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派遣契約を更新しない場合の企業の対応は?適切な伝え方のポイントを解説
公開日:2025.11.12
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派遣社員の契約を更新しないと企業が判断した場合、法的な義務や、派遣社員、そして人材派遣会社との連携など、さまざまな側面での配慮が必要です。
この記事では、派遣契約を更新しない場合に企業側が知っておくべき法的なルールや、トラブルなく契約を終了するための具体的な対応策について分かりやすく解説します。
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派遣契約を更新しない場合に企業側が押さえるポイント
「派遣契約を更新しない」とは、企業が派遣社員に対して期間満了をもって派遣契約の終了を決定することです。
「雇い止め」との関連性
派遣契約を「更新しない」という決定は、有期雇用契約における「雇い止め」に該当するものです。
雇用契約には、正社員など期間の定めがない無期雇用契約と、あらかじめ期間が定められている契約社員や派遣社員などの有期雇用契約があります。
派遣社員は後者の有期雇用契約ではたらくため、契約期間が満了する際に、更新されるかどうかが焦点です。
通常、有期雇用契約では、雇用主と労働者の間で契約期間が終了する30日前までに、契約の更新について話し合います。
しかし、「双方の話し合いの結果として有期雇用契約が更新されない」のではなく、何らかの理由で「企業側が更新しない意思表示をする」場合も想定されるでしょう。企業側の理由は次章で解説します。
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派遣契約を更新しない場合の主な理由
派遣契約を更新しない理由は多岐にわたりますが、企業側の主な事情として主に以下が挙げられるでしょう。
業務量の減少、事業所の閉鎖、経営状況の変化
事業の縮小や終了、または経済状況の悪化によって、派遣社員に依頼する業務自体が減ったり、事業所を閉鎖したりする場合です。これは、企業が派遣社員の継続雇用が難しいと判断する、やむを得ない経営上の理由となります。
派遣社員のスキルや業務遂行能力が期待に沿わなかった
派遣社員のスキルが業務内容に合わない、あるいは期待された成果を出せないといった状況です。具体的な業務において、求めるレベルに達していないと判断された場合に更新を見送ることがあります。
企業で直接雇用するニーズがない
2015年の労働者派遣法改正により、同じ派遣社員を同じ部署で3年以上受け入れる場合、企業は直接雇用を受け入れる努力義務が生じます。これを「雇用安定措置」といいます。
しかし、企業において直接雇用のニーズがない場合や、そもそも3年を超えて派遣を受け入れる意思がない場合に、契約更新をしない選択をすることも考えられるでしょう。
雇用安定措置については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。
>>雇用安定措置とは?派遣先企業が取るべき措置を解説
派遣法遵守の観点からの契約期間制限
労働者派遣法では、同じ事業所の同じ部署で派遣社員を受け入れられる期間に制限があります。これを「抵触日」と呼び、原則として3年までです。抵触日を超えて派遣社員を受け入れることができないため、法律を遵守するために契約を更新しない場合も考えられるでしょう。
いわゆる「3年ルール」や「抵触日」については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。
>>派遣の3年ルールとは?例外や3年を超える場合の手続きを解説
>>派遣の抵触日のルールや派遣先企業が行うべき手続きは?図解で分かりやすく解説
派遣契約を更新しないことが認められない場合
派遣契約を更新しないことが、常に企業側の自由とは限りません。特に、労働契約法に定められた「雇い止め法理」に抵触する場合、その決定は無効とされる可能性があります。
「雇い止め法理」の適用条件と判断基準
「雇い止め法理」とは、有期雇用契約が繰り返し更新され、実質的に無期雇用と変わらない状態になっている場合や、派遣社員が契約更新を強く期待するのが当然と認められるような状況において、企業が一方的に更新を拒否することを制限する考え方です。
具体的には、以下のいずれかの条件に当てはまる場合、雇い止め法理が適用される可能性があります。
契約更新が繰り返し行われ、実質的に無期雇用と変わらない状態になっている場合
例えば、当初は短期間の契約でも、契約更新が何度も繰り返されて同じ職場で比較的長期間はたらき続けてきたようなケースです。この場合、派遣社員は期間の定めがない雇用契約(無期雇用)と同程度の期待を持つとみなされることがあります。
派遣社員が契約更新を期待することに合理的な理由があると認められる場合
契約書に「更新する可能性あり」と記載されていたり、これまでの慣行としてほとんどの人が更新されていたり、あるいは会社側が更新を示唆するような言動をしていた場合などがこれに該当します。派遣社員が「今回も更新されるだろう」と期待するのに十分な理由がある状況です。
上記のような状況で、企業が契約更新を拒否する場合、その更新拒否に「客観的に合理的な理由」がなく、かつ「社会通念上相当」と認められないときは、その雇い止めは無効と判断されることがあります。これらのケースは、派遣契約の更新を検討する上で、企業側が特に注意すべきポイントとなります。
「雇い止め法理」については以下の記事で詳しく解説していますので、あわせてお読みください。
>>【企業向け】雇い止めとは?労使間のトラブルを防止するポイントを解説
契約期間中の「中途解除」は原則できない
派遣契約は、原則として契約期間中に企業側から一方的に解除することはできません。理由は、人材派遣会社と派遣先企業の間で「労働者派遣契約」を締結している途中であるためです。
しかし、「天災により事業所が壊滅的な被害を受けた」「派遣社員が業務上著しい規律違反を犯した」など、やむを得ない事由がある場合は除きます。
契約終了についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
>>派遣社員の契約終了時はいつ伝える?派遣先企業が行うべき対応と留意点を徹底解説
派遣契約の基本についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
>>派遣契約の流れを3つのステップに分けて徹底解説
派遣契約を更新しない場合に企業側が取るべき対応
派遣契約の更新を見送る場合、企業側は法令遵守とトラブル回避のために、適切な手順を踏む必要があります。特に以下の3つのポイントは重要です。
「雇い止め予告」の実施
労働契約法では、有期雇用契約が1年を超えて繰り返し更新されている場合など、一定の条件を満たす派遣社員に対しては、契約を更新しない(雇い止めをする)旨を、少なくとも契約期間満了の30日前までに予告する義務があります。これは「雇い止め予告」と呼ばれるものです。
この予告は、口頭ではなく書面で行うことが推奨されます。書面で通知することで、後々のトラブルを防ぎ、企業側の対応の証拠となるでしょう。予告期間を守り、派遣社員が次の仕事を探す期間を確保できるように配慮を求めるものでもあります。
理由の明示義務
派遣社員から「なぜ契約を更新しないのか」と尋ねられた場合、企業側にはその理由を明確に伝える義務があります。これは、労働契約法第14条第2項の定めによるものです。
伝える理由は、抽象的ではなく、具体的かつ客観的な事実に基づいたものでなければなりません。例えば、「総合的に判断した結果」といった曖昧な表現では不十分でしょう。「業務量の減少により、当該業務がなくなったため」や「〇〇のスキルが、当社の求めるレベルに達していなかったため」など、具体的な状況を説明することが重要です。
人材派遣会社との連携
派遣契約は、派遣先企業と人材派遣会社との間で締結されています。そのため、派遣契約を更新しないと決定した場合、人材派遣会社との密な連携が不可欠です。
まず、締結している派遣契約書の内容を改めて確認し、更新に関する条項や通知期間などを把握しておきましょう。その上で、できる限り早い段階で人材派遣会社に連絡し、契約を更新しない旨とその理由を伝えます。
派遣社員への通知やその後の手続きは、基本的に人材派遣会社を介して行われます。人材派遣会社は、派遣社員の雇用主として、雇い止めに関する法的な手続きや、派遣社員への説明を適切に行う責任があります。そのため、派遣会社と緊密に情報共有を行い、協力して対応を進めることが、トラブルを未然に防ぐ上で最も重要です。
人材派遣会社への伝え方のポイント
派遣契約を更新しない旨を人材派遣会社に伝える際は、その後のトラブルを避けるためにも、いくつかの重要なポイントがあります。
伝えるタイミングと内容
人材派遣会社には、派遣契約を更新しない旨を余裕を持って早めに伝えます。少なくとも45日前までには連絡を入れるようにしましょう。これにより、人材派遣会社は派遣社員の次のキャリアについて検討する時間を確保できます。
客観的な事実に基づいた理由を簡潔に伝えることも重要です。例えば、「業務量の減少に伴い、当該業務がなくなるため」といった具体的な理由が望ましいといえます。
誰が伝えるか
派遣先企業からは、派遣社員の所属部門の責任者または人事担当者から人材派遣会社へ伝えるのが適切です。これにより、正式な決定であることを明確に示せます。
伝える際の注意点
曖昧な表現は避け、誤解を招かないように明確に伝えることが重要です。例えば、「もしかしたら更新しないかもしれません」といった不確かな伝え方は避け、「今回の契約をもって終了とさせていただきます」と断定的に伝えましょう。
また、後日質問が来ることも想定し、想定される質問に対する回答を事前に準備しておくとスムーズです。特に、更新しない理由については、法的な観点からも明確に説明できるよう整理しておく必要があります。
派遣契約を更新しない場合に関するよくある質問
企業が派遣契約を更新しない場合に関して、よくある質問と回答をまとめました。
Q1.派遣契約を更新しない場合、人材派遣会社への連絡はいつまでに行うべきですか?
派遣契約を更新しないと決めたら、できるだけ早めに人材派遣会社へ連絡することが重要です。人材派遣会社は、契約終了の30日前までに派遣社員へ通知する義務があるため、派遣先企業は契約終了の45日前までには人材派遣会社へ連絡を入れるのが望ましいです。これにより、人材派遣会社は派遣社員への通知と次のキャリア支援をスムーズに進めることができるでしょう。
Q2.派遣契約を更新しない理由を伝える必要がないケースはありますか?
いいえ、原則として伝える義務があります。労働契約法では、派遣社員から契約を更新しない理由を求められた場合、企業側はそれを明確に伝える義務があると定められているためです。曖昧な表現ではなく、具体的な事実に基づいた理由を誠実に伝えるようにしましょう。
Q3.契約期間が満了する前に、派遣社員から契約更新を希望された場合はどうすればよいですか?
派遣社員から契約更新を希望された場合でも、企業として更新しない方針であれば、その旨を伝える必要があります。
ただし、直接派遣社員に伝えるのではなく、まず人材派遣会社に相談し、今後の対応について連携を取るようにしてください。
人材派遣会社が間に入り、派遣社員へ更新しない理由を説明します。
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企業の法的な義務を適切に理解しましょう
派遣契約の更新を見送る判断の際に最も大切なポイントは、法的な義務を遵守し、関係者への丁寧な対応を心がけることです。
具体的には、雇い止め予告や理由明示といった法的な義務を確実に果たすことが不可欠で、後々のトラブルや不要なリスクを避けることができます。
また、人材派遣会社との密な連携は非常に重要です。人材派遣会社を介して派遣社員へ誠実に対応することで、誤解を防ぎ、円滑な契約終了へとつながります。
この記事が、貴社の人事部門で重要な意思決定を行い、適切な対応を進める際の一助となれば幸いです。
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監修者
HRナレッジライン編集部
HRナレッジライン編集部は、2022年に発足したパーソルテンプスタッフの編集チームです。人材派遣や労働関連の法律、企業の人事課題に関する記事の企画・執筆・監修を通じて、法人のお客さまに向け、現場目線で分かりやすく正確な情報を発信しています。
編集部には、法人のお客さまへ人材活用のご提案を行う営業や、派遣社員へお仕事をご紹介するコーディネーターなど経験した、人材ビジネスに精通したメンバーが在籍しています。また、キャリア支援の実務経験・専門資格を持つメンバーもおり、多様な視点から人と組織に関する課題に向き合っています。
法務監修や社内確認体制のもと、正確な情報を分かりやすくお伝えすることを大切にしながら、多くの読者に支持される存在を目指し発信を続けてまいります。
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