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【ナレッジコラム】
成長する企業に求められる中長期の人事組織戦略の重要性、作り方、活かし方vol.003
中長期の人事組織戦略を作るコツ

公開日:2023.09.25

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【ナレッジコラム】 成長する企業に求められる中長期の人事組織戦略の重要性、作り方、活かし方vol.003 中長期の人事組織戦略を作るコツ

株式会社RECOMO 代表取締役CEO
橋本 祐造 氏

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
株式会社RECOMO 代表取締役CEOの橋本 祐造氏による「人事組織戦略」についてのメッセージを6回連載でお届けします。

中長期の人事組織戦略を作るコツ

これまで「成長する企業に中長期で人事組織戦略が必要な理由」「"理念"から丁寧に組織づくりする重要性」というテーマで2回のコラムをお届けしました。この内容を踏まえて、今回は「中長期の人事組織戦略を作るコツ」をご紹介します。

目先の課題を解決するために施策レベルでやることを決めているだけでは、自分たちは何者か、どこに向かっているのか、どうありたいのかを反映させた理念やビジョンを達成することはできません。また経営戦略、事業戦略と人事組織戦略は中長期で連動したものでなければ、そもそも有効に機能して成果を出すこともできないでしょう。では、どのように人事組織戦略を組み立てていけばよいのか、ステップごとに分けてご紹介します。

STEP1:現状の課題の深掘り

最初のステップとして現時点で何を課題として感じているのかを整理することを始めます。視点は、経営としての課題、事業としての課題、組織としての課題、企業文化としての課題などです。

まず、自分たちが何を課題として感じているのかを書き出します。その上で、その課題が「なぜ起きているのか?」と自問自答していきます。ここでは最低でも5回は問いを出した方がいいと思います。

課題として洗い出した時点では、「その時の結果としての状態」という表面的に見えている課題であることがほとんどで、実は本当の課題ではないことが多いです。そこで、なぜ?を5回以上深掘りをすることで「本当の課題」が見えてくるようになります。

これまでさまざまな経営者と課題の深掘りを行ってきて、「本当の課題」として挙がるのは「経営者自身の固定観念」であったという場合が圧倒的に多いです。「そもそも人を信じていない」とか「事業と同じレベルで組織づくりに情熱を感じない」などです。仮に固定観念が課題だと行き着いたとしても、固定観点をすぐに変えることは難しいため、戦略と仕組み・体制でカバーしていくことを考えます。

STEP2:経営者の過去体験を確認する

ほとんどの方が今の自分の考え方や信念、行動スタイルは、過去に何かしらの体験・経験から影響を受けています。特に経営者の場合は、自分の考え方や信念、行動スタイルを社内外問わず、かかわるすべての人が見て判断されるようになります。またそれ自体が人事組織戦略の策定に大きな影響を与えます。

ここでは経営者の過去にフォーカスして、現在からさかのぼり、どのような出来事があったのか、なぜ行動をしたのか、どんな時にどんな感情や学び・気付きがあったのかを深掘りしながら聞いていきます。

できれば6歳くらいまでさかのぼると、その方の思考の裏側まで深く知ることができます。こうした経営者の過去体験から、経営哲学や物事の判断基準、譲れない価値観などが浮かび上がってきます。それこそが人事組織戦略に紐づいていきます。

STEP3:未来のありたい姿をイメージする

STEP1と2で現在と過去を見てきたので、ここで視野を未来に向けて考えていきます。現在から1年後、2年後、3年後、5年後、10年後時点で、経営、事業、組織、文化としてどんな理想の状態にしたいのかを書き出します。

未来のありたい姿を書き出す時に大事なポイントは3つです。

1.未来のことを主体的に決めていく

よく「未来のことは分からないのでイメージできない」と言う経営者がいますが、逆に考えれば未来のことは誰にも分からないので、自ら主体的に未来の時点で「こうしたい」「こうする」と決めることもできます。

過去は変えられないですし、現状を変えることも容易ではありません。一方で未来のありたい姿は自由に描くことができます。経営者が決めたことに向けて、方向性が決まり、戦略が策定されていきます。

2.できるだけ具体的に書く(定性・定量)

未来の状況は分からないので、ありたい姿について漠然(ばくぜん)としたイメージを書く方がいますが、ここではあえて「できるだけ具体的に書く」ことを自身に課してください。

定性的な状態、定量的な数値の状況についてできるだけ具体的に書いていくと、イメージが曖昧になる箇所が出てきます。そこが未来のありたい姿を具体的に描けていない「思考の壁」の部分で、社内外の人と話したり、外部から知識・知見を取り入れることで、自分が見える世界を広げていく努力が必要になります。

3.最初に現在から順番に書いて、最後に10年後から逆算で見直す

考えにくいから、と途中を飛ばしたり、考えることを放棄する方もいますが、現在から始めて、1年後、2年後、3年後・・・というように順番に書いていくことをオススメします。

それを続けて10年後のありたい姿まで行き着いた時に、自身に次の問いを投げ掛けてください。「この10年後のありたい姿・状態は、自分が全力を注いで必ず達成したいと思えるほどの、イメージしただけで思わず興奮してしまうような状態か?」

この問いの答えがNOなら、今度は10年後の理想のありたい姿を具体的に書き出してみましょう。そこから逆算で5年後、3年後、2年後、1年後と定性・定量面で詰めていきます。そうすると、最初に書き出した1年後、2年後、3年後のありたい姿と、逆算で書き出したありたい姿はかなり違うものが出てくるでしょう。

このギャップこそが経営の視野・視座・視点を引き上げてくれるもので、事業、人事組織、文化の各戦略を立てる際に欠かせないステップになります。

STEP4:理念を考える

ここまでは、現在の課題の深掘り、過去体験、未来のありたい姿を具体的に見てきたので、企業理念についても改めて考えてみるのもよいでしょう。これまでのコラムにも書きましたが、理念とは下記の3つの要素を含む内容です。

  • 自分たちは何者か
  • 自分たちはどこに向かっているのか
  • 自分たちはどうありたいのか

これらの要素の源となる考え方は、すでに現在、過去、未来のことを考える中で出てきている話がほとんどです。すでに設定している理念やビジョンがあったとしても、ここで改めて見直して考えてみることで、この先の戦略を策定する上で有効に機能することでしょう。

STEP5:未来組織図

未来のありたい姿の解像度が上がると、自然と各時点の状態を実現するための組織体制が浮かび上がってきます。

1年後、2年後、3年後、5年後くらいをポイントとして、「未来組織図」を作ることをオススメします。未来組織図を作って定期的に経営陣で見直していくと、どのポジションがどの時点で不足しているのかが明確に見えてくるので、社内人材の育成、採用基準の見直し、リファラルなど、さまざまな面でプラスの効果が出てきます。

経営陣で半年~1年に一度は未来組織図を定期的に見直すようにすると、社内外の環境の変化にも柔軟に対応できる組織体制が構築できるようになっていきます。

STEP6:人事組織戦略の策定

現在、過去、未来のありたい姿、理念の言語化、未来組織図の作成までを終えたら、いよいよ人事組織戦略を策定する段階です。ただ、実はここまでのステップの過程でほとんど戦略構築に必要な材料は考え尽くしています。

人事組織戦略の策定で重要になるのは「人とのすべての接点をどう作るかを決める」ということになります。人員計画、採用方針と戦略、定着/オンボーディング、人材育成、人事評価、タレントマネジメント、企業文化の醸成など、人にかかわるあらゆる接点で、自分たちの理念やビジョンをどう反映させるのか、落とし込むのかを決めるステップになります。

仮に「人こそすべてで、共に学び成長し合う」という理念があった場合に、計画や採用方針・戦略、選考における面接などにそれが反映されているのか。定着や人材育成の側面で反映されているのか。人事評価やタレントマネジメントの仕組み、表彰などの企業文化が醸成される側面でどこまで反映されているのか。これらを見直して、理念から丁寧に人事組織戦略をつくり込んでいくことが重要になります。

STEP7:定点観測、定期的な振り返り

人事組織戦略の策定が完了したら、ぜひ半年~1年に一度のタイミングで、機能しているのか、新たな課題として挙がってきたものは何か、戦略を実行したことで業績をどれだけ伸ばすことができたのか、などについて、定期的に振り返るようにしてください。

いくつかの企業の経営者から「人事組織戦略はつくっていて、実行しているから大丈夫だよ」という言葉を頂くのですが、社内では全く機能しておらず、戦略と呼ばれるものが存在しているだけで、他の経営陣も触れない、気にしないようにしているだけ、という状況も頻繁に目にします。

経営陣の重要なタスクとして、人事組織戦略の定点観測と定期的な振り返り、ブラッシュアップを入れるようにしてください。

Profile

RECOMO橋本 祐造 氏

株式会社RECOMO 代表取締役CEO
橋本 祐造 氏

1978年生まれ。2002年に早稲田大学卒業後、NHKに入局。営業職として約3年間従事。その後、人事コンサルティング会社を経て、GMOインターネット株式会社でグループ人事部にて採用担当・フォロー担当を行う。以来、複数の会社で人材採用の戦略・方針・実行および人材育成プログラムの策定に携わる。2019年4月に株式会社RECOMOを創業。理念・パーパスは「人の可能性・価値が最大に広がる社会を創ること」。経営者と二人三脚になって、未来のありたい姿を実現するための人事・組織戦略を構築、実行体制の整備を行う。

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