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二重派遣とは?概要と対策をわかりやすくご紹介

公開日:2023.11.27

法律

人材派遣にはいくつか禁止されている事項があり、その中の一つが「二重派遣」です。
「二重派遣」は派遣スタッフが不当な扱いを受けることを防ぐために禁止されています。しかし、派遣先企業の担当者が気付かないうちに二重派遣を行ってしまうケースもあります。派遣先企業の担当者はどのようなことが二重派遣に該当するのか、それを防ぐ対策などをしっかりと認識をしておく必要があります。

本記事では、二重派遣が禁止されている背景や該当する事例など詳しく解説していきます。

二重派遣とは

労働者派遣は、人材派遣会社と派遣スタッフ間で雇用契約が結ばれています。派遣先企業は、人材派遣会社と「労働者派遣契約」を結ぶことにより、派遣スタッフを受け入れることができます。派遣先企業は派遣スタッフに業務指示を出すことはできますが、派遣先企業と派遣スタッフの間に雇用関係はありません。二重派遣とは、人材派遣会社から派遣先企業に派遣されたスタッフを、派遣先がさらに別の企業などに派遣し、派遣先以外の指揮命令によって労働させることを指し、禁止されています。

二重派遣とは

※参照:厚生労働省|労働者派遣制度の現状等に関する資料

業務委託との違い

業務委託とは、定められた業務を他企業や個人に委託する契約です。業務委託契約は法律で明確に定義されていません。民法上の「請負契約」または「委任契約」の性質を持った契約を総称して「業務委託契約」と呼びます。業務委託では基本的に依頼主に業務の指揮命令権がありません。業務内容や実施する時間などは請け負った企業や個人の裁量で決められます。そのため関連する企業などの別会社で発生する業務を、業務委託先に依頼することが可能です。

二重派遣は、人材派遣会社から派遣先企業に派遣されたスタッフを、派遣先がさらに別の企業などに派遣し、派遣先以外の指揮命令によって労働させることを指し、業務委託は外部の専門家や会社に特定の業務を委託する形態です。二重派遣は派遣会社間での労働者派遣に該当し、法令違反である一方、業務委託は外部の専門家に業務を委託するため、法的な問題はありません。

業務委託・人材派遣・直接雇用の違い

業務委託については、こちらでさらに詳しくご説明しています。
>>業務委託の契約とは?メリットや注意点、締結までの流れをご紹介

準委任契約との違い

準委任契約は、法律行為となる事務処理以外の業務の遂行を他企業や個人に委任し、目的に対価が支払われる契約です(民法656条 準委任)。準委任契約では、業務の結果・成果に関する責任は問われません。また、業務遂行は受託会社に一任されるため、業務を遂行する労働者への指揮命令は受託会社の管理者より行います。準委任契約は、自社外の企業の業務も依頼することが可能です。

二重派遣は、人材派遣会社から派遣先企業に派遣されたスタッフを、派遣先がさらに別の企業などに派遣し、派遣先以外の指揮命令によって労働させることを指します。一方で、準委任契約は外部の専門家や会社に業務委託するための契約形態です。

準委任契約とは

準委任契約については、こちらでさらに詳しくご説明しています。
>>準委任契約とは?特徴や運用上の注意点、他の契約との違いをご紹介

出向との違い

企業が労働者との雇用契約を維持したまま、関連する企業や事業所で業務に従事させることを出向といいます。労働者は元の企業に籍があるため、給与の支払いについても在籍している元の企業が責任を負います。業務の指揮命令権は、業務を行う出向先の企業が持ちます。

出向では、派遣契約と異なり雇用関係が「在籍出向」の場合は出向元と出向先の二重になり、「転籍出向」では出向先と雇用関係を結ぶことになります。また雇用期間に制限がない、労働時間などは出向先のルールに従うなど、人材派遣と異なる部分も多くあります。

二重派遣が禁止されている背景

二重派遣はなぜ禁止されているのでしょうか?二重派遣を行うと、どのような懸念があるのかを含め、その背景を解説します。

派遣スタッフの雇用に関する責任の所在が不明確になる可能性があるため

人材派遣会社に雇用されていて、派遣先で業務にあたるのが人材派遣のはたらき方です。しかし、そこから別の会社へ派遣され二重派遣の状態になることで、派遣スタッフの雇用責任が不明確になり、賃金支払い責任や災害発生時の責任などの所在もあいまいになるリスクがあります。

派遣スタッフの労働条件が悪化する可能性があるため

人材派遣で業務を開始する際に、人材派遣会社と派遣スタッフの間で雇用契約が結ばれます。また、人材派遣会社と派遣先企業の間で派遣契約が締結されます。しかし二重派遣が行われると、初めに人材派遣会社と結んだ雇用契約で定められた内容が保たれないケースも考えられます。そうなることで業務内容や労働条件が守られにくくなり、当初の雇用契約より悪化する可能性が出てきます。

二重派遣となるケースの例

続いて、具体的にどのようなケースで二重派遣となるのかを解説します。気付かないうちに二重派遣を行ってしまわないよう、二重派遣となるケースを確認しておきましょう。

子会社や関連会社で勤務させる

業務上関連があったとしても、子会社や関連会社へ自社ではたらく派遣スタッフを従事させることはできません。子会社や関連会社は業務上関連があったとしても、独立した別の法人となるため、従事させることはできません。

取引先で勤務させる

取引先からの派遣依頼に対して、派遣スタッフに取引先の業務に従事して欲しいと考える企業もあるかもしれません。しかしこれも二重派遣になります。

偽装請負になっている

偽装請負とは、派遣スタッフが派遣先企業での業務にあたるのではなく派遣先企業が業務請負契約を結んでいる企業の業務にあたり、その企業から指示を受けて業務を行うことです。二重派遣をするつもりがなかったとしても、結果として同様の状態になる可能性もあるため、注意が必要です。

偽装請負については、こちらでさらに詳しく説明しています。
>>偽装請負とは?問題点と判断基準、回避するためのポイントを解説

二重派遣に関する罰則

二重派遣を行ってしまった場合、法律に違反することになるため罰則があります。二重派遣は、職業安定法第44条(労働者供給事業の禁止)、および労働基準法第6条(中間搾取の排除)という2つの法律によって禁止されており、二重派遣を行った企業・受け入れた企業双方に罰則規定が設けられています。

職業安定法に違反した際の罰則

派遣先企業からさらに別会社に派遣を行った場合を例にします。派遣先企業と二重派遣先との関係は、雇用関係のない派遣スタッフを自己の支配従属関係の下に二重派遣先に派遣していることになり、労働者供給に該当します。

労働者供給事業は職業安定法第44条で禁止されていることから、この行為が職業安定法違反となります。厚生労働大臣の許可なしで労働者供給行為を実施した場合、刑事罰が科される可能性があります。派遣先企業と二重派遣先の両方の企業に、1年以下の懲役または、100万円以下の罰金が科されます。ただし、二重派遣の受入事業者が二重派遣だったことを知らずに受け入れていた場合は、この限りではありません。

労働基準法に違反した際の罰則

派遣先企業と派遣スタッフとの間に雇用関係がないため、二重派遣を行うことは労働基準法第6条の中間搾取の排除に触れる可能性があります。派遣先企業が他の企業に派遣スタッフを派遣して報酬を得た場合、派遣スタッフの再派遣を行った派遣先企業に対して、1年以下の懲役または、50万円以下の罰金(118条)が科される場合があります。

派遣先企業が二重派遣をしないための対策

派遣先企業が知らぬ間に二重派遣を行わないために、派遣スタッフを受け入れる際や業務を依頼する際に気を付けるべきこと、取るべき対策にはどのようなことが挙げられるのでしょうか。

指揮命令者を確認する

派遣スタッフが実際に業務を行う際の指揮命令者と契約書に明記されている指揮命令者が合致しているか確認しましょう。契約書に記載の指揮命令者と、実際の指揮命令者が異なる場合、二重派遣を疑われることがあるので注意が必要です。

契約内容・勤務実態を確認する

派遣スタッフの勤務内容が、結ばれている契約と大きく異なっている場合も注意が必要です。休憩時間や就業時間などが、契約内容と実際の業務で大きな違いがないか、よく確認してください。大きな違いがある場合、契約時と異なる業務に従事している可能性があるためです。また、契約内容と勤務実態を一致させることは、コンプライアンスの順守、労働者の権益保護、信頼性向上につながり、二重派遣の問題を予防する重要な手段となります。

二重派遣は法律で禁止されている

二重派遣は法律で禁止されています。その目的は派遣スタッフを不利益から守るためであり、二重派遣を行ってしまった場合は職業安定法や労働基準法などにより罰則が科されます。気付かないうちに二重派遣を行ってしまっていた場合も罰則は例外ではありません。二重派遣は自社の信用に大きなダメージを与えることになりますので、派遣スタッフの業務が契約通りに適正に行われているかをこまめに確認し、二重派遣を防止するように努めましょう。

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