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【人事ライン】
野村不動産 鵜川氏
どこの会社にもある「人事」だからこそ、新しい風を吹かせ「らしさ」を創る

公開日:2025.11.27

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野村不動産ホールディングス株式会社
野村不動産株式会社
人事・人材開発部長
鵜川 里絵 氏

「他の会社の人事ってどうやっているんだろう」「同じような悩みを抱えているのかな」さまざまな企業の人事パーソンインタビュー『人事ライン』。今回は野村不動産ホールディングス株式会社・野村不動産株式会社 人事・人材開発部長 鵜川里絵さんです。
事業側から人事に異動をして1年半。野村不動産ホールディングスと野村不動産を兼務されている鵜川さんが人事という仕事にどのように考え、向き合っているかをお話いただきました。

― 今までのキャリアを教えてください。

大学時代は都市計画、街づくりを学んでいたということもあり、新卒で入社したのは鉄鋼会社の不動産部門でした。そこでは分譲マンションの開発に携わり、2年程経験した後、転職しました。その後、外資系ラグジュアリーブランドの日本支社で店舗開発を5年程経験し、現在の野村不動産に入社しました。
最初はオフィスビルなどの開発部署に約8年間在籍し、その間に産育休を2回取得しました。12年ほど前になりますが、その後、再開発事業を担う新しい本部が立ち上がり、課ごと異動しました。再開発事業は地域と大きく関わる仕事で、住宅やホテルを建設するにあたり、都や区などの行政機関と協議したり、社内の関連部署を交えて施設計画を検討したり、地域の地権者と計画について話し合ったりしていました。10年程、再開発事業に携わった後、2024年の春より現在の人事部門に異動し、約1年半が経ちました。

― 人事は今までのキャリアとは異なる部門になりますが、希望をされたのでしょうか。

多くの事業に携わる中、事業判断がどのようになされるのかに興味があり、経営企画のような仕事をやりたいと希望を出していたので、それがきっかけになったのかもしれません。
また、だいぶ昔になりますが、女性が少ない会社だったこともあり、採用活動のセミナーに呼ばれたり、ダイバーシティを進めるタスクフォースのメンバーになったりと、人事との接点が多かったからなのかなと思っています。

― 人事部門の体制と鵜川さんの役割を教えてください。

私が着任した当時の人事部門は、2部体制で各部に部長がおり、メンバーが30人ずつだったのですが、2025年の春、一つの部に統合され、領域・人数ともに倍の部になりました。部は6チームに分かれていて、少し凸凹はありますが、平均的には1チーム10人くらいの編成です。

役割としては、社長、副社長、本部長などの経営層とのパイプ役が半分。あと半分は、人事の各チームが業務分担的に縦割りになりがちで、横の連動が足りない場合があるので、「ここは一緒にやったほうがいいかな」とか「ここがちょっと矛盾しているから、2チームで一緒に検討を進めよう」とか、全体を見る中で潤滑油のような役割をしています。

― 人事になって1年半、専門的なことも多いと思いますがどのように覚えていきましたか。また、どのような想いを持って仕事をされているのでしょうか。

覚えるというよりは、一緒に走ってもらって、その中で細かいことより少し引いて全体を見て、気付くことを発信しています。今のところそういう役割ぐらいしかできていないのですが、一巡すると、自分なりの考えを持って、もう少し細かく「こうしたらいいんじゃないか」ということが言えるようになるのではないかと思っています。
私は新卒入社ではなくキャリア入社であったり、産育休など子育てをしている時期があったりで「自分は戦力になっているだろうか」と思うような時期も経験して、今ここにいます。

そういう意味では、過去と同じことをやっていても会社を変えるということにはならないのかなと思うので、何かしら会社がいい方向に変わるきっかけに、自分がなれたらいいなという想いを持って人事の仕事に向き合っています。

― 人事にきてから分かったことや感じたことはありますか。

事業部門にいたときには、そのプロジェクトを「いかに前に進めるか」「収益性を高めるか」など、集中して前に向かっていくような感じでした。人事に来たことで「会社全体の課題は何なのか」とか、その未来を1年後2年後ではなく、5年後10年後に据えてできることを考えようとしたり、視野を広く持つようになりました。直接不動産に携わる仕事から離れた寂しさもありましたが、異動を通じて、視野が広くなり変化があったことは自分にとって成長のチャンスだと思っています。

人事の仕事は社員のエンゲージメントが上がったとか、成果が目に見えるのが、すごく先であることが多いですが、その中で小さなプロジェクトを回しているのが人事なのかなとも思っています。例えば、一つのサーベイを実行するだけでも、どういう内容がよいか、どうやって社員に周知するのか、どのようにフィードバックするのかなどを検討して、実行して、という流れなので、一つひとつのサーベイに対して評価をできますし、やりがいも感じられます。

また、当社はずっと人事という人は少ないんです。現場から人事に異動してきている人が多く、現場の困りごとなどを体感できる人ばかりなので、そこは自分も含めてよいところだと思っています。一方で専門家がいないという意味で、手探りのことも多い。例えば、人的資本経営という新しい考え方が入ってきて、それを当社ではどういうことに置き換えていけばいいのかということに、手探りでスピードとしてはゆっくり進んでいるようなところがあるので、一長一短かなと感じています。

― 現場と人事の距離感やコミュニケーションはいかがでしょうか。

どこの会社でも同じようなことがあるのかもしれませんが、一社員からしたら、人事は遠い存在かもしれません。
自分にとっても人事の存在は、なんとなく「いろんな制度を運用している人たち」だったり、「採用活動している人」「研修をしてくれる人」みたいなイメージで、戦略的に会社の成長のためのアプローチをしていることなどは、人事に来なければ知ることもありませんでした。
現場とのコミュニケーションという意味では、人事が社員の状況を確認する「人事インタビュー」という活動をずっと行ってきています。最近は社員数が増えてきて、全員ではなく手上げ制になっていますが、社員との対話は、日々の業務に忙殺されても後回しにせず、忘れずに60人全員で進めていきたいなと思う活動の一つですね。
他社の人事部門の方と話しても、そういったところを重視されているケースをよく伺うので、表面的な策を講じるのではなく、やっぱり声を聞くのが本当に最初の最初なのだなと感じます。

― 現場に人事から発信することも多いと思いますが、工夫はされていますか。

人事からの発信は、年末調整や人事評価などの日常的なものも含めて多いので、社員の負担にならず関心を寄せてもらうにはどうすればよいかという点はずっと課題としてあります。
同じような時期に違う部門で発信を考えていたら一緒にして発信回数を減らしたり、時期を離したり。いつも発信は人事ばかりと思われないように工夫をしたり・・・社員からの見え方を考えた発信をしようといつも話しています。
ただ、それ以上のことがなかなか難しく、例えば「イントラでこういうのを発信したいね」という話がよく出るのですが、「それって本当に社員が見てくれるのか?活用されるのか?」という疑問がすぐ湧いてきて、まだ方針が定まっていないこともあります。自分も含めて「事業部門にいた時はどうだっけ?」と思い出すと、「忙しいから人事の発信は斜め読みだった」とかそういう意見がすぐ出てきますね。逆に、人事経験者がまた現場に散らばっていくので、連携したり必要な発信に注意してもらったりということもできています。

― 経営層とのコミュニケーションはいかがでしょうか。

各部門の役員や部長とのコミュニケーションはあるほうなのではないかと思います。
先程、人的資本経営という話を出しましたが、今はそれを当社仕様に仕立てているようなフェーズです。今年度はグループ人事戦略室という、個社ごとではなくグループ全体での人材戦略を考え推進する組織を作りました。その過程で、ビジョンや重点的に取り組む課題は何なのか、というようなことを経営層とひざ詰めで議論をしてまとめることができ、そのようなフェーズに人事として立ち会えていることは私自身にとっても貴重な経験でした。

― 現場と経営層、双方とのコミュニケーションが発生しますよね。

バランスが必要だと思っています。経営との対話もそうですが、社員一人ひとりの困りごとに向き合うという場面もすごく多い。その困りごとは、表面的にその場を解決するだけでは駄目で、根本の原因について議論をしたり、解決策を考えたりしなくてはいけない。人事は、経営層と社員、事業の成長も考えながら社員の成長も考えるとか、両輪で考えていく部署だと思っています。

― 野村不動産と野村不動産ホールディングスを兼務されています。

人事だけでなくコーポレート部門は他の部署も、野村不動産ホールディングスと野村不動産を兼務しています。半分は野村不動産の二千数百人のことを考えて、半分はグループ約9千人のことを考える。
個社とグループ、どちらで考えていけばよいのかということ、例えば、「ビジョン浸透のような施策であれば、共通項が多いのでグループでやっていきましょう。ただ、タレントマネジメントなどは個社ごとに課題感が違うからそれぞれにやらなくてはいけないね」というふうにやれているので、兼務することで実際に即した形での整理がしやすくなっているのかもしれません。片方だけだと隙間があったりダブりが出たりしがちですが、兼務をすることで全体最適で考えることができていると思います。

ホールディングスの人事としては、グループの人材戦略において、沢山ある施策の優先順位をつけたり、グループ会社の理解を獲得しながら施策を進めていくことは、そう簡単ではないなと実感しています。
野村不動産単体の人事としては、以前はマンションとビル事業が主軸だったのですが、ホテルやシニア住宅、また海外での事業など領域がかなり広がってきているので、そこにどうやって適切な人材を送り込み、配置していくのか、全体として最適な形にしようというマインドを経営層にどのように持ってもらうかなどでしょうか。
さまざまなことを同時に考えていかなければならないですし、簡単には動かないものだなと今感じているところです。

― グループ間での人事交流はあるのでしょうか。

今まさに整理をし始めているところです。数百人の単位でグループ内での出向はしていますが、戦略的に決められているか、それが出向者の後のキャリアに活かされているかというと、そうではないケースも散見されているので、整理しないといけないという話をしています。
そうは言っても、日常の仕事をする中でグループ会社間でのやり取りは多いので、全く知らない環境に突然出向という人は少ないと思います。例えば、マンションの管理規約を作成する際に、将来を考えた提案ができるように、管理部門から出向で来てもらったり。そのような部署同士の人材交流は多いですね。

― 着任してから今まで、約1年半をどのように感じていますか。

今は、慣れることで精一杯なので、「成果を上げたな」という実感を得られるのはまだ先ですね。人事ってどこの会社にもある機能だからこそ、先進事例なども多岐に渡りたくさんあって。そういうものを一つでも取り入れて、新しい風を吹かせられたらいいなと思っています。
例えば、今年度は新経営計画が発表されたことあり、ビジョン浸透に力を入れています。他社の事例やいろいろな方のアドバイスを元に施策を講じて、検証を行ったり、それをまた部門ごとで議論してもらったりしています。「欠けているようなところを埋めていく」ところから始めていくことで、「新しい風」の入り口に立てるような気がしています。

― 人事部門として、またご自身として、これからをどうしていきたいですか。

まだまだ当社としてどうやって人的資本の価値を上げるのかなど、道半ばなので、何かしらの形で「裏付けを持ってできました」と言えるような、そんなところに持っていけたらいいなと思っています。また、社員が「ここではたら」いてよかったな」と感じる組織にしていきたいと思います。

自分としてはゆくゆく、また不動産に関連した何かしらの仕事に戻る時がくるのかなというイメージを持っています。不動産開発の事業環境は変化していて、ビルやマンションをどんどん建てられる時代ではなくなってきている。事業を変革しなくてはいけないとしたら、そのきっかけ作りや新しいことを発想できるような人材になれたらいいなと思っています。人事に来て、視野を広げることができているので、それを自分の成長につなげられたら。
人事は、経営層とも現場ともさまざまな方向でコミュニケーションを取り、全体を見渡して把握しなければならないところ。そういう意味では今まで話したことがないような人や経営陣とも接していろいろな話ができるので、すごく吸収できることが多いと思っています。

― 最後に、人事部メンバーに対して鵜川さんが思うこと、していきたいことを教えてください。

知ることが大事だと思っているので、まずは一人ひとりと対話したい、1年に1回は全員と一対一で話をする機会を作っています。「今、どう?」とか「どういうふうになりたい」とか、個々に全然違いますし、私に伝えたいことも違うので、ひたすら耳を傾けたいですし、その中で、必要に応じて元気づけたり背中を押せたらいいなと思っています。
また、人事もチームプレーなのだなとすごく感じています。チームプレーだからこそ、一人ひとりが自分の領域を一歩飛び越えて役割を担うようになること。そうすると、全体になったときによりよいチームになるはずです。これは、人事に来る前からずっと思っていることで、これからも少しずつ伝えていくつもりです。

不動産開発の現場から人事部門に異動して1年半。その違いを感じ、学び、人事にいる意味を、自分自身にも会社にももたらす鵜川さん。「新しい風を吹かせられたら」とおだやかな微笑みを浮かべながら話すその目は、まっすぐで、強い意志を感じました。
「困りごとは、表面的にその場を解決するだけでは駄目で、根本の原因について議論をしたり、解決策を考えたりしなくてはいけない」「経営層と社員、事業の成長も考えながら社員の成長も考える」広い視点と細かい視点を併せ、細やかに向き合うその先に、社員一人ひとりが「ここの会社ではたらいてよかった」と感じる組織につながっていくのでしょう。

Profile

野村不動産ホールディングス 鵜川 里絵 氏

野村不動産ホールディングス株式会社
野村不動産株式会社
人事・人材開発部長
鵜川 里絵 氏

大学では工学部都市工学科にて都市計画、街づくりを専攻。
1999年、鉄鋼会社の不動産部門に入社し、分譲マンション事業推進等を担当。
その後、外資系ラグジュアリーブランドの日本支社で店舗開発を約5年間経験した後、2006年に野村不動産入社。
都市開発部門に7年半在籍し、2度の産育休を経験。その後、再開発事業を担う部門に約10年在籍し、行政協議や地権者の合意形成等を担当、2024年4月より現職。

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