HRナレッジライン
カテゴリ一覧
【ナレッジインタビュー】
立教大学 田中氏
「これから」のリーダー、人事、CHRO【前編】
公開日:2025.05.28
- 記事をシェアする

立教大学
経営学部 准教授
田中 聡 氏
今回のナレッジインタビューは、HRナレッジセミナー2025 Spring DAY2『これからのリーダー育成を科学する』の講演をいただいた立教大学 田中聡氏のイベント後インタビューを【前編】【後編】の全2回に渡りお届けします。【前編】は時間内にお答えしきれなかった質問や相談、ご意見への回答をお伝えします。
Q:次世代リーダーの選抜・育成の運用の重要性はわかるのですが、大きくない規模の企業では人事体制・経営体制を含め、行うことはかなりタフなので、取捨選択・優先順位付けが必要だと思っています。
「大きくない規模の組織」の前提が、人数なのか、事業の幅なのかにもよるのですが、「人事を担う人数が限られ、いろいろな課題がある中で、経営人材の育成にどれくらいのリソースを割いていけばいいのか」という問いなのであれば、それは現在の経営者の状況によっても異なるでしょう。
たとえば「現在40代の社長が今後20年ほど続投する見込み」という状況であれば、今すぐに次世代のリーダー育成に注力する必要はないかもしれません。それよりもっと他に優先順位が高い課題があるならば、その課題に限られたリソースを投資するべきです。
一方で、経営者がシニアの年代で「DXって何?」「デジタルと言われてもピンとこない」といった感覚の経営者がトップである場合はどうでしょうか。「これからAIを使って新しく経営を考えていかなければ」というテーマを議論できないのも困りますよね。そのような「一気に若返りを図りたい」という状況であれば、必然的に優先順位を上げなければいけないかもしれません。
いずれの場合にも言えるのは、「経営人材の育成」は、他の課題とトレードオフになるような一過性の取り組みではなく、中長期的に企業の持続可能性を支える本質的なテーマであるということです。リソースが限られているからこそ、「このテーマに集中する」と戦略的に意思決定することが求められます。
Q:次世代育成以前の課題として、そもそも「リーダーとはどのような人材か」という定義が社内でなされていない、されていても共通認識になっていないということが、多いのではないでしょうか。

マネージャーについては、会社として“あえて”定義を曖昧にしているという側面もあると思います。というのも、基本的にマネジメントの役割には、組織の“こぼれ玉”を拾うというものがあるからです。そのため、あえて定義を曖昧にし、「担当組織の成果を最大化するために何でもやることが役割だ」と位置づけるケースもあるように思います。
経営リーダーに関しては、その人材要件はどの会社もあると思います。例えば執行役員に求められる、能力、スキル、マインドセットなど。取締役であればこの水準、事業本部長レベルであればこの水準というものがあるので、明文化されていないということはないのですが、それが“活きていない”ということだと思うんですよ。
一応、会社には委託したコンサルティングファームがつくったそれっぽいチャートはあるのだけれども、実際の運用では、結局、実績と主観的な評価だけで判断され、せっかくの要件定義が全く活用されていないというケースが散見されます。ですので、要件定義だけでなく、その運用についても問題が多くあると思います。
Q:外部団体からの天下り役員がトップになる(内部社員も役員になれるものの、裁量が限られます)当社なのですが、社員の経営に関する意識・モチベーションを上げるにはどのようにすればよいと思いますか。
いくらメンバーに「将来、経営トップになる自覚をもって頑張って欲しい」と言っても「ずっとうちの会社って親会社から天下ってきている」とか「関係会社からの出向で経営のポストって埋まるよね」と思えばそこにメンバーの健全な期待感は生まれませんよね。ですから、社員に経営者志向を求めるなら、まずは天下り役員がトップになるという慣行そのものを変える必要があると思います。
ただ、天下り人事は親会社あるいはその出向元の企業との関係性をキープできるという意味で、経営的に意味がある仕組みでもあるわけです。単純に「本社で役職定年を迎えて行き場がないから子会社でよろしく」という時代ではなくて、今行われている天下りというものには、一定双方にWin-Winの意味があってやっていることだと思うので、そうした仕組みに対して、仮に変革を試みるのであれば、生え抜きや若手を登用する意義を明確に語り、納得感のある形で示していく必要があるでしょう。
Q:「リーダー」という言葉にアレルギーがある社員が多いように感じています。「管理職になりたくない問題」もありますが、大学の学生さんも「リーダー」にアレルギーはありますか。まず最初の一歩に踏み出すにはどうしたらよいでしょうか。
重要なことは、リーダーになることではなく、「リーダーシップを発揮すること」です。うちの学部(立教大学 経営学部)では、リーダーシップ教育に力を入れています。ここでいうリーダーシップとは、「チームの成果を出すために他者に及ぼす影響力」のことであり、必ずしもリーダーだけが発揮するものではありません。公式の組織の長だけが発揮するものではなくて、「チームに属する全員が発揮するべきもの」という認識を大学1年生の一番最初に伝えます。
例えば、グループワークで全体の議論が停滞しているときに、「一度、意見を整理してみませんか?」と声をかけて場を動かすことは立派なリーダーシップです。あるいは、発言が少ないメンバーに「〇〇さんはどう思う?」と問いかけることで、チーム全体の活性化を促すような行動もそうです。積極的に発言する学生の意見に賛同の意思を示して従うこともリーダーシップです。このように、役職や肩書きがなくても、チームの成果に貢献する行動のすべてが、リーダーシップなのです。そのような当事者意識を皆が持って、チームに属し、チームの目標を達成していこう、という考え方を学部では伝えています。
講演の中で「経営と一緒に次世代の経営を育成する視点を持つ役割をCHROは持っている。また、客観的に今の経営陣のことも見ることのできるCHROが必要。現経営陣の特性や能力などを客観的に見て言える人ではないといけない」仰っていました。「CHROに就く人は、CEOと同じかそれ以上の視点で会社の未来のことを考えていないといけない。“誰を着任するか”までが自分の仕事だと思っている人には、なかなか務まらないと思う。“その人が実際に着任してから”が、本当の意味で、経営の次のバトンが始まっていくだから」と話されていたことが、印象に残りました。
とても大きな役割を担っている人事のこれからについて、【後編】に続きます。
\田中氏登壇のアーカイブ動画無料公開中!/

【HRナレッジセミナー2025 Spring】
これからのリーダー育成を科学する
\田中氏登壇のセミナーレポートはこちら/

【HRナレッジセミナー2025 Spring】
これからのリーダー育成を科学する
Profile

立教大学
経営学部 准教授
田中 聡 氏
東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(学際情報学)。大学卒業後、パーソル・グループに入社。株式会社パーソル総合研究所を立ち上げ、同社リサーチ室長・主任研究員を務めた後、2018年より現職。専門は人的資源管理論。研究テーマは人とチームの学習。主な書籍に、『シン人事の大研究』(ダイヤモンド社)、『経営人材育成論』(東京大学出版会)、『チームワーキング』(JMAM)、『事業を創る人の大研究』(クロスメディアパブリッシング)など。
- 記事をシェアする