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職場の信頼関係、半数は部下の片思い?「信頼関係のメカニズム」
公開日:2025.05.28
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今回は上司と部下の「信頼関係のメカニズム」についてです。
コミュニケーションやマネジメントの悩ましい問題の中で「信頼関係を築く」とよく言いますが、改めて考えてみると「部下は自分を信頼してくれているだろうか…」。そんなことを考えているときに、「上司・部下の信頼関係、52.4%は部下の片思い? 」というニュースを目にしました。上司側の片思いだと思っていましたが、異なるのでしょうか?!
上司と部下の信頼関係に関する本研究をされた株式会社パーソル総合研究所 上席主任研究員 井上亮太郎氏に、その一部をわかりやすくご説明いただきました。部下との両想いは、叶えられるのでしょうか。
目次
安心から信頼へ ~職場で求められるもの変化
環境の変化と変わるマネジメント
上司と部下が同じ環境下で業務することが常ではなくなり、テレワーク環境を含めた多様なはたらき方が増える変化により、上司がマネジメントで求められることが変わってきています。
上司と部下の実情と新たなマネジメント課題として、コミュニケーションに起因する課題もさまざま報告されています。パーソル総合研究所の「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」では、上司の46.3%が「業務の進捗具合がわかりにくく不安だ」と回答していました。また「非対面は相手の気持ちが察しにくい」との問いに対し、あてはまると回答した割合は、部下側が39.5%であったものの上司側は44.9%でした。これまで体験したことのないはたらき方に戸惑い、不安を感じている管理職は少なくありません。(図1)
このことから、職場のあり方の変化に伴い、「安心」が底流する職場から、「信頼」に基づく職場づくりが求められていることがわかります。
テレワークの普及や多様なはたらき方、異なる価値観(労働観)の広がりに伴い、職場環境は大きな変革を遂げています。社会的不確実性が高まる中、組織の円滑な運営や従業員のエンゲージメントを支える「信頼」の価値がますます高まっているといえます。
【図1】


※出典|株式会社パーソル総合研究所 「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」
今までは同じ職場で机を並べているから、上司としては「部下は仕事をしている」と思っています。まさか職場でネットサーフィンをしているとは考えない。「そんなことが見つかったら評価を下げられるのだから、するわけがない」と思う…という期待が、上司の中にある。=だから安心していた。
「そんな馬鹿なことはしないよね。だってあなたの不利益になるもんね。だからみんなちゃんと仕事してくれてるよね」と“職場の掟”を前提として安心できている、という状態です。今まではこれだったのではないでしょうか。
ところが、はたらき方がリモートワークに変わり、姿が見えなくなると途端に不安になってしまい、「仕事してる?」とか「あれ、どうなってる?」みたいなことを上司が言い出したわけです。いろいろ細かく言い出して…それは何か不安だから「安心したい」という欲求ですよね。だけどそこまでやったら、部下は監視されていると感じて、かえってモチベーションは下がってしまいます。
今までは、なんとなくはたらく姿が見えていたから安心できていただけであって、信頼していたわけではないのかもしれません。これからは本当の意味で、「信頼をベースにしたマネジメントに切り替わらないといけない」ということです。(図2)
【図2】

- ※出典|池田 浩(2022年3月15日生産性新聞 連載)「信頼のらせん関係を築く」
- ※引用|社会心理学者・山岸俊男(中公新書1479)「安心社会から信頼社会へ:日本型システムの行方」
信頼とは何か
「安心」と「信頼」、なんとなく同じような意味合いに思っていましたが、考えてみると全然違いますね。はたらき方が多様になり、職場環境が変わる中で「安心」だけに頼るのは難しくなってきています。では、「信頼」とはどうしたら感じられるのでしょうか。職場での信頼感の醸成や深耕におけるポイントはどのようなものなのでしょうか。
そもそも信頼(TRUST)とは、そんなに軽いものではない…リスクも受け入れる、リスクテイクすることなのです。「他者の意図や行動に対するポジティブな期待に基づいて、脆弱性を受け入れる意思から成る心理状態(Rousseauetal.1998先行研究)」。つまり、相手を“信頼”するという行為には、何らかを「協力する機会」があり、その「相手に期待する」こと、その際の「リスク(脆弱性)を受け入れる」覚悟が求められるものです。
例えばアメリカなどであれば、さまざまな国の多様な価値観の人がいたりして、そもそも頭から信用できない、しないような文化がある。だから、明文化して契約を結ぶことで安心できるわけです。契約を破ったらペナルティがあるということをお互いが意識しているから「そんなことはしないだろう」と安心できる。本来、信頼というのは、うかうかしていたら騙されるかもしれない不確実性がある中で、リスクを上回る価値があるのです。
でも、日本はそういうことをあまり意識しない文化、社会だから、信頼にどれほどの価値があるのかをあまり意識してこなかった。信頼関係があるということは、契約を作る手間や与信や経歴を調べたりする必要がなくコストダウンになるものでもあるのだけれど、日本人はまだ、その信頼の価値をまだ見出しきれていないのかも。それで「信頼していたのに“だまされた”」みたいなこと後で言ったりしますね。「信頼」という言葉の意味を理解して使っているならば、信頼していたのに“残念だ”はあるけれど、“だまされた”は、本来的には違うと思うのです。
「能力」「意図」どちらに期待をし、信頼があるのか
相手に信頼をかける時には、「能力を期待すること」と「意図に期待すること」の2種類の期待があります。「〇日までにこの資料を仕上げて」と指示をした場合、「この人だったらこの資料を作成できる能力を持っている」ということに期待しているのか、それとも「期日を意識して仕事を進めてくれるだろう」という意図、誠実さに期待しているのか。実務上は両方を意味しているでしょうが、この2つは別に考えたほうがよいでしょう。(図3)
「能力は持っているけれど、興味がなさそうでこなす感じになってしまうかな」という部下もいるし、「能力はないけれど一生懸命に取り組んでくれそうだな」という部下もいて、両者は同じ信頼でもちょっと違いますよね。
相手を信頼しようとしているときに、その期待するところは相手の「能力」か「意図」なのか、どちらを優位に見ているのかを意識できると、相手に対して言葉にできることが違ってきます。
例えば、能力にはあまり期待はできないけれど誠実な意図には期待できるという場合には「こういうマニュアルもあるから参考にしてみて」とか「わからないことがあれば○〇さんに聞いてほしい」などを付け加えることができますね。
部下の側からしてもそういうことを言葉にして伝えてもらえると、「これまでの実績から期待してくれているのだろう」とか、新しい業務を任された時に「やったことはないけれど、とにかく頑張ります!という姿勢に期待してくれているのかな」とか、上司に求められていることがわかります。
【図3】

- ※出典|池田 浩(2022年3月15日生産性新聞 連載)「信頼のらせん関係を築く」
- ※引用|社会心理学者・山岸俊男(中公新書1479)「安心社会から信頼社会へ:日本型システムの行方」
日々のマネジメントにおいて、「信頼」の前に「自分が相手の何に期待をしている部分が大きいのか」を意識できると、思考の網目が細かくなり、より深く考えることができるようになります。また管理職として部下に何を言わなければいけないのかを考え、より的確にサポートをすることもできるのではないでしょうか。
上司からの信頼が職場を変える ~信頼構築の「正」と「負」のらせん関係
信頼感と被信頼感
職場における上司と部下の信頼関係を形成・深化させるには、「信頼」の相互交換だけではなく、相手から信頼されていると感じる「被信頼感」が重要です。しかし「被信頼感」という言葉も聞きなれない言葉ですよね。 例えば、上司が自分を信頼してくれているのか、信頼できないと思っているのか、それは相手の頭の中のことだからわからないものです。直接聞くというのも一つの方法かもしれませんが、それでも正直に答えてくれるかどうかはわかりません。
だから、普段の上司の言葉、指示の内容や出し方、あるいは管理のされ方など、表に出てくるものがそれを示してくれるシグナルと捉え、解釈して「そうか、これは信頼してくれているのだな」と推察する。この「自分を信頼してくれているようだ」と思えていることを「被信頼感が高い状態」といいます。信頼関係とは、単に双方が相手を「信頼している」だけではなくて、信頼する相手側がちゃんと「被信頼感」を感じられていることで強化されていきます。
上司は部下に「信頼しているよ」と言うだけではなく、部下が「上司は自分のことを信頼してくれている」と思えているかどうか、その自己認識を高めてあげられているかと意識することが重要です。別の言い方をすれば「ちゃんと伝わっているかどうか」ということかもしれません。お互いの「被信頼感」を意識することは大事で、従来は相手を「信頼する」という行為を単純に交換するイメージだったものが、「被信頼感」を加えるとちょっと複雑になります。相手からの信頼を受け止めて「被信頼感」が高まり、それが相手をもっと信頼することにつながるというイメージです。
複雑ですが、このように考えることができると「どのように仕事の指示をすると、部下は“信頼されている”と思えるのか」と問うことができます。後述しますが、この問いが信頼関係には大事なポイントになると思うのです。
「信頼のらせん関係」とは
今回の調査で新たに検証された新たなメカニズム、上司と部下間で形成される「信頼のらせん関係」は4つの変数により表わされます。(図4)
- 上司が部下を信頼することを起点とし、
- その信頼を部下が感じ取り(被信頼感)、
- 部下はより上司を信頼するようになって、
- 上司が部下からの信頼を感じ(被信頼感)、
より、部下を信頼するようになる循環的な相互作用(信頼のらせん関係)を表しています。
【図4】

※出所|株式会社パーソル総合研究所・九州大学(2025)「上司と部下の信頼関係に関する研究」
信頼の構築過程では、上司が部下を信頼することを起点にして互いへの信頼感と被信頼感が高まっていく傾向(正のらせん関係)が見られました。一方で、信頼が低下していく逆の循環(負のらせん関係)もありました。時間経過とともにこの影響が強まる傾向がありました。
また、職場での信頼関係を形成・深耕していくには、以下のようなポイントがあることがわかりました。
- 部下が迅速なメール返信や報告をするなど能動的な行動をとることが上司からの信頼を高める
- 上司の「人はいくつになっても成長する」という人材観や、役割などの客観的な基準に応じた期待のかけ方が、部下との信頼関係を築くうえで重要
- 職場での信頼関係構築において、上司と部下の双方が「相手から信頼されている」と感じること(被信頼感)は、重要な役割を果たす
- 上司の「サーバントリーダーシップ」(支援的なリーダーシップスタイル)が部下の被信頼感を高める
- 部下自身の「オーセンティシティ」(自分を装わず自然体で振舞えている状態)も、上司からの信頼をより実感する上で重要
- 部下が自分らしさを発揮できるような上司の支援的行動は、信頼関係を促進するカギ
信頼関係の52.4%が「一方向不全関係」(片思い)
職場における上司と部下の信頼関係を類型化すると、以下の3つのパターンが導き出されます。(図5)このうち、52.4%が「信頼の一方向不全関係」(部下の片思い)であることが明らかになりました。これは、部下は上司を信頼しているものの、上司が部下を十分に信頼していない状態を示すものです。
頭では信頼しなければと思っても「でも、本当にやってくれるのだろうか…」などと、上司は心のどこかで思ったりすることもあるわけです。それがこの“片思い”というところに現れているのではないかと思います。
下記の調査サンプルだと、リーダーのことはそこそこ信頼していて、普通に自分のことも一定程度信頼してくれているのだろうなとは思っている。でも実際上司の心の内では「ちょっと心配だな」などと思っている部分がある。そういう人たちがこの調査サンプルからは52%確認されたという結果でした。
【図5】

※出所|株式会社パーソル総合研究所・九州大学(2025)「上司と部下の信頼関係に関する研究」
上司に「部下を信頼していますか」と聞くと61%、過半数以上は「信頼している」と回答しています。また、部下の能力と意図、どちらに期待しているのかを聞くと「能力に期待している」ほうが若干高いです。「それなりに仕事はできるし能力は持っている」と考えているケースが多いのかもしれません。
一方で「部下から自分は信頼されていると思えていますか」という問いには49%と、上司は、自分にはちょっと自信がない感じです。「上司として能力と意図、どちらへの信頼だと思うか」には「マネジメント能力、上司としての業務遂行能力」よりも「誠実な意図(姿勢)に期待をしてくれていると思う」という答えが少し多い。
また、部下に同じ質問をしたところ自分が上司を信頼しているという度合いよりも上司から信頼されているという度合いの方が低いという結果が出ました。(図6)
お互いに相手は信頼してくれているのに自分は信頼されているとは思えていない。自分の方が謙虚というか自信がないというか、別の言い方をすると、上司も部下も「相手にかける信頼は、考えているほど伝わっていない」ということかなと思います。
では、“どうすれば自分の想いをわかってもらえるのか”と考えたくなります。でも、そのように自分起点での考えるのではなく、“相手が、「信頼されている」と思えるにはどうしたらいいか”と問いを変えてみてはどうでしょう。このように改めて考えてみると、どのような言葉をかければいいのか。また、言葉だけでなく、日頃からの言動、仕事の与え方、指示の仕方、いろいろなところで部下が被信頼感を感じられるように自分の振る舞いを考えることができるのではないでしょうか。
相手の立場になって考えることは言うほど簡単ではありませんから、問いを少し変えてみるのも一つの方法です。
【図6】

※出所|株式会社パーソル総合研究所・九州大学(2025)「上司と部下の信頼関係に関する研究」
まとめ
職場関係の約半数を占めるこの一方向性の不全関係を改善するには、上司が部下の能力や行動について、リスクを取ってでも期待をかけることが起点となっていました。具体的には、人の能力や行動は、適切な環境を用意すれば伸びると信じ、その成長を支援する姿勢が求められます。
また、この「信頼のらせん関係」は、個人のウェルビーイングやパフォーマンスだけでなく、職場業績にまで影響します。
上司と部下の良好な信頼関係は、職場としてのチームワークを高め、結果的に経営上の成果にまで波及するのです。信頼関係はリーダーのメンバーに対する「信頼」から始まります。まずは上司からの信頼が職場を変えるのです。
【取材協力】
株式会社パーソル総合研究所 シンクタンク本部 上席主任研究員
井上 亮太郎 氏
<プロフィール>
「大手総合建材メーカー(現LIXIL株式会社)にて営業、マーケティング、PMI(業務・意識統合)を経験。その後、学校法人産業能率大学に移り組織・人材開発のコンサルティング事業に従事した後、2019年よりパーソル総合研究所にて調査・研究に従事。2020年より慶應義塾大学大学院特任講師。人や組織、社会が直面する複雑な諸問題をシステマティック&システミックに捉え、創造的に解決するための調査・研究、教育、事業支援を行っている。専門はHRM・HRD、システムデザイン、感性工学。
【出典・引用】
「信頼のらせん関係を築く」池田 浩(2022年3月15日生産性新聞 連載)
「安心社会から信頼社会へ:日本型システムの行方」社会心理学者・山岸俊男(中公新書1479)
「テレワークにおける不安感・孤独感に関する定量調査」株式会社パーソル総合研究所
「上司と部下の信頼関係に関する研究」株式会社パーソル総合研究所・九州大学大学院 池田浩研究室
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