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押さえておきたい!適切なコンプライアンス体制を築くポイントを解説

公開日:2025.07.11

企業の課題

企業におけるコンプライアンスとは、企業・組織が法律・規則を遵守するだけでなく、倫理・道徳基準や社会規範にも従って行動することを指します。

企業・組織内でコンプライアンス違反が生じると、罰金・課徴金といった経済的リスクや、経営陣が法的責任を問われたり、業務停止命令や行政指導を課されたりなど経営的リスクも想定される他、社会的信用の失墜やブランド価値の棄損、業界における地位低下など、さまざまな影響が及ぶと考えられます。

そこで本記事では、企業・組織が適切なコンプライアンス体制を整えるための基本的なポイントについて解説します。

コンプライアンスとは?企業にとっての重要性

はじめに、コンプライアンスという言葉の基本的な意味や、企業・組織にとっての重要性について解説します。

コンプライアンスの定義

コンプライアンス(Compliance=法令遵守)とは、企業・組織が法律・規則を遵守するだけでなく、倫理・道徳基準や社会規範にも従って行動することを指しています。

社会的な規範とコンプライアンスの関係

コンプライアンスには、単に法令を遵守することにとどまらず、社会規範(慣習・倫理)への適応も含まれます。

例えば、ハラスメント防止やジェンダー平等への対応、労働環境改善(過重労働の是正)、情報セキュリティ対策(機密データの適正管理)などは、法律で明確化されていない場合もあるため、企業による自主的な取り組みが求められています。

なぜ企業においてコンプライアンスが重要なのか

日本では2000年代以降、粉飾決算や産地偽装などの不祥事が相次ぎ、企業に対する社会的信頼が低下する出来事が生じました。

そこで、2008年の内部統制報告制度(J-SOX法)導入を機に、企業におけるコンプライアンス体制の整備が加速しました。内部統制報告制度(J-SOX法)とは、金融商品取引法に基づき、内部統制が有効に機能していることを経営者自らが評価して「内部統制報告書」の作成を義務づける制度です。

また、グローバル化に伴う国際的な規制対応の必要性も背景にあり、ステークホルダー(顧客・従業員・株主など)からの透明性に関する要求が高まっている点も挙げられるでしょう。

企業がコンプライアンスを重視するべき理由を簡潔にまとめると、以下のとおりです。

法的リスクの回避 違反による罰金・訴訟を防ぐ
信用維持 不祥事が企業イメージを棄損し、取引先・消費者からの信頼を失うことを防ぐ
従業員の健全な労働環境の整備 サービス残業やハラスメントの防止で、離職率低下やモチベーション向上につなげる
持続的成長 長期的な企業価値を高め、投資家からの評価を得る

コンプライアンス違反とは

コンプライアンス違反とは、企業・組織が法律・規則・社内規程だけでなく、社会的倫理や常識に反する行為を指します。単なる法令違反にとどまらず、消費者・取引先との信頼関係を損なう行動も含まれます。

コンプライアンス違反の例と影響

コンプライアンス違反の一例として、以下のようなケースが挙げられます。

  • 製造業における排水データ改ざんや産地偽装
  • 従業員による個人情報漏洩や不正な目的外利用
  • 労働問題(過重労働・ハラスメント)

また、コンプライアンス違反を引き起こした場合の影響として、以下の事態が考えられるでしょう。

  • 損害賠償請求(億単位の賠償責任が発生する場合もある)
  • 従業員の離職や人材確保の困難化
  • 消費者・取引先からの信用失墜(不買運動や取引停止)

コンプライアンス違反が企業にもたらすリスク

コンプライアンス違反が企業にもたらすリスクとして、以下のような事態が想定されます。

経済的リスク 罰金・課徴金(脱税や不正受給で重加算税が課される例も)
株価への影響や投資家離れ
経営的リスク 経営陣の刑事責任(懲役・罰金)
業務停止命令や行政指導
長期的リスク ブランド価値の棄損(回復に数年~数十年を要する)
業界での地位低下(入札資格喪失など)

コンプライアンス違反に対する法令とペナルティ

コンプライアンス違反に対する法令として、例えば以下が挙げられます。

  • 個人情報保護法(改正法で罰則強化)
  • 金融商品取引法(粉飾決算に対する刑事罰)
  • 労働基準法(過重労働是正命令)

また、罰則として、罰金・業務停止といった事態も想定されます。

コンプライアンスと企業ガバナンス・CSRとの関係

ここからは、コンプライアンスと企業ガバナンスおよび、CSRの関係について説明します。

企業ガバナンスとは?

ガバナンス(Governance)とは「統治」や「管理」を意味し、企業経営においては「コーポレートガバナンス」として用いられます。

これは、企業が株主・従業員・顧客などのステークホルダー(利害関係者)を踏まえ、透明性・公正性をもって意思決定を行うための仕組みを指します。

金融庁と東京証券取引所が定める「コーポレートガバナンス・コード」では、企業価値を中長期的に向上させる管理体制だと定義されています。

ガバナンスを強化するためには、内部統制やリスクマネジメントが不可欠です。そしてガバナンスを強化することによって、不祥事防止・経営効率化に有効です。

コンプライアンスとガバナンスの関係

コンプライアンスは法令や社内規範の遵守を指していることに対し、ガバナンスはそれを実現するための管理体制を意味します。

つまり、ガバナンスが適切に機能することで、コンプライアンス違反を未然に防げます。

例えば、内部監査部門を設置すること(ガバナンス)で、個人情報漏洩リスクを低減し(コンプライアンス)、社会的信頼を維持できると期待できます。逆に、コンプライアンス違反が発覚すると、ガバナンス体制の不備が問われることとなります。

コンプライアンスとCSR(企業の社会的責任)の違い

CSR(Corporate Social Responsibility、企業の社会的責任)とは、企業が社会の一員として果たすべき役割を示したものです。倫理的責任や、持続可能性に重点が置かれます。

その一方でコンプライアンスは、最低限の法的基準を満たすことに焦点が当てられます。

コンプライアンスとCSRの違いを簡潔にまとめると、以下のようになります。

コンプライアンス CSR(企業の社会的責任)
目的 法令や規則の遵守が主な目的 社会や環境へのポジティブな影響を目指す自主的な取り組み
義務 外部規制に基づく義務で、違反すると罰則が科される 内部的な動機から行われるもので、法的義務ではない
労働法や環境規制の遵守 地域社会への貢献、環境保護活動

コンプライアンス体制整備のポイント

ここからは、企業がコンプライアンス体制を整備するためのポイントについて紹介します。

コンプライアンス研修を実施する

コンプライアンス研修は、従業員の法令遵守意識を高めるために不可欠です。

実施にあたっては、まずアンケート調査で従業員の理解度を把握し、対象者(新入社員・管理職・役員など)や部署ごとにカスタマイズしたプログラムを組む必要があると考えられます。加えて、定期的な実施スケジュールも策定しましょう。

具体的には、専門講師による対面研修やeラーニングなどを活用し、ケーススタディを通じて実践的な判断力を養うことがポイントです。研修後は理解度テストやアンケートで効果を測定し、継続的な改善を行うことも重要でしょう。

また、管理職には部下指導のためのリーダーシップ研修を、役員には経営責任を問われる事案への対応訓練を重点的に行うことも必要だと考えられます。

教材には自社の行動規範や過去の違反事例も盛り込み、実践的な学びにつなげることが大切です。

従業員の意識を向上させる

研修の実施だけでなく、日常的なコミュニケーションを通じてコンプライアンス文化を定着させましょう。例えば、社内ニュースでの事例紹介や表彰制度の導入により、法令遵守が企業価値を高める行動だと従業員に認識してもらうことがポイントです。

特に、ハラスメント防止や情報管理については繰り返し周知し、部門ごとのロールプレイング訓練で実践力を養うことが有効だと考えられます。

情報漏洩対策を講じる

個人情報や機密データの管理は、コンプライアンスの重要課題です。そのため、データやドキュメントへのアクセス権限の厳格化や、暗号化技術の導入に加え、紙文書の取扱いルールを徹底する必要があります。

また、クラウドサービス利用時にはベンダーとの契約内容を精査し、業務委託先の監査も定期的に実施すべきだと考えられます。

不正防止策を講じる

不正リスクを抑止するには、複数名による入出金の多重承認などの仕組みを作っておくことが有効だと考えられます。特に、経理部門では作業の分業化を推進し、1つの業務を単独で完結させない体制を構築することが重要です。

相談窓口を設置する

内部通報窓口は、コンプライアンス違反を早期発見するための重要な仕組みです。匿名での報告を可能にし、報復防止措置を徹底することで、従業員が安心して利用できる環境を整える必要があります。

窓口担当者は独立性の高い部署(監査部門など)が担当し、通報内容に応じて迅速な調査と是正措置を実施することが重要です。また、定期的な運用評価を通じて制度の信頼性を高めることも求められます。

コンプライアンスに関連する取り組みを定期的に見直す

少なくとも年1回など、コンプライアンス体制の見直しを行い、あらたな法令改正や社会情勢の変化に対応することも必要です。特に、内部監査の結果や通報窓口のデータを分析し、リスクが集中する部門に対して重点的な対策を講じることが求められると考えられます。

企業のコンプライアンス違反で起こりうる事例

企業のコンプライアンス違反で起こりうる事例をいくつか紹介します。

補助金・助成金の不正受給 新型コロナウイルス感染症拡大の影響下において、雇用調整助成金を虚偽申請して受給するケースが報告された
個人情報の漏洩 大手企業でグループ企業の従業員が約900万件もの顧客情報を不正に持ち出した事例が発覚。データ管理の不備が原因で、長期間にわたる情報流出が確認された
食品偽装 食品加工会社が食品の産地を偽って給食に提供した事例が発覚。消費者の信頼を裏切る行為として問題視された
景品表示法違反 電力会社が料金プランを実際より安く見せかける広告を掲載し、消費者庁から課徴金命令を受けた事例が発覚
著作権侵害 SNS上で他人のイラストを無断使用した大手小売企業のデザイナーによる事例が発覚

適切なコンプライアンス体制を整備しよう

本記事では、企業・組織におけるコンプライアンスの重要性や、コンプライアンス体制を整えるためのポイントについて解説しました。

ひとたびコンプライアンス違反が生じてしまうと、経済的リスク・経営的リスク・ブランド価値棄損や業界内での地位低下など、さまざまなリスクが想定されます。

自社が業界内で競争力を維持し、将来に向けて持続的な成長を続けていけるよう、自社のコンプライアンス体制が適切かどうかについて改めて見直しをしてみましょう。

監修者

HRナレッジライン編集部

HRナレッジライン編集部は、2022年に発足したパーソルテンプスタッフの編集チームです。人材派遣や労働関連の法律、企業の人事課題に関する記事の企画・執筆・監修を通じて、法人のお客さまに向け、現場目線で分かりやすく正確な情報を発信しています。

編集部には、法人のお客さまへ人材活用のご提案を行う営業や、派遣社員へお仕事をご紹介するコーディネーターなど経験した、人材ビジネスに精通したメンバーが在籍しています。また、キャリア支援の実務経験・専門資格を持つメンバーもおり、多様な視点から人と組織に関する課題に向き合っています。

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