は、これまで「リザイン・マネジメント」を50社以上に導入した経験です。二つ目は、1,200名以上の20〜50代のキャリア相談(有料)を実施したノウハウを発表する著者としての経験です。最後に、新規事業の責任者やマーケティング、自動生成AIの顧問といった現場を知る経験です。
これまでの採用や育成、組織開発には限界を感じていて、突破口を探している経営者の方、人事や管理職の方の参考になれば幸いです。
昭和の若者も、令和の若者も「3年で3割」が会社を辞めている
しかし、「退職前提にシフトするなんて言われても」と思う方もいらっしゃるかもしれません。急に考え方を変えるには痛みを伴います。社内を説得するのも一苦労です。
あらためて考えてみましょう。本当に「ついに大退職時代が来る」のでしょうか?
データを見ると、真逆の事実が浮かび上がります。厚生労働省が発表している「 学歴別就職後3年以内離職率の推移」の最新データ(2023年8月現在)があります。
※引用:厚生労働省 | 「 学歴別就職後3年以内離職率の推移」
一目で明らかです。今も昔も退職者の割合は「だいたい3割」で推移しています。
つまり、「どの時代の大学卒の若者も、3年で3割程度は会社を辞めている」のです。よくある「最近の若者は我慢が足りないから、すぐに会社を辞めるようになった」は正しくないようです。一方で、「大退職時代は来なそう」かといえば、これは正しくありません。正確にいうと「ずっと大退職時代」なのです。
厳しい言葉ですが、ある上場企業の経営者はこう教えてくださいました。
「若者に会社を辞める癖がついているのではない。あなたの会社が、若者が働き続けたいと願う魅力に欠けているだけだ。」
実際にこの経営者の企業は、業界平均の退職率を大きく下回っていました。
もし社内で「最近の若者は昔に比べて根性がないから退職するんだ」なんて言葉が聞こえてきたら、黄色信号です。
余談ですが、「七五三現象」という言葉をご存じでしょうか?中学卒の7割、高校卒の5割、大学卒の3割程度が3年以内に退職することを指します。この傾向も、ずっと変わっていません。
「社員は退職しない前提」だと、採用と育成の現場が疲弊する
「退職前提」や「リザイン・マネジメント」というと、新しい価値観を受け入れるような印象を受けます。しかし、データを見ると「どの時代も若者は会社を辞めている」ことが明らかであり、急に退職前提になったわけではないとわかります。これまでもずっと企業と個人の関係は退職前提です。
現場に広がる「どうせ退職するなら何もしない方がいいのでは…」という徒労感の真因は、ここにあります。
ずっと「退職する前提」のはずなのに、一社で勤め上げることを前提とした採用や育成、組織づくりを進めている。この「退職の認識のズレ」が、採用や育成の現場を疲弊させます。
解決策はシンプルなもので、退職を本来の形に戻すだけです。本来の形とはどのようなものでしょうか?
退職は「暖簾分け」。そう考えると、採用も育成もうまくいく
ご提案です。退職を暖簾分けのイメージに戻すのはいかがでしょうか?
暖簾分けとは、一緒に働いてきた社員が独立する時に、その会社の「のれん(暖簾)=屋号」を使って商売を始めることを認める仕組みです。江戸時代に盛んだったといわれています。暖簾分けに悪いイメージは少ないはずです。どちらかといえば、よいイメージかもしれません。
「退職=善」とまではいかなくとも、「退職とは悪でも裏切りでもない、これまでもこれからもずっとそこにあったもの」とイメージを戻すこと、そして募る徒労感を確かな手応えに変える人事施策への第一歩は、「退職のイメージを本来の形に戻す」ことです。
退職を前提としたら、採用は、育成は、組織づくりはどう変わるのでしょうか?「退職前提で採用と育成を考えたらどうなるだろうか?」と想像しながら、目指している会社の形を具現化していただければ幸いです。
▼バックナンバーはこちら
vol.002:「長引く採用難」を食い止める“退職”の思考法
vol.003:採用広報のネタ切れを食い止める、攻めと守りの「退職広報」とは何か
vol.004:“組織づくりごっこ”をやめる!コーポレート・アルムナイの始め方
vol.005:社員を“子ども扱いしない組織”とは
vol.006:仲良し会社の落とし穴
Profile
著者/企業顧問(退職人事、コンテンツ戦略、自動生成AI活用メンター)/退職学®︎の研究家
佐野 創太 氏
慶應義塾大学・法学部・政治学科を卒業後、株式会社パソナ(現パソナ JOBHUB)に入社。転職エージェントに従事した後に、求人サービスの新規事業責任者として就任。法人・大学営業とマーケティング戦略の立案と実行、グループ会社連携とチームマネジメントを統括する。
介護離職を機に退職学®︎の研究家として2017年に独立し、1200名以上の20〜50代の有料のキャリア相談を実施。働く人の本音をもとに、退職者がファンになって採用を助けてくれる組織になる「リザイン・マネジメント(Resign Management)」を開発し、50社以上に導入。徒労感のある採用や育成を、確かな手応えのある人事施策に変えている。
自動生成AIの社内定着に特化した「活用コンテスト」を推進するAI活用メンターでもあり、「自社にしかない魅力」を抽出したコンテンツに基づくマーケティング顧問でもある。
東洋経済オンラインや日経WOMANなどで執筆、ABEMA Primeに出演。著書に『「会社辞めたい」ループから抜け出そう!』(サンマーク出版) 、『ゼロストレス転職』(PHP研究所)がある。
一児の父であり、共働き夫でありGLAYファン。
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