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【ナレッジコラム】
教えます!2023年度に向けた「人事と採用のセオリー」vol.004
変わりつつある「人事担当者にとって必要なこと」

公開日:2023.04.12

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【ナレッジコラム】 教えます!2023年度に向けた「人事と採用のセオリー」vol.004 変わりつつある「人事担当者にとって必要なこと」

株式会社人材研究所 代表取締役社長
曽和 利光 氏

変わりつつある「人事担当者にとって必要なこと」

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和 利光氏による「2023年度の人事・採用」に向けたメッセージを4回連載でお届けします。

人々の動きが見えにくくなった

この10年ほどで人事担当者を取り囲む環境はどう変わったでしょうか。言うまでもなく、最も大きい変化は、政府の働き方改革およびコロナ禍による人々の働き方の変化でしょう。これらによるメリットはたくさんあります。少子高齢化による構造的な労働力不足を解消するために女性やシニア人材などを中心に労働参加率が上がったことなどです。しかし、一方で課題もたくさんあります。ごく単純化すれば、テレワークやオンラインコミュニケーションの浸透や労働時間の短縮などで、自社組織のメンバーの思考や行動が見えにくくなったことではないでしょうか。

ふつうにできていたことができない

オンライン化でわかったことは、今この仕事自体を進めることはほとんど問題がないということでした(対面が業務上必要な仕事は除きます)。むしろ、仕事に集中できて効率が上がったという会社も少なくありません。一方、机を並べて、今よりも長時間一緒に働いて、しかも終業後は飲みニケーションなども盛んであった以前なら、「あ、あの人、顔色がちょっと悪いな」とか、「今の職場の雰囲気は悪くないな」とか、ある程度はふつうに働いているだけでも認識できていました。ところが、オンライン化して遠隔でも働くことができるようになったことで、それらがふつうに働いているだけではわからなくなりました。

人事の基礎「組織認識」に問題が生じている

ここを意図的に別の施策で補う必要が生まれたということです。人事担当者が人と組織について考える時、当然ながらそのスタートラインとなるのは、「自社の人や組織は今、どのような状態にあるのか」という組織認識です。自社はどのような能力・性格・価値観の人たちから構成されていて、彼らのパフォーマンスやモチベーション、満足度はどうなのか、そしてその結果、組織に人間関係やコミュニケーションの悪化、効率性や創造性の減退、人材育成やメンタルヘルスの問題の発生、退職の増加など、どんな組織課題が発生しているか(もしくは発生しそうか)ということです。

「有視界飛行」から「計器飛行」の時代へ

飛行機の操縦で例えるなら、これまでは人事担当者はいわば「有視界飛行」(目視によってさまざまな判断を行うこと)ができていたわけですが、雲の中に入ってしまって目の前が真っ白になり「計器飛行」(目視ができないので、速度計や高度計などの計器を用いながら飛ぶこと)をしなくてはならなくなったということです。組織で言えば、「顔色」ではなく、パルスサーベイによる満足度や充実度で見るとか、「あいつはああいうやつ」とざっくりとした判断ではなく、パーソナリティテストによって数値化されたプロフィールを見るとか、その他、さまざまな組織に関わることを、できる限り数値に落とし込んで認識するのです。

「誤った認識」は「誤った施策」につながる

以上のように、この新しい働き方の時代において、人事担当者はまず自社組織についての認識をデータ、数字を用いて分析していくスキルが必要になっています。自分の見えている範囲や誰かからの伝聞だけで物事を判断していては、誤った組織認識につながります。例えば、一体感が薄れてきているのに、一部の目につきやすい凝集性の高い集団の行動を見ていて、サイレント・マジョリティ※の心の離反に気付かずに手を打てないというようなことです。誤った認識に基づいて考えた人事施策は当然ながら誤っています。間違った方向に向かって、思い切りアクセルを踏むことにもなりかねません。

※ サイレント・マジョリティ:「静かな大衆」あるいは「物言わぬ多数派」という意味で、積極的な発言行為をしない一般大衆のことを指す。

人事担当者はデータ分析スキルがより必要に

今後の人事担当者は、自社組織を認識するために、「現象としてあらわれている組織課題の解決策を考えるためにどんなデータを取らなければならないのか」「だれにどんな風にしてデータを集めればよいのか(例えば、対象、質問の仕方、数値化の仕方など)」「集めたデータをどのように分析すればよいのか(回帰分析や因子分析、クラスター分析などの分析手法)」「出た結果をどのように解釈すればよいのか」という一連のデータ分析スキルを持って、自社組織をより正確に認識できるようにならなければなりません。現代の人事担当者は、基礎リテラシーとして、統計学やExcel、統計ソフトの扱いなどが必須になったと言ってよいでしょう。

不完全なデータ分析を盲信することなかれ

ただし、注意が必要です。今まで感覚や経験でやっていたものを数値化して考えるようになると、これまでの反動で数値を盲信してしまうことが多々あります。しかし、自然科学やマーケティングなどの世界と異なり、人事の世界で測るべきもののほとんどは必要なものが全て手に入るわけではありませんし、多くのものが直接的に測れるものではありません。社員の満足度を測ると言っても本音をどこまで言っているかわかりませんし、高業績者のパーソナリティを測ると言っても、今いる高業績者がベストなのかわかりません。データ分析によって出てきた結論を盲信するのではなく、重要な情報としては用いつつも、最後は人事担当者の経験や直感がまだまだ重要です。データは必ず取りながら確認しつつも、生身の肌感覚は忘れてはいけません。難しいことですが、これからの人事はデータと感覚というなかなか両立しにくい2つのスキルを共存させていかなければならないのです。

コロナ禍における採用活動の変化をはじめ、課題である離職の防止施策、そしてこれからの人事に求められることについて4回連載でお届けしたナレッジコラム「教えます!2023年度に向けた『人事と採用のセオリー』」。変わりつづける環境下でどのようにHRをアップデートしていくのか、皆さまのヒントになれば幸いです。連載のバックナンバーもぜひご覧ください。

▼バックナンバーはこちら
vol.001:オンライン化がもたらした「全国採用」に備えよ
vol.002:コロナ世代の「ガクチカ言えない」問題への対処法
vol.003:「大退職時代」に負けないリテンション施策

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Profile

人材研究所 曽和 利光 氏

株式会社人材研究所
代表取締役社長
曽和 利光 氏

株式会社人材研究所代表取締役社長。日本採用力検定協会理事、日本ビジネス心理学会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。リクルート時代に採用・育成・制度・組織開発・メンタルヘルスなど、様々な人事領域の業務を担当し、同社の採用責任者に。ライフネット生命、オープンハウスの人事責任者を経て、2011年人材研究所を創業。実務経験を活かした、リアルで実効性のある人事コンサルティングや研修、採用アウトソーシングなどをこれまで数百社に対して展開。著書に『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社)、『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)など多数

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