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【ナレッジコラム】
マネジメントの未来価値探求vol.003
1on1の真価 ~ただの「傾聴」で終わらせず、組織の成果につなげる個別支援の技術~

公開日:2026.01.30

スペシャルコンテンツ

ナラティブ・エル・セッションズ合同会社 代表
著者/組織開発・人材開発コンサルタント
成瀬 岳人 氏

HRエキスパートのナレッジをお伝えする『ナレッジコラム』。著者/組織開発・人材開発コンサルタントで、マネジメントの探究コミュニティ「Narrative“L”Sessions」を主催する成瀬岳人氏による「マネジメントの未来価値」について6回連載でお届けします。
昨今、マネジメントは“罰ゲーム”と揶揄されていますが、本コラムでは マネジメントのやりがいや学び、成長など、重要性やポジティブな側面に陽の光を当てていきます。
第3回は「1on1の真価 ~ただの「傾聴」で終わらせず、組織の成果につなげる個別支援の技術~」です。

▼バックナンバーはこちら
vol.001:マネジメント・キャリアに陽を当てる ~人と組織を幸せにできる管理職の可能性~
vol.002:指示・命令は時代遅れ? ~組織を活かす「対話の力」の本質~

1on1の真価 ~ただの「傾聴」で終わらせず、組織の成果につなげる個別支援の技術

「1on1(ワン・オン・ワン)ミーティング」という言葉が日本企業に定着して数年が経ちました。多くの企業で制度として導入され、カレンダーには定期的に「1on1」の予定が埋まっています。しかし、現場のマネジャーからは、依然としてこんな悲鳴にも似た本音が聞こえてきます。
「業務が忙しくて、単なる会話の時間がもったいない」「何を話せばいいか分からず、沈黙が怖い」「メンバーからも『特に話すことはないです』と言われ、結局進捗確認で終わってしまう」
なぜ、多くの現場で1on1が「義務化された苦行」になってしまうのでしょうか。
それは、「1on1を行うこと(手段)」が目的化し、「なぜ、わざわざコストをかけて1対1で話す必要があるのか(目的)」という本質的な問いが置き去りにされているからです。さらに言えば、「1on1=メンバーの話を優しく聴く場(傾聴)」という表面的な理解が、マネジャーの手足を縛っているようにも見えます。
もちろん「聴くこと」は重要です。しかし、マネジャーがひたすら聴き役に徹し、メンバーのガス抜きをすることだけが1on1のゴールではありません。ましてや、小手先のテクニックで「うんうん」と相槌を打つだけでは、現場の状況は何も変わらないのです。
今回は、1on1を単なる対話の場で終わらせず、「共通の目的」に向けて共に状況を前に進めるための「成果創出の場」に変える方法について、私自身の実体験と失敗談を交えて探求していきます。

1on1の目的は「話を聴くこと」だけではない

そもそも、なぜ組織において、これほどまでに1対1の対話が重要視されるようになったのでしょうか。少し視座を上げて考えてみましょう。
かつての「工場モデル」の時代、つまり正解が明確で、効率的な生産が求められた時代には、上意下達の「指示・命令」が最も合理的でした。マネジャーが正解を知っており、メンバーはそれを実行する手足であればよかったからです。
しかし、現代は「VUCA(変動性・不確実性)」の時代です。顧客のニーズは複雑化し、現場で起きている課題の「正解」はマネジャーの頭の中にはありません。むしろ、最前線にいるメンバーの頭の中や、顧客との接点にこそ、解決の糸口が潜んでいます。
このような環境下では、マネジャー一人で課題を解決することは不可能です。メンバーの状況を把握し(関係構築)、彼らが持つ一次情報を引き出し(現状把握)、そして「我々は何を目指すのか(目的の共通化)」を握り直すプロセスが不可欠になります。
つまり、1on1とは「上司とメンバーが仲良くなる場」ではありません。不確実なビジネス環境の中で、二人で同じ「コト(課題や目標)」を正視し、解決策を共創するための「景色合わせの場」なのです。関係性の構築(心理的安全性)は、あくまで成果を出すための「土台(手段)」であり、それ自体が「目的」ではないということを、まずは強く認識する必要があります。

実践知:「関係性」から「成果」へつなげた2つの転換点

では、具体的にどのようにして「関係構築」から「ビジネス成果」へと橋渡しをすればよいのでしょうか。私がマネジメントの現場で直面し、悩みながら乗り越えた2つの事例をご紹介します。

ケース1:相談してくれない新入社員
~「心理的安全性」を「リスク回避とスピード」に変える~

かつて、複数名の新入社員をチームに受け入れた時のことです。私は彼らに対し、最大限の配慮を持ってこう伝えていました。「困ったことがあったら、いつでも何でも相談してね」。しかし、数週間経っても、誰も相談に来ません。明らかにPCの前で手が止まっていたり、表情が曇っていたりするのに、声をかけると「大丈夫です。頑張ります」としか返ってこないのです。このままでは、プロジェクトの潜在的なリスクに気づけず、手を打つのが遅くなってしまう。私は焦り、悩みました。なぜ彼らは相談してくれないのか。そこで私は、1on1のアプローチをガラリと変え、「自己開示」から始めることにしました。
「実は私も新人の頃、新しいプロジェクトで『何が分からないかも分からない』状態になったことがあるんだ。それを言い出せずに放置してしまい、結果的に納期を遅延させ、先輩たちに多大な迷惑をかけた。あの時、一番辛かったのは、怒られることよりも『できない自分』を認めることだったよ」。
私の失敗談を話すと、彼らの表情がふっと緩みました。そして、「実は…」と、整理されていない現状をポツリポツリと語り始めてくれたのです。

【学んだ教訓】 ここで重要なのは、「失敗談を話して距離が縮まった、よかったね」という感情の話ではありません。 私が自己開示した真の意図は、「『自分を完璧に見せること』よりも『悪い情報を早く共有し、プロジェクトを前に進めること』こそが、我々の共通目的だ」というメッセージを、行動で示すことでした。
私の失敗談が呼び水となり、彼らは「弱音を言ってもいい。整理されていなくてもいい」と思ってくれました。その結果、隠れていたリスクが早期に露呈し、チーム全体でフォローに入ることで、ビジネス上の損失を未然に防ぐことができました。 ここでの心理的安全性は、単なる優しさではなく、「リスクコントロール」という成果につながるプロセスとして機能したのです。

ケース2:心を開いてくれないベテラン社員
~「個人の尊重」を「組織知の継承」に変える~

ある部門統合の際、業務が属人化しているベテラン社員(年上)のマネジメントを担当することになりました。彼の業務はブラックボックス化しており、もし彼が倒れたら事業が止まってしまうリスクがありました。業務プロセスの標準化(マニュアル化)が急務でした。しかし、彼は職人気質で気難しく、会議室での1on1は会話すら続きません。正論で「業務の棚卸しが必要です」と迫れば迫るほど、心のシャッターが降りていくのを感じました。「俺の仕事をなくす気か」という警戒心もあったのでしょう。
そこで私は、あえて「環境」と「主従関係」を変えることにしました。「行ってみたい喫茶店があるんです」と彼を外に誘い出し、業務の話を一切やめてみたのです。すると、彼のご実家が喫茶店を経営していたこと、そして彼自身がコーヒーに造詣が深いことが分かりました。私は素直に教えを請いました。「コーヒーのこと興味あるんです。教えてくれませんか?」。コーヒーについて熱く語る彼は、普段の頑固な姿とは別人のようでした。 ただ、これも「コーヒーの話で盛り上がって終わり」ではありません。
彼のリスペクトできる一面(探究心やこだわり)に触れ、人間としての信頼関係を築いた上で、私は改めてこう切り出しました。「○○さんのその深い知識やこだわりを、ぜひ業務のプロセス改善にも活かしてほしいんです。〇〇さんが長年築き上げたノウハウを、組織の資産として残すことが、この事業の未来にはどうしても必要なんです」。
人として認められた安心感があったからこそ、彼は私の提案する「業務標準化」という厳しいビジネスの要請を受け入れてくれました。結果、その後もいろいろありましたが、3ヶ月ほどで情報が整理でき、属人化のリスクが解消され、事業の継続性が担保されるという成果につながりました。

「対面」から「景色合わせ」へ:成果を生む対話の構造

これら2つのケースを通じて、私は1on1における重要なことを学びました。それは、最初は互いに向き合う「対面」から始まり、最終的には二人で同じ方向を見る「景色合わせ」へと移行するプロセスです。
成果が出ない1on1は、ずっと「対面」で会話をしているか、あるいは関係構築を飛ばしていきなり「合意形成」を強要しようとしています。成果を生む対話は、以下の3ステップで進化します。

  1. 受容
    まずは相手の状況、感情、背景を受け止めるフェーズです。「Doing(何をしたか)」ではなく「Being(どういう状態か)」に関心を寄せます。ここで信頼の土台を作ります。マネジャーから自己開示することで、状態を話しやすくすることも効果的です。


  2. 目的の共有
    関係性ができた段階で、視点を切り替えます。「いろいろ大変だよね」で終わらせず、「で、私たちはこの仕事を通じて、何を実現したいんだっけ?」「チームの目標に対して、今の課題はどう影響している?」と問い直し、視座をビジネスの目的へと引き上げます。


  3. 共創
    共通の目的に対して、二人で肩を並べて解決策に向き合います。「そのために、私ができることは何か? あなたが来週までにやるべきことは何か?」を合意し、具体的なアクションを決めます。

ここまで到達して初めて、1on1は「ビジネスの機能を果たした」と言えるのです。

現場マネジャーが実践できる「成果への一歩」

さて、ここからが本題の「実践編」です。 1on1の中で、相手にとって耳の痛いこと(改善要求や高い目標)を伝えなければならない場面は必ず訪れます。関係性を壊さず、かつ相手の行動変容を促すための「建設的な対話」に、3つの実践法を提案します。

実践1:まずは「自己開示」から始める
メンバーが本音を話さないのは、マネジャーが「鎧」を着ているからです。 まずはあなたから、「最近、ここが上手くいかなくて悩んでいるんだ」「昔、こんな失敗をしてね」と、自分の弱さや人間らしさを少しだけ見せてみてください。 「上司も完璧ではない」という事実を示すこと。これが、相手の緊張を解き、心理的安全性を生み出す最強の呼び水になります。

実践2:「問いかけて聴く」(相手の景色を見る)
自分の言いたいことを伝える前に、まずは相手の頭の中にある「景色」を共有してもらいましょう。「最近、ミスが続いているようだけど、あなたの側からは今の状況はどう見えている?」「あなたが今、仕事で一番『楽しい』と感じる瞬間はいつ?」マネジャーから見える景色と、現場のメンバーから見える景色は必ず異なります。一方的に断罪するのではなく、問いかけを通じて相手のレンズを借りてみる。 その姿勢が、「分かってもらえた」という深い納得感を生みます。

実践3:「建設的フィードバック」(許可+“I”メッセージ)
関係性ができたら、いよいよこちらの意見(要求や高い目標など)を伝える場面です。ここでは2つのステップを踏んでください。

  • ステップ1:「許可」を得る
    いきなり本題に入ると、相手は身構え、防御態勢に入ります。「これからの成長のために、少し厳しい話になるかもしれないけれど、率直に伝えてもいいかな?」この一言があるだけで、相手は「聴く姿勢」を自ら作ることができます。相手の心の準備を待つこと。これも重要なリスペクトです。
  • ステップ2:「I(アイ)メッセージ」で伝える
    「(あなたは)なんで報告しなかったの?」という「Youメッセージ」は攻撃的に聞こえます。主語を「私(I)」に変えてみてください。 「報告が遅れたことで、私(I)は顧客への対応が遅れないかとても心配したし、信頼を損なうのではないかとヒヤヒヤしたよ」 このように、事実と「自分(私)が受けた影響・感情」をセットで伝えることで、相手の人格を否定することなく、行動の改善を促すことができます。

いきなりすべてをうまく実践しようとせず、まず、ひとつでもメンバーとの1on1で実践してみください。

成果を生む1on1へ:「景色合わせ」の技術

■なぜ対話は1on1は「苦行」になるのか?

目的が「仲良くなること」にすり替わっている
関係構築は成果を出すための「土台」であり、それ自体が目的ではありません。

「ただ聴くだけ」の傾聴で終わっている
メンバーのガス抜きをするだけでは、現場の状況は何も変わりません。

景色がずれたまま話している
現代の課題の正解は現場にあり、マネジャー一人では解決不可能です。

■明日から使える!建設的対話の3つの実践法

1.まずは「自己開示」から始める
自分の弱さや失敗談を見せることが、相手の心理的安全性を生み出します。

2.「問いかけて聴く」
質問を通して相手のレンズを借り、相手から見える「景色」を理解します。

3.「許可+Iメッセージ」で伝える
「伝えてもいい?」と許可を得てから、「私は…」を主語にして要求を伝えます。

※筆者&AI作成

マネジメントの未来価値:共に未来を切り拓くパートナーとして

AIが進化し、業務の効率化が進むこれからの時代。進捗管理や数値報告といった「過去の管理」は、いずれテクノロジーに代替されていくでしょう。だからこそ、人間に残されたマネジメントの真の価値は、正解のない状況下で、メンバー一人ひとりの「迷い」や「葛藤」に寄り添いながらも、あえて「高い基準(目的)」を示し、そこに向かって共に泥臭く前進することにあります。ただ優しいだけの上司では、人は育ちませんし、事業も伸びません。 信頼関係という強固な土台の上で、「成果」という厳しい現実に共に立ち向かうパートナーシップを築くこと。それこそが、これからのマネジャーが1on1という場を通じて生み出すべき「未来価値」なのです。あなたの1on1が、単なる対話から、未来を創る「景色合わせの場」へと変わることを願っています。

次回vol.004では、「マネジメントのキャリア自律~他者の成長支援が自分の可能性を拓く」をテーマに、メンバーの前に先ずマネジメント実務者が自分自身のキャリアに向き合う必要性について探求していきます。

Profile

ナラティブ・エル・セッションズ 成瀬 岳人 氏

ナラティブ・エル・セッションズ合同会社 代表
著者/組織開発・人材開発コンサルタント
成瀬 岳人 氏

22年間のサラリーマン経験を経て2025年4月に独立し、マネジメントの探求コミュニティ「Narrative "L" Sessions」を主宰。事業構想修士(MPD)と実務教育学修士(MPE)の二つの修士号を持つ。現在は一般社団法人プロティアン・キャリア協会CDOや「全員マネジメント」を標榜する株式会社NOKIOOのパートナー講師も務める。主な研究テーマは「ウェルビーイング」「マネジメント」「AI」。

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