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【ナレッジコラム】
マネジメントの未来価値探求vol.001
マネジメント・キャリアに陽を当てる ~人と組織を幸せにできる管理職の可能性~
公開日:2025.09.30
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ナラティブ・エル・セッションズ合同会社 代表
著者/組織開発・人材開発コンサルタント
成瀬 岳人 氏
HRエキスパートのナレッジをお伝えする『ナレッジコラム』。著者/組織開発・人材開発コンサルタントで、マネジメントの探究コミュニティ「Narrative“L”Sessions」を主催する成瀬岳人氏による「マネジメントの未来価値」について6回連載でお届けします。昨今、マネジメントは“罰ゲーム”と揶揄されていますが、本コラムではマネジメントのやりがいや学び、成長など、重要性やポジティブな側面に陽の光を当てていきます。第1回は「マネジメント・キャリアに陽を当てる 〜人と組織を幸せにできる管理職の可能性~」です。
マネジメント・キャリアのポジティブ面に陽を当てる 〜人と組織を幸せにできる管理職の可能性〜
AIの進化でマネジメントは不要になるのか?
「AI時代にはマネジメントも不要になる」という声を聞くことがあります。しかし、私はそうはならないと考えています。むしろ、人とAIの協働が広がり働き手の多様性が増すほど、新たなマネジメントの機能・スタイルが求められ、より一層、人が担うマネジメントの価値は高まると考えています。つまり、マネジメント・キャリアの経験価値は市場において高まっていくと考えています。
なぜなら、AIが定型業務を担う中で、人間にしかできない「共感」「創造性」「判断力」といった能力を組織で最大化する役割こそが、これからの時代に求められるマネジメントだからです。
なぜ今、マネジメントの未来価値を探求するのか
「管理職になんてなりたくない」
「マネジメントは罰ゲーム」
そんな声があふれる現代。しかし、時代は大きく変わろうとしています。ウェルビーイングが事業価値として注目され始め、AIが働く現場に広がり、性別・年齢・国籍だけでなく、さまざまな価値観の多様性が広がっていく中で、マネジメントの役割と価値も根本的に変化しています。一部の職種によっては機械化・自動化されるマネジメント機能も現れていますが、多くの仕事において、人と組織・プロジェクトをマネジメントする能力と役割は、より一層市場から求められていくでしょう。
だからこそ、私たちは今、マネジメント・キャリアのポジティブな面に改めて陽を当て、その未来価値を探求する必要があるのです。
マネジメントの時代変遷を振り返る

※筆者&AI作成
マネジメントの歴史を振り返ると、時代とともにその役割は大きく変化してきました。産業化時代では、マネジメントは「効率的な生産管理」が中心でした。情報化時代に入ると「知識労働者の成果管理」が重要になりました。そしてデジタル変革時代の今、マネジメントに求められるのは「人の創造性と幸福度を高める」ことへ進化が求められています。
現在はその進化の過渡期であり、人材を歯車ではなく「人間として価値発揮してもらう」ことに重きを置き、人の価値を高め企業価値向上につながる経営がより一層求められるようになってきました。働き方改革、DE&I(ダイバーシティ経営)、人的資本経営と、企業活動において人の位置づけが変化してきたことで、ある意味「人に気を遣いすぎる」現象も生じています。元より「はたらく人が財産である」のは当たり前ではありましたが、主張や理念ではなく、社会通念として広がっているのが、現代のマネジメントを難しくしている一因でもあります。
今後、特に注目すべきは、近年の「ウェルビーイング経営」の台頭です。従業員の心身の健康と幸福が、直接的に企業価値向上につながることが科学的に証明され、多くの企業がウェルビーイングを重要な経営指標として採用し始めています。さらに、AIの普及により定型業務が自動化・代替され、また仕事の在り方そのものが変化していく中で、AIも価値創造を担う一員と捉えながら、多様なメンバー一人ひとりの人間らしさや、価値を活かすマネジメントの重要性はむしろ高まっていくと考えられます。
今後のマネジメントを考える上で、重要なことは能力やスキル向上以上に、「マネジメント体験」ではないかと考えます。「どのようなマネジメントを受けたか」、このマネジメント体験のより良い輪を広げることが、次の世代のマネジメントに希望をつないでいくと考えています。
今回は、青臭くて恐縮ですが、私のマネジメント・ポリシーの土台となっている「マネジメント体験」をいくつかご紹介しますので、ぜひ読者の皆様も、ご自身の「良いマネジメント体験」を思い出してみてください。
「良いマネジメント体験は伝播する」
22年間のサラリーマン生活で、私は「良いマネジメント体験は伝播する」という現象をいくつも経験してきました。
人として寄り添ってくれた田中マネジャー(仮名)
IT企業の営業で成果が出ず苦しんでいた時、マネジャーの田中さんは私をコーヒーに誘い、仕事の話ではなく、一人の人間として向き合ってくれました。
「成瀬君の仕事の丁寧さは、私には真似できないよ。今は苦しいかもしれないけれど、必ずその丁寧さを認めてくれるお客様がいるはずだ。」
この言葉で、どれだけ救われたことか。田中さんは私に「人としての価値」を教えてくれました。
可能性を信じて叱ってくれた山田部長(仮名)
なかなか目標が達成できない現状を、任されている商材や顧客のせいだと他責思考に陥っていた私に、山田さんは真正面から向き合ってくれました。
「成瀬、君の愚痴は聞きたくない。そんな成瀬君は見たくない。君の可能性は信じている。だからこそ、厳しいことも本音で言わせてもらう。」
厳しさの奥にある深い愛情を感じました。山田さんは私に「自分の可能性」を信じ、自分自身と向き合って前に進む力を与えてくれました。
挑戦を後押ししてくれた佐藤事業部長(仮名)
実績不足の私が新規事業に手を挙げた時、佐藤さんは即答でした。
「いいじゃん、やってみろよ。『やってみたい』という気持ちが何より大切だ。」
佐藤さんは私に「挑戦する勇気」をくれました。そして、その事業の結果に対して、時に厳しく、時に取り組む意義を一緒に考えてくれました。

良いマネジメント体験の連鎖が組織を変える
そして今、私がマネジメント育成者として活動する中で確信していることがあります。それは、リーダーやマネジャーを担う人の多くが、より良いマネジメントを実践し、より良い組織にしたい、よりメンバーの成長に貢献したい、と考えていることです。この意思から生まれる日々のマネジメント体験は確実に伝播し、次世代に渡って人や組織を幸せにする力を持っているということです。
田中さんから学んだ「人として寄り添う」姿勢、山田さんから学んだ「可能性を信じて本気で向き合う」こと、佐藤さんから学んだ「挑戦する気持ち」。これらは今、私がマネジメントとして人と接する時の根幹になっています。
そして、私から良い影響を受けた人たちが、また人に良い影響を与える。この「良いマネジメント体験の伝播」こそが、組織を根本から変える力なのです。
これからのマネジメントの未来価値探究
マネジメントを巡る変化は、まだ過渡期です。いえ、もしかしたら時代が変わり続けていく中で、ずっと変化を求められる役割なのかもしれません。少なくともこれから2030年代に向かっていく更なる時代の変化・・・ウェルビーイングが事業価値とされ、AIがはたらく現場に広がっていく未来において、マネジメントはどのような価値発揮を求められるのでしょうか?
- ウェルビーイング創造者としてのマネジャー:従業員の心理的安全性、成長実感、やりがいを高めることで、個人の幸福と組織の成果を同時に実現する役割。
- AI協働のファシリテーター:AIが担う定型業務と人間が担う創造的業務を適切に橋渡しし、チーム全体の生産性と満足度を最大化する役割。
- 人間性の価値創造者:データや効率では測れない、共感、信頼、創造性といった人間らしい価値を組織に生み出す役割。
これらの役割を担うマネジャーこそが、人と組織を幸せにする管理職として、未来の働き方を牽引していくのかもしれません。その土台には、マネジメントを実践する一人ひとりの中に信念があり、その信念を形成する「マネジメント体験」があるはずです。
あなたの中にある「良いマネジメント体験」を思い出してください。
この記事を読んでいるあなたにも、きっと「良いマネジメント体験」があるはずです。困った時に支えてくれた上司、可能性を信じてくれたリーダー、挑戦を後押ししてくれた先輩。
その体験を思い出してください。そして、その時受けた良い影響を、今度はあなたが誰かに与える番だということに気付いてください。
マネジメント・キャリアは、人の人生にプラスの影響を与え、組織全体を幸せにできる、これ以上ない価値ある仕事なのです。
本連載では、これから以下のテーマでマネジメントの未来価値を探求していきます。
- マネジメント・コミュニケーション:組織を活かす「対話の力」
- 1on1の真価:相互成長を生み出す個別支援の技術
- マネジメントのキャリア自律:他者の成長支援が自分の可能性を拓く
- AI協働マネジメント:テクノロジーと人間性の最適な融合
- ウェルビーイング・マネジメント:幸福度向上が生み出す持続的成果
時代が大きく変わる今だからこそ、マネジメント・キャリアの光輝く可能性を一緒に探求していきませんか?
次回vol.002では、「指示・命令は時代遅れ?」をテーマに、現代のマネジャーに求められるマネジメント・コミュニケーションについて探究します。
Profile

ナラティブ・エル・セッションズ合同会社 代表
著者/組織開発・人材開発コンサルタント
成瀬 岳人 氏
22年間のサラリーマン経験を経て2025年4月に独立し、マネジメントの探求コミュニティ「Narrative "L" Sessions」を主宰。事業構想修士(MPD)と実務教育学修士(MPE)の二つの修士号を持つ。現在は一般社団法人プロティアン・キャリア協会CDOや「全員マネジメント」を標榜する株式会社NOKIOOのパートナー講師も務める。主な研究テーマは「ウェルビーイング」「マネジメント」「AI」。
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