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【ナレッジコラム】
地域の未来をひらくローカル人事論 vol.002
地域企業の人事採用のリアル

公開日:2024.10.01

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【ナレッジコラム】 地域の未来をひらくローカル人事論 vol.002 地域企業の人事採用のリアル

Inquiry合同会社 代表社員CEO
ラーニングデザイナー
山本 一輝 氏

HRエキスパートのナレッジをお伝えする『ナレッジコラム』。Inquiry合同会社 代表社員CEO、ラーニングデザイナーの山本 一輝 氏による「地域の未来をひらくローカル人事論」。地域密着で事業をされる地域企業の人と組織に関わる皆さまだけでなく、郊外拠点や中小業などにも参考にしていただけるコラムです。
第2回は地域企業の人事採用のリアルと応募者に選ばれるために今からできることをお伝えします。

▼バックナンバーはこちら
vol.001:選ばれる地域企業がやっていること
vol.003:地域企業の人材育成戦略

地域企業の人事採用のリアル ー 応募者に選ばれるために今からできること ー

第2回は地域企業の人事担当者のリアルと選ばれる地域企業ができるアクションについて、私が見てきた地域企業の人事の実態と課題、その問題をどのように打破していくかを事例も交えてお話します。

普遍的な悩みである人事採用だが…

多くの企業の主要課題が人材を挙げており、とりわけ人材確保に悩まされる企業が多いということは前回触れた通りです。

企業活動の生命線となる採用活動。大手企業では本社に専属の採用チームを有していることがほとんどです。創業間もないベンチャー企業でも、成長拡大に不可欠なカルチャーフィットする人材を採用するために採用広報の担当者を配置し、担当者が実名でSNSを利用し、情報発信も兼ねて採用活動に利用している姿を見かけます。

規模や創業年数に関わらず重要な採用活動ですが、地域企業はどのように取り組んでいるのでしょうか。

経済産業省が2019年に行った地域経済の中心的な担い手として認定した事業者「地域未来牽引企業」を対象にした調査では、1,199社のうち38.6%が専任の「人事担当者・採用担当者がいない」と回答しています。

※出典 | 経済産業省「令和元年度 大企業人材等の地方活躍推進事業(地域の中核企業による人材確保手法等の調査分析)」より作成

続いて2022年に行われた調査を見てみたいと思います。全国2,000社の企業を対象に行ったアンケートで、経営者が代表就任前に経験した部門について尋ねています。

※引用 | 中小企業庁「中⼩企業の経営⼒及び組織に関する調査研究」より作成

結果を見ると多くの経営者が営業や製造部門などを経験後に代表になっています。人事採用担当が含まれているであろう総務経理部門の出身者は10%程度と少ないことが分かります。つまり、経営者も人事担当者としての実務経験、ノウハウを持っていない可能性が高いことが読み取れます。

これまで見てきた調査結果を整理してみると、以下のような状況が浮き彫りになってきます。

  • 中小企業の経営課題の多くは人材であり、特に採用に困っている
  • 人事採用専任者がいる企業は少数派であり、いても他業務との兼任である
  • 経営者は事業部門出身で人事採用ノウハウを持っていない

これまでお会いしてきた会社も似たような状況に陥っているところは少なくなかったですが、皆さんの会社ではいかがでしょう。まさにわが社のことだ!と思われた方も中にはいるかもしれません。

専任の担当者がいないため十分な時間や手間が掛けられないばかりか、ノウハウを持たずに行われている地域企業の人事採用。お金をかければうまくいく訳ではありませんが、当然予算も限られています。
何をしても一向に人事採用がうまくいかない地域企業が後を絶たないのもうなずけます。

地域企業の人事採用担当者はツラいよ

人事採用担当者がいる企業が珍しいということをお伝えしましたが、担当者がいる会社であっても多くの課題を抱えています。見聞きしてきたものをいくつか挙げてみたいと思います。

  1. 多忙化と孤独化
    地域企業ではそもそもバックオフィスの人員が少ない傾向にあります。人事採用業務を一人で担っていることが少なくなく、求人票の作成、応募者の書類選考と面接手配、リクルーティングサイトの登録と活用、SNSやHPの更新、インターンシップの受け入れ、学校やハローワークの訪問、合同企業説明会の参加、採用媒体への出稿、関係部署との調整など、本来は分担して行う業務を一手に担っており、慢性的に多忙化している傾向があります。一人で担っているため社内で相談できる人がおらず、これでいいのだろうかと日々迷いながら試行錯誤しているという話を伺います。

  2. 担当者任せの採用活動
    創業年数の古い会社では、工業化社会と人口ボーナス期の名残から利益に直接貢献しない間接部門をコストと捉える傾向にあります。そのため、採用活動=人事採用担当がやるべき仕事という構図となり、営業優位の文化から経営層や事業部門はわれ関せず任せっきりになりがちです。成果が出ればまだよいですが、うまくいかない場合の責任は担当者が引き受けることになります。表立って責められることはないかもしれませんが、結果が伴わず責任を感じて肩身が狭い思いをされている話をお聞きしたことがあります。これは、先ほども見た経営者の経験領域が営業・製造部門に偏っていることも影響しているかもしれません。毎年採用活動を行わない会社では、仮に担当がいたとしての経験を十分積むことができずノウハウがなかなか蓄積されないという問題もあります。

  3. 戦略・計画なき場当たり的な活動
    人事採用担当者が少ないということは、実務経験者が少ないことと同義であり、仮に担当者がいても知見を持たずに実務を行っている場合が多いです。未経験者の方でも一つひとつの業務に慣れていけば徐々に回せるようにはなりますが、経営戦略や事業計画と連動した活動にはなっておらず、退職者が出るため欠員募集するといったような場当たり的な活動になりがちです。これは、先に挙げた経営者の意識や企業文化の話とも通じますが、経営・事業・採用を個々に捉えているからではないかと考えます。採用とは本来、現在から未来へ向けて思い描く組織の姿を実現するために必要な人材を迎え入れることです。経営戦略・事業戦略・人事戦略(採用計画)は一貫したものであるのが理想ですが、地域企業で行われているところは少数派ではないかと思います。
  4. 採用成功へ向けた第一歩

    先ほど見てきた現場の課題ですが、どのように乗り越えていけばよいでしょうか。 場当たり的な採用ではなく、描いた未来に向けて計画的戦略的に採用・育成が行える企業文化の実現に向けて、現場でお伝えしている地域企業が持つべき採用のマインドセット(考え方や姿勢)をお伝えします。

    経営者が採用にコミットする

    採用に困っている会社が多い割に、採用に本気で取り組んでいる会社は意外と少ない印象です。
    このように書くと「いやいや、ちゃんとやっていますよ」という声も聞こえてきそうですが、成果が出ている会社はこのちゃんとのレベルが段違いです。特に違うのが経営層の意識でもあります。
    ある会社では、3日間のインターンシッププログラムの受け入れを行っていますが、必ず最初の顔合わせと最後の発表会、時には交流ランチにも経営者が自ら参加する時間を取っています。歓迎の意味も込めていますが、会社が大事にしている考え方を代表が直接伝え、仕事観や自身のビジョンを語るようにしているそうです。忙しいなかでなぜそこまでやるのかというと、経営者の人柄や距離の近さが魅力であり、それこそが差別化できる点であると語っていました。魅力的な経営者のもとには魅力的な人材が集まるものです。
    経営者は採用活動においてもっとも有力な広告塔であり営業マンでもあります。経営者の一番重要な仕事は採用といっても過言ではありません。地域企業は規模が小さいからこそ、一人の人材がもたらす影響は良くも悪くも大きくなります。採用の重要性をトップが語り手間暇惜しまず本気で取り組む姿勢は、採用担当以外の社員にも伝わりますし、それがリファラルにつながることもあります。こうした姿勢は選考を通じて求職者にも間接的に伝わっていくことでしょう。採用活動の実務は社員に任せたとしても、市場性高い人材をひきつけるには経営者が率先してリーダシップを発揮する必要があります。

    求める人材像を明確にする

    慢性的な人材不足に陥っている地域企業となると、より好みなどしていられないから働いてくれるなら誰でもいいと思ってしまうかもしれません。履歴書にさっと目を通し、当たり障りない質問をいくつかして、その場で内定を出していませんか?自社が求める人材像を定義せず、誰彼構わず採用している会社は採用“後”に失敗しているケースも多いです。求人募集を出しても応募ないのだから仕方ないのではと思うかもしれませんが、求職者の視点に立って振り返ってみましょう。
    例えば求人票です。必要最低限の情報、どの会社でも書けるような無味乾燥な内容、文章も短くて推敲されてない手抜きの求人票を見て、求職者に会社の熱意が伝わるでしょうか。求人票は会社が求職者に向けて送るラブレターとも言われますが、誰でもいいから付き合ってほしいと思っている相手をパートナーとして選びたい人はいないはずです。仮にそんな求人票に応募してくる人がいたとして、それはどんな人でしょう。誰でもいいからという考えは「どうでもよい、都合の良い」関係に転じ、採用後にさまざまなトラブルにつながる恐れがあります。
    求める人材像は経営戦略や方針、組織風土、企業文化に合った人物を具体的に定義しましょう。経験によって後天的に伸ばすことができる能力よりも、文化や価値観の適合度が重要と考えます。社内に余裕がなければ、仮に学歴職歴に申し分ない新卒や業界未経験者が応募してきたとしても採用し育てることは難しいでしょう。会社の現状も大事な要素です。
    経営者の一存で決めるのではなく、採用後一緒に働くことになる現場の声を聞きながら一緒につくったり、選考に携わってもらうのも有効な手段です。そうすることで、新人を受け入れる担当者にも責任感が芽生え、自分事にもなりやすくなります。採用後に配属する職場、教育担当者との相性も考慮すべきポイントです。これらを明確し求人情報等にも反映していきましょう。以下の図も参考にしてみてください。

    ※筆者作成

    そして求める人材像を設定することの一番の意義は、設定した要件に合致する人しか採用しないのではなく、自社が採ってはならない人材を明らかし、致命的なミスマッチを減らすことにあります。
    「育成で採用は超えられない」という考え方もありますが、応募者が少ない地域企業では、つい焦って採用してしまいがちです。間違った人を採用した際の悪影響を軽視してはいけません。

    常時採用マインドを持つ

    求人を出している時だけ採用活動をしている、現状充足しているから特に何もやらなくてよいと思っていないでしょうか?
    地域企業の採用成功で重要になってくるのは、常に自社の求人に応募してくれる母集団形成をし続けることです。これができると採用にかかる人的・時間的・金銭的コストも軽減できます。求人の有無に限らず365日、多様な方へアプローチをし続け採用へとつながる関係を築きましょう。求人を出している時は「いま、○○職を募集しているのですが、○○な人(求める人材像に基づく条件)は身近にいらっしゃいませんか?」と尋ねるだけでも問題ありません。「いい人いませんか?」などアバウトな聞き方はNGです。
    私は募集していない時でも、ピンときたら「今すぐではないけれど、うちで仕事することに興味ありませんか?」「いつか一緒にお仕事したいですね!」とラブコールを送っています。タイミングもありますが、自分のことを認めた上で誘ってもらっていると感じれば、言われる方も悪い気はしないはず。お声がけした人は記録しておき名刺交換やSNSなど連絡先を控えておけば、求人情報を公開する前に直接アプローチできることもあります。転職意欲がない人でもオファー次第でその気になる人もいるかもしれません。
    これを先述のように採用担当だけでなく、経営者やその他の社員も意識しましょう。全員で自社が求めるいい人との出会い、新たな接点を作り続けようとする姿勢を持つことが常時採用マインドです。
    例えば営業担当や販売、接客サービスなど社外の人と接する仕事であれば、自社に合う人と出会う可能性は高いでしょう。得意の取引先、常連のお客様のような方ならご本人が働かなくてもこの店(会社)に合う人はこんな人だと思い当たる方を紹介してくれるかもしれません。社員の家族、友人、知り合いの伝手というリファラルも馬鹿にはできません。最近はWEBで社内報をブログのように公開する企業もありますが、社員の様子や会社の取り組み、組織風土を外に向けて発信していくことはPRとして有効であり、自社の潜在的な応募者の母集団形成にも寄与します。前回のコラムでも述べたように、一石数鳥を意識して常時採用活動に取り組みましょう。

    地域企業だからこそできるアクション

    ここまでお話してきたことはどのような企業でも取り組むべきことですが、最後に条件不利な地域企業だからこそやるべきことをご紹介したいと思います。

    行政・教育機関との連携協働で社員育成と将来のファンづくりを

    課題が山積する自治体ではさまざまな施策を打っています。UIターン支援、若者の地元定着、ワーケーション、他拠点居住、空き家活用、複業兼業、関係人口創出など地域によって取り組みの差はありますが、いずれも地域の外の人に入ってきてもらい、地域のひと・ことと接点を持ってもらうことを意図しています。こうした施策で重要な役割を果たすのは地域企業です。

    2017年に宮城県の事業で一般社団法人ISHINOMAKI2.0(現在は石巻人事部が運営)と当社が協同で実施した「ミライブラリー」は、石巻圏域で仕事をする20~30代の若手社会人を講師に招いて行うキャリア教育プログラムです。学生時代の体験や仕事で大事にしていること、仕事を選んだ理由、やりがいや今の夢・目標などを紙芝居形式で伝え、高校生と車座になって一緒に働くことや社会人になることついて考え、対話します。

    高校生に自身のキャリアを題材にした紙芝居授業を行う

    ゲストの教訓や経験談を聴き、対話を通して進路の視野を広げる

    地域で働くさまざまな業種の社会人が集まる。なかには複数回参加者も

    講師として登壇した皆さんは終了後に大きな達成感を覚え、自らキャリアを見直すきっかけや後輩との接し方の参考になったと語ってくれました。一緒に授業に臨んだ若手社会人同士の横のつながりは異業種交流の機会にもなりました。
    地域企業で働くイメージがポジティブになれば、高校生の地元就職も期待できます。働くことが辛いことばかりではない、単なるお金稼ぎではないということを理解することは、就職後のモチベーションやミスマッチによる早期離職予防にもつながるでしょう。参加した社員の話を聞いた高校生から会社の求人に応募があったという声も聞かれ、一石数鳥な取り組みとなりました。

    就職活動では面接官と応募者という「選びあう関係」になってしまいますが、社会人・学生がフラットに接する場によってお互いの人間性を理解し合える機会になり、それが逆に功を奏したと考えます。

    新卒採用で応募者から選ばれるためにはまず選択肢に入る必要がありますが、売り手市場の昨今、就活が始まった段階で動いていてはそれも難しいでしょう。

    地域とともにある企業だからこそ、地域貢献しながら青田買いよりも早くて本質的な“種蒔き”的な戦略が重要です。一発逆転はないというのが私の持論です。

    こうした取り組みに学校や行政からお声がかかるということも、選ばれる地域企業としての試金石ではないでしょうか。

    【参考・出典】
    経済産業省「令和元年度 大企業人材等の地方活躍推進事業(地域の中核企業による人材確保手法等の調査分析)」
    中小企業庁「平成27年 中小企業白書」
    中小企業庁「中⼩企業の経営⼒及び組織に関する調査研究」
    石巻人事部HP(ミライブラリー)

    Profile

    Inquiry 山本 一輝 氏

    Inquiry合同会社 代表社員CEO
    ラーニングデザイナー
    山本 一輝 氏

    株式会社リクルートにて教育機関の広報や組織開発、高校の進路講演講師を担当。仕事の傍ら東北被災地域の若者のキャリア教育やまちづくり活動に参画し、地方創生のリアルを学ぶ。2016年に独立、2021年にInquiry合同会社を設立。人を起点とした持続可能な社会づくりをテーマに、中小企業の戦略人事や組織開発の伴走支援、産官学の人材育成に関する企画コーディネートの他、研究者として人と組織の学習について探究し現場への応用実践を繰り返す。2022年4月、全国の地域の人事部団体の協働共創を生む繋がりを目的とした互助団体「地域人事部アライアンスネットワーク」を発足、現在16団体が加盟し活動中。

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