HRナレッジライン

カテゴリ一覧

【ナレッジコラム】
「社労士がHRに伝えたい!キャリアも私生活も大切にした働き方の実現」 vol.003
子育て女性のキャリア支援

公開日:2023.08.08

スペシャルコンテンツ

【ナレッジコラム】 「社労士がHRに伝えたい!キャリアも私生活も大切にした働き方の実現」 vol.003 子育て女性のキャリア支援

社会保険労務士法人グラース 代表
新田 香織 氏

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
社会保険労務士法人グラース 代表 特定社会保険労務士の新田 香織氏による「今必要な社労士からみるHR」についてのメッセージを4回連載でお届けします。

子育て女性のキャリア支援 ー必要な配慮と育成ー

育児・介護休業法では、原則として3歳未満の子を持つ労働者であれば所定労働時間を6時間とする短時間勤務が利用できることを定めています。実際に、皆さんの周りにも育休復帰日からこの制度を利用しながら仕事と育児を両立している女性が多いのではないでしょうか。

法律上は3歳の誕生日前日までとなっていますが、子育ては3歳以降も続き、小学生になっても乳幼児期とはまた異なる性質をもつため、利用年齢の引き上げを求める声は多くの両立社員から聞こえてきます。両立を助けるために「小学校入学まで」「小学校卒業まで」利用を可能としている会社なども少なくありません。急速に進行している少子化対策として仕事と育児の両立をさらにしやすい環境を会社に求めるため、3歳以降の働き方として短時間勤務、テレワーク、時差勤務など複数の制度の中から2つ以上を選択して措置することも現在検討されているようです。
そのため小学校入学前まで短時間勤務を利用する人は今後さらに増えていくものと思われます。

※参考:厚生労働省 | 今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会報告書

一方で短時間勤務の期間が長くなればなるほど、経験する仕事の質や量はフルタイム勤務と比較して限られてしまいます。そのため、仕事を通じての成長実感や会社への貢献度が低いと感じる社員が多いという側面にHR担当者と制度の利用者はしっかりと目を向けなければならないでしょう。
同時に社会全体で子どもを育てていくことと、男性も当事者として育児にかかわっていくという2つの視点を社会に浸透させていく必要があります。そうすることで女性に偏っている育児負担は軽減され、女性はもっと自分自身のキャリアに前向きになれるのではないかと思います。

「個人の悩み」から「組織の問題」へと転換して考える

徐々に変わりつつありますが、子どもがいる夫婦のうち主に男性の収入で家計を支えていて仕事中心、女性は就労していても家事育児の主担当という役割分担制をとっている家庭が多くあります。家事育児を担っている女性は終業後、保育園へお迎えに行き、帰宅後に一人で夕食の準備、入浴、子どもの寝かしつけを行っています。いくら時間があっても足りないくらいの毎日で、仕事も私生活も中途半端な状態を思い悩んでいたとしても不思議ではありません。

出産前までは男性と同じくらい仕事をしていたのに、育児の主担当になることで残業ができず、子どもの体調不良で遅刻早退や欠勤する状況が続くと、職場に迷惑をかけないようにと責任ある仕事を引き受けることをためらってしまう人が多くいます。せっかく能力があっても、活かせないというわけです。そして、このように職場からの配慮を受けていることを「個人」の問題と捉えて悩んでいるように思います。

では、会社側の視点ではどうでしょうか。生産性高く、会社の成長につながる働きをしてくれる社員であれば、性別や年齢などに関係なく会社にとって必要な人財と考えているのではないでしょうか。
それにも関わらず、キャリアよりも育児を優先している社員の「家庭の事情」つまり個人の問題として職場改善に結びつけていない会社が多いように感じます。残業が多い、柔軟な働き方ができない、時間制約がある社員には期待していないなどの問題に対峙し解決していくことで、今までさまざまな理由で能力を発揮できなかった人財が活かされるようになります。つまり、会社もHR担当も子育て中の社員も「個人の悩み」ではなく「組織の問題」として捉えることが重要です。

例えば、子育て中の社員がテレワークを希望するときに、「子どもとの時間を少しでも増やしたい」、「私生活の時間を確保したい」という個人の視点で会社に訴えるよりも、テレワークをすることにより仕事に集中して取り組めることや、時間制約のある人にとってハンディが少なくなること、業務体制等の見直しやDX化につながることなど、会社全体にとってどういうメリットがあるかという視点で訴えた方が、多くの共感を呼び、その必要性が職場に伝わるのではないでしょうか。

キャリアを意識した両立支援の制度の例

今後は子どもが小学校に上がるまで短時間勤務制度の利用が可能な会社が増えていくと予想されますが、利用の際はパートナーと互いのキャリアについて話し合うことが大切です。その上でどちらか一方がどのくらいの期間で短時間勤務制度を利用するのか、交代で利用するのか、また短時間勤務に時差勤務、テレワーク、フレックスタイム制などの多様な働き方が可能な制度を併用するのかなど、さまざまな方向から検討していただきたいと思います。

どちらか一方のキャリアを犠牲にした子育てではなく、子育て中でも少しでも多く仕事の経験が積めるように、キャリアも私生活も大切にした働き方を目指したいものです。とはいえ、短時間勤務からフルタイムに戻すには両立している当事者にとっては不安も沢山あるものです。
HR担当の立場からこうした不安を軽減するために、制度の利用例と制度設計の工夫について2つご紹介いたします。ちなみに両方とも私が実際にかかわっている会社で導入している制度です。

1つ目は、短時間勤務の利用期間を法定通りの3歳までと、小学1年の4月から9月までとする例です。この場合、子も親も保育園での生活に慣れてきますので3歳以降は必要に応じて時差勤務、テレワークを利用しながらフルタイムで働きます。また、法を上回る制度とはなりますが、子の小学校入学から夏休み明けまでは、小学校での生活が安定するまで短時間勤務が利用できるようになっています。「小1の壁」を軽減するのに有効です。

2つ目は、6時間の短時間勤務からいきなりフルタイムに戻ることに対し不安を抱えている人が多いので、少しずつフルタイムに戻せるようにする例です。所定労働時間を6時間から15分単位で長くし、7パターンの所定労働時間から選べるようにすることで、徐々にフルタイムに近づけていくというものです。また一旦所定労働時間を長くしてもその後短くすることが可能な制度設計にしておくことで、所定労働時間を長くしてみようという気持ちを後押しすることになります。

中長期視点で育てていく

保育園のお迎えの時間を考えると残業のある職場では両立が難しいと感じる人が多いかもしれません。また子どもが小さいうちは、保育園という集団生活の中で病気が流行するなどして体調を崩すことが多いため、時間制約があるのは否めません。そのため対外的な仕事や責任のある仕事を任せることを諦めてしまう会社が散見されます。

こうした会社の対応によって気持ちが軽くなる人もいれば、短時間勤務でも責任のある仕事をしたかったのに叶わないと感じる人もいます。両立への想いは、その人の価値観や家庭の状況などによって違うのですが、少なくともキャリアへの想いが強い人に対してモチベーションを下げるような対応は会社として避けなければなりません。時間制約があるため、短期的に見れば残業可能な社員ほどの結果は出せないかもしれませんが、責任感を持って取り組んでいるプロセスを承認・評価していくことで、中長期的には会社にとってかけがえのない存在に育っていくはずです。

たとえ仕事の特性や職場の事情で子育て中の社員にアサインできる業務が限られているとしても、隣接する分野を少しずつ広げることができる業務や、その領域を少しでも掘り下げられるような業務にかかわってもらうようにマネジメントの工夫をすることで、子育て中の社員は仕事を通じて成長を実感することができ、キャリアへの想いを維持することができるのではと思います。

最後に

私見ですが、育児も介護も法定以上に長期間になっている制度を上限まで利用するのがその会社の標準となってしまうと、キャリアでの成長が緩やかになり、働きがいよりもむしろ働きやすさだけの会社になってしまうのではないかと危惧しています。そのため法定以上の制度を利用する社員に対しては、利用によるメリットとデメリットについてHR担当から伝えることが重要になってきます。

女性だけが短時間勤務を長く続けるのではなく、男性がもっと育児に関わっていくことで、短時間勤務の期間を上限まで利用しなくてよい女性が増えてくるはずです。
私生活もキャリアも大切にした働き方は男性にも女性にも言えることなのではないでしょうか。

Profile

社会保険労務士法人グラース新田 香織 氏

社会保険労務士法人グラース 代表
特定社会保険労務士
新田 香織 氏

大学卒業後、化粧品会社および専門商社を経て2006年から4年間、厚生労働省東京労働局にて次世代法(くるみん)を担当し、2010年に開業、現在に至る。 ダイバーシティ全般を専門分野とし、仕事と育児・介護の両立、女性活躍、テレワーク導入、ハラスメント防止等の研修およびコンサルティングを多数実施。 また、厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業」検討会委員、厚生労働省「特に配慮を必要とする労働者に対する休暇制度普及事業」検討会委員、内閣府「子供と家族・若者応援団表彰」選考委員等を歴任。 著書に『さあ、育休後からはじめよう』(労働調査会)等がある。

スペシャルコンテンツ一覧を見る

おすすめの記事