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派遣スタッフの労災について、派遣先企業の対応を解説

公開日:2023.07.19

更新日:2024.04.26

法律

派遣スタッフの業務中に労働災害が発生した場合、派遣元が労災保険の申請をします。今回は、労災保険の解説とともに、派遣スタッフの労災保険申請時に派遣先企業が何をするのかについてご説明します。

労災とは

業務中や通勤中に病気やけがをしてしまうことを「労働災害」、略して「労災」と呼びます。万が一、業務中に労災が発生した場合、企業は労働基準法が定める通り被災した社員に対して補償責任を負うことになります。

労災保険とは

労災保険とは、企業が加入する保険です。労働者が業務上の事由または通勤による労働者の負傷・疾病・障害または死亡に対して労働者やその遺族のために、必要な保険給付を行う制度です。正式名称を「労働者災害補償保険」といいます。

労災保険は、会社に雇われている人に適用されます。正社員・契約社員に限らず、アルバイトやパートタイムで就業する従業員も保険給付の対象です。労災保険が適用されるかどうかは、病気やけが、労働災害(業務災害または通勤災害)に該当するかにより決定されます。

労災保険が適応される災害は2種類ある

労災保険が適用される災害には、業務災害、通勤災害の2種類があります。それぞれどのような災害なのかを解説します。

業務災害

「業務災害」は、業務中の出来事や業務の関連施設・設備を原因として発生した災害を指します。業務災害には2つの要件があり、「業務遂行性」と「業務起因性」があります。

  • 業務遂行性:労働者が会社の管理下にある
  • 業務起因性:業務と傷病等の間に一定の因果関係がある

通勤災害

「通勤災害」は、労働者が通勤により被った負傷、疾病、障害または死亡を指します。この「通勤」とは、就業に関し、下記に掲げる移動を合理的な経路および方法で行うことをいい、業務の性質を有するものを除くものとされています。

  • 住居と就業の場所との間の往復
  • 就業の場所から他の就業の場所への移動
  • 住居と就業の場所との間の往復に先行し、または後続する住居間の移動

移動の経路を逸脱したり、移動を中断した場合には、逸脱・中断の間とその後の移動は「通勤」とはなりませんが、逸脱や中断が日常生活上必要な行為である場合、例外となることもあります。
以上のように、通勤災害とされるためには、労働者の就業に関する移動が労災保険法における通勤の要件を満たしている必要があります。

健康保険との違い

労働者災害補償保険法に基づき、労働者の業務災害や通勤災害でのけがや病気・死亡に対して、保険給付を行うのが労災保険です。健康保険は、健康保険法に基づき、業務外でのけがや病気・休業・出産・死亡時の補償をする公的保険です。

労災保険では医療費の自己負担金はありませんが、健康保険では原則3割の自己負担金が発生します。労災保険は労働災害のみを対象としており、健康保険は労働災害を対象としません。対象となるものが別なので、併用することもできません。

労災保険 健康保険
給付の対象 業務上の災害 業務上の災害以外
自己負担 なし 原則3割

労災保険給付の種類

業務上災害の場合は「○○補償給付」、通勤災害による給付の場合は「○○給付」と区別されます。

保険給付の種類 こういうときは
療養(補償)等給付 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病により療養するとき(労災病院や労災保険指定医療機関等で療養を受けるとき)
業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病により療養するとき(労災病院や労災保険指定医療機関等以外で療養を受けるとき)
休業(補償)等給付 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病の療養のため労働することができず、賃金を受けられないとき
障害(補償)等給付金 障害(補償)等年金 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病が治ゆ(症状固定)した後に障害等級第1級から第7級までに該当する障害が残ったとき
障害(補償)等一時金 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病が治ゆ(症状固定)した後に障害等級第8級から第14級までに該当する障害が残ったとき
遺族(補償)等給付 遺族(補償)等年金 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害により死亡したとき
遺族(補償)等一時金
  1. 遺族(補償)等年金を受け得る遺族がないとき
  2. 遺族(補償)等年金を受けている人が失権し、かつ、他に遺族(補償)等年金を受け得る人がない場合であって、すでに支給された年金の合計額が給付基礎日額の1000日分に満たないとき
    葬祭料等(葬祭給付) 葬祭料等(葬祭給付)
    傷病(補償)等年金 業務災害、複数業務要因災害または通勤災害による傷病が療養開始後1年6か月を経過した日または同日後において次の各号のいずれにも該当するとき
    1. 傷病が治ゆ(症状固定)していないこと
    2. 傷病による障害の程度が傷病等級に該当すること
      介護(補償)等給付 障害(補償)等年金または傷病(補償)等年金受給者のうち第1級の者または第2級の精神・神経の障害および胸腹部臓器の障害の者であって、現に介護を受けているとき
      二次健康診断等給付
      ※船員法の適用を受ける船員及び特別加入者については対象外
      事業主が行った直近の定期健康診断等(一次健康診断)において、次の(1)(2)のいずれにも該当するとき
      1. 血圧検査、血中脂質検査、血糖検査、腹囲またはBMI(肥満度)の測定のすべての検査において異常の所見があると診断されていること
      2. 脳血管疾患または心臓疾患の症状を有していないと認められること
        • ※療養のため通院したときは、通院費が支給される場合があります。
        • ※引用:厚生労働省|労災保険給付の概要
        • ※表中の内容は、令和5年3月1日現在のものです。
        • ※このほか、社会復帰促進等事業として、アフターケア、義肢等補装具の費用の支給、外科後処置、労災就学等援護費、休業補償、特別援護金等の支援制度があります。詳しくは、労働基準監督署にお問い合わせください。

        派遣スタッフは派遣元の労災保険が適用される

        労災は派遣スタッフにも適用されます。また、適用される労災は派遣元の労災保険となります。

        労災保険法について

        労災保険とは、「労働者災害補償保険法」が定めている国の制度です。主に労働災害にあった社員を、会社に代わって守るためのものです。第3条1項には「この法律においては、労働者を使用する事業を適用事業とする」とあり、派遣スタッフの場合、雇用関係のある派遣元に労災保険の加入義務があります。

        労災申請時に派遣先企業がすべきこと

        では、派遣スタッフに業務中の災害があった場合、派遣先企業はどのようなことに注意し、どのような書類を用意すればよいのでしょうか?

        派遣スタッフに人材派遣会社に連絡するよう伝える

        派遣スタッフは派遣元の労災保険が適用されるため、派遣スタッフから人材派遣会社に、いつ、どこで、どんな業務をしているときに、どのような災害が発生したかを連絡します。派遣元はその連絡をもとに、医療機関への提出書類である「療養補償給付たる療養の給付請求書(通称5号用紙)」を作成します。書類には派遣先企業が派遣先証明欄に記名し、負傷日時と発生状況を証明する必要があります。

        労働者死傷病報告を作成・写しの提出

        発生した労災で休業が生じた際には、派遣先企業・派遣元ともに「労働者死傷病報告」を労働基準監督署に提出しなければなりません。災害の様子を把握できているため、派遣先企業は「労働者死傷病報告」を提出し、そのコピーを派遣元の人材派遣会社に送付するようにしましょう。

        労災における派遣先企業の留意点

        派遣スタッフの労災は派遣元の労災保険が適用されることは解説しましたが、派遣先企業が気を付けることはどのようなことがあるでしょうか。

        労災申請には時効がある

        労災の申請には期限があります。時効を過ぎてしまうと、労災保険を請求する権利がなくなってしまうので注意してください。労災保険給付の種類によって、2年または5年と期限が異なります。該当する労災の時効を把握し、時効の前に申請をするよう促すようにしましょう。

        当日の医療支払いが必要な場合は派遣スタッフに支払いをしてもらう

        当日病院にかかり、医療費の支払いが発生する際には派遣スタッフ自身に支払いをしてもらいます。労災保険指定医療機関では自己負担金はありませんが、それ以外の病院では一時的に支払いが発生することがあります。派遣元の労災保険が適用される場合、派遣スタッフが労働基準監督署に「費用請求書(5号用紙)」を提出し、費用請求書に記載した派遣スタッフの口座に管轄の労働基準監督署または都道府県労働局から入金されます。

        派遣スタッフの労災保険は人材派遣会社で加入していることを理解する

        派遣スタッフの労災保険は、派遣元である人材派遣会社で加入しています。もし労働災害が発生してしまった場合、対応が必要な事項や留意点を確認し、スムーズな労災申請に協力できるようにしましょう。

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