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【ナレッジインタビュー】
早稲田大学 武藤氏
企業が求める主体性とは何か
公開日:2025.06.12
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早稲田大学 大学総合研究センター
次席研究員(研究院講師)
武藤 浩子 氏
今回のナレッジインタビューは、HRナレッジセミナー2025 Spring DAY3『企業はどのような主体性を求めてきたのか ー変化と認識ギャップの考察と課題ー』の講演をいただいた早稲田大学 武藤浩子氏のイベント後インタビューです。講演を踏まえて企業現場で使われる主体性について、お話を伺いました。
― 本日は主体性に関するご講演をありがとうございました。主体性を示す図が本当に分かりやすいなと思いました。

この図は、「自分なりに考える」「発信する」だけでなく、「仕事に関して協働する」ことがいかに大切かということを端的に示しています。きっと企業の方々の実感にも近いだろうと思っています。
― 「今の若手は」みたいなことばかりを言ってしまいそうですが、その主体性発揮の一部に自分も周りも関わっている。そうなっている原因や理由の一つに自分がいるのだなと思いながら今日のお話をお聞きしていました。発揮できるよう、一緒に考えたり、分かり合っていく過程を踏まないといけないですね。
「今の若手は」と思ったときには、「自分が若手のときはどうだったかな」と思い出すといいですね。自分も若手のときは意外とできていなかったことを忘れていますから。
また、若手に対して「主体性がある」or「主体性がない」と判断しがちですけど、主体性発揮の一部に自分も関わっていると思うと、他人事にはできませんよね。このように他人事にしないことで、人と人との関係も少しずつ変わってくるのだろうと思っています。
― 質疑の時間には、たくさんのご質問をいただきましたが、先生が「このように捉えているのか」と思ったご質問やご意見はありましたか。
「男性と女性に主体性に違いはないと思っているが、主体性の伝わり方は少し違うような気がしています」というご質問がありましたよね。インタビュー調査では、男女の差を感じなかったので、どのようなことだろうと少し戸惑いました。
― 主体的だと感じる行動や発言が、男性と女性では違うような気がする。同じ行動を見ても、受け取り側として主体性についての感じ方が男性と女性では少し違うのではないかという意味だと思います。

「主体性の伝わり方が少し違う」とおっしゃっていたので、なにか男女差を感じる経験をされていたのかもしれませんね。この研究のインタビュー対象者には、女性の管理職も少なくなかったのですが、男女の違いは感じなかったんですよね。管理職として言っていることも変わらなかったですし。ジェンダーという視点では全然見ていなかったので、そういう捉え方や見方も、興味深いですね。
― 「若手だけではなく、40代などミドル層が“分かっているのに主体性を発揮できないし、していない”」というようなケースを仰っている方もいましたね。
たぶん、「仕事」が「おもしろさ」につながっていないという問題があると思うんです。「おもしろさ」をどう見つけるのかは、個人の問題でもあるのですが・・・私はいくつであっても「おもしろさ」は発見できると思っています。
― 会社である以上は、結果、業績を出してもらわなければいけないですし、それぞれの個人のおもしろさと、どうつなげるか、つなげてあげるかという部分も、上司に求められるかもしれないですね。
そうですね。もし、主体性に関する研修をするのであれば、上司か部下かのどちらかではなく、双方に行ったほうがよいと思います。今日の講演ではあまり具体的な話までできなかったのですが、主体的にやらないと仕事はおもしろくないし、主体的にやるから結果がついてくるんですね。
例えば、「5,000万円の売上」が目標であれば、少し語弊はありますが、とにかく売上をあげればいいわけです。それを達成する方法については、一定、任されていることが多いと思います。そうであれば、仕事を自分が「おもしろい」と思う方向にもっていく、このようなやり方を肯定することも大切だと思います。
「これまで通りにやらなければいけない」とか、「やっぱり先輩がやっているようにやらなければ」ではなくて、「自分のやり方でやっていい」ということを共通認識にすることは重要だと思いますね。
― 主体性をテーマにした研修は、新入社員や若手だけでなく、管理職研修にも取り入れた方がいいのですね。管理職も、きっと気付かずに「自分の考える主体性」を前提とした発言や発信をしてしまうでしょうし、本日のテーマのような研修があったらいいですね。

人って、自分がおもしろいと思うことは、他の人にとってもおもしろいものだと思いがちなんです。インタビュー調査のときにも「“これはおもしろいだろう”って、部下に言うのだけれど、響かない」と話をされていた管理職の方がいて。
インタビューをしていたときは、私もその管理職と同じ視点に立っていたのですが、よく考えてみたら、「人によっておもしろいと思うことは違うな」と(笑)。
少し話を広げると、多くの人が「よかれと思ってやっている」ことも問題をはらんでいると思っています。
ある人がよかれと思ってやったことが、他の人にはうまく伝わらず、悪くすると逆につぶしかねない。そういうことが多々起こっているように思います。
主体性にとどまらず、自分の価値観とか、自分の成功体験に基づいて判断することには、限界があるともいえるでしょう。
そのため、自分と人とは「違う」ということを意識することも大切だと思います。
― 「違う」ということでは、最初に戻ると、まずは「学生」と「社会人」の思う「主体性」のギャップをどう埋めるかですね。
そうなんです。学生を受け入れる企業が、前出の主体性の図を使うなどして、「企業が求める主体性とはこういうことなんだよ」ときちんと伝えることから始めてもいいのではないでしょうか。
― 最後に、企業の人や組織にも関連することで、今されている、また今後されてみたい研究などがありましたら、教えてください。
企業に入る前の学生が、「主体性」をどのように認識しているのか分析したいですね。また、企業の人的資本の情報開示の分析にも興味を持っています。このような研究で得られた知見を企業や社会に還元することで、何らかの貢献ができればと思っています。
「主体性とは一体何なのか」。先生の著書のはじまりでもあるこの問いから、さまざまな調査や分析がされたお話を講演と共にしていただきました。相手の主体性発揮の一部に自分や周りが関わっていることや、主体性の意味において、「自分なりに考える」「発信する」だけでなく、「仕事に関して協働する」ことがいかに大切かというところは、考えさせられた方も多かったのではないでしょうか。
普段何気なく使っている言葉の意味を問い直してみる、考え直してみる、共有しあうことも、とても大切なことですね。
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【HRナレッジセミナー2025 Spring】
企業はどのような主体性を求めてきたのか ー変化と認識ギャップの考察と課題ー
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【HRナレッジセミナー2025 Spring】
企業はどのような主体性を求めてきたのか ー変化と認識ギャップの考察と課題ー
Profile

早稲田大学 大学総合研究センター
次席研究員(研究院講師)
武藤 浩子 氏
教育IT企業などで勤務し、管理職としても勤めたのちに、早稲田大学大学院に進学。
早稲田大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。博士(教育学)。
大学院では、「主体性」をテーマに調査・研究を行い、2023年に『企業が求める〈主体性〉とは何か』を出版。同書は「HRアワード2024」書籍部門入賞。
【著書・論文】
『企業が求める〈主体性〉とは何か-教育と労働をつなぐ〈主体性〉言説の分析』(東信堂、2023)、『〈学ぶ学生〉の実像』(共著、勁草書房、2024)、「企業は誰にどのような主体性を求めてきたのか-人的資本経営への提言」(『日本労働研究雑誌』No.774、2025)など。
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