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【ナレッジコラム】
教えます!2023年度に向けた「人事と採用のセオリー」vol.002
コロナ世代の「ガクチカ言えない」問題への対処法

公開日:2022.12.23

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【ナレッジコラム】 教えます!2023年度に向けた「人事と採用のセオリー」vol.002 コロナ世代の「ガクチカ言えない」問題への対処法

株式会社人材研究所 代表取締役社長
曽和 利光 氏

コロナ世代の「ガクチカ言えない」問題への対処法

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
株式会社人材研究所 代表取締役社長の曽和 利光氏による「2023年度の人事・採用」に向けたメッセージを4回連載でお届けします。

24年卒は「コロナ世代」

新型コロナウイルス感染症は2019年12月初旬に初の感染者が報告されてから、わずか数ヶ月間で世界的大流行となりました。その翌年2020年4月に入学してきたのが、次の新卒採用の対象となる2024年卒(以下、24年卒)の大学生たちです。つまり、彼らは入学時からずっとコロナ禍だったわけです。そのため彼らは「コロナ世代」と呼ばれています。本来クラブ活動やアルバイトなど、他世代が経験してきた「ふつうのこと」ができなかった彼らは、大学生活が制約されてしまい、就職活動が始まって「学生時代に力を入れたこと」(通称「ガクチカ」)で話すエピソードの不足という悩みに突き当たっています。

24年卒は「コロナ世代」のつらい実態

実際に、全国大学生協連「第56回学生生活実態調査の概要報告」では、「実際半年間にアルバイトをしたか」という問いに、他学年は約8割がYesと回答しているのに、24年卒(当時1年生)は約6割でした(前年度は8割がYesと回答)。また、「学生生活は充実しているか」という問いに対しては、他学年はこれも8割程度がYesと回答しているのに対して、24年卒は6割を切っています(前年度は約9割がYes)。直接話を聞いても「1年生時はキャンパスに1回も行かなかった」「サークルの勧誘をされたことがない」「オンライン授業が画面OFFなのでクラスの友人の顔を知らない」など、改めて驚くようなことばかりです。そして、3年生になってやっと大学に行けるようになったのに、同時に就活も始まってしまい、どちらを重視していけばよいのか途方に暮れている人もいるようです。

最も力を入れていることは「学業」

そんな彼らが唯一と言ってもよいくらい「力を入れている」ことは、もしかすると授業かもしれません。元々は、文部科学省による「シラバス厳格化」つまり、講義要項・授業計画であるシラバスを明確化し、成績評価を厳格化することが教員に求められたことに端を発するのですが、多くの学生が、登録した授業にほとんど出ているという状況です。例えば、文部科学省国立教育政策研究所「大学生の学習実態に関する調査研究について(概要)」によれば、学生は授業や研究、予習・復習などに1週間で約20時間を使っています(平日平均で約4時間)。一方、アルバイトは1週間で約9時間、クラブ・サークルは約4時間と、やはり学業が主になっている実態がわかります。この傾向は「コロナ世代」でも同様、もしくは学業へ費やす時間がさらに促進されている可能性は大でしょう。

それなら「ふつうに」学業について問う

そう考えれば、対策は明白ではないかと思います。授業やゼミなどの「学業」について聞いてみるということです。例えば、「どのように受ける科目を選んだのか」「面白かった/つまらなかった科目はどれか、それはなぜか」「最も力を入れた科目は何か、なぜモチベーションがわいたのか」「授業やゼミのメンバー間で何か協働したことはあるか、どんな役割を取ることが多かったか」「成績はどうだったか、その成績を取るために具体的にどのようなことをやったか」「そもそも学業に対してはどのように捉えていたのか」など、聞くことは無数にあります。聞いてみればすぐわかりますが、対象が学業になるだけのことで、アルバイトやクラブ・サークル活動について聞く質問と基本的に何も変わりません。

「義務」に対してどう振る舞うかがわかる

実は私は「コロナ禍だから」ではなく、そもそも学業について聞くことは、仕事をしていく上での「人となり」を理解しやすいことではないかと思っており、昔から面接で聞いていました。と言うのも、学業以外の課外活動(アルバイト、クラブ・サークル等)は、たいていの場合「自分から好きでやったこと」です。そこでわかることは「好きでやることに、どこまで情熱を傾けて実行できるか」です。学業はそうではなく学生にとっての義務ですから、必ずしも好きでやっていることではありません。つまり、学業の話を聞くと「やらなくてはならないことに、どういう姿勢で取り組むことができるか」がわかるのです。

「仕事ができる人」は「仕事が楽しめる人」

それが何故よいのかと言うと、仕事というものは多くの場合、最初は義務から始まるものだからです。もしかすると、多くの課外活動よりも、義務である学業の方が仕事に似ているのではないかと思うのです。私が人事のコンサルティングをする際、各社の「仕事ができる人」を調査します。そして、その多くは「仕事を楽しめる人」でした。仕事のやりがいや満足度を高めるために自分の働き方に工夫を加える「ジョブ・クラフティング」という概念がありますが、まさにこれができる人が高業績者に多いのです。そして、ジョブ・クラフティングについては「ふつうにそのまま面白いこと」「自分がやりたいからやっていること」から聞き出すことはなかなかできません。義務である学業への取り組み方のほうがより直接的にわかるのです。

放っておいては「学業」のことは語らない

ところが、これまであまりに企業側が課外活動のことばかり聞いてきたせいか、学生側は「面接では学業のことなど話しても刺さらない」「基本的に課外活動など他の人と差別化できるインパクトのあるエピソードの方が、企業にウケがいい」と思っているようです。だから本当は学業のことなら話すことはいくらでもあるのに、「ガクチカがない」と言っているのです。おそらく放っておいては学業の話は出てこないでしょう。もし、24年卒の学生の人となりを知りたいのであれば、「本当に」最も力を入れていた人が多い学業のことを企業側からあえて聞いて、ジョブ・クラフティングの能力、「仕事を楽しめる」能力を掘り出してあげて欲しいと思います。

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Profile

人材研究所 曽和 利光 氏

株式会社人材研究所
代表取締役社長
曽和 利光 氏

株式会社人材研究所代表取締役社長。日本採用力検定協会理事、日本ビジネス心理学会理事。情報経営イノベーション専門職大学客員教授。リクルート時代に採用・育成・制度・組織開発・メンタルヘルスなど、様々な人事領域の業務を担当し、同社の採用責任者に。ライフネット生命、オープンハウスの人事責任者を経て、2011年人材研究所を創業。実務経験を活かした、リアルで実効性のある人事コンサルティングや研修、採用アウトソーシングなどをこれまで数百社に対して展開。著書に『人事と採用のセオリー 成長企業に共通する組織運営の原理と原則』(ソシム)、『コミュ障のための面接戦略』(星海社)、『「ネットワーク採用」とは何か』(労務行政)など多数

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