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【企業向け】派遣の個別契約書とは?概要と記載事項のポイント

公開日:2025.10.14

人事ナレッジ

労働者派遣個別契約書(以降、「個別契約書」)とは、企業が派遣社員を受け入れる際、人材派遣会社との間で必ず締結する必要がある書類です。

しかし、その内容や作成方法について、十分に理解できていないという企業も多いのではないでしょうか。

そこで本記事では、個別契約書の基本から、記載すべき事項、作成時の注意点までを分かりやすく解説します。さらに、労働者派遣基本契約書との違いや、派遣先企業が作成すべき書類についてもご紹介します。

個別契約書を正しく理解し、派遣社員のスムーズな受け入れにつなげましょう。

労働者派遣個別契約書の基本

労働者派遣個別契約書とは、労働者派遣基本契約に基づいて、個別の派遣就業に関して人材派遣会社と派遣先企業の間で締結される契約です。

これは、特定の派遣社員を派遣する際に、その労働条件や業務内容などを具体的に定めるために作成されます。

個別契約書の目的

作成の主な目的は以下の通りです。

労働条件の明確化

派遣社員の業務内容、就業場所、就業時間、賃金、契約期間など、詳細な労働条件を明確にすることで、人材派遣会社・派遣先企業・派遣社員の間の認識のずれを防ぎ、トラブルを未然に防ぎます。

法令遵守

労働者派遣法をはじめとする関連法規を遵守し、適正な派遣就業を実現するために必要となります。

円滑な派遣の実施

個々の派遣就業における具体的な取り決めを明確にすることで、派遣先企業がスムーズに派遣社員を受け入れ、仕事を依頼できるようになります。

責任の所在の明確化

人材派遣会社と派遣先企業のそれぞれの責任範囲を明確にし、派遣就業が円滑に進むようにします。

個別契約書は誰が・いつ・誰に向けて作成するのか

個別契約書は、個別の派遣就業が始まる前に、労働者派遣基本契約書の内容に基づいて具体的な労働条件などを明確にするために作成されます。

労働者派遣基本契約書との違いは?

「労働者派遣基本契約書」は、人材派遣会社と派遣先企業の間で、継続的な派遣取引に共通する基本的な事項(契約期間、料金、責任範囲など)を定める包括的な契約です。

一方、個別契約書は、その基本契約に基づき、個々の派遣就業について具体的な就業場所、業務内容、就業時間、賃金などの労働条件を定める個別の具体的な契約です。

なお、派遣契約の流れや必要書類については以下の記事でも詳しく解説しています。あわせてお読みください。
>>派遣契約の流れを3つのステップに分けて徹底解説

派遣先企業が作成すべき書類は「抵触日の通知書」

個別契約書は一般的に人材派遣会社が作成しますが、派遣先企業は、派遣労働の期間制限(原則3年)に関わる「抵触日の通知書」を作成し、人材派遣会社へ通知する義務があります。

項目 概要
誰が 派遣先企業
誰に対して 人材派遣会社
いつ 派遣契約を締結する前、つまり派遣社員を受け入れる前に、あらかじめ行う必要があります。
どのように 通知は、書面(郵送、FAXを含む)または電子メールなど、記録に残る形式で行う必要があります。口頭での通知は認められていません。
記載すべき項目 法的な定められたフォーマットはありませんが、一般的に以下の項目を記載します。
  • 事業所名
  • 事業所の所在地
  • 就業場所
  • 業務内容
  • 派遣受け入れ開始予定日
  • 派遣受け入れ期間制限の抵触日(通常は派遣開始日から3年後の翌日)

これらの情報を人材派遣会社に事前に伝えることで、派遣期間の管理を適切に行い、法律を遵守した派遣受け入れにつながります。

なお、派遣の抵触日については以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
>>派遣の抵触日のルールや派遣先企業が行うべき手続きは?図解で分かりやすく解説

事業所抵触日通知・待遇情報提供 テンプレートも無料でダウンロードしてご利用いただけます。
>>【無料テンプレート】 事業所抵触日通知・待遇情報提供書面|パーソルテンプスタッフ

個別契約書の記載事項と雛形

個別契約書には、派遣元と派遣先の双方が合意した内容を明確に記載する必要があります。これにより、派遣就業が円滑に進み、トラブルを未然に防ぐことができます。以下に主な記載事項を解説します。

項目 概要
派遣期間 派遣就業の期間を具体的に記載
(例:令和●年●月●日から令和●年●月●日まで)
就業日及び就業時間 派遣社員が業務を行う日と時間、休憩時間を記載。
始業・終業時刻、休憩時間を明確に。
業務内容 派遣社員が従事する具体的な業務内容、就業場所、そして派遣先の組織単位を記載。組織単位とは派遣社員が配属される部署やチームのことで、これにより、誰の指揮命令を受けるのか、どのような役割を担うのかが明確になる。
派遣先責任者 派遣社員が所属することになる部署名、責任者の役職名、電話番号を記載。
※製造業務の場合には「製造業務専門派遣先責任者」を選任し、記載。
指揮命令者 派遣先企業内で、派遣社員に対して業務の指示や指導を行う担当者の氏名を記載。
苦情申し出先 派遣社員からの苦情(業務に関して不満や疑問を感じた場合)の申出を受ける者を記載。具体的には人材派遣会社および派遣先企業の担当者の所属部署名、役職名、電話番号を記載。
人数 受け入れる派遣社員の人数を記載。
派遣就業に関する事項
    • 賃金:時間給、日給、月給などの賃金形態と具体的な金額、支払方法、支払日などを記載。時間外労働発生時の割増賃金についても明記。
    • 社会保険・労働保険の加入の有無:派遣社員が加入する社会保険(健康保険、厚生年金保険、雇用保険)と労働者災害補償保険の加入状況を記載。
    • 就業に関する便宜:派遣先企業の食堂、休憩室、更衣室などの利用に関する事項を記載。
    • 安全衛生に関する事項:派遣先企業における安全衛生管理体制や、派遣社員が遵守すべき事項などを記載。
    • その他:必要に応じて、上記以外の就業に関する事項を記載。年次有給休暇・慶弔休暇などに関する事項も記載することが望ましい。
派遣元事業主(人材派遣会社) 人材派遣会社の名称・所在地・代表者名・許可番号を記載。
派遣先事業主 派遣先企業の名称・所在地・代表者名を記載。
その他 上記以外に、人材派遣会社と派遣先企業の間で合意した特記事項があれば記載。
<例>
  • 契約の解除に関する事項
  • 損害賠償に関する事項など
紹介予定派遣に関する事項 紹介予定派遣である場合には、直接雇用に移行した後の労働条件などを記載する。

また、厚生労働省は個別契約書の様式例および記入例を詳しく紹介しています。ぜひ参考にしてください。

参考:厚生労働省|労働者派遣(個別)契約書 記入例

上記以外にも、人材派遣会社と派遣先企業の間で合意した事項がある場合には、契約書に追記することが可能です。

個別契約書作成時の注意点

個別契約書を作成する際には、後々のトラブルを防ぎ適切に運用するために、いくつかの重要な点に注意が必要です。

押印の必要性

個別契約書への押印は、法律で義務付けられているわけではありません。電子契約サービスを利用する場合は、電子署名などで代替されることがあります。

収入印紙の必要性

個別契約書は、印紙税法上の課税文書には該当しません。そのため、収入印紙を貼付する必要はありません。

契約期間の遵守

個別契約の期間は、労働者派遣基本契約の期間内である必要があります。また、派遣法における派遣期間の制限(原則3年)も遵守する必要があります。

派遣の「3年ルール」については以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
>>派遣の3年ルールとは?例外や3年を超える場合の手続きを解説

明確かつ具体的な労働条件の記載

業務内容、就業場所、就業時間、賃金などの労働条件は、曖昧な表現を避け、具体的かつ明確に記載することが重要です。これにより、派遣社員との間で認識の齟齬が生じるのを防ぎます。

ただし、個別契約書には、一人ひとりの派遣社員の氏名は記載しません。派遣契約は、「労務そのものの提供」を目的としており、「特定の労働者を派遣」するものではないからです。

一人ひとりの派遣社員の氏名を記載(特定)することは、労働者派遣法に抵触する可能性があります。加えて、派遣先企業が派遣社員を受け入れる前に、面接を行ったり、履歴書を確認したりすることもできない点にもあわせて理解が必要です。

「派遣社員の特定行為」の禁止背景については、以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
>>【企業向け】派遣の特定行為を解説 禁止の背景や注意点は?

関連法規の遵守

労働者派遣法だけでなく、労働基準法、最低賃金法、労働安全衛生法など、関連する法規を遵守した内容で契約書を作成する必要があります。

労働関連法規は改正されることがあるため、契約書を作成する際には、常に最新の情報を確認するように心がけましょう。厚生労働省のWEBサイトなどで最新の情報を入手することが推奨されます。

人事・労務の関連法規の最新情報は以下の記事でまとめています。あわせてお読みください。
>>人事・労務に関わる2025年(令和7年)施行の重要法改正まとめ

保管期間について

個別契約書自体については、労働者派遣法で明確な保管義務は定められていません。しかし、契約当事者間において契約内容を確認する目的から、契約期間中は保管しておくことが望ましいです。

なお、派遣先企業は、派遣社員の氏名や就業状況などに関する帳簿書類「派遣先管理台帳」を派遣終了後3年間保存する義務があります。

「派遣先管理台帳」については以下の記事で詳しく解説しています。あわせてお読みください。
>>派遣先管理台帳とは?記載内容や保管方法を分かりやすく解説

労働者派遣個別契約書のよくある質問

労働者派遣個別契約書に関して、企業の人事部門の担当者や経営者の方々が疑問を持ちやすいポイントをまとめました。

Q1.労働者派遣個別契約書とは何ですか?

労働者派遣個別契約書は、労働者派遣基本契約に基づき、個々の派遣就業における労働条件や業務内容などを具体的に定めるために、人材派遣会社と派遣先企業の間で締結される契約です。

Q2.労働者派遣基本契約書と労働者個別契約書の違いは何ですか?

労働者派遣基本契約書は、派遣元企業と派遣先企業の間で、継続的な派遣取引に共通する基本的なルールを定める包括的な契約です。
一方、労働者派遣個別契約書は、その基本契約に基づき、個別の派遣社員一人ひとりの就業条件を定める個別具体的な契約です。

Q3.労働者派遣個別契約書の保管期間は何年間ですか?

法律で明確な保管義務は定められていません。しかし、契約内容確認のため、契約期間中は保管しておくことが望ましいでしょう。
なお、人材派遣会社にも、派遣元管理台帳や苦情処理記録表を派遣終了後3年間保存する義務があります。

労働者派遣個別契約書を適切に理解し、派遣社員を円滑に受け入れましょう

本記事では、労働者派遣個別契約書について、その基本から記載事項、作成時の注意点などを解説しました。

個別契約書は、人材派遣会社と派遣先企業が、個別の派遣就業に関して具体的な労働条件などを定める重要な書類です。この契約書を適切に作成・管理することで、派遣社員の方々が安心してはたらける環境を整備し、派遣先企業においても円滑な就業が可能になります。

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監修者

HRナレッジライン編集部

HRナレッジライン編集部は、2022年に発足したパーソルテンプスタッフの編集チームです。人材派遣や労働関連の法律、企業の人事課題に関する記事の企画・執筆・監修を通じて、法人のお客さまに向け、現場目線で分かりやすく正確な情報を発信しています。

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