HRナレッジライン

カテゴリ一覧

人事戦略とは?定義・プロセスから最新トレンドまで徹底解説!

公開日:2025.03.13

更新日:2025.04.25

企業の課題

企業の成長を支える「人事戦略」は、単なる採用や評価の枠を超え、人材不足、離職率の増加、DX推進の遅れといった組織全体の競争力を強化する重要な経営課題として注目されています。

しかし、何を基準にどのように戦略を立案すればよいのか、具体的な手法に悩む方も多いのではないでしょうか?この記事では、人事戦略の基本的な定義から策定プロセス、さらには企業が直面する課題を解決する最新の取り組みまでを徹底解説します。

人事戦略とは何か?その定義と目的

人事戦略とはどのようなものなのでしょうか。また、なぜ今、人事戦略が重要視されているのでしょう。

ここでは、人事戦略の定義と目的、そして混同されやすい「戦略人事」との違いについて解説します。

人事戦略の定義

人事戦略とは、採用・育成・配置・評価・報酬など、人材に関するあらゆる施策を通じて、組織の持続的な成長を支えるための包括的な計画のことです。

その目的は、組織の掲げる経営目標や事業戦略を達成するために、必要な人材リソースを確保し、最大限に活用することにあります。

さらに、人事戦略は中長期的な視点を持つことが重要です。具体的には、将来的な組織のニーズを見据えた人材ポートフォリオ*の構築や、組織文化の醸成を行います。

これらの取り組みを通じて、単なる人材管理にとどまらず、持続可能な成長基盤の構築が可能となります。

*人材ポートフォリオ…企業が事業戦略を達成するために必要な人材の現状を可視化し、適切な配置や育成の指針を得るための分析手法のこと。

人事戦略が必要な理由

現代のビジネス環境は、少子高齢化による労働力不足、激化する国際競争、そしてテクノロジーの飛躍的な進化により、かつてないスピードで変化しています。

特に、若年層の労働参加率の低下や、フリーランスやリモートワークといったあたらしいはたらき方の台頭は、労働市場に構造的な変化をもたらし、従来の年功序列や終身雇用といった人材管理手法では対応が困難になっています。

こうした変化に適応しながら、企業が持続的に成長し競争力を維持するための指針となるのが人事戦略です。人事戦略に基づき、以下のような取り組みを実践することが重要です。

項目 内容
適切な人材の確保と定着 優秀な人材を定着させるために、魅力的な報酬体系、キャリアパスの提示、エンゲージメントを高める職場環境の整備が必要。柔軟なはたらき方や福利厚生が重要
多様なはたらき方への対応 フレックスタイム制度、リモートワーク、時短勤務など、個人々のニーズに応じた柔軟なはたらき方を提供し、ワーク・ライフ・バランス向上と社員の満足度向上を図る
柔軟な組織運営 硬直的な組織構造や意思決定プロセスを見直し、変化に対応できるアジャイルな組織を構築。迅速な意思決定とイノベーションの促進を可能にする

人事戦略は、これらの取り組みを体系的に推進し、組織の持続的な成長を支える、まさに経営の根幹を担う重要な役割を果たします。

戦略人事との違い

人事戦略と似た言葉に「戦略人事」があります。どちらも組織の成長に貢献する重要な概念ですが、役割には明確な違いがあります。

項目 戦略人事 人事戦略
役割 経営目標と連動し、人材マネジメントの方向性を定める「上流工程」を担う 戦略人事の方針に基づき、具体的な施策を立案・実行する「実行部隊」の役割を担う
主な活動内容 人材ポートフォリオの構築、組織開発、人材育成のグランドデザインなど、経営層と連携した計画を策定 採用計画の策定、研修プログラムの開発、評価制度の運用、人事システムの導入などの具体的な施策の実行
対象範囲 組織全体の長期的なビジョンと経営戦略に基づく、大枠の計画と設計 現場レベルで実行される具体的な取り組みや施策
影響範囲 経営層の意思決定に直接影響を与え、企業全体の方向性をリードする 部門や現場レベルでの実務を通じて、組織の人材力を高める

戦略人事は「設計図」に例えられ、人事戦略はその設計図をもとに具体的な施策を実行する「現場のプロセス」です。両者が密接に連携することで、はじめて組織の持続的な成長が実現します。

人事戦略策定のプロセス

効果的な人事戦略を策定するためには、計画的かつ段階的なアプローチが不可欠です。

ここでは、組織の目標に合致した人事施策を展開し、競争力を高めるための人事戦略立案プロセスを4つのステップでご紹介します。

STEP1.経営戦略の理解と連動

最初のステップは、企業のビジョンやミッション、経営目標を深く理解し、それらと人事戦略を密接に連動させることです。

例えば、「5年後に市場シェアを20%拡大する」という経営目標が掲げられている場合、その目標達成のために必要な人材のスキルセットや人数を洗い出し、採用・配置・育成の計画を策定する必要があります。

特に、VUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代と呼ばれる現代においては、経営環境が目まぐるしく変化します。そのため、経営戦略と人事戦略を強く連動させることが、これまで以上に重要です。

【具体的なアクション】

  • 経営層へのインタビューや経営計画書の精読を通じて、経営戦略の意図や背景を深く理解する
  • 定期的な経営会議への人事部門責任者の参加を促し、経営と人事の連携を強化する
  • 経営戦略の変更が生じた場合、迅速に人事戦略に反映させるプロセスを確立する

STEP2.人材戦略の策定

経営戦略の実現に必要な人材のスキルや経験、人数、配置を具体的に明確化し、中長期的な視点に立った人材確保・育成のためのロードマップを作成します。

【ロードマップ作成の流れ】

  1. 必要スキルの特定…現在および将来の組織目標を達成するために必要なスキルをリストアップします。
  2. ギャップ分析…現状の人材スキルと目標達成に必要なスキルの間にある差を把握します。
  3. ロードマップの作成…ギャップを埋めるための具体的なステップを時間軸に沿って計画します。

ロードマップは、短期(1年)・中期(3〜5年)・長期(5年以上)といった時間軸で作成すると、より実効性の高い計画となります。

STEP3.施策の具体化

策定した人材戦略に基づき、具体的な施策を設計し、実行に移す準備を行います。例えば、採用計画の立案や育成プログラムの開発、評価制度の整備、タレントマネジメントシステムの導入などが挙げられます。

この段階では、データドリブンなアプローチを取り入れることが重要です。人事データを活用して施策の効果を定量的に測定・分析することで、施策の有効性を検証し、継続的な改善につなげられます。

【有効なフレームワークの例】

  • SWOT分析…組織の強み・弱み・機会・脅威を分析
  • VRIO分析…人材の価値、希少性、模倣困難性・組織を評価し、競争優位の源泉となる人材を特定
  • PEST分析…政治・経済・社会・技術の観点から外部環境を分析し、戦略に影響を与える要因を把握

各施策の効果を測定するためのKPI(重要業績評価指標)をあらかじめ設定しておくことが重要です。

STEP4.実行とモニタリング

最後のステップは、策定した施策を実行し、その効果を継続的にモニタリングすることです。

モニタリングには、HRIS(人事情報システム)やタレントマネジメントシステムなどのHRテクノロジーを活用します。その結果、リアルタイムなデータ収集と分析が可能になり、迅速な意思決定に役立ちます。

人事戦略を通じて競争力を強化したい方は、ぜひ以下のナレッジコラムもあわせてご覧ください。
>>【ナレッジコラム】
成長する企業に求められる中長期の人事組織戦略の重要性、作り方、活かし方vol.003
中長期の人事組織戦略を作るコツ

人事戦略のメリットと期待される成果

人事戦略を導入することで得られる具体的なメリットと、期待される成果について解説します。

採用活動の効率化と人員配置の最適化

人事戦略に基づく採用活動は、必要なタイミングで必要なスキルを持つ人材の確保を可能にします。これにより、採用プロセスが効率化され、無駄な採用コストの削減につながります。

さらに、適材適所の人員配置により、社員の能力を最大限に引き出し、組織全体の生産性向上を実現できます。

組織の柔軟性向上

変化の激しい市場に対応するためには、組織の柔軟性向上が不可欠です。人事戦略に基づき、組織構造や業務プロセスを定期的に見直すことで、柔軟性を実現・強化できます。

例えば、アジャイル型のチーム編成は、迅速な意思決定と変化への適応力を向上させます。また、リモートワークなどの多様なはたらき方の推進は、社員のワーク・ライフ・バランス向上と多様な人材の活用を促進し、組織全体の柔軟性向上につながります。

社員のエンゲージメント向上

社員のモチベーション向上と成長促進は、人事戦略の重要な目的の一つです。明確なキャリアパスの提示や、公正な評価制度の運用は、社員のエンゲージメントを高め、組織の活性化と競争力強化に貢献します。

企業ブランドの強化

効果的な人事戦略は、優秀な人材の獲得と定着に寄与し、企業ブランドの強化につながります。例えば、はたらきがいのある会社としての認知度向上や、ダイバーシティー&インクルージョン(D&I)の推進は、魅力的な企業イメージを構築し、採用市場での競争力を高めます。

コスト削減とROIの向上

人事戦略は、人材関連のコスト削減と投資対効果(ROI)の向上にも貢献します。採用・育成・定着の各プロセスを効率化し、データ分析に基づき各施策の効果を測定することで、継続的な改善と最適化を図ることが重要です。

人事戦略施策の最新トレンド

今注目すべき人事戦略の最新トレンドとその具体的な取り組みを、事例を交えて詳しく解説します。

人事業務におけるDX推進

デジタルトランスフォーメーション(DX)は、人事業務においてもはや避けて通れないテーマです。タレントマネジメントシステム(TMS)やHRアナリティクスなどのテクノロジーを活用し、データドリブンな人事戦略への転換が求められています。

施策

施策 説明
タレントマネジメントシステム(TMS)の導入 社員のスキル、キャリア、パフォーマンスなどの人材情報を一元管理し、採用、育成、評価、配置などの人事プロセスを効率化・高度化する
HRアナリティクスの活用 採用、配置、育成、離職などの人事データを分析し、組織の課題を可視化。データに基づいた人事

活用例

  • TMS上のデータから社員のスキルギャップを可視化。必要なスキルを効率的に習得できる、最適なリスキリングプログラムを設計・提供する。
  • 社員の勤怠データやエンゲージメント調査の結果などを分析し、離職リスクの高い社員を早期に特定。個別にフォローアップを実施することで、人材の流出を防ぐ。

DX推進は単なるツールの導入ではなく、業務プロセス全体の変革を伴います。経営層の理解とコミットメント、そして現場の社員を巻き込んだ推進体制の構築が重要です。

評価制度の刷新

従来の年功序列型の評価制度は、現代のビジネス環境にマッチしづらくなってきています。そのため、多くの企業では、成果や行動を重視した評価制度への移行が進められています。

施策

評価制度 説明
目標管理制度(MBO) 個人やチームごとに具体的かつ測定可能な目標を設定し、その達成度を評価。目標設定と振り返りのプロセスを通じて、社員の主体性と成長を促進する
360度評価 上司だけでなく、同僚、部下、顧客など、多方面から評価を実施。多角的なフィードバックにより、社員の自己認識と他者評価のギャップを埋め、成長を促進する
コンピテンシー評価 成果を出すために必要な行動特性(コンピテンシー)を評価軸に設定し、社員に求める行動を明確化。評価の客観性と納得感を高めるとともに、社員の成長を支援する

活用例

  • 営業職にMBOを導入し、売上目標だけでなく、新規顧客開拓数や顧客満足度などのプロセス指標も目標に設定。達成度に応じたインセンティブ制度と組み合わせることで、社員のモチベーション向上につなげる。
  • エンジニア職に360度評価を導入することで、チームワークやコミュニケーション能力なども評価対象に。多面的なフィードバックを通じて、技術力とヒューマンスキルの両面での成長を促す。

評価制度の刷新は、社員の納得感を得ることが重要です。評価基準の明確化、透明性の高い運用、そして評価者への十分なトレーニングが不可欠です。

人事評価制度については、以下の記事でも詳しく解説しています。
>>人事評価制度とは?導入する目的やメリット、設計方法について解説

リスキリングの促進

技術革新や市場の変化のスピードが加速する中、社員のスキルアップ・能力開発を目的としたリスキリングの重要性が増しています。特に、AIやデジタル技術の普及に伴い、あらたなスキルの習得が急務となっています。

施策

施策 説明
デジタル人材育成プログラム データ分析・AI・クラウドなど、デジタル関連スキルの習得を目的とした研修プログラムを実施。将来必要とされるデジタル人材を育成する
社内ジョブローテーション 異なる職務を経験させることで、幅広い知識とスキルを習得させ、環境変化への適応力と、社員のキャリア形成を支援する
自己啓発支援 資格取得や外部セミナー受講など、社員の自己啓発を積極的に支援。社員のスキルアップとモチベーション向上を図る

活用例

  • デジタルツールの基本的な使い方から、データ分析の基礎までを学ぶ研修を実施。社員全体のデジタルリテラシー向上を図る。
  • 社内から選抜した社員に対して、データサイエンティストに必要な専門知識とスキルを集中的に教育。将来のデータドリブン経営を担う人材を育成する。

リスキリングは、企業の将来を見据えた戦略的な投資です。経営層のリーダーシップのもと、中長期的な視点で計画的に取り組むことが重要です。

リスキリングの導入メリットや留意点についてより詳しく知りたい方は、以下の記事を参照ください。
>>リスキリングとは?導入による企業のメリットと注意するポイントを解説

柔軟なはたらき方の導入

リモートワークやハイブリッドワークが定着する中、柔軟なはたらき方を支援する施策は、人材獲得競争においてますます重要になっています。

施策

施策 説明
リモートワーク制度の整備 在宅勤務、サテライトオフィス勤務など、場所にとらわれないはたらき方を実現。通勤時間削減やワーク・ライフ・バランス向上に寄与する
ハイブリッドワークの導入 オフィス勤務とリモートワークを組み合わせ、社員の状況や業務内容に応じた最適なはたらき方を選択可能にする。柔軟性と生産性向上を両立させる
フレックスタイム制度の導入 始業・終業時刻を社員自身が決定できる制度を導入。個々のライフスタイルに合わせた柔軟なはたらき方を支援し、社員の満足度向上を図る

活用例

  • 全社員が原則リモートワークで勤務。オフィスはコミュニケーションやコラボレーションの場として活用。
  • 休暇と仕事を組み合わせたワーケーションを制度化。社員のリフレッシュと生産性向上を図る。

柔軟なはたらき方の導入は、単なる制度導入にとどまらず、社員の意識改革やマネジメントの変革を伴う、全社的な取り組みとして推進することが重要です。

ハイブリッドワークについて詳しく知りたい方は、以下の記事を参照ください。
>>ハイブリッドワークとは?メリットや導入する際のポイントを解説

グローバル化への対応

国際的な労働市場への対応や、多様な人材の活用は、企業の競争力を高める上で不可欠です。

施策

施策 説明
グローバル人材の採用 外国籍人材や海外経験豊富な人材を積極的に採用し、組織の国際競争力と多様性を向上させる
ダイバーシティ&インクルージョン研修 多様な価値観や文化を理解し、尊重するための研修を実施。多様な人材が活躍できる組織風土を醸成する
異文化コミュニケーション研修 異なる文化背景を持つメンバーとの円滑なコミュニケーションを支援する研修を実施。異文化理解を深め、グローバルビジネスを円滑に進める

活用例

  • 異文化マネジメントやグローバルリーダーシップに関する研修を実施し、将来の海外拠点を担う人材を育成する。
  • 外国籍社員向けの日本語研修や日本文化研修を実施して、外国籍社員が日本のビジネス文化に適応し、円滑に業務を遂行できるよう支援する。

グローバル化への対応は、単なる人材の多様化ではなく、多様性を組織の強みに変えるための戦略的な取り組みとして推進することが重要です。

人事戦略で組織の持続的な成長を実現しよう

現代のビジネス環境は、急速な技術革新、激化する市場競争、そして価値観の多様化など、大きな変化の中にあります。このような状況下で企業が持続的に成長し続けるためには、経営戦略と連動した効果的な人事戦略の策定と実行が不可欠です。

本記事で紹介した施策を、自社の状況に合わせて適切に選択し、組み合わせることで、組織全体での一貫した取り組みが可能になります。これにより、将来のビジネス環境の変化にも柔軟に対応し、持続可能な成長を実現できるでしょう。

パーソルテンプスタッフでは人材に関する最新情報を配信しています。下記よりぜひご登録ください!

おすすめの記事