HRナレッジライン

カテゴリ一覧

【ナレッジコラム】
対話からはじめる本気のDE&I推進 vol.002
子育て社員も、関わり方を変えることで活躍人材になる!

公開日:2023.02.10

スペシャルコンテンツ

【ナレッジコラム】 対話からはじめる本気のDE&I推進 vol.002 子育て社員も、関わり方を変えることで活躍人材になる!

スリール株式会社 代表取締役
堀江 敦子 氏

さまざまなHRエキスパートによるナレッジをお伝えするコンテンツ『ナレッジコラム』。
スリール株式会社 代表取締役の堀江 敦子氏による「これからの女性活躍推進」に向けたメッセージを4回連載でお届けします。

日本の労働人口(15歳以上65歳未満)が6割以下となる「2030年問題」をご存知ですか?
パーソル総合研究所の「労働市場の未来推計2030」 によると2030年には、労働需要に対する人手不足は600万人を超えるという予測があるなど、深刻な労働力の減少が危惧されています。

現時点で人材確保に悩みのない企業だったとしても、将来労働力の確保ができなくなれば、存続が危ぶまれる可能性もゼロではありません。
また政府としても、国際的な流れを受けて「人的資本経営」を推進する動きが活発になっています。2023年3月期決算以降の有価証券報告書には、人材投資額や社員満足度、そして女性管理職比率や男性育休取得率、男女間賃金格差などといった情報の記載を求めるという指針も出されました。つまり、多様な社員が活躍している企業ほど評価される時代になっていくということです。

今まで子育てや介護など時間制約がある中で働く社員は、活躍しづらい状況がありました。しかしながら、それは働き方や評価などの「構造」が活躍できないようにしていただけなのです。時間制約があっても働き、活躍できる職場環境を創るためには、「労働環境」の改革と「風土」の改革が必要です。具体的には、時間制約の有り無しに関わらず定時に帰れる環境や、リモートワークなどの多様な働き方の実施、また社員が自律的に意思決定できる環境で労働時間ではなくパフォーマンスを評価されているという風土です。このような労働環境や風土は、実は時間制約がなくても「活躍人材」になれる環境ですよね。育児期の社員が活躍できる環境を創ることは、多様な背景をもつ社員が活躍できる環境でもあるのです。

ここでは、子育て中の社員にスポットを当てて、「活躍人材」の育て方について解説していきます。

子育て社員も、関わり方を変えることで活躍人材になる!

各社で研修を行っていると、子育て中の女性から「仕事をがんばりたいけれど、どのように仕事と家庭のバランスを取れば良いのかわからない」というお悩みをよく聞きます。実は、子育て中の方のキャリアに対するさまざまな考え方があり、ライフ重視の「ゆるキャリ」、キャリア重視の「バリキャリ」、生活や子育て、仕事もキャリアも意欲的に取り組みたい「フルキャリ」など、仕事やキャリアに対する意識が多様化しています。

まずは子育て中の社員が「自分がどうしたいのか」を仕事・プライベートの両面から考え発信していく「ヘルプシーキング」が必要です。また受け取る上司も、社員のなりたい姿に対して後押ししていくことが大切です。

アメリカのキャリア理論家であるサニー・ハンセンは、著書『キャリア開発と統合的ライフ・プランニング 不確実な今を生きる6つの重要課題』の中で、新しいキャリアの考え方として「人生には『仕事』『家族』『学び』『余暇』の4つの役割がある」と提唱しています。

― 「キャリアには、家庭における役割から社会における役割まで、人生の全ての役割が含まれており、4つの役割が、バランスよく統合されてはじめて、個人として意味ある人生を織りなすことができる」

※引用:サニー・S・ハンセン(2013)『キャリア開発と統合的ライフ・プランニング 不確実な今を生きる6つの重要課題』福村出版

つまり、「仕事=キャリア」ではなく、仕事とプライベートの全てが個人の「価値」につながっていくと示しているのです。

子育て中の社員に対しては、これまで「時間制約がある=活躍しづらい」と本人も会社も捉えてしまいがちでしたが、社員が子育てを経験することによって獲得する「価値」が、会社にとってプラスであると捉えることができるのです。

活躍人材を育てるためには、属人化の解消が必須!

「社員が産育休に入ることになったけれど、業務がその人しかわからない」
「長年ひとり担当だったため、ほかの人が引き継いでも同じようにできない」
このような状態は、“業務の属人化”と呼ばれ、問題になっている現場も多いと聞きます。

業務の属人化は、活躍人材を育てていく上ではじめに解消しなくてはいけないポイントです。「誰かにすぐ頼める」ことを念頭に、業務を見える化していきましょう。また子育て中の社員は、自身やお子さんの状況をチームに共有することで、状況理解が促され業務の円滑化が見込めます。

  • チーム全体で資料や情報、進捗状況の見える化
  • 誰でもすぐにわかるよう、机と引き出し、デスクトップの整理整頓
  • スケジュールの共有
  • マニュアルの共有
  • ペアで仕事をする(バディ化)
  • 家族の状況の共有(子どもの具合が悪そうであれば早めに伝えておくなど)
  • 仕事の方向性や価値観を話す機会

業務の属人化を解消することは、子育て中の女性社員だけでなく、男性育休取得者や介護をしている社員、時間制約のない社員など、全社員の活躍の機会と働きやすさを創り出すことができます。「その人だけしかわからない・できない」という状況は、会社にとって健全ではないのです。また、まだこういった環境が整っていないという会社は、社員が育休を取る際に、「復帰をした後にもチームで働けるように、マニュアル化やスケジュール共有などを実施して欲しい」と、社員と共に環境を創っていくことも大切です。育休を取る社員が増えることが大変なのではなく、「業務改善が進むこと」につながるとポジティブに捉えることもできます。

時間制約があるからこそ磨かれるスキルがある

子育て中の社員が持たれるイメージとして「仕事量が少ない・生産性が低い」と思われがちですが、実は子育てをしていると、マルチタスク力が鍛えられたり、マネジメント力が身に付くなど、時間制約があるからこそ磨かれるスキルがあります。ただ、時間制約があることでスキルを獲得できていることを本人や周囲が気づいていないことも多いため、「時間制約があるから活躍できない」という思考に陥ってしまうことも少なくありません。

例えば、産育休前の面談で「子育てをしているとこういう能力が身に付くよ、期待しているよ」と伝えておくことで、子育てという時間制約があっても「活躍できる人材」であり続けることができるのです。

仕事と子育ての両立で磨かれるスキルについて
・時間管理

家事効率化の工夫/タスクマネジメント/マルチタスク/業務の効率化(時短)

・リスクマネジメント

病児の対応/家事の見える化(分担)/業務の見える化/業務トラブル時の対応

・計画・戦略立案

年齢に応じた検討事項/習い事・学校の選択/パートナーとのキャリアビジョン

・育成

子どもの成長を見守る/育成視点を持って関わる/共感力

男性育休は、多様な人材が活躍するキーポイント

活躍人材を育てるという観点でも、男性育休を促進することは会社にとってメリットが大きいと言えます。

例えば、業務の属人化解消、仕事と子育ての両立で磨かれるスキルなどは、男性育休取得についても同じように効果があります。男性の育児休業取得後の変化として、仕事の進め方を見直すきっかけとなり、実際に育児休業を取得した男性社員の64.5%が生産性向上につながったと答えている調査もあります。

また、イノベーション人材*の育成においても、早稲田大学大学院経営管理研究科教授の入山彰栄氏が提唱するように、男性育休取得で得られる経験が有益になるとされています。

*イノベーション人材:新しいアイデアから社会的意義のある新たな価値を創造し、社会的に大きな変化をもたらす自律的な人・組織・社会の幅広い変革の意

― 「イノベーションには『イントラパーソナルダイバーシティ』(=本業とは異なる価値観を持った場に積極的に出ていくことで、自分自身の中に養われる多様性)が必要で、それには社外に出て『知の探求』をすることが重要だ」

※引用:入山彰栄(2019)『世界標準の経営理論』ダイヤモンド社

活躍人材を育てる風土づくりと心理的安全性

ここまで、仕事と子育ての両立はビジネスシーンにおいて大いにメリットがあるということを解説してきました。最後に、子育て中の社員が活躍できる土壌をつくるには、そのための風土を創っていくことが重要であることをお伝えしたいと思います。

子育て社員が活躍できる土壌は、そのほかの多様な背景をもつ社員も活躍できる土壌となります。時間制約があっても働ける、活躍ができるということは、社員全体の「心理的安全性」にもつながります。そして、こういった風土の醸成は、まだライフイベントを迎えていない漠然とした不安を持った若手にとってもメリットとなり、採用面や入社後の離職率低下にも影響していきます。

まずはできるところから、取り組んでみてください。諦めず取り組むことで、やがて大きな風となり、会社全体を変えることにつながります。

Profile

スリール堀江 敦子 氏

スリール株式会社 代表取締役
堀江 敦子 氏

2010年に創業してから一貫し、女性活躍から始めるサスティナブル経営の実現に向けた支援を多方面(企業/国・地方自治体/大学)に実施。企業に対しては、独自開発した体験型プログラムを中核に、人材教育・人材開発コンサルティング事業を展開。その他、内閣府男女共同参画局 専門委員として第5次男女共同参画基本計画の策定に関わるなど、政策実現に向けて精力的に活動する。日本女子大学社会福祉学科卒業。立教大学大学院経営学研究科(博士前期課程/リーダーシップ開発コース)修了。厚生労働省 イクメンプロジェクト委員、こども家庭庁設置法案等準備室委員、千葉大学 非常勤講師を務める。著書に『新・ワーママ入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。

スペシャルコンテンツ一覧を見る

おすすめの記事