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【ナレッジコラム】
マネジメントの未来価値探求vol.004
マネジャー自身のキャリア自律 ~他者の成長支援が自分の可能性を拓く~

公開日:2026.03.12

スペシャルコンテンツ

ナラティブ・エル・セッションズ合同会社 代表
著者/組織開発・人材開発コンサルタント
成瀬 岳人 氏

HRエキスパートのナレッジをお伝えする『ナレッジコラム』。著者/組織開発・人材開発コンサルタントで、マネジメントの探究コミュニティ「Narrative“L”Sessions」を主催する成瀬岳人氏による「マネジメントの未来価値」について6回連載でお届けします。
昨今、マネジメントは“罰ゲーム”と揶揄されていますが、本コラムでは マネジメントのやりがいや学び、成長など、重要性やポジティブな側面に陽の光を当てていきます。
第4回は「マネジャー自身のキャリア自律」です。

▼バックナンバーはこちら
vol.001:マネジメント・キャリアに陽を当てる ~人と組織を幸せにできる管理職の可能性~
vol.002:指示・命令は時代遅れ? ~組織を活かす「対話の力」の本質~
vol.003:1on1の真価 ~ただの「傾聴」で終わらせず、組織の成果につなげる個別支援の技術~

はじめに:現場マネジャーを襲う「キャリア支援」の重圧

メンバーの自律的なキャリア開発を、組織内のマネジャーは支援できるか?
昨今、多くの企業において「1on1」の定着や「エンゲージメント向上」が経営の最優先事項として掲げられています。その大きな流れの中で、現場のマネジャー層には、メンバー一人ひとりの「キャリア支援」という役割が強く期待されるようになりました。

「自律的なキャリア形成を促してほしい」「メンバーのWill(意志)を引き出し、主体的な成長に伴走してほしい」――。

人事部門や経営層からのこうした要請に対し、現場のマネジャーの皆さんは、戸惑いやプレッシャーを感じてはいないでしょうか。「自分はキャリア支援の専門家ではない」「自分自身のキャリアだってまだ模索中なのに、他人の将来に責任なんて持てない」という本音が聞こえてきそうです。
組織のマネジャーが果たすべき役割とは、キャリアコンサルタントのような「キャリア支援の専門家」になることでしょうか?

私は、そうではないと考えます。無論、メンバーのキャリアを支援する役割は極めて重要ですし、キャリア支援の専門家としての知識やスキルを習得することは、いちビジネスパーソンとしての成長に間違いなくつながります。しかし、専門的な知識やスキルを身に付けること以上に、マネジャーにとって大切なことがあります。それは、マネジャー自身が自律的に自分自身のキャリアを考え、その可能性を広げるために行動している姿を見せること。それこそがメンバーに対する「最大のキャリア支援」になるのです。
今回は連載の第4回として、マネジャーが「キャリア自律」の体現者となることの意義と、今日から実践できる具体的なアクションについて探求していきましょう。

キャリア自律とは「人生のハンドル」を握り続けること

まず、改めて「キャリア自律」という言葉を定義しておきたいと思います。私はキャリア自律を、「自ら人生全体のキャリアを考え、つくりだすために、主体的に行動し続けること」と捉えています。
社会環境の加速的な変化、終身雇用の実質的な終焉、そして「人生100年時代」の到来――。かつてのように、会社が用意したレールの上を歩んでいれば安全だった時代は過去のものとなりました。今、私たちは「会社にキャリアを委ねる」リスクを認識し、自らの意志でキャリアを描き、つくりだす重要性に直面しています。
変化の激しい時代、真に自律的なキャリア形成を支援するには、まずマネジャー自身が、自分自身のキャリアに向き合い、具体的に行動することが不可欠なのです。

マネジャー自身が「鏡」になる

メンバーに対して「これからは自律的なキャリアが重要だ」と説くマネジャー自身が、もし組織のルールの中でしか息ができず、現状にしがみついているとしたら、メンバーの心にその言葉は届きません。メンバーは、マネジャーの言葉の内容以上に、そのマネジャーが「一人のビジネスパーソンとして、どう日々を過ごし、自分の人生をどう生きようとしているか」という後ろ姿を見ています。効果的なキャリア支援ができるマネジャーは、自分自身のキャリアを「会社の外」の視点からも客観視できています。
「私は今、この会社でこの役割を担っているが、それは私自身の意志で選択している。そして、ここでの経験は仮に組織の外に出ても、別の文脈で必ず活かせるはずだ」
こうした自律的なスタンスを持っているマネジャーは、メンバーが「外の世界」に興味を持ったり、新しい挑戦を望んだりした際、それを組織への裏切りとして捉えることはありません。むしろ、一人の社会人としての前向きなステップとして、心から肯定し、背中を押しつつも、組織内でのキャリアの可能性にも目を向けることを自然に対話の中で実行できるのです。
マネジャーが自らキャリアの可能性を広げようと行動している姿は、メンバーにとって「自律して生きる」ことの具体的なロールモデルとなります。マネジャー自身が「キャリア自律のモデル」(キャリア・ロールモデルでなくても良い)として存在すること。これこそが、表面的なキャリア支援スキルよりも強力な支援となるのです。そして、人生100年時代の今、この姿勢は、50代でも60代でも必要とされます。実際に、筆者の周囲で自ら自律的にキャリアを描き、開発しているマネジャーの中には、既に一度定年退職し、もう一度マネジメント職で活躍している方もいます。

マネジャー自身の「キャリア自律」のための3つの実践アクション

では、具体的にどのような行動から始めればよいのでしょうか。多忙なマネジャーの皆さんが、今日から、あるいは今週末から着手できる3つのアクションを提案します。

※筆者&AI作成

  1. 越境する:組織の外に一歩踏み出す
    「越境」と聞くと大げさに感じるかもしれませんが、小さくてもいいのです。組織の外、普段の自分の業務環境の外に一歩踏み出してみることです。具体的には、社外の勉強会、異業種の交流会、あるいは地域コミュニティでも構いません。ポイントは、「現在の業務での利害関係が一切ない誰か」と対話することから始めることです。
    社内での「役割」という鎧を脱ぎ、一人の人間として誰かと話すことで、自分自身の価値観や強みが相対化され、新しい視点が得られます。この「外の空気」を持ち帰ることが、メンバーとの対話に深みを与えます。


  2. 学び、語る:プロセスを共有する
    業務に直結しないことでもいいので、「いつか学びたい」と思っていたこと、あるいは学ぼうとして手をつけていなかったことを始めてみてください。そして、それを「こっそり」やるのではなく、ぜひメンバーの前で語ってください。「今、実はこんな勉強を始めたんだ」「新しいことを学ぶのは、意外と苦戦しているよ」といった等身大の学びのプロセスを共有すること。マネジャー自身が学び続ける姿勢を見せることで、チーム内に「学習文化」が根付くとともに、メンバーも自分の興味関心を語りやすい土壌が生まれます。


  3. AIとの対話:キャリアを「見える化」する
    自分のキャリアについて、これまでの経緯、今考えている悩み、これからの展望を、ChatGPTなどのAIと対話してみてください。言語化されていない想いは、実現することができません。AIを「思考の壁打ち相手」として使い、自分自身のキャリアの棚卸しや将来像を書き出してみるのです。「AIに自分のキャリアを相談してみたんだけど、こんな面白い視点をもらったよ」とメンバーに話すことも、次回のテーマ(Vol.5 AI協働マネジメント)につながる非常に現代的なキャリア行動と言えます。

キャリアは「関係性」からつくられる:社会関係資本の視点

ここで、キャリア形成における重要なパラドックス(逆説)についてお話しします。「自律」というと、自分一人の力(個力)で道を切り拓くイメージを持たれるかもしれません。しかし、キャリアとは、個力だけでつくられるものではなく、「関係性」からつくられるものなのです。

社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)という資産

社会学の概念に「社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)」があります。人々のつながりや信頼関係、ネットワークが、個人のキャリアや組織の成果に大きなプラスの影響を与えることを示すものです。
マーク・グラノヴェッターが提唱した「弱い紐帯(ちゅうたい)の強み」という説があります。自分と似た価値観の身内(強い紐帯)よりも、少し離れた場所にいる知人や異なるコミュニティの人(弱い紐帯)とのつながりのほうが、自分を新しい世界へと導く有益な情報やチャンスをもたらしてくれる、というものです。
この視点に立つと、マネジャーがメンバーのキャリア支援に向き合うことの意味が劇的に変わります。
自らキャリア自律行動をとった上で、メンバーが自身のキャリアに向き合うことに伴走すること。それは、マネジャーにとって単なる「義務」ではありません。メンバーという一人の個人との間に、質の高い信頼関係とネットワークを構築するプロセスそのものです。
メンバーのキャリアを真実の心で支援し、彼らの可能性を広げることは、結果的にマネジャー自身の「社会関係資本」を豊かにし、自分自身のキャリアの幅を広げることに直結します。かつての部下が別の場所で活躍し、数年後にあなたに新しいビジネスチャンスをもたらす――。そんな未来の可能性を育むことが、マネジメントにおけるキャリア支援の醍醐味なのです。

※筆者&AI作成

「役割」を越え、「個」として向き合う勇気

あらためて問いましょう。マネジャーはキャリア支援の専門家であるべきでしょうか?
私は、マネジャーに求められるのは、専門家という「高み」からの指導ではなく、同じ変化の激しい時代を生きる「ひとりの人間」としての伴走であると考えます。
メンバーのキャリアに向き合う1on1を深めるためには、時には「マネャー」という鎧を脱ぎ捨てる勇気が必要です。
メンバーがキャリアに悩み、立ち止まっているとき。管理職としての正論を吐くのではなく、自分自身のキャリア自律に向けたもがきや挑戦を、等身大で共有してみてください。マネジャーが「一人の社会人」として自分のキャリアに向き合う姿を見せたとき、メンバーもまた、自身のキャリアを「自分のもの」として語り始めます。
組織のニーズ(Must)とメンバーの意志(Will)を、無理につなぎ合わせる必要はありません。そこにマネジャーである「私」自身の想いや行動を介在させ、「さて、この変化の激しい時代を、お互いのキャリアをどう豊かにしながら乗り切っていこうか」と、共に企むような関係性を築くこと。
メンバーのキャリアに向き合うことは、結果的にあなた自身のキャリアの可能性を広げる鏡となります。他者を支援することで、あなた自身が磨かれていくのです。

支援が「自分の可能性」を拓く理由

「他者のキャリア支援に時間を割くのは、自分の仕事が疎かになるのではないか」という懸念を持つ方もいるかもしれません。しかし、現実はその逆です。他者のキャリアを真剣に支援することは、回り回って自分自身のキャリアを劇的に磨くことになります。

  • 強みの再定義:メンバーの強みを見つけるプロセスを通じて、自分の隠れた強みやバイアスにも気づかされる。


  • 現状打破の刺激:メンバーの新しい挑戦を応援する過程で、自分自身の「現状維持」に対する甘えが鏡のように映し出され、自己変革の動機になる。


  • 余白の創出:メンバーが自律的に動き出し、チームが自走し始めることで、マネジャー自身がさらに高度な課題や「次のステージ」へ向かうための余白が生まれる。

「他者の成長支援」は、決して自己犠牲ではありません。それは、自分一人では到達できなかった高い視座に立ち、自分自身の可能性を再定義するための、最もリターンが大きい「自己投資」なのです。

おわりに:キャリア自律の旅は、連鎖する

変化の激しい時代、真に自律的なキャリア形成を支援するには、まずマネジャー自身が、自分自身のキャリアに向き合い、具体的に行動することが何よりも重要です。
他者の成長を支援することは、自分を磨くことです。他者の可能性を拓くことは、自分の世界を広げることです。そして、そのプロセスで築かれた信頼という「社会関係資本」は、あなたがいつか別の場所へ踏み出すとき、あなたを支える最強の資産となります。
マネジャー自身が自らの可能性を楽しそうに、かつ真剣に追い求めている姿こそが、メンバーを動かし、組織に新しい風を吹き込む源泉となります。
さて、私たちの探求は次なるステージへと向かいます。次回、Vol.5のテーマは「AI協働マネジメント:テクノロジーと人間性による最適な共創」です。
キャリア自律を果たし、人間味あふれるマネジメントを実践する私たちが、AIという強力なパートナーをどう使いこなし、さらなる付加価値を生み出していくべきか。テクノロジーの進化が「人間らしさ」の価値を逆に浮き彫りにする、新しい時代のマネジメントのあり方を考えていきましょう。

Profile

ナラティブ・エル・セッションズ 成瀬 岳人 氏

ナラティブ・エル・セッションズ合同会社 代表
著者/組織開発・人材開発コンサルタント
成瀬 岳人 氏

22年間のサラリーマン経験を経て2025年4月に独立し、マネジメントの探求コミュニティ「Narrative "L" Sessions」を主宰。事業構想修士(MPD)と実務教育学修士(MPE)の二つの修士号を持つ。現在は一般社団法人プロティアン・キャリア協会CDOや「全員マネジメント」を標榜する株式会社NOKIOOのパートナー講師も務める。主な研究テーマは「ウェルビーイング」「マネジメント」「AI」。

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