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目標管理制度(MBO)の種類、メリットや留意点について解説
公開日:2024.11.06
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目標管理制度(MBO)とは、組織の目標と個人の目標をすり合わせることで企業全体のパフォーマンスを向上させる手法です。社員一人ひとりが自身の目標を明確に理解し、目標の達成まで自らで管理することで、業務効率や業務に対するモチベーションが向上します。しかし、適切に運用しなければむしろ社員のパフォーマンスが低下する可能性もあります。
本記事ではMBOの概要とその種類、メリットや留意点、企業に導入するための手順などを詳しく解説します。MBOについて知りたい方は、ぜひ参考にしてください。
目次
目標管理制度(MBO)とは
目標管理制度(Management by Objectives)とは、組織の目標とそれにリンクさせた個人の目標を設定し、両者の達成度で評価を定める制度です。世界的に知名度の高いアメリカの経営学者、ピーター・F・ドラッカーが1954年に自著で提唱しました。
上司からの一方的な指示で業務を遂行するのではなく、社員自らが組織の方針を意識しながら自身の目標を明確に理解するので、一人ひとりのモチベーションと業務効率の向上につながります。
OKRとの違い
MBOと似た人事評価制度にOKR(Objectives and Key Results)があります。企業の目標を個人の目標に落とし込んで設定する点はMBOと同じですが、そのほかにいくつか違いがあります。
- 目標を振り返るタイミング
MBOは1年ごとに目標を振り返るペースが原則です。一方、OKRでは1ヶ月に一度もしくは四半期に一度の頻度で振り返りを行います。フィードバックをこまめに実施し、進捗状況を確認することで、市場の状況に対応した臨機応変な目標の修正が可能となります。
- 目標の達成度
MBOは人事評価や査定が主な目的なので、目標の達成度は100%に近いレベルが求められます。一方、OKRは組織全体の生産性向上や社員育成が目的のため、60~70%程度の達成度が理想とされます。
OKRでは目標が未達成であっても報酬の増減には関与しません。よりチャレンジングな目標を設定することで社員育成や組織全体の生産性向上を目指します。
- 個人目標の共有範囲
MBOにおいて個人目標は上司と部下の間で共有され、それ以外には開示しません。一方、OKRで設定した個人目標は組織全体で共有します。それにより、他の社員との連携の活発化を促すことが期待できるでしょう。OKRでは企業全体で目標に向かって進むことを目指します。
OKRについてより詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。
>>OKRとは?KPIやMBOとの違いや導入するメリットを解説
KPIとの違い
KPI(Key Performance Indicator)とは目標達成に向けた進捗をチェックするための途中指標です。目標達成に至る業務プロセスが適切に実施されているか日々や月ごとの頻度で確認し、課題や改善点を特定するのに役立ちます。例えば、現時点の目標達成度を測定する指標として、売上額や顧客獲得数などの数字にKPIを設定します。本質的には人事評価制度であり、目標の設定と達成を重視するMBOとは根本的に異なるといえるでしょう。
目標管理制度(MBO)の種類
MBOには、「組織活性型」「課題達成型」「人事評価型」の3種類があります。それぞれの方法について説明していきます。
組織活性型
「組織活性型」は、それぞれの社員に自らの目標を設定させ、個人の自主性を引き出させるMBOです。日本においては、最もオーソドックスなタイプのMBOといえるでしょう。自分で目標を決めるため責任感が強くなり、組織が活性化するというメリットが挙げられます。
一方、目標を掲げることに重点を置くあまり、その達成のために何をするかというプロセスが曖昧になりがちです。また、目標の達成度を確認する評価方法が不明瞭という欠点もあります。
課題達成型
「課題達成型」は、トップダウン形式を原則としたMBOです。まず、企業全体の目標の達成を第一に考え、続いて個人の目標を設定していくタイプの手法です。
例えば、最初に企業全体の売上目標を決め、そこからチームや支店ごとに売上目標金額を分け、さらに一人ひとりの個人目標へと落とし込んでいくという流れです。つまり、それぞれの社員が自分の目標を達成すればチームの目標が達成でき、最終的に企業全体の目標も達成されるという仕組みです。
人事評価型
「人事評価型」とは、MBOの目標設定を人事評価に活用するタイプの手法です。まず、それぞれの社員に個人目標を設定させ、その達成度合いや取り組み方などが人事評価にも反映されます。目標達成が人事評価に直結するため、個人の能力やモチベーションがアップしやすいのが特徴です。
人事評価型のメリットは一人ひとりを平等に評価できる点で、年功序列による不平等な評価を解消するために生まれた手法です。ただし、社員にとっては個人目標の達成がメインになってしまい、一人ひとりの努力が企業の業績アップに必ずしもつながらない可能性もあります。
目標管理制度(MBO)のメリット
企業がMBOを取り入れることにより、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、MBOを行うことで得られるメリットとその理由を紹介します。
人事評価がしやすくなる
MBOにおいて、目標の達成度やプロセスは客観的な数字をもとに評価します。そのため、MBOを評価制度に活用することで人事評価は明快なものとなります。
また、MBOでは社員自らが設定した目標に対する成果が評価され、その評価に基づき処遇が決定されます。結果として、社員からの納得を得やすくなるでしょう。
人事評価についてより詳しく知りたい方は、こちらをご参照ください。
>>人事評価制度とは?導入する目的やメリット、設計方法について解説
社員の自己管理能力の向上
MBOを提唱したドラッカーは「目標管理(MBO)の最大の利点は、支配によるマネジメントを自己管理によるマネジメントに換えることを可能にするところ」と語っています。
上司に振られた仕事を淡々とこなすのではなく、社員自ら設定した目標を遂行するのがMBOです。目標達成に向けて何が足りないかを本人が考え、自らの行動を効果的に調整する自己管理能力を高めていける点はMBOの大きなメリットといえるでしょう。
社員のモチベーションの向上
上司からの命令ではなく、社員が自主的に目標を定めることでモチベーションの向上が期待できます。また、MBOによって定められた個人目標は組織の目標とリンクしています。目標への取り組みが組織にとって価値があると認められれば、必然的にはたらくことへのモチベーションアップが期待できます。
加えて、評価の基準が明確化されれば、社員は目標達成に向けた努力が評価につながると意識できます。こうした成果の可視化もモチベーション向上につながります。
目標管理制度(MBO)の留意点
MBOは社員のモチベーションや業務効率の向上が期待できますが、一方で逆効果を招いてしまう場合もあります。MBOを導入する際の留意点と対策法を紹介します。
低い目標を設定してしまう可能性がある
目標を達成して評価を受けるために、少し努力すれば達成できる簡単な目標を設定してしまう場合があります。しかし、簡単に達成できてしまう目標では実際の業績向上につながらず、社員の成長も期待できません。
したがって、目標の設定段階で現実的で挑戦的なバランスをアドバイスすることが上司の重要な役割になります。
短期的視点に偏る可能性がある
MBOを追求しすぎると、社員は短期的な成果ばかり重視してしまいがちになります。その結果、将来の機会や発展に必要な長期的な戦略やビジョンがおざなりにされることがあります。
MBOは目先の短期的なテーマだけでなく、長期的なビジョンや戦略目標も設定すると効果的です。長期目標と短期目標のバランスを取り、戦略的なビジョンを明確にする視野を確保することが必要です。
社員自身が目標を考える必要がある
MBOでは会社との目標と個人の目標のすりあわせが必要なので、社員が主体的に目標を決めることが重要です。それだけでなく、目標達成のための進捗状況を定期的に確認し、必要に応じて指導やサポートをすることも求められます。
目標管理制度(MBO)の流れ
効果的にMBOを導入するための流れと、具体的な方法について解説します。あらかじめ流れとポイントを知ることでスムーズに導入できるでしょう。
STEP1.目標の設定
MBOでは、社員の個人目標が企業全体の目標達成に結び付くことが重要です。したがって、はじめに組織としての目標を設定します。それを全社員に共有し、個人目標を設定する基準として理解してもらうとよいでしょう。
その後、社員の自主性を重視して社員一人ひとりが個人目標を設定します。一方で、社員が設定した目標をそのまま使用するのではなく、「組織全体の目標達成に寄与できているか」「能力に対して適切な難易度になっているか」「長期目標と短期目標のバランスは取れているか」などの観点から確認を行うことも重要です。必要に応じ、経営層や上司が修正やすり合わせをしていきましょう。
STEP2.目標達成のための計画実行
目標が設定できたら、目標を達成するための計画を決めていきましょう。具体的には、目標達成の期日から逆算して必要な行動を洗い出し、優先順位の高いものから計画に落とし込んでいきます。その際は、計画に必要なリソースやサポートを確保しておくことが重要です。
計画を立案したら、計画をもとに行動に移します。期日までの時間や達成度を確認しながら改善点がないか振り返り、何かあれば修正します。
STEP3.成果の評価と報酬の付与
目標達成度やプロセス、取り組み態度を振り返り、客観的で具体的な数値に基づいて上司が評価・フィードバックを行います。評価基準は事前に明確にし、透明性を保った上で報酬やインセンティブを提供し、社員のモチベーションアップにつなげましょう。
重視すべき点は、目標達成度に対して客観的な評価を行うことです。その上で「なぜ達成できなかったのか」を部下に考えさせ、次はどうすべきかを上司と部下で一緒に考えていきます。次回の目標設定をサポートすることで、部下の成長を促せるでしょう。
STEP4.定期的な振り返り
MBOの運用には進捗や成果の定期的な振り返りが不可欠です。具体的には、日報や週報、毎週か毎月のペースでの1on1ミーティングといった方法で、目標達成の進捗確認をしてください。
その際は進捗状況だけでなく、ときには問題解決に向けたアドバイスを行ったり、必要に応じて目標計画の修正・補完をしたりします。ただし、上司が一方的に指導するというより社員が自ら考えて行動することが重要です。その結果、目標管理能力や問題解決能力の向上につながるでしょう。
目標管理制度(MBO)のメリットや留意点について理解する
目標管理制度(MBO)は適切に運用することで社員のモチベーションを高め、能力を最大限に引き出すことができます。また、企業全体の目的を社員の個人目標とリンクさせれば、自社に大きな利益をもたらすでしょう。
しかし、運用の仕方によっては社員のモチベーション低下や会社への不信を招くなど逆効果になる場合もあります。導入にあたっては、社員の主体性の尊重や適切なフィードバックを行うことが重要です。本記事の内容を参考に、メリットや留意点を意識しながら導入を検討してみてください。
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