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【ナレッジコラム】
対話からはじめる本気のDE&I推進 vol.003
若手社員が抱えるモヤモヤの正体と定着率向上のカギ

公開日:2023.03.29

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【ナレッジコラム】 対話からはじめる本気のDE&I推進 vol.003 若手社員が抱えるモヤモヤの正体と定着率向上のカギ

スリール株式会社 代表取締役
堀江 敦子 氏

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
スリール株式会社 代表取締役の堀江 敦子氏による「これからの女性活躍推進」に向けたメッセージを4回連載でお届けします。

「全員活躍」という言葉は、従業員がそれぞれの強みや持ち味を活かすことができる組織づくりを行うことで、従業員の※1ワークエンゲージメントが保たれ、誰もが活躍人材となり、企業価値も高まる状態を目指しています。全員活躍は、昨今では大手企業にも経営戦略として浸透しつつあります。

※1 オランダ・ユトレヒト大学のSchaufeli 教授らが提唱した概念で、「活力:仕事から活力を得ていきいきとしている」「熱意:仕事に誇りとやりがいを感じている」「没頭:仕事に熱心に取り組んでいる」の3つが揃った状態として定義されています。

経営方針として掲げられる背景としては、「vol.002 子育て社員も、関わり方を変えることで活躍人材になる!」でも取り上げたように、労働人口の減少が影響しています。人財への投資をしなければ優秀な人材の採用が難しい状況になっているのです。

一方で、従業員の定着率向上という面では、大学新卒者の3年以内離職率は「31.5%」(2019年3月卒業者)と、過去20年間の平均「32.9%」と比べても、大きな変化は見られません。過去20年間にわたり、企業はせっかく採用した若手人材を3人に1人失っているという計算になります。このままでは、人材確保は難しくなるのに、定着率が向上しないという最悪の構図ができあがってしまいます。

※参考:厚生労働省 |新規大卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)

そこで今回は、大きな課題となっている若手人材の離職について取り上げていきます。

若手社員が抱えるモヤモヤの正体と定着率向上のカギ

なぜ若手社員は離職してしまうのでしょう?若手社員の離職を防ぐために、まずは若手社員が定着しない理由について考えてみましょう。

2018年に内閣府が公表した「平成30年版 子供・若者白書」では、若手社員が働くことをどう捉え、仕事に対してどのようなことを重視しているのか、将来に対してどのような展望を持っているのかなどがデータとして公表されています。

※引用:内閣府 |新規大卒就職者の離職状況(平成31年3月卒業者)

「平成30年版 子供・若者白書」によると、初職の離職理由として多かったものは、「仕事が自分に合わなかったため」(43.4%)、「人間関係がよくなかったため」(23.7%)、「労働時間、休日、休暇の条件がよくなかったため」(23.4%)、「賃金がよくなかったため」(20.7%)となっています。離職の原因としては、一般的に考えられる部分かと思います。

その上で注目すべきは「勤務先の会社等に将来性がないと考えたため」(18.4%)、「自分の技能・能力が活かせなかったため」(19.4%)、「責任ある仕事を任されなかったため」(10.0%)と、会社の将来性を見極めていたり、自身のキャリア観とのミスマッチを判断して離職をしているという点です。

これを裏付ける調査として、「仕事をする目的」という質問に対しては、「収入を得るため」(84.6%)の次に、「仕事を通して達成感や生きがいを得るため」(15.8%)、「自分の能力を発揮するため」(15.7%)、「人の役に立つため」(13.6%)という回答となっています。

※引用:内閣府 | 平成30年版 子供・若者白書

このような背景から、若手社員の仕事に対する考え方として、生活するための収入確保だけではなく、仕事を“自分の人生を彩る一部”と捉えているということが見てとれます。
「働く=報酬を得るため」という単純な方程式ではないのです。

定着を促すためには、このような若手社員の傾向を理解し取り組む必要があります。
すでに、労働時間・休日・休暇の条件、賃金・ノルマや責任については「働き方改革」として多くの企業が取り組みを進めていますが、それだけでは不十分かもしれません。

給与も制度も整っているにもかかわらず、
「ライフやキャリアと紐づけて考えた時に何か違う気がする」
「今の仕事に魅力が感じられない」
「自身が将来この組織で活躍しているイメージが湧かない」
こんな理由から離職を選択してしまう若手社員が、今後増えていくかもしれないのです。

若手社員の不安を意欲に変えるキャリア自律の取り組み

先ほどの項目で若手社員が離職してしまう理由を挙げましたが、ここでは給与面や制度面ではなく、若手社員が自分のキャリアと仕事を紐づけて行動するためのキャリア自律を促す仕組みをご紹介します。

キャリア自律とは、自分の価値観をベースとしたキャリア開発の重要性を認識した上で自分自身を継続的にモチベートすること、また自分の意志をベースに主体的に行動することで、チャンスを能動的にとらえ事態を切り開くことができることを言います。またキャリア自律の具体的な行動としては「キャリア開発行動」「主体的仕事行動」「ネットワーク行動」「職場環境変化への適応行動」の4つがあります。

※参考:産業・組織心理学研究 |キャリア自律が組織コミットメントに与える影響

  • キャリア開発行動:自分のなりたい姿に向けた情報収集を行う行動
  • 主体的仕事行動:自発的で積極的に仕事を行う行動
  • ネットワーク行動:社内外のネットワークを構築する行動
  • 職場環境変化への適応行動:職場や環境の変化に対しての適応を行う行動

このような4つの行動を促すための仕組みをご紹介します。

1.定期的に、長期的なキャリアビジョンを考える機会
例)キャリア面談、キャリアデザイン研修

入社5年目のタイミング等、キャリアに悩むタイミングにキャリアデザイン研修を行ったり、半年に1回など定期的に、評価面談とは別に長期的なキャリアビジョンを話す機会を設ける仕組みを創ることも効果的です。キャリア面談は、上長だけではなく、メンターなど斜めの関係性の人や、キャリアコンサルタント等と話していく仕掛けもあります。

2.キャリアビジョンに合わせた、仕事の意義の紐づけ機会
例)日々の1on1

日々の仕事のアサインや1on1の中で、メンバーが方向性に悩むことがあったら、長期的なキャリアの視点と照らし合わせた仕事の意義について伝えていくと効果的です。

3.社内外のネットワークを創る機会
例)別部署の社員と交流する機会・部署横断での仕事機会、社内イントラを利用したコミュニティの形成

職場の関係が同じ部署や上司とだけに限定されると、意識や視野が閉鎖的になる危険性があります。他の部署と横断した仕事を行ったり、交流する機会を創ることも効果的です。コミュニティツールを利用して、趣味や意識が近い人が関わり合うコミュニティを創ったり、自分のキャリアビジョンに近い方と話ができる機会等を設けているケースもあります。

4.環境変化に対しての情報と、職場適応支援
例)オンボーディングとしてのラフ交流会

またオンラインでの仕事が増えてくると、関係性構築が難しく、環境適用が難しくなることもあります。入社や異動を行う際には、新しい職場の仲間とラフに話ができるような交流会など、リアルで会う機会を積極的に設けます。オンボーディングをしっかりと行うことで、新しい環境への適応ができ、安心感を持って仕事に取り組むことができます。

これらの機会を社内で仕組み化して実施する事で、キャリア自律行動が促される可能性が高まります。また仕組みだけではなく、キャリアパスを社員にとって分かりやすくしていくことも重要です。

例えば「キャリアパス制度」は、「Aというスキルや実績があれば、Sのポジションに昇進できる」というように昇進・昇給のための明確な基準を設けた人事制度です。ここで言う「キャリアパス」とは、”目標とするキャリア”にたどり着くために必要なスキルや経験、ステップを踏む順序などを示す「道筋」のことです。つまり、社員がより明確な目標を持って仕事に取り組める仕組みのことを指します。

これまでの年功序列制度のように「年齢が上がれば昇格する」と言うことではなくなってきています。自らキャリアを考え、経験を積み、ステップアップしていく上での指針を創ることが重要です。

個別マネジメントが若手社員定着のカギ

自律的に活躍できる環境を基盤として、社員の状況や長期的なビジョンを理解した上でキャリアップやスキル発揮を行うように、マネジメントをしていくことが大切です。
これを、個別マネジメントと言います。

個別マネジメントは、3つのステップで行います。まずは「聴く」こと。メンバーの状態が分からなければ、個別の対応ができません。メンバーの状況や感情を聴き、引き出していくヒアリング力が求められます。次に「理解する」こと。メンバーから聴いた状況を受け止め、理解し、自分の意見もすり合わせ、共通認識を持ちましょう。ただ、単純に聴いたことを受け止めるだけではなく、自分の理解と合っているのか、見ている方向性は一緒なのかなどをすり合わせる事も大切です。そして最後に「活かす」というステップです。メンバー状況を踏まえて、より活躍する方法を共に考え、アクションを起こします。メンバーの現状や、キャリアビジョンを聴いた上で、メンバーが見えていない点や、上司や会社からの期待を伝えていきながら、実際にどのように理想のキャリアビジョンを達成していくかを共に考えていきます。このようなステップを定期的に実践し、対話を行うことが重要です。

対話を行う上で、重要なポイントも2点お伝えします。

アンコンシャス・バイアスの存在を認識した上でフラットに話す

「アンコンシャス・バイアス」とは、“無意識の思い込み”のこと。誰でも、育ってきた環境や、価値観、文化により、無意識の思い込みを持っています。例えば、子育ては女性がするもの、男性は働いて稼ぐもの、といった価値観もアンコンシャス・バイアスと言えます。
自分の考えを押しつけたり、自身の価値観で判断してしまうアンコンシャス・バイアスは、日常生活にあふれ、誰もが持っているものです。そのものが悪いわけではありません。大切なのは、誰もがそれぞれアンコンシャス・バイアスを持っていることを自覚すること。アンコンシャス・バイアスの払拭には、社員全員に向けたアンコンシャス・バイアス研修などがおすすめ。誰もが活躍できる組織づくりや働きやすい職場づくりの糸口になります。

心理的安全性の場を創る

「心理的安全性」とは、組織の中で他者からの反応に怯えることなく、自分の考えや気持ちを安心して発言できる状態のこと。ハーバード大学のエドモンドソンが提唱した「Psychological Safety」という心理学用語が基となっています。Google社が生産性向上関する調査結果を発表する中で使用し、注目を浴びました。「安心して発言できる場」「自身のスキルを思い切り発揮できる環境」といった抑圧のない状態が、個人や組織の効果的な学習や革新につながります。チームビルディングや組織開発においても重要とされています。

このように、社員を活かしていく方法は簡単に創り上げられるものではありません。仕組みを創りながら、対話をしていくことが重要です。自律的なキャリアの仕組みでキャリアの道筋を照らし、マネジメントで背中を押し続けること。これが若手社員をはじめ、多様な人材が活躍する全員活躍の組織づくりへの第一歩です。

Profile

スリール堀江 敦子 氏

スリール株式会社 代表取締役
堀江 敦子 氏

2010年に創業してから一貫し、女性活躍から始めるサスティナブル経営の実現に向けた支援を多方面(企業/国・地方自治体/大学)に実施。企業に対しては、独自開発した体験型プログラムを中核に、人材教育・人材開発コンサルティング事業を展開。その他、内閣府男女共同参画局 専門委員として第5次男女共同参画基本計画の策定に関わるなど、政策実現に向けて精力的に活動する。日本女子大学社会福祉学科卒業。立教大学大学院経営学研究科(博士前期課程/リーダーシップ開発コース)修了。厚生労働省 イクメンプロジェクト委員、こども家庭庁設置法案等準備室委員、千葉大学 非常勤講師を務める。著書に『新・ワーママ入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

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