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【ナレッジコラム】
「社労士がHRに伝えたい!キャリアも私生活も大切にした働き方の実現」 vol.004
テレワークによる両立支援

公開日:2023.09.25

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【ナレッジコラム】 「社労士がHRに伝えたい!キャリアも私生活も大切にした働き方の実現」 vol.004 テレワークによる両立支援

社会保険労務士法人グラース 代表
新田 香織 氏

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
社会保険労務士法人グラース 代表 特定社会保険労務士の新田 香織氏による「今必要な社労士からみるHR」についてのメッセージを4回連載でお届けします。

テレワークによる両立支援 ー労使どちらもメリットが感じられる制度とはー

本コラムの最終回である今回は、テレワークを導入した働き方について、両立支援を行う立場の視点からお伝えいたします。

新型コロナウイルス感染症の流行時には多くの人がテレワークを利用しましたが、今は利用する人がかなり減っているようです。公益財団法人日本生産性本部による第13回働く人の意識に対する調査「調査結果レポート」では、2023年7月時点でのテレワーク実施率は15.5%で、そのうち週3日以上出社している人はほぼ半数ということが示されています。

テレワークの実施率は減っているものの、在宅でのテレワークに対する満足度は86.6%と非常に高いことから、HR担当として必要な時や従業員からの希望がある時には問題なくテレワークを実施できる環境を調えておきたいものです。 また工場のラインや対面販売など業務の性質上テレワークが困難な場合を除いて、どの従業員も必要な時に気兼ねなくテレワークができるようにするためには、対象者を子育て中の従業員に限定しないことがポイントです。

不妊治療などで両立が困難だと感じている人は少なからずいる

毎日の通勤にかけている時間と心身のストレスが大幅に軽減されるテレワークは従業員にとって魅力的な制度です。特に不妊治療、持病による通院、介護、育児など私生活の時間を一定程度確保しながらも働きたい人にとってテレワークできる環境はとても助かるはずです。

例えば、私たちの身近に不妊治療を受けている人、または受けていた人は少なからずいます。厚生労働省の事業主・人事部門向け「不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」の調査によると、2021年時点で不妊の検査や治療を受けたことがある(または現在受けている)夫婦は22.7%の割合でした。2022年4月から不妊治療は保険適用になりましたので、今はもっと多くの夫婦が不妊治療を受けている(受ける予定)と思われます。不妊治療は女性の体調を診ながら進めていくため、あらかじめ通院日を確定することが難しく急に会社を休まなければならないことがしばしば起こります。また通院にかかる時間も一定ではなく、終日かかる日もあれば数時間で終了という日もあることから、仕事との両立が難しいと言われています。実際に不妊治療と仕事の両立が困難で雇用形態を変えたり、退職したり、治療を諦めたりした人は35%もいるという結果も出ています。会社が時間をかけて育成した従業員が不妊治療を理由に退職してしまっているのだとしたら、会社にとって大きな損失です。

一方で、不妊治療をしていることを周りに知られたくないため退職時にその理由を言わない人もたくさんいますので、HR担当として正確な退職理由を把握しきれていないこともあるのではないでしょうか。

両立支援につながるテレワークの活用例

テレワークが利用できると不妊治療だけでなく、持病による通院、介護、育児、私生活でのちょっとした用事と仕事との両立がしやすくなります。さらに時差勤務、フレックスタイム制度、時間単位の年次有給休暇など、働き方が可能になる制度と組み合わせることにより柔軟度が高まります。

両立支援につながるテレワークの活用例を下記にご紹介いたしますので、参考にしていただければと思います。

※下記の例はいずれも所定労働時間が9:00~18:00とした例です。

例1.在宅勤務と時間単位の年次有給休暇を組み合わせて不妊治療のための通院をする例

不妊治療で通院している病院は自宅に近いため、診察日に在宅勤務を利用。就業を一旦終了して受診。病院の待ち時間が少なくすむ日は移動時間を含め数時間ほどで就業再開することができるため、時間単位の年次有給休暇を利用する。

例2.出社日に時差勤務と在宅勤務を組み合わせることで親のデイサービスからの帰宅に立ち会う例

時差勤務を利用し早朝から仕事をした後出社するが、始業時間を早めた分早く終業することが可能に。実家に直行し親のデイサービスの帰りを待つことができる。

例3.中抜けと中抜け時間分のスライド制により、持病の診察を受けるために通院をする例

持病のかかりつけ医は自宅に近いため、診察日に在宅勤務を利用。就業時間の中抜けをして受診。中抜けした時間は通常の終業時間の最後に移動して所定労働時間働く。

テレワークを利用することで介護離職を減らすことが可能に

親の介護をしながら働く人は今後ますます増えることが予想されますが、その際にもテレワークが離職を防ぐ制度に十分なり得ます。例えば週末、介護のために実家に帰省している人が金曜日もしくは月曜日に実家でテレワークすることができるようになることで、介護の時間に余裕が生まれるでしょう。

弊社ではスタッフが父親の看取りのため実家でのテレワークを2週間希望したことがあります。私としては2週間休んでもらうことも考えましたが、スタッフの希望が、帰省しても24時間ずっと介護しているわけではなく、時間を調整しながら仕事ができるテレワークをして少しでも長く実家にいたいとのことでしたので、帰省中は事業場外みなし労働時間制を適用して働いてもらったということがありました。

他にも遠方に住む母親が認知症になった管理職が、実家で短期のテレワークを数回行いながら親戚や母親のかかりつけ医、地域包括支援センター等と介護の方針を決め、体制づくりをした例などもあります。

※ 労働者が労働時間の全部または一部について事業場外で業務に従事した場合において、使用者の具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定しがたいときには、所定労働時間労働したものとみなす制度のことです。(労基法第38条の2第1項)

女性活躍とテレワーク

vol.003では、子育て中の女性従業員への両立支援をする上で重要な視点として、育児休業や短時間勤務の期間を長期化するだけでなく、その従業員がキャリアで成長する機会についても考える必要があるということをお伝えいたしました。

子どもが幼いうちは自分のキャリアよりも子どもを優先的に考え、できるだけ長い期間短時間勤務を利用したいと考える人もいますが、テレワークが自由に利用できれば、フルタイムの終業時間まで自宅で働き、いつものお迎えの時間に保育園に行くことが可能になります。また夫も妻とは違う日に在宅勤務をすることで、その日は夫が保育園にお迎えに行くことも、また夕飯の準備などの家事もできる可能性が出てきます。そうなると子育て中の女性の中には、テレワークを利用したフルタイム復帰という選択を検討する余裕が出てくることも考えられます。

最後に

コロナ禍でテレワークを経験した人の多くが、テレワークは私生活との両立や心身の健康に有効であることを実感しました。一方、会社側としてはコミュニケーションやマネジメント上の課題を感じ、出社日の比率を上げるところや、原則出社に戻すところが出てきています。

しかし、今後加速する生産年齢人口の減少とともに人手不足が一層深刻になっていきますので、人財の定着と能力発揮のためにも働き方の選択肢としてテレワークが自然と受け入れられるような社会になっていくことを望みます。そのためには会社と従業員どちらにとってもメリットが感じられるような制度の運用と課題の最小化に向けて会社もテレワークの利用者も努力することが必要だと感じています。

本コラムでは、HR担当向けに4回にわたって多様な従業員が能力発揮できるような制度とその運用等についてご説明してきました。拙い内容ではございましたが、世の中の変化が激しい今だからこそ、時代に沿った新しい制度を取り入れることや、今ある制度を修正することに積極的に取り組んでいただきたく、その際に本コラムが少しでもお役に立ちましたら幸いです。

法律の遵守はもちろん、これからの時代にあわせHRに組み込んでいきながら女性活躍を推進させていくナレッジを4回連載でお届けしました。「社労士がHRに伝えたい!キャリアも私生活も大切にした働き方の実現」を通して、皆さまのヒントになれば幸いです。連載のバックナンバーもぜひご覧ください。

▼バックナンバーはこちら
vol.001:男性の育休を会社が推進するそもそもの理由
vol.002:法改正を機に改めて考える男性の育休
vol.003:子育て女性のキャリア支援ー必要な配慮と育成ー

Profile

社会保険労務士法人グラース 新田 香織 氏

社会保険労務士法人グラース 代表
特定社会保険労務士
新田 香織 氏

大学卒業後、化粧品会社および専門商社を経て2006年から4年間、厚生労働省東京労働局にて次世代法(くるみん)を担当し、2010年に開業、現在に至る。 ダイバーシティ全般を専門分野とし、仕事と育児・介護の両立、女性活躍、テレワーク導入、ハラスメント防止等の研修およびコンサルティングを多数実施。 また、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業」検討会委員、厚生労働省「特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度普及事業」検討会委員、内閣府「子供と家族・若者応援団表彰」選考委員等を歴任。 著書に『さあ、育休後からはじめよう』(労働調査会)等がある。

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