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準委任契約とは?請負・委任・派遣契約との違いと締結時の注意点を解説

公開日:2022.12.16

更新日:2024.12.24

法律

企業が外部の法人や個人に仕事を依頼する場合、準委任契約を結ぶことがあります。混同されがちなものに委任契約や請負契約、労働者派遣契約があり、特に準委任契約と請負契約の区別が非常に難しいため、どのようなケースに準委任契約を締結すればよいのか、判断がつきにくいです。

この記事では、準委任契約がどのような契約かを解説します。準委任契約と区別が難しい請負契約、委任契約、労働者派遣契約との違いや、契約締結時に気をつけたいポイント、契約書の書き方についても紹介します。

準委任契約とは法律行為以外の業務を委託すること

準委任契約は、法律行為となる事務処理以外の業務の遂行を目的に対価が支払われる契約です(民法656条)。

準委任契約を締結した際の自社・受託会社・労働者の関係性は以下の通りです。

自社・受託会社・労働者の関係性(準委任契約)

業務遂行は受託会社に一任されるため、労働者への指揮命令は受託会社の管理者より行います。

準委任契約を締結することが多い代表的な職業

準委任契約は、専門的な知識やスキルを要する特定の業務を自社以外の法人や個人に委託する場合に用いられる契約で、以下の職業に用いられることが多いです。

  • コンサルタント
  • 公認会計士
  • ITエンジニア
  • 医療従事者 など

準委任契約を結ぶ目的は業務の遂行であり、受任者は、依頼された業務について成果の達成について責任を求められないのが特徴です。

例えば、コンサルタントによるコンサルティングを受ける場合には、準委任契約を結びます。コンサルティングによって成果がなかなか上がらないということもあり得るためです。また、システムエンジニア(SE)と準委任契約を締結する場合、契約期間に業務を遂行していれば、成果物が完成しなくても報酬を支払う必要があります。

このように、準委任契約は、必ず結果が出るとは限らない仕事や、具体的な成果を出すのが難しい仕事を依頼する際に締結します。

準委任契約の種類

準委任契約には、大きく分けて以下の2種類があります。

  • 履行割合型
  • 成果完成型

それぞれについて解説します。

履行割合型

履行割合型は、依頼された業務の遂行状況に応じて報酬が発生する準委任契約です。一般的な準委任契約と同じように成果物を出すことは求められず、業務を行った労働時間や工数に応じて報酬を支払うことを約束します。

履行割合型は、業務時間や工数など業務の遂行に対価が発生するのが特徴です。業務の進行度合いに応じて報酬が決まるため、支払いのタイミングで業務進捗が60%であれば、60%に相当する報酬が支払われます。そのため、受任者は進捗を明確に把握し、委任者へ定期的に状況を報告する必要があります。

例えば、履行割合型の準委任契約を結び、ITエンジニアにシステム開発業務を依頼した場合、準委任契約における報酬の定め方にもよりますが、開発が途中で頓挫した場合でも、受任者であるITエンジニアは契約した業務の進捗状況に応じて委任者へ報酬を請求できます。

成果完成型

成果完成型は通常の準委任契約であり、依頼が完了した際に報酬を支払うことを約束します。受託会社は、成果の引き渡し時に報酬を請求できます。

なお、成果完成型の準委任契約を結ぶ場合は、委任者と受任者との間で成果物の定義を明確に定めておくことが求められます。

成果物が曖昧な場合は、成果完成型が向きません。例えば、システム構築のように仕様変更の可能性がある場合、業務の履行に対して報酬を支払う履行割合型を選んだほうが、より柔軟な対応ができるでしょう。

履行割合型でも成果完成型でも、準委任契約では契約不適合責任は適用されません。しかし、業務の遂行や成果物に問題があった場合、善管注意義務に基づく責任を受任者に問うことはできます。善管注意義務については、後ほど詳しく解説します。

請負契約・委任契約・労働者派遣契約との違い

準委任契約と比較されやすい契約には、以下の3つがあります。

  • 請負契約
  • 委任契約
  • 労働者派遣契約

以下表は、準委任契約と他の契約形態とを比較したものです。

業務委託契約 労働者派遣契約
準委任契約 請負契約 委任契約
目的 業務の遂行・納品 成果物 法律業務の遂行・納品 労働力の確保
スタッフの雇用元 受託会社 受託会社 受託会社 人材派遣会社
指揮命令権 受託会社 受託会社 受託会社 自社
料金の対象 業務の遂行または成果物 成果物 業務の遂行または成果物 労働力の提供

※契約によっては必要な費用を別途精算する場合があります。

請負契約・委任契約・労働者派遣契約は、準委任契約と準委任契約を比較すると、目的や責任の所在、料金の対象に違いがあります。契約形態を理解していないと、法律違反によるペナルティを受ける、トラブルに発展するなどのおそれがあるため、それぞれの違いを正確に把握しておきましょう。

この項目では、それぞれの契約と準委任契約との違いについて解説していきます。

請負契約と準委任契約の違い

請負契約と準委任契約は、報酬の発生要件が異なります。請負契約は業務委託契約の一種で、仕事の完成を目的としており、成果物の納品が必要です(民法632条)。指揮命令権については、準委任契約と同様に、請負契約での業務遂行は受託会社に一任されるため、労働者への指揮命令は受託会社の管理者が行います。

例えば、ライターに原稿制作を依頼した場合、請負契約であれば、成果物である原稿が完成し納品された段階で、ライターは報酬を請求できます。一方の準委任契約の場合、仕様書と異なる原稿が納品されたり、原稿が完成しない場合も、報酬が発生する可能性があります。

そのため、料金の対象や委託したい業務によって、受託会社との合意の上、請負契約または準委任契約とするのかを決定します。受託会社と料金の対象や委託したい業務などを細かくすり合わせた上で、最終的にどちらの契約が適しているのか、判断するとよいでしょう。

請負契約の契約不適合責任とは

請負契約には「契約不適合責任」があるため、納品した成果物が、その種類・品質・数量に関して、契約の内容に適合しない場合は、受託会社へ責任追及ができます。

委任契約と準委任契約の違い

準委任契約と委任契約との最も大きな違いは、委任する業務が法律行為であるかどうかにあります。委任契約とは、業務委託契約の一種で、法律業務、または法律行為となる事務処理の遂行を目的に料金が支払われる契約です(民法643条)。委任契約は「法律業務の遂行・成果物の納品」が目的であるのに対し、準委任契約の目的は「法律以外の業務の遂行・成果物の納品」です。

法律業務は多岐にわたりますが、具体的には、弁護士に訴訟代理人を依頼したり、司法書士に会社設立の手続き代行を依頼したりしたケースは、委任契約となります。

委任契約では、成果物の完成責任は問われません。業務遂行は受託会社に一任されるため、労働者への指揮命令は受託会社の管理者より行います。

労働者派遣契約との違い

準委任契約と労働者派遣契約との大きな違いは、指揮命令系統です。仕事を依頼する側(派遣先や委任者)が、受任者(労働者)に対して指揮命令ができるかどうかに違いがあります。

労働者派遣契約とは、労働力を確保する目的で人材派遣会社と結ぶ契約です。労働者派遣契約を締結することで、派遣スタッフを受け入れできるようになります。準委任契約の場合は、受託会社が労働者に対して業務指示を行いますが、労働者派遣契約の場合は派遣先(自社)から派遣スタッフに対して業務指示を行います。

準委任契約のメリット2つ

準委任契約は業務の遂行そのものを目的とした契約です。そのため、請負契約や派遣契約に比べ、柔軟性が高い契約形態であるといえます。

準委任契約で人材を確保した場合、以下のようなメリットがあります。

  • 契約期間の制限がない
  • 専門業務をプロに委託できる

それぞれについて解説します。

契約期間の制限がない

準委任契約では、委任者と受任者の双方が合意すれば、契約期間中の業務内容を変更したり、契約期間を延長したり短縮したりできます。

労働派遣契約の場合、雇用安定の観点から契約期間は最短でも31日以上必要な上、同じ組織ではたらく期間は3年までと法律により定められています。

準委任契約の目的は、成果物の納品ではなく業務の遂行のため、業務の状況に応じて期間の制限なく継続的に依頼できます。

専門業務をプロに委託できる

専門業務を高いスキルを持つプロに委任できるのも、準委任契約のメリットの一つです。正社員としての採用コストをかけるのは予算的に難しい場合にも、準委任契約ならば、専門業務をプロに委託することができるでしょう。

受任者に専門知識や高度なスキルが求められる領域や業務をカバーしてもらえれば、採用コストや教育コストを削減しながら、業務を効率よく進められるでしょう。

準委任契約の留意点

準委任契約を締結した場合、受任者を自分の指揮命令下に置くことができません。また、成果物の納品がある請負契約と異なり、求めた結果が得られない可能性があります。

そのため、受任者に指示を出す受託会社は慎重に選ばなければなりません。

人材派遣会社の選び方については、以下の記事で詳しく説明していますので、参考にしてください。
>>人材派遣会社の選び方|企業がよりよい選択をするための5つのポイントとは?

準委任契約書の書き方|トラブルを未然に防ぐためのポイント7つ

準委任契約は双方の認識をしっかりとすり合わせをしなければ、大きなトラブルに発展する可能性があります。そのため、契約を締結する際は以下の7つのポイントを押さえた上で、自社と受託会社の認識の違いをなくしておくことが重要です。

  • 業務内容
  • 報告義務
  • 料金発生の対象
  • 諸経費の精算方法
  • 知的財産権の所在
  • 損害賠償の有無
  • 契約解除時の条件

それぞれのポイントについて、詳しく解説します。

業務内容

業務内容や範囲が明確ではない場合、自社では「想定している成果物を得られない」、受託会社側では「業務をどこまで対応すればよいのかわからない」などのトラブルが発生する可能性があります。

トラブルを防ぎ、業務を円滑に進めるためには、事前に、業務内容や範囲、期待する成果物に関する細かいすり合わせを行い、受任者に依頼内容を確実に伝えることが重要です。

報告義務

受託会社は、自社に対して業務の進捗や完了報告をするなどの報告義務があります。報告義務について「受任者は、委任者(自社)の請求があるときは、いつでも委任事務の処理の状況を報告し、委任が終了した後は、遅滞なくその経過および結果を報告しなければならない」と法律で定められています(民法第645条)。

契約締結時に、報告のタイミングや間隔、どのような方法で報告をするかをあらかじめ決めておくとよいでしょう。

定期的に報告会を開催する方法もありますが、報告会の準備や開催には多くの工数がかかることが想定できます。そのため、受託会社と自社の負担をなるべく抑えられる方法を話し合って決めるとよいでしょう。

料金発生の対象

成果物に対して料金が発生するのか、業務の遂行に対して料金が発生するのかを決める必要があります。料金の対象によっては、準委任契約ではなく請負契約の方が適している場合もあるでしょう。

料金発生の対象とあわせて、支払いサイトや振込手数料など、支払い条件に関する内容も契約書に明記しておくと、支払い関連のトラブル抑制につながります。

諸経費の精算方法

業務の遂行にあたって、交通費や通信費の発生や備品の購入など経費が発生することも考えられます。少額の費用であっても、積み重なると大きな金額になる可能性もあります。

発生した費用は受託会社と自社のどちらが負担するのか、精算方法も含めて明確にしておきましょう。

知的財産権の所在

すべての業務で知的財産権が発生するわけではありませんが、成果物によっては知的財産権が発生します。知的財産権とは、特許権や著作権、商標権など、業務によって生み出されたアイデアや創作物を保護するための権利を指します。

知的財産権の所在を契約時に決めておかなければ、成果物を自社で使用できなくなる、または使用の範囲が限られてしまうなどのリスクがあります。このようなリスクを防ぐため、知的財産権は制作した受託会社側にあるのか、自社側にあるのか、双方の制作物の使用可能範囲を明確にしておくことが重要です。

損害賠償の有無|善管注意義務とは

基本的に準委任契約は、業務遂行や成果物の責任は負いません。ただし、受託会社に「善管注意義務」を問うことは可能です(民法644条)。

善管注意義務とは、受託会社が業務を遂行するにあたって通常要求される範囲の注意義務を払うことを指します。例えば、「渡されたマニュアルを守る」や「納期を守る」といったことが挙げられます。

もし、受託会社が善管注意義務を果たさなかったために自社に損害が発生した場合には、損害賠償を請求できます。万が一に備えて、損害賠償が発生する条件や請求方法などを決めておきます。

契約解除時の条件

準委任契約では、受託会社と自社双方に、いつでも契約を解除できる権利があります。一方で、相手方に不利な時期に解除した場合には、相手方の損害を賠償しなければなりません(民法651条)。

契約の解除についてトラブルが起こることのないよう「どのような通知方法で解約の申し出をするのか」「契約解除の◯日前までに申し出を行う」など、契約解除時の条件などを明記しておくとよいでしょう。

準委任契約は偽装請負に注意

偽装請負とは、契約形態が業務委託契約であるにもかかわらず、自社から労働者へ直接指示があるなど、実態が労働者派遣契約と同様の状態であることを指します。

この状態は「本来締結すべき労働者派遣契約を締結せずに労働者派遣を行っている状態」であり、違法行為にあたります(労働基準法第6条、職業安定法44条)。

偽装請負とみなされた場合は、受託会社だけでなく、依頼した自社もさまざまな法律違反による罰則を受けるリスクがあるため、注意が必要です。

準委任契約についてよくある質問

この項目では、準委任契約についてよくある質問を2つ、ご紹介します。

Q1:準委任契約書の作成にはコストがかかる?

A1:紙で契約書を作成する際に、印紙のコストがかかる場合があります。

印紙とは、税金や手数料の支払い証明となる印刷物のことを指します。金銭のやりとりが発生する契約や文書では、印紙税を納付するために文書に印紙を貼付し、消印をすることが求められます。そのため、コストとして印紙の金額が発生します。

課税文書と、非課税文書の違いは以下の通りです。

  • 課税文書:印紙税の課税対象となる文書
  • 非課税文書:印紙税の課税対象にならない書類のうち、課税文書に指定されている1〜20号文書に該当しないもの

準委任契約は、原則として印紙税が課税されないため、印紙は不要です。しかし、金銭の支払いが発生するケースや、物件の譲渡があるケースなど、例外的に課税対象となる場合があります。

準委任契約は内容により印紙が必要ですが、課税対象となりうる文書は準委任契約と請負契約が混ざった混合契約となり、主に以下の3種類が挙げられます。

  • 1号文書…無形財産権(不動産・権利・消費賃借・運送)に関わる契約書
  • 2号文書…請負に関する契約
  • 7号文書…売買の委託に関する契約書や売買に関する業務の継続取引の基本となる契約書

課税額は、印紙税法の定めに応じて変わります。締結する契約書が課税文書か確認し、課税文書である場合には印紙の貼付と消印を実施します。印紙の代金を委任者、受任会社のどちらが負担するか、契約書に記しておくとスムーズです。

また、電子契約の場合は、紙の文書ではないため、印紙の貼付は不要 です。

Q2:準委任契約・請負契約・委任契約・労働者派遣契約、自社に適した契約を決める判断基準は?

A2:指揮命令系統と成果物の納品の有無を基準に決めるとよいでしょう。

受任者を指揮命令下に置きたい場合は派遣契約や雇用契約を、成果物の納品を求める場合は請負契約を締結するとよいでしょう。

準委任契約を正しく理解し適切に運用しよう

準委任契約は、法律行為以外の業務を委託する際に締結する契約で、業務委託などでよく使われる契約の一つです。

契約締結時にはトラブルにならないように、受託会社と契約内容のすり合わせを行い、契約書に反映させる必要があります。さらに、正しく運用できるように偽装請負について理解し、運用することが重要です。

準委任契約と比較されやすい契約には、請負契約や委任契約、労働者派遣契約などがあります。それぞれの契約の特徴や違いを押さえた上で、自社に適した契約を締結するようにしましょう。

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