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【セミナーレポート】
人的資本経営の真価を引き出す人事部門の役割 ~HRBPとCoEを活かしたHRトランスフォーメーションの鍵~

公開日:2024.12.23

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三井化学株式会社
グローバル人材部
部長
小野 真吾 氏

「HR課題」という言葉がまるでトレンドのように各方面から聞こえてくる昨今。多くの会社がさまざまな施策を行なっていますが、課題解決や目的達成につながっているか、一度立ち止まって考える必要があるかもしれません。
本セミナーでは、グローバルレベルでHR機能の強化や指名・役員報酬制度、企業文化変革を行う小野真吾氏が、人的資本経営が企業成長の基盤となる時代における人事部門の役割について解説します。HRBPやCoE(Center of Excellence)機能を確立し、リーダーシップの重要性、HRトランスフォーメーションに不可欠な戦略的視点を、実例とともに解き明かしていきます。

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経営戦略と連動した人材戦略

三井化学株式会社は1912年に石炭化学事業からはじまり、時代の流れとともに、石油化学に転換し今はグリーンケミカルへの変革を目指すというように、環境変化にしなやかに対応してきました。現在、グループ会社は165社を有し、海外売上は49%を占めています。
近年は事業の海外展開、M&A加速に伴い、特に欧米地域の社員数が増加しています。同時に、グループ・グローバルでの最適組織の追求、経営人材の育成・登用が課題となっています。
2021年には長期経営計画「VISION 2030」を策定し、基本戦略を「事業ポートフォリオ変革の追求」「ソリューション型ビジネスモデルの構築」「サーキュラーエコノミーの対応強化」「DXを通じた企業変革」「経営基盤・事業基盤の変革加速」と定めました。
またVISION 2030の達成のための非財務指標として、マテリアリティに紐づくKPIと目標を定めました。財務・非財務双方のKPIレビューを通じて、経営環境の変化を捉えながら取り組みをアップデートし、企業価値の向上につなげるというものです。さらに人材戦略を中期事業戦略ローリングと連動させると示しました。毎年、経営陣と議論を行い、長期経営計画や中期事業戦略を理解したうえで、人材戦略を進めています。
人材戦略においては、人的資本に関する「As-Is」と「To-Be」のギャップを把握し、実行すべき方策を特定することを重視しています。必要人員数やスキル、意欲、ありたい姿への差分といったギャップを埋めるため、マイルストーンとして「人材ポートフォリオ変革」「従業員エンゲージメント」「企業文化変革」をつくり、企業価値向上につなげているという状況です。

人材戦略を実現する人事組織の役割と変遷

ここで当社の基本戦略を振り返ってみたいと思います。2011年から2015年は「成長ターゲット領域への経営資源集中」で、リーマンショックを背景とした現地人材の登用、グローバル人材投資、リーダーシップ開発強化が課題の中核でした。
2016年から2021年は「顧客起点型ビジネスモデルへの転換」で、経営人材獲得・育成強化、外部プロフェッショナル人材獲得、グループ人材・組織文化課題が優先課題でした。

2016年から2021年は「顧客起点型ビジネスモデルへの転換」で、経営人材獲得・育成強化、外部プロフェッショナル人材獲得、グループ人材・組織文化課題が優先課題でした。
2022年からは「VISION 2030」の実現を見据えた「社会課題視点の全事業への展開」で、多様性に富む経営者候補、人材ポートフォリオ変革、自主・自律・協働の体現を課題としています。また外部の知識や経験、価値観、スキル、ネットワークを活用するという観点で、2022年よりキャリア採用の比率を高めました。活躍実態を把握するため、適宜モニタリングを行っています。
また、次世代の経営者となり得るリーダー候補を戦略的に育成する仕組みとして、「キータレントマネジメント」を2016年に導入しました。これは各人材育成委員会において、経営者としての資質を明確にしたうえで、キータレントと経営者候補の早期選抜と戦略的育成を行うというものです。候補者ごとの育成計画の策定や、外部専門機関活用によるアセスメントなどを通じ、適切な育成の加速につなげています。

なお、全社人材育成委員会には、CEOをはじめ、CxO、本部長、各事業部長、室長など経営幹部全員が協議者として参加し、選抜された経営者候補の個別育成計画について議論しています。結果として、戦略重要100ポジションの後継者準備率については、1つのポジションあたり2、3人の候補者がノミネートされています。
人材育成においては、近年では階層別研修よりも、リーダーシップやDXに焦点を当てたプログラムを行っています。さらに従業員のエンゲージメント最大化や、グループ従業員全員活躍のためのプラットフォームづくりといった環境整備についてもグローバルレベルで注力しています。

HRとしてのチャレンジと失敗

人事部門の大きな役割は、企業価値を向上させることです。その源泉となるのは社員ですが、人事部門は人事施策を行うだけではなく、事業現場で社員を支援することも重要です。
当社の人事部門は企業変革に向けてこれまで多彩な取り組みを行なってきました。その1つが「クロスボーダーM&A(国際間でのM&A)プロジェクト」への関与です。通常、M&AにはPre DealからPMIまで多岐にわたるプロセスがあり、またHR領域の活動も幅広いです。

当社が過去最大規模の金額で欧州企業を買収した際には、私はPMOとして参画し、事業ポートフォリオの変革に向けて、多くの交渉を重ねました。買収後はM&Aの背景や、当社が描く未来図を周知するためのセッションを開催したり、お互いの国の文化を理解するためのプログラムを行ったりしました。

このほか人事部門として、業績悪化により崩壊しかかった事業の再構築や、中途採用を起点とした組織づくりとプロジェクト遂行、新規事業創出のための組織開発などにも関わってきました。
なお、これらのプロジェクトの中には失敗に終わったプロジェクトもあります。北米における新規事業創出のためのベンチャー立ち上げに関しては、数年後に撤退し、従業員の解雇に至りました。これには、人事部門として新しい領域に対する事業モデルや事業プロセスへの理解が不十分であったことが原因と受け止めており、次につなげる学びの機会にしたいと思っております。

また、当社では従業員の自発的な取り組みを支援しており、有志メンバーによるオープン・ラボラトリー活動「MOLp®(そざいの魅力ラボ)」もその1つです。これは素材の機能的価値や感性的な魅力を再発見し、そのアイデアやヒントを社会にシェアしていくという活動です。2015年のスタート以来、パリコレやミラノサローネへの出展をはじめ、国内外で多彩な試みを行なっています。人事部門としては、社員発のこのような活動を応援していくという姿勢も大切であると感じております。

明日からできるHRBPのマインドセット

人事部門に必要な条件として、コミットメント、好奇心、吸収力、行動力、コンサルテーション、社内外のネットワーク、コンフリクトマネジメントが挙げられます。
そのうえで、人事部門として意識すべき点は3つあると考えます。
1つ目は事業への提案型コンサルティングの準備で、人事領域の得意分野を複数持つ人材を育成することが重要です。得意分野は採用、労務、組織人材開発、報酬、ガバナンスなど、どんな分野でも構いません。大切なのは各分野の専門性を磨きながら、それらを掛け合わせ、提案の幅をできるだけ広げることです。
2つ目は「事業=ビジネス」を理解し、「人」を理解することです。まずは事業のフレームワークを学習したうえで、事業戦略とビジネスプロセスを理解し、そこから事業を生み出す「人」を最大限理解するのが望ましいといえます。
3つ目は、事業の責任を人事部門も一緒になって背負うことです。これには事業の成長や成功に対し、「パートナーとしてどう貢献できるのか」を考え、事業との接点を多く持つことが大きな鍵になります。接点を持つことで、現場での困りごとが見えてくるため、戦略も立てやすくなるでしょう。

まとめ

人事施策を行うにあたっては、常にPDCAを回しながら本質に立ち返ること、また当たり前のことを当たり前にやり続けることが重要です。さらに施策が「誰のため、何のためにするのか」と、自問自答し続けることも大事なポイントになってきます。
人事施策をミドルボトムアップで展開する際には、時には上層部から否定の意見が届くこともあるでしょう。ですが「会社の常識は社会の非常識」である可能性も少なくありません。そのため、他社や世の中の流れを知ることが非常に大切です。また、仲間をつくり巻き込むこと、抵抗勢力との向き合い方をしっかり考えることも、施策を進めるうえで欠かせないといえるでしょう。

Profile

三井化学 小野 真吾 氏

三井化学株式会社
グローバル人材部
部長
小野 真吾 氏

三井化学㈱にて、ICT関連事業の海外営業・マーケおよびプロマネジャーを経験後、人事に異動。組合対応、採用責任者、国内外M&A人事責任者、HRBPを経験後、人材戦略、キータレントマネジメント、後継者計画、グローバル人事システム導入、グローバルポリシー推進、HRトランスフォーメーション等に従事。2021年4月よりグローバル人材部長に就任し、グローバルレベルでHR機能の強化および指名・役員報酬制度、企業文化変革にも着手。
課外活動として、副業起業を16年前にスタートし、現在企業コンサルやHR人材育成、キャリア開発、セミナー、パネル、大学院での講義やコミュニティ運営等にも従事。経産省ISO/TC国内審議会委員、経産省CX研究会委員も応嘱。

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