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「分かり合えない」を乗り越えよう!アサーティブコミュニケーションで信頼を築く

公開日:2025.04.25

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HRナレッジライン編集部が、管理職の皆さんのお悩みについて一緒に考える「管理職は悩ましい」シリーズ。今回は「アサーティブコミュニケーション」についてです。

管理職の皆さんは日々さまざまな業務に追われる中、以下のようなことで悩むことはありませんか。

  • 部下へ熱心に想いを伝えても理解されていないように感じる
  • 注意や指導を行うとき、思わずきつい言い方をしてしまうことがある
  • 部下から言われる内容が理解できない。分かり合える未来が見えなくて困っている

コミュニケーションは双方でとっていくものですが、上司が少し気を付けていくことで職場の雰囲気は変わっていきます。
コミュニケーションにおいて「困った!」を解決する方法の1つとして「アサーティブコミュニケーション」というコミュニケーション方法があります。
今回は上司と部下が分かり合えるためのコミュニケーション方法「アサーティブコミュニケーション」について深堀りしていきます。

職場のコミュニケーションの実態

上司が部下とのコミュニケーションで戸惑うことが多いですが、部下はどのように感じているのでしょうか。パーソル総合研究所の「職場の対話に関する定量調査」によると、職場内の職位によって、職場の対話状況への認識ギャップが極めて大きいことが分かりました。一般社員・従業員は本音を出せていないなと感じ、役職の高い事業部長や役員は自分も本音を話せていると感じています。

引用:パーソル総合研究所|職場の対話に関する定量調査

また職場内の本音で話しにくい人の特徴をヒートマップで属性別に見たところ、すべての項目で「上司」が最も高くなっていました。

引用:パーソル総合研究所|職場の対話に関する定量調査

上記調査結果からも上司と部下では、職場での対話状況への認知のギャップがあると言えるでしょう。 では、上司はどのように部下とコミュニケーションを取っていけばよいのでしょうか。コミュニケーションの1つとして「アサーティブコミュニケーション」が有効です。

アサーティブコミュニケーションとは

アサーティブコミュニケーションとは、価値観や立場の異なる相手を尊重しつつ、自分の要望や提案を誠実、率直に、対等に伝えながら、問題解決をはかる対人関係のコミュニケーションです。 アサーティブ(assertive)とは「自己主張する」という意味ですが、自分の主張を一方的に述べることではありません。相手の意見も尊重しながら、自分の意見や要望を伝えることを指します。

相手との関係における3つのコミュニケーションスタイル

相手との関係性においてアグレッシブ(攻撃的)、パッシブ(受動的)、アサーティブ(主張的)の3つのコミュニケーションスタイルがあります。

アグレッシブ aggressive
(攻撃的)
パッシブ passive
(受動的)
アサーティブ assertive
(主張的)
相手と自分の関係 win(自分)-lose(相手)
自分のほうが大切
lose(自分)-win(相手)
自分よりも相手が大切
win(自分)-win(相手)
自分も相手も大切
コミュニケーションの特徴 相手に対して攻撃的な主張をする。相手を言い負かして、自分の意見を通そうとする。 受け身の姿勢であまり自己主張をしない。人に物事を決めてもらうことが多く、自分の意見は引っ込めてしまう。 相手の言いたいことを正しく理解し、自分の言いたいことも伝える。相手を尊重しつつ、自分の意見を伝える。

このアサーティブの考え方は1950年代に米国で心理療法として始まり、1960年代に米国の公民権運動でバランス感覚を持っていかに自己主張をしていくかを探る中で発展しました。そのため、相手を尊重しつつ、自分たちの権利を主張するコミュニケーションスキルとして定着しています。アサーティブコミュニケーションとはこのアサーティブ(主張的)な手法により、部下とのコミュニケーションを図っていく手法です。

なぜアサーティブコミュニケーションが有効なのか

企業の管理職は昨今、はたらき方の多様化や雇用の在り方の変化、業務のやり方自体の変化により、本来の役割である組織のマネジメントに加え、メンタルヘルス、ハラスメント、ダイバーシティ推進やテレワーク推進など、さまざまな課題に直面しています。
こうした変化の時代には、上司と部下のコミュニケーションにおいて納得感や共感のないやり取りになりがちであり、そこに気持ちのズレが生まれます。こうした気持ちのズレが職場の不活性化やトラブル、人材の流動化につながります。上司は謙虚さと自己主張のバランスをうまく取りながら、相手に納得感を持たせられる、本当の意味での強さを身につける必要があるのです。
また、アサーティブコミュニケーションはこうして円滑なコミュニケーションを実現するだけでなく、部下の意見を引き出し、理解し合えるようになることにより、新たな発想を生むといったイノベーションを促進できるメリットもあります。

職場でアサーティブコミュニケーションが求められる背景

理由 内容
働き方改革およびダイバーシティ対策 はたらき方の多様化やダイバーシティの推進により、個々の立場が多様化する中で、以前にも増して互いの考えや立場を伝え合うことがより大切になっている。
メンタルヘルス対策 メンタル不調の主な原因として人間関係が挙げられている。アサーティブはもともと心理療法であり、メンタルヘルス面で効果が望める。
ハラスメント対策 ハラスメントは上司からの一方的なマネジメントによって起きることが多い。アサーティブの相手を立てるコミュニケーションによって、ハラスメントを防止できる。
テレワーク対策 オンラインでのコミュニケーションでは、互いの考えや気持ちを把握することが難しくなっている。アサーティブな接し方により互いの考えや気持ちを探ることができるようになる。
イノベーションの推進 互いがアサーティブな関係になることで、相手の意見を引き出し、理解し合えるようになり、新たな発想を生むといった創造的なプロセスを促進する。

上司が持つべき心構えとは・4つの柱

そもそも部下が納得感を持って仕事ができるためには、どんな環境・状態が必要でしょうか。仕事において部下とのすれ違いが起こる要因には次のようなものがあります。

  • 仕事全般における重要性や意義を共有できていない
  • その業務の必然性や意義を共有できていない
  • 上司の指示に対する部下の捉え方にズレがある
  • 指示を出す上司に対して、部下からの共感がない
  • 業務における課題や問題点を共有できていない
  • 業務の成果に対して、上司から部下へのフィードバックが行われていない

こうした状況下ではお互いを尊重する意識が薄くなり、業務を進めるうえで共通に持つべき認識を持てていないことがすれ違いの大きな要因となっています。
部下が納得感を持って仕事ができるようにするには、 上司は部下と真摯に向き合い、自分の気持ちをストレートに、また、誤解のないよう正確に伝える 必要があります。
そのために上司が持つべき心構えは「誠実さ」「率直さ」「対等の意識」「自己責任」です。互いにフェアな立場で意見を言い合い、互いを尊重し合える関係性を目指します。

  • 誠実さ:自分自身に正直であり、自分に対しても、相手に対しても気持ちを偽らない
  • 率直さ:自分の思いを素直に表現しながら要求を伝える
  • 対等の意識:自分と相手は対等と考え、相手を見下さず、卑屈にならず、互いを尊重する
  • 自己責任:言った責任、言わなかった責任は自ら引き受けるといった自己責任の姿勢を持つ

アサーティブコミュニケーションの実践方法

では具体的にアサーティブな接し方はどのように行えばよいのでしょうか。

実践する4つのステップ

コミュニティ講師として数多くのセミナーを行う桑野麻衣氏は、アサーティブを実践する4つのステップとして、下記を挙げています。

  1. 互いがwin-winになる関係性を目指す
  2. 率直さ:自分の思いを素直に表現しながら要求を伝える
  3. 相手の話を傾聴する
  4. 相手を尊重した自己主張を行う

部下と自分の関係を俯瞰ふかんしながら、自分の気持ちをきちんと把握して、それを誠実に伝えていくことが、結果として、誤解のない尊重し合える関係性の構築につながります。

ステップ 内容
1)互いがwin-winになる関係性を目指す 互いのwin-winな関係を目指し、長く良好な人間関係を築くことを最優先に考える。そのうえで「自分のwin」「相手のwin」「自分のlose」「相手のlose」の4つが存在することを認識し、それが何かを言語化する。
2)自分の気持ちをいったん自分の中で言語化する 自分の感情を抑えたりせずに、自分に感情が生じたときに「私は」とつけて、それを言語化してみる。「私が今〇〇と思った。なぜなら〇〇だから」と文章にして自分の感情と向き合う。
3)相手の話を傾聴する 傾聴の目的とは、目の前の相手に向き合い、相手の伝えたいことを相手の意図するそのままの枠組みと温度で正しく捉えること。相手の話を聞きながら、「この人が大事にしている価値観は何か」「何を自分に伝えたいのか」を考えながら話を傾聴する。
4)相手を尊重した自己主張を行う 1~3が構築されていることで相手は抵抗なく自分の主張を聞いてくれるようになる。DESC法などを用いて、客観性を持ち、相手の気持ちを大切にしながら、自分の素直な感情を表現しつつ自己主張を行う。

※桑野麻衣『オンラインでも好かれる人・信頼される人の話し方』クロスメディア・パブリッシング(インプレス)を参考に作成

DESC法

アサーティブコミュニケーションでは、率直で誠実な意見の伝え方を目指すDESC法の活用が有効です。DESC法は米国の心理学者が考案した、相手に論理的に話を展開し、相手の感情に訴えられる伝え方の手法です。 「描写する→表現する→提案する→選択する」のステップで話すことで、相手を観察し状況を客観的に捉え、そのうえで自分の考えを伝え、論点を確認しながら最良策を導けるようになります。 ここで大切なことは、 相手の気持ちを大切にしながら、あくまでも客観性を保ち、その中で自分の素直な感情を表現することです。

DESC法による話し方のステップ

要素 内容
D:Describe(描写する) 状況を客観的に観察し、事実を描写する。相手の意図や自分の気持ちなどは含めない。
E:Express(表現する) 自分の気持ちを率直に伝えて説明する。感情的にならずに正確に表現して伝える。
S:Specify(提案する) 相手に望む行動や解決案、妥協案などを具体的に提案する。
C:Choose(選択する) 相手が決定する行動に応じて、自分がどうするかを選択し、その結果を示唆する。

DESC法による営業メンバーとのやり取りの例

アサーティブコミュニケーションを行うポイント

アサーティブコミュニケーションを効果的に行うポイントは、互いの関係性を重視するため、普段から細やかな言葉遣いに配慮する必要があります。

主語を「あなた」ではなく「私」にしたコミュニケーション

主語を「私(I)」にすることで自分はどう思うかを伝えるようになり、自分の気持ちが伝わりやすくなります。
例:「どうしてあなたは〇〇をやってくれないのか」→「私はあなたに〇〇をしてほしい」

否定的な表現をやめ、建設的、前向きな表現にする

「できない」といった否定的な表現ではなく、「どうしたらできるか」といった前向きな表現に置き換える方法です。
例:「今はできない」→「いつまでならできる」

部下に敬意を示し、部下の長所と期待を伝える

部下をよく観察し、部下の長所や部下への期待を伝えることで、よりよい関係性を構築します。

アサーティブな自己表現ができるようにポイントを押さえる

「自分の気持ちを把握する」「結果や周囲の評価を気にし過ぎない」「固定観念から脱する」「人権を尊重する」「自己表現の引き出しを増やす」など、常にフェアな見方や自己表現ができるようにしておきましょう。

「私」を主語に自分がどう思うのかを伝え、前向きな言葉を用いて健全な雰囲気を醸成しつつ、常に互いの関係性を俯瞰ふかんするといった姿勢が求められます。実際に行うことは難しく感じるかもしれませんが、やってみると少しの工夫や配慮で、相手の受け止め方に大きな違いが生まれることに気づくはずです。

何でも言い合え、分かり合えるチームへ

変化の時代だからこそ、上司は「今何を思っているか」といった気持ちを部下に伝えることがより重要になっています。部下に自分の気持ちや考えを誠実に伝え、仕事に納得感を持ってもらうことが、互いの信頼性の向上やチームの成長、上司としての成長につながります。アサーティブ・リーダーシップを実践して、皆が何でも言い合える健全な組織の構築を目指していきましょう。

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