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【ナレッジコラム】
マネジメントの未来価値探求vol.005
AI協働マネジメント ~テクノロジーが進化するほど、人間力が輝くわけ~
公開日:2026.04.23
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ナラティブ・エル・セッションズ合同会社 代表
著者/組織開発・人材開発コンサルタント
成瀬 岳人 氏
HRエキスパートのナレッジをお伝えする『ナレッジコラム』。著者/組織開発・人材開発コンサルタントで、マネジメントの探究コミュニティ「Narrative“L”Sessions」を主催する成瀬岳人氏による「マネジメントの未来価値」について6回連載でお届けします。
昨今、マネジメントは“罰ゲーム”と揶揄されていますが、本コラムではマネジメントのやりがいや学び、成長など、重要性やポジティブな側面に陽の光を当てていきます。
第5回は「AI協働マネジメント」です。
▼バックナンバーはこちら
vol.001:マネジメント・キャリアに陽を当てる ~人と組織を幸せにできる管理職の可能性~
vol.002:指示・命令は時代遅れ? ~組織を活かす「対話の力」の本質~
vol.003:1on1の真価 ~ただの「傾聴」で終わらせず、組織の成果につなげる個別支援の技術~
vol.004:マネジャー自身のキャリア自律 ~他者の成長支援が自分の可能性を拓く~
「AIを導入してから、むしろ自分の仕事が増えた気がするんですよね」
先日、ある企業のマネジャー研修でこんな本音を聞きました。チャットAIを使って議事録や資料作成の時間は確かに減った。ところが不思議なことに、チームメンバーの状態が見えなくなってきたというのです。
「メンバーがAIで仕上げてくる資料は完璧に見えるんです。でも、何を考えてその結論に至ったのか、ちっとも見えてこない」
AIの普及が「見えにくくしてしまったもの」がある。今回はそこから話を始めたいと思います。
「完璧な資料」が生んだ、不思議な違和感
木村さん(仮名)は、私が支援している会社の若手マネジャーです。もともと勉強熱心で、生成AIをいち早く使いこなし、チーム内で「AI活用の旗振り役」を買って出ていました。
ある時、木村さんから1on1の相談を受けました。「メンバーが育っているのかどうか、最近よくわからなくなってきたんです」。
状況を詳しく聞くと、こういうことでした。チームでAIを積極活用するよう促した結果、各自の成果物のクオリティは上がった。締め切りも守れるようになった。ところが、週次ミーティングで「なぜこのやり方を選んだのか」と聞くと、メンバーの言葉がすっと出てこない。「AIがこう言っていたので」という答えが増え、自分の言葉で語る場面が減ってきたというのです。
「成瀬さん、これって私の関わり方の問題でしょうか」
木村さんの問いは、AI時代のマネジャーが直面する本質的な課題を突いていました。AIを使いこなすことと、チームを育てることは、同じことではない。むしろ、使い方を間違えると逆方向に働く可能性すらある、ということです。
AI協働マネジメントの「3つのレイヤー」
木村さんのケースを通じて、私はAI協働マネジメントには考えるべき3つのレイヤーがあると整理するようになりました。
レイヤー1:マネジャー自身がAIを使う
情報の整理・要約・構造化、アイデアのたたき台づくり、データ分析、議事録作成—— これらはAIが圧倒的に得意な領域です。マネジャーがこれらをAIに任せることで、本来の仕事に集中する「余白」が生まれます。
私自身、コンサルティングの現場でAIを思考の壁打ち相手として使うようになってから、自分が本当に考えるべき問いが見えやすくなりました。AIに「この状況を整理して」と依頼することで、自分が何に迷っているかが整理しやすくなるのです。
ただし、ここに一つ重要な認識が必要です。AIが得意なのは「What(何を)」と「How(どうやって)」の領域です。「なぜこの仕事をするのか」「この判断の責任は誰が取るのか」という「Why(なぜ)」と「責任」は、人間にしか担えません。
レイヤー2:AIを使うメンバーと向き合う
これが、現代のマネジャーにとって最もリアルな課題です。
AIを積極活用するメンバーが増える中で、マネジャーが直面するのは2つのリスクです。
- 思考停止のリスク:AIの答えをそのまま使い続けることで、自分で考える力が落ちていく
- モチベーション喪失のリスク:AIにできることが増えるほど、「自分がいる意味」を見失うメンバーが出てくる
木村さんのチームで起きていたのは、まさに前者でした。AIの活用を推進したことは正しかった。ただ、「AIの答えを借りることと、自分で考えることのバランス」をチームで共有できていなかった。
ここでマネジャーがすべきことは、AIを使うな、ということではありません。「この仕事を通じて、あなたは何を考え、何を学びたいのか」という問いを、1on1の中で問い続けることです。成果物の完成度よりも、そこに至るプロセスでメンバーが何を感じ、何を判断したかに関心を向ける。その姿勢こそが、AI時代のマネジャーの核心です。
レイヤー3:AIエージェントがチームに加わる未来
少し先の話をしましょう。AIエージェントが、タスクを自律的に実行するチームの「メンバー」として機能する時代が近づいています。スケジュール調整、情報収集、初稿作成、データ分析——これらを担うAIエージェントとどう協働するか、は近い将来、全てのマネジャーが向き合う問いになります。たとえば、会議の議事進行の一部をAIエージェントが担い、発言の要約や論点整理をリアルタイムで行う場面も、すでに現実のものになりつつあります。プロジェクト管理ツールがAIエージェントと連携し、タスクの優先順位を自動で提案する未来も、遠い話ではありません。
そのとき、マネジャーに求められるのは「AIに何を任せるか」の判断力と、「人間にしか生み出せない価値」への深い理解です。タスクの管理者から、人間とAIが混在するチームの「意味の創出者」へ。マネジャーの役割は、より人間的な方向へと進化していきます。
※筆者作成
AI時代だからこそ問われる「人間力」の3つの核心
この連載Vol.001で、私は「これからのマネジャーに求められる3つの役割」を予告しました。ウェルビーイング創造者、AI協働ファシリテーター、人間性の価値創造者。AIとの協働が深まるほど、この3つの価値はむしろ高まると、今は確信しています。ここでいう「人間力」とは、単なる対話スキルやコミュニケーション能力のことではありません。AIと共に働く中で初めて見えてくる、人間固有の3つの力のことです。これはマネジャー自身の仕事の屋台骨であると同時に、メンバーとの対話の中で問い続けるべき視点でもあります。
1. 目的とアウトプットイメージを設計する力(最終成果を委ねない)
AIは優秀なアシスタントですが、「何のためにこれをつくるのか」を自ら問うことはありません。目的の設定と、完成形のイメージを持つのは、常に人間の側です。
私自身、AIを活用するようになってから、逆説的に「目的を言語化する力」の重要性を強く感じるようになりました。AIに曖昧な指示を出すと、それなりの答えは返ってくる。しかし、その答えが「本当に欲しかったもの」かどうかは、自分の中に明確なゴールイメージがなければ判断できません。
これはメンバーへの関わりでも同じです。「AIを使って資料をつくる」ではなく、「この資料で誰に何を伝え、どんな意思決定を促したいのか」を一緒に言語化する。その問いかけこそが、メンバーの思考力を育てます。AIを使えば使うほど、「何のために」を問う習慣が、マネジャーにもメンバーにも求められるのです。
2. 批判的思考の力(鵜呑みにしない)
AIの出力は、しばしば「もっともらしい」。流暢な文章、整った構造、説得力のある論拠——だからこそ、疑わずに受け入れてしまうリスクが生まれます。木村さんのチームのメンバーたちが「AIがこう言っていたので」と答えるようになったのも、この落とし穴にはまっていたからです。
批判的思考とは、AIを疑うことではありません。「この答えは、自分たちの状況や文脈に本当に合っているか」「見落とされている視点はないか」「最終的にこの判断の責任は誰が取るのか」を問い続けることです。
マネジャーがこの姿勢をチームに体現し続けることで、Vol.003で語った、上司とメンバーが互いの見ている状況をすり合わせる「景色合わせ」の1on1も、
Vol.002で語った「対話の3要素(探索・挑戦・支援)」も、AIには代替できない深みを持ち始めます。「AIがそう言っているけど、あなたはどう思う?」——この一問が、メンバーの思考を取り戻す起点になります。
3. AIをマネジメントする力(AIをチームの一員と考える)
AIを単なる「便利なツール」として使うのと、「共に考え、はたらくパートナー」として関わるのとでは、アウトプットの質もプロセスへの納得感も大きく変わります。私はAIを、優秀だが文脈を持たない新人メンバーのように捉えています。丁寧に目的を伝え、途中で対話しながら方向を修正し、最終的な判断は自分が下す。そのプロセス自体に、意味があるのです。
この視点は、メンバーとの関わり方にも直結します。「AIと一緒にどうつくったか」をメンバーと振り返ることで、思考のプロセスが可視化されます。AIが出した初稿のどこに違和感を覚えたか、どこを自分の言葉に書き直したか——その痕跡の中に、メンバーの判断力と創造性が宿っています。その痕跡を見つけ、言語化し、次の成長につなげること。それがAI時代のマネジャーにしかできない、固有の仕事です。
今日から始めるAI協働マネジメントの3つの習慣
では、これらの「人間力」を、実際のマネジメントの現場でどう体現するか。大切なのは、特別なスキルを身に付けることではありません。日常に、小さな変化を取り入れることです。
「目的とアウトプットイメージを持つ力」、「批判的思考の力」、「AIと共につくるプロセスを設計する力」——この3つは、実はどれも、チームとの日々の対話の中で少しずつ鍛えられていくものです。
そのための入口として、今すぐ実践できる3つの習慣をご紹介します。
※筆者作成
習慣1:AIを「たたき台メーカー」として使い、自分の「なぜ」を乗せる
1on1の前にAIに状況を整理させる、会議の議題をAIに構造化させる——こうした使い方は積極的にすべきです。ただし、AIが出した「たたき台」をそのまま使うのではなく、そこに必ず「自分の言葉」を加えてください。
「AIがこう言っていたから」ではなく、「AIの整理を見て、私はこう考えた」という言葉がチームに届いたとき、メンバーはマネジャーの判断を信頼します。
習慣2:「プロセスを問う1on1」を意識的に設ける
メンバーがAIを活用して成果を出したとき、「よくできたね」で終わらせないでください。「どんなプロセスで考えた?」「AIの提案で、あなた自身が納得できなかった部分はあった?」と問いかけてみてください。
成果物の評価からプロセスへの関心へ。この視点の転換が、メンバーの「思考する習慣」を守ります。
習慣3:「AIにできないこと」を、チームで言語化する
チームミーティングで、一度こんな問いを投げかけてみてください。
「私たちのチームで、AIには絶対に代替できないものって何だろう?」
この問いへの答えを、チームで共有することが、各メンバーの「自分の価値」への自覚につながります。そして、その答えの中心には必ず「人間同士の関係性」「感情の理解」「意味の共創」という言葉が現れるはずです。その関係性や意味の共創こそが、メンバーが「この仕事をする意味がある」と感じる源泉——つまり、働く幸福感(ウェルビーイング)の土台になります。それこそが、次回Vol.006で探求する「ウェルビーイング・マネジメント」へとつながっていきます。
AIが進化するほど、「人間力」が問われる時代へ
Vol.001で私は「良いマネジメント体験は伝播する」と書きました。田中マネジャーの言葉が私の中に生き続け、山田部長の真剣さが今の私をつくっている。あの体験の本質は、データでも効率でもなく、「人間が人間に本気で向き合った瞬間」でした。
AIがどれほど進化しても、その「瞬間」は、今はまだ生み出せません。
AIを賢く使いこなすことで、マネジャーはより多くの時間を「人間にしかできないこと」に使えるようになります。感情を読み、意味を語り、責任を取り、そしてメンバーの「はたらく幸福感」に向き合う時間を。
テクノロジーが進化するほど、人間力が輝く。私はそれを、希望として受け取っています。
次回Vol.006では、「ウェルビーイング・マネジメント:幸福度向上が生み出す持続的成果」をテーマに、AI時代に問い直される「働く意味」と「個人の幸福と組織の成果の同時実現」について探求します。
Profile
ナラティブ・エル・セッションズ合同会社 代表
著者/組織開発・人材開発コンサルタント
成瀬 岳人 氏
22年間のサラリーマン経験を経て2025年4月に独立し、マネジメントの探求コミュニティ「Narrative "L" Sessions」を主宰。事業構想修士(MPD)と実務教育学修士(MPE)の二つの修士号を持つ。現在は一般社団法人プロティアン・キャリア協会CDOや「全員マネジメント」を標榜する株式会社NOKIOOのパートナー講師も務める。主な研究テーマは「ウェルビーイング」「マネジメント」「AI」。
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