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【ナレッジコラム】
対話からはじめる本気のDE&I推進 vol.004
人的資本経営のカギは「女性活躍推進」である理由

公開日:2023.05.29

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【ナレッジコラム】 対話からはじめる本気のDE&I推進 vol.004 人的資本経営のカギは「女性活躍推進」である理由

スリール株式会社 代表取締役
堀江 敦子 氏

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
スリール株式会社 代表取締役の堀江 敦子氏による「これからの女性活躍推進」に向けたメッセージを4回連載でお届けします。

人的資本経営のカギは「女性活躍推進」である理由

人事の方や経営企画に関わる方は、最近「人的資本経営」という言葉をよく目にされると思います。

まず人的資本とは、人材を経営に必要な資本として“投資する”ものであると定義した考え方です。これまで企業では、人材を経費(コスト)として捉えてきましたが、人的資本の考え方では、人材を資本として捉え、会社にいる人材を「経営的に必要な資本」として、育成していくことを重要視しています。

今までは良い商品を作り、売っていくことで企業は発展していました。その際、人材はコストと捉え、どのように配置することが効率的なのか考えている企業が大半でした。しかし現代はVUCAの時代とも呼ばれるように、世の中が急速に複雑に変化する中で企業活動を行わなければならなくなりました。そのような背景から、良い商品を作って売るだけではなく、外部環境の変化を考えながら商品や売り方を変化させて発展していかなければならない時代にシフトしたのです。つまり商品だけではなく人材が、それぞれの能力を掛け合わせて経営戦略を達成するようにならなければ企業価値を上げていく事ができなくなったのです。そのため経営者は、経営戦略を作るだけではなく、経営戦略を達成させるための人財戦略を作り、実装していくことが重要になってきました。

また非財務情報の中でも、特に人的資本に関わる情報は企業価値を反映しているとして、投資家からの視点が高まってきました。国際的にも ESG投資※1の関心が高まり、投資残高は年々増えています。日本でも2021年にコーポレートガバナンス・コード※2が改訂し、「女性・外国人・中途採用者の管理職への登用、中核人財への登用等の目標と基本的な考え方を示し、開示すること」が盛り込まれました。また2022年11月には金融庁より、有価証券報告書および有価証券届出書の記載事項についての改正案が出されました。それにより、人的資本や多様性に関する開示として、「女性管理職比率」、「男性の育児休業取得率」および「男女間賃金格差」や、人材育成の方針などを有価証券報告書に記載すること等が求められるようになりました。つまり、人的資本を軸にした経営を行っているかどうかが、企業価値として問われるようになったのです。

※1 従来の財務情報だけでなく、「環境(Environment)」「社会(Social)」「ガバナンス(Governance)」などの要素も考慮した投資。運用額は2020年に約320兆円にまで拡大しています。

※2 上場企業が行う企業統治(コーポレートガバナンス)においてガイドラインとして参照すべき原則・指針を示したものです。この原則・指針によって、企業が透明性を保ち、適切に企業統治に取り組んでいるかどうか、外部からでも明確に分かるようになります。

実は、人的資本の情報開示には、色々なガイドラインやルール・義務があります。先ほどお話ししたようなコーポレートガバナンス・コードで設定された項目や、ESGのサスティナビリティに関する開示項目、また国際的ガイドラインISO 30414の項目もあります。多様な項目がある中で、共通しているのは「ダイバーシティ」です。特に日本は「女性活躍推進」を主軸に置いています。人的資本経営のカギは「女性活躍推進」とタイトルで銘打ちましたが、このように投資家の視点から見ても、今後企業価値を高めていく上で、まずは女性活躍推進を進めていくことが重要であることが伺えます。

人的資本の情報から見える課題と人事が取り組むべきこと

国際的な流れとしても、人的資本の情報開示が求められてきているということをお伝えしました。しかしながら、データを開示することが目的なのでしょうか?
もちろん違います。

冒頭でもご説明した人財戦略の図にもあるように、人財戦略を元にして人事の仕組み(人事戦略)が作られ、それが反映された実際の状況として「人事データ」が出てきます。つまり人的資本の情報開示は、人財戦略が作られ、それが効果的に作用して反映されているかをみるためのバロメータだと言えます。
だからこそ、人事の皆さまには人事データを開示することを一生懸命行うのではなく、そのデータが、人財戦略とどのように乖離しているのかを確認し、課題を解決するための施策を実行するヒントにしていただきたいと思います。もしかしたら、人事データを開示する過程で、経営戦略と照らし合わせて人財戦略を再構築することもあるかもしれません。

では、女性活躍の視点で考えていくとどうでしょうか。よくあるケースとしては、管理職に上がるためのパイプラインが切れてしまっているという現象です。
これは、「リーダーシップパイプライン(女性管理職パイプライン)」と呼ばれるもので、採用から管理職、組織のトップまで途切れることのないパイプラインを作り、組織全体でリーダーを育成しようという仕組みです。性別に関係なくこのような考え方があります。しかしながら、女性だけこのパイプラインが切れてしまっている場合が多いのです。採用から係長クラスまでは、同様のジェンダーの比率で昇格しているにも関わらず、課長職レベルになると女性比率が大幅に下がってしまうのです。企業としては、「女性管理職が登用できない」「管理職のプール人材が育成できない」などの課題を感じています。

女性管理職パイプラインが切れてしまっている要因は「制度・体制面」と「意識・風土面」があります。

女性管理職パイプラインが切れてしまっている要因
制度・体制面

・管理職育成・登用のタイミングが、女性がライフイベントを迎える時期と重なっている(20代後半〜30代)

・評価制度が在籍年数にカウントされる制度だと、育児で休職/時短になった場合、評価が下がったまま、上がらない

・時間制約がある中で、子育てをしながらでは管理職ができない働き方や慣習がある

意識・風土面

・上司が女性を管理職の対象として育成していない

・当事者が、女性が管理職になるということに対しての意識が低い

女性管理職パイプライン

このように、人事データから課題を洗い出し、どのような構造上の問題や、意識の問題があるのかを調査し、組織変革のアクションにつなげていきます。
しかしながら、「自社では女性が少ないので、そこまで積極的に施策を行わなくて良いと思っています」という方もいるかもしれません。
実は女性活躍推進での課題分析をきっかけに、全社的な課題が見つかることが多くあるのです。

私が女性活躍推進を含めた人財戦略づくりをご支援している会社では、必ず現在の社員構成と、10年後の社員構成を出していただき、なぜ今「人財戦略」を作り、施策を行っていかなければならないのかを考えていただきます。この社員構成のデータを作っていく過程で見えていくのは「若手の離職」です。実は性別関わらず20~30代の働き盛りの若手の離職が増えている実態を知るのです。またより深くエンゲージメントサーベイを見たり、ヒアリングを行っていくと、上記に女性管理職パイプラインが形成されない課題として説明した「制度・体制面」や「意識・風土面」が離職の原因になっていたり、管理職意欲が下がっていることがわかるのです。実は、女性活躍の側面で出てきた課題が、全社的な課題であったことに気付きます。

また10年後の社員構成比を見てみると、労働人口減少により、10年後には20〜30代の働き手が少なく、50代以上が社員の多くを占める状態が訪れます。日本の企業に多い年功序列の人事制度のまま10年後を迎えた場合、離職した社員を補うための採用費は上がり、労働力は伸び悩むなど、組織運営が難しい状態になるのが容易に想像できるのです。このように、氷山の一角として女性が活躍できていない状況が出てきていますが、それは実は全社的な経営課題であることに気付くのです。

人事データを指標化することは、10年後の会社の在り方を考え、行動するきっかけになるのです。

女性活躍推進の進め方

人的資本経営を行うカギは女性活躍であるというお話しをしてきました。
では、女性活躍推進はどのように始めていけば良いのでしょうか。

女性活躍推進における3つの視点と7つのポイントをご紹介します。女性活躍推進を含めて、組織変革を行うためには「経営陣」「現場・人事」「広報・IR」が三位一体となって推進する必要があります。まずは経営陣がビジョン・目標を明確化し、能力を発揮できる評価の仕組み作りを行った上で、現場と経営をつなげる推進体制を構築します。

次に人事は現場と連携しながら管理職パイプラインを意識し、構築した推進体制をもとに段階ごとに着実に継続していきます。その中で、管理層のアンコンシャス・バイアスを払拭すること、働きやすい環境の整備はとても重要なポイントになります。このような経営陣のメッセージや施策をしっかりと社内に浸透させ、得られた成果を社外に伝えていくことを3年以上本気で行っていくと、社内の風土が少しずつ醸成されます。簡単には難しいですが、じっくりと行うことで必ず成果は出ていきます。

※ 心理学の概念である「認知バイアス」の一つで、無意識の偏見や思い込みから偏ったものの見方をすることを指します。

女性活躍推進の3つの視点
1.経営陣の取り組み

・企業のビジョン・目標の明確化

・能力を発揮・評価できる仕組み作り

・現場と経営をつなげる推進体制の構築

2.現場(人事)の取り組み

・管理職パイプラインを意識し、構築した推進体制をもとに段階ごとに着実に継続する

・マネジャー層のアンコンシャス・バイアスの払拭

・働きやすい環境の整備

3.外部コミュニケーション

・社内外コミュニケーションを強め、社内に浸透させる/外部環境の変化を捉え、対話を行う

「女性管理職比率30%」達成までのステップ

また、よくご相談を受ける点は「女性管理職を増やしたいです。」というものです。先ほどの3つの視点と7つのポイントをじっくりと行っていくことが前提であり、各社の状況によってやり方が異なるということは大いにありますが、まずはこの5つのステップで施策を行っていくことが重要です。

1.女性管理職に対してのKPIを設定

・●年までに管理職比率を●%にする、管理職登用の内、●%を女性にする  など

2.女性管理職の現状を定量と定性で調査

・社内アンケートを実施し、調査結果など現状をまとめたものを拡散する

3.管理職への「アンコンシャス・バイアス研修」「マネジメント研修」を行う

・マネジメント力向上施策として、全管理職に対して行う

・見るだけのeラーニングではなく、実践型の研修を実施する

4.管理職候補の女性向け「リーダーシッププログラム」を行う

・管理職任用前に、女性のキャリア意識向上のためのプログラムを行う

・女性管理職同士のネットワークを構築し、継続できるように支援する

5.社内に浸透させ、施策を推進する仲間を作る

まずは、女性が管理職に慣れていない要因は構造的な問題が多いため、しっかりと背中を押して意識とスキルをつけ、登用後のネットワークを作っていくことが大切です。そうすることで問題に気付いたり、多くの社員が活躍できる方法を見出すきっかけになります。

実は、女性管理職比率が高くなることで、職場によい影響を生み出すという調査結果も出ています。つまり、女性管理職比率向上に取り組んだ結果、女性だけではなく男性や若手人材のエンゲージメント向上にも影響し、“強い組織”を作ることにつながるということです。

これからの労働人口が減少する時代において、女性でさえも活躍できない組織は淘汰されていきます。DE&Iの第一歩である女性活躍推進ができる組織を作ることは、多様な社員が活躍できる強靭な組織を作ることにつながります。ぜひ本気で組織変革に取り組んでいってください。

「女性活躍推進」という言葉はかなり前から言われているにも関わらず、実態はなかなか進まずに依然課題であるという声をよく聞きます。また、このコラムを通し、決して女性のためだけの施策ではなく「全員活躍」できる組織につながる一歩であることがわかりました。「対話からはじめる本気のDE&I推進ー女性活躍を軸に進める“全員活躍”の組織づくりー」を通して、皆さまのヒントになれば幸いです。連載のバックナンバーもぜひご覧ください。

▼バックナンバーはこちら
vol.001:育休復帰社員への対応は、 忖度じゃなく本音を聴き、後押しすることが大切!
vol.002:子育て社員も、関わり方を変えることで活躍人材になる!
vol.003:若手社員が抱えるモヤモヤの正体と定着率向上のカギ

Profile

スリール 堀江 敦子 氏

スリール株式会社 代表取締役
堀江 敦子 氏

2010年に創業してから一貫し、女性活躍から始めるサスティナブル経営の実現に向けた支援を多方面(企業/国・地方自治体/大学)に実施。企業に対しては、独自開発した体験型プログラムを中核に、人材教育・人材開発コンサルティング事業を展開。その他、内閣府男女共同参画局 専門委員として第5次男女共同参画基本計画の策定に関わるなど、政策実現に向けて精力的に活動する。日本女子大学社会福祉学科卒業。立教大学大学院経営学研究科(博士前期課程/リーダーシップ開発コース)修了。厚生労働省 イクメンプロジェクト委員、こども家庭庁設置法案等準備室委員、千葉大学 非常勤講師を務める。著書に『新・ワーママ入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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