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社員定着率が低い原因とは?定着率を上げる取り組みをご紹介

公開日:2023.05.15

企業の課題

多くの時間と費用を費やし人材を採用しても、短期間で離職してしまうケースは少なくありません。社員定着率が低いとはたらいている社員の負担が増え、業務が滞ったり採用コストが増加する可能性もあり、企業にとっては改善すべき課題です。

このような背景から、入社した人材がどれだけ定着しているかを示す「社員定着率」が重要視されています。社員定着率が低い企業には、いくつか共通点があります。

本記事では、社員定着率を下げる要因や企業に及ぼす影響、社員定着率向上のために必要な取り組みなどを解説します。

社員定着率とは

社員定着率とは、入社した社員がどれだけ定着してはたらいているかを表す指標です。

定着率が高いほど、社員が継続してその企業に在籍していることになり、はたらきやすい環境が整備されていると言えます。逆に定着率が低いほど、多くの社員が離職していることになります。

社員定着率の計算方法

社員定着率は、以下の計算式から算出できます。

例えば、現在の社員数が350名で、3年前に勤続していた社員数が500名だとすると、この3年間の定着率は70%となります。

社員定着率(70%) = 現在の社員数(350名) ÷ 3年前に勤務していた社員数(500名) × 100(%)

離職率との違い

厚生労働省が定義する離職率とは、「常用労働者数に対する離職者の割合」を指します。離職率は、企業では1年や3年などの一定期間で、どの程度退職者が発生したかを算出する指標として使われています。

離職率は、厚生労働省が定めた以下の計算式から算出できます。
例えば、今回の離職率の定義を1月1日時点、3年以内の離職者、常用労働者数を対象とした場合、

離職率(%) = 3年以内の離職者数 ÷ 1月1日現在の常用労働者数 × 100 (%)

雇用動向調査のために、1月1日現在の常用労働者数を分母とし、全体の離職者を分子としています。

社員定着率と離職率は対になる指標で、社員定着率は以下の計算式から算出することができます。

社員定着率(%) = 1月1日現在 に勤務している常用労働者数 ÷ 3年前の常用労働者数 × 100 (%)

一定期間の中で定着している人数に着目した指標が社員定着率、離職した人数に着目した指標が離職率となります。つまり、離職率は、「100(%) - 定着率」でも算出することができます。
離職率を管理することで、社員がどの程度定着しているか把握し、社員の定着率を上げるための取り組みに活かすことが可能です。

また、就職・転職希望者は労働環境の良しあしを判断するための一つの材料として、離職率を見るケースもあります。「離職率が高い=労働環境が悪い会社」と一概にはいえませんが、人材の採用を検討している企業は無視できない指標です。

社員定着率の現状

厚生労働省が発表した「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、同年の常用労働者※1の離職率は13.9%でした。つまり、常用労働者数の社員定着率は「100(%)- 13.9(%)」で、86.1%ということがわかります。

労働者区分ごとの定着率は、一般労働者※2の離職率が11.1%だったので、定着率は「100(%)- 11.1(%)」で88.9%。パートタイム労働者は離職率が21.3%だったので、「100(%)- 21.3(%)」で78.7%となり、一般労働者のほうが、パートタイム労働者よりも定着率が高いことがわかります。

  • ※1 ①期間を定めずに雇われている者 ②1か月以上の期間を定めて雇われている者
  • ※2 常用労働者のうち、パートタイム労働者以外の労働者

社員定着率が低い原因

社員定着率が低いと、人材の確保や既存社員の負担増加など、さまざまな留意点が生じます。社員の定着率が低いのは、なにか原因があるはずです。厚生労働省が発表した「令和3年雇用動向調査結果の概況」によると、転職入職者は主に以下を離職の理由として挙げています。

  • 職場環境が整っていない
  • 会社の将来性に不信感を抱いている
  • やりがいを感じられていない
  • 給与面などに不満がある

職場環境が整っていない

人材の定着に最も直結していることは職場環境です。「環境」と一口に言っても幅が広く、会社の制度・ルールや職場の人間関係など、多岐にわたります。

「令和3年雇用動向調査結果の概況」で、8.0%の男性と10.1%の女性が前職を辞めた理由に挙げていたのは「労働時間、休日等の労働条件が悪かった」でした。働き方改革によって時間外労働の規制は厳格化されていますが、残業や休日出勤のあり方に不満を持っている社員は多いようです。また、長時間勤務などのストレスも離職理由となり得ます。

また、「令和3年雇用動向調査結果の概況」で、8.1%の男性と9.6%の女性が前職を辞めた理由に挙げていたのは「職場の人間関係が好ましくなかった」でした。上司が高圧的、仕事を教えてもらえない、社員同士のコミュニケーションが希薄であるなど、人間関係が十分に構築されていないことが離職の理由となるようです。

会社の将来性に不信感を抱いている

「令和3年雇用動向調査結果の概況」で、6.3%の男性と4.5%の女性が前職を辞めた理由に挙げていたのは「会社の将来が不安だった」でした。

業績が低迷して回復が見込めない場合や業界自体の衰退、業界の変化に対応できていない、古い体質が残っている場合に離職する人が多いようです。さらに社員の給与が減給される事態に陥った場合は、会社の将来性に不安を感じて社員定着率が低くなってしまいます。

やりがいを感じられていない

「令和3年雇用動向調査結果の概況」で、4.3%の男性と4.8%の女性が前職を辞めた理由に挙げていたのは「能力・個性・資格を活かせなかった」でした。また、5.0%の男性と3.8%の女性が挙げていたのは「仕事の内容に興味を持てなかった」です。

任された仕事内容と能力にギャップが生じたり、興味を持っている業務に携われる可能性が低いと、はたらき続けるモチベーションが上がりません。加えて、キャリア構築に制限を感じて社員定着率が悪化しやすくなります。

こうした場合、たとえ給料が高くても、よりやりがいを感じられる仕事を求めて転職してしまうことがあるでしょう。

給与面などに不満がある

「令和3年雇用動向調査結果の概況」で、7.7%の男性と7.1%の女性が前職を辞めた理由に挙げていたのは「給料等、収入が少なかった」でした。

ほとんどの社員は、給与を得て生活するためにはたらいています。はたらいた対価として得られる給与が低いと、退職してしまうなど、社員定着率は低くなってしまいます。

社員定着率を上げることによる3つのメリット

社員定着率の向上は、企業にとってよい影響を与えることがあります。社員定着率アップで期待できるメリットとして、以下の3つをご紹介します。

  • 企業文化が定着しやすくなる
  • 生産性の向上
  • 採用コストの削減

企業文化が定着しやすくなる

企業や組織に社員が定着しやすいということは、人材が流出しにくい環境ともいえるでしょう。また、人材が流出しにくいということは、個々の社員の業務習熟度が高くなるともいえます。

人材が多く定着して、業務習熟度が全体的に高くなれば、企業や組織の規模・業種にかかわらずスムーズな運営が可能になっていくはずです。加えて、企業や組織の生産性も高まっていき、業績の向上も期待できるようになります。

生産性の向上

社員定着率が向上すると、勤続年数が長く、熟練したスキルを持つ人材が社内に増えるため、業務の生産性の向上に直結します。ノウハウや経験も社内に蓄積されていきます。

また、離職者が多くなると引継ぎが増え、業務が滞ってしまうことも考えられます。社員の定着率が高ければ、業務を安定して進めることができます。

採用コストの削減

社員がすぐに離職してしまう環境では、人材補充のための採用や、採用後の教育にかかるコストが高くなってしまいます。これらのコストが発生し続ければ、他の業務や業績にも悪影響を与えてしまいます。

定着率を高い状態で維持できていれば、業務習熟度の高い人材がすでにいるので、採用や教育にコストをかける必要がありません。その分、リソースに余裕ができて企業や組織の成長に注力することも可能です。

社員定着率を上げる方法や取り組み

離職者が出る原因は企業や組織ごとに異なるため、有効な対策は変わってきますが、以下のような対策がとられることが多いでしょう。

  • 採用のミスマッチを避ける
  • 個々の能力に合った仕事を提供する
  • 給与や評価制度を見直す
  • はたらきやすい環境作りをする

採用のミスマッチを避ける

「採用のミスマッチ」とは、企業と求職者の間で認識のズレが起きることを指します。具体的には、以下のような状況を指します。

  • 「トップダウンかボトムアップか」「成果主義か年功序列か」といった企業風土や制度の面で、企業と社員が同じ価値観を持てていない。
  • 企業が求めるレベルと社員の能力・適性に差がある。企業の求めるレベルに社員の能力が及ばないケースと、企業の求めるレベルより社員の能力が高すぎてスキルを持て余してしまうケースの両方がある。
  • 社内の配属と、本人が希望するキャリアの間でミスマッチが起こる。
  • 時間外労働の長さや休暇の取りやすさなど、はたらき方の認識に相違がある。

採用のミスマッチを防ぐには、入社前の理想と入社後のギャップを埋める必要があります。具体的には、入社前に労働条件や仕事内容を細かくすり合わせたり、企業が採用候補者に期待することや採用された企業で実現できることなども、共有しておくことが大切です。

また、適性テストを導入したり、入社前に社員との交流会を設けたりするなど、採用フローの見直しも効果的です。

個々の能力に合った仕事を提供する

社員の仕事に対するモチベーションを上げるためには、社員の能力に合わせて仕事を提供することが重要です。

スキルが発揮できると思う環境や今後の希望について社員からヒアリングしておけば、より能力に合った配属をすることができます。

給与や評価制度を見直す

社員が納得してはたらき続けられるように、評価制度の明確化や給与体系の見直しも大切です。なぜ今の役職、給与なのかが曖昧である場合、社員が「正しく評価されていない」「給与が低い」と感じてしまう原因となります。

社員の評価を上司や管理職の裁量で決めている企業は、定量的な評価を行い、納得性の高い評価基準や給与体系を設定する必要があります。

定量的で誰にとっても分かりやすい評価制度を取り入れることで、評価を上げるために社員が何に取り組めばよいか明確になります。それによって、業務に対するモチベーションの向上にもつながります。

はたらきやすい環境作りをする

社員の定着率を上げるためには、社員がはたらきやすいと感じる制度を導入することが重要です。例えば、フレックスタイム制度や時短勤務の導入は子育てや介護などで勤務可能な時間が限定される社員でも、仕事とプライベートとの両立がしやすくなります。

また、リモートワークの導入は、通勤時間が減り社員の可処分時間が増えるため、ワークライフバランスの促進にも効果的です。このように制度の導入を進めると同時に、社員が平等に制度を利用できるように組織の意識改革も行いましょう。

社員定着率を上げて、業績の向上を目指す

本記事では、社員定着率の考え方から、社員定着率が上がらない原因や解決方法について具体例を交えながら解説しました。

社員定着率には、仕事へのモチベーションや職場の環境、給与面などあらゆる要素が関わっています。また、社員定着率が上がると、生産性向上、業績向上、採用コストの削減など好循環が生まれていきます。

社員定着率にお悩みの方は、自社の現状を分析した上で必要な対策を講じてみてはいかがでしょうか。

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