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【ナレッジインタビュー 】
ライフシフトラボ 都築氏
「磨きなおす」ミドルシニアのリスキリング

公開日:2024.06.14

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「磨きなおす」ミドルシニアのリスキリング ー 世界に100億の志を ー

株式会社ライフシフトラボ
代表取締役
都築 辰弥 氏

ナレッジインタビューvol.011は、ミドルシニア層に特化したキャリアスクールの運営や企業向けの支援を行う、株式会社ライフシフトラボ 代表取締役 都築辰弥さんです。ミドルシニアに力を入れる理由や、個人と企業それぞれにとって必要になる、ミドルシニアが活き活きとはたらき活躍し続けるための「ならでは」のリスキリングについてお話を伺いました。

― ミドルシニアに特化した、キャリアスクールの運営や企業向けの支援をされていますが、事業を興すきっかけを教えてください。

当社は今年で5期目なのですが、一貫した想いとして「世界に100億の志を」という言葉を掲げていて、それを具現化したものの一つが、ミドルシニアの支援という事業につながっています。
私自身がその志を持つに至ったのは学生時代の経験です。世界中の方々の海外インターンシップの受け入れや送り出しなどを行っている団体で活動していたのですが、そこでたくさんの高い志を持った社会人や学生たちに出会いました。そういう人たちを見て、純粋に、こういう人たちが増えたら、もっと世の中がよくなるのになと思ったんですね。自分一人で世の中を変えていくことは難しいですが、志の高い人たちが増え、それぞれの持ち場で活躍し、それが伝播、波及していったなら、よりよい世の中になっていくのではないかと感じていました。

― ミドルシニア層に注目されたのは、どのような背景があったのでしょうか。

自分らしく活き活きとはたらき、活躍するということに課題を持たれている方が、この年代に多いと感じたことが大きいです。
最初、若手向けの事業をやっていたのですが、そこに40代50代の方に多く来ていただいたんです。ご自身のキャリアの話をしていただく中で「この世代の方はこんなに困っているのか」という現状を初めて知りました。よく考えると、人生100年時代と言われ80歳まではたらく方も多くなっていく。50歳の方は、20代からはたらき始めて30年たったところになりますが、それでも残り30年、ちょうど中間地点です。50代というと「あともうちょっとで定年」という感覚が世間一般で未だ多いと思うのですが、「はたらく時間の中間地点。まだ半分、後半戦が残っている」ということとのギャップは大きいなと。特に日本において、より長く生き、より長くはたらくようになってくる中で、ミドルシニアが強くなる、活躍できるための取り組みの必要性を強く感じました。人口比率的にも多い世代でもあり、何よりも解決したい社会課題なのでフォーカスをしていきたいです。
40代50代の方々が志を持って活き活きとはたらいている世の中になれば、周りにいる僕よりもっと若い次世代の人たちも、同じように活き活きと志を持ってはたらけるようになれるのではないかなと。お父さんやお母さんが会社に行くのを嫌がっていて子どもはそれを見ていたら、将来仕事をする自分に対してポジティブになれないですし、上司が愚痴を言っているのを若手社員が聞いたら、モチベ―ションが下がります。これを変えていくことで世の中に貢献できるのではないか、全世代に影響を与えられるのではないか、そう心から思いました。

― ミドルシニアというとリスキリングが話題になっていますが、「リスキリング」という言葉が一人歩きしているような気もしています。リスキリングの意味や目的が個人と企業側で必ずしも同じではない場合もあるのではないでしょうか。

そうですね。ミドルシニアが「リスキリングしなくては」と思う時に「今から新しい資格取ろう」とか「プログラミングを学んでITスキルを身に付けたい」というような話を聞くことが多いですね。でも、企業側はそういうことをあまり求めていないことも多い。このギャップにも、問題意識を持っています。また、私自身は、ミドルシニアが全く新しい武器で戦う、付け焼刃的に資格を取得したり新しいことを学び、それだけで戦うのは必ずしも最善策とはいえないのではないかと思っています。

リスキリングには「新しいスキルを身に付ける」リスキリングと「すでに自分が持っているスキルを改めて再武装する」リスキリングの2種類があるのではないでしょうか。ミドルシニアの年代の方とお話をすると「強みがわからない」とか「自分には何も秀でたたものがない」とおっしゃる方がとても多いのですが、30年前後はたらいてきたわけですから、強みを自分で認識できていなかったり、使いこなせていないだけで、何もない人なんているわけがないのです。今まで培ってきたものを磨き直していくということが、ミドルシニアならではのリスキリングなのではないかと思っています。スキルを再認識してサビを取り、またそれで戦えるようになる。これも一つのリスキリングです。

― ミドルシニアがリスキリングする、ブラッシュアップするためのポイントは何でしょうか。

スキルを「上げる」というよりは「気付いてもらう」「再認識を促す」ということが大事だと思います。そのボトルネックになっているのが自分の強みがわからないことが原因でアピールができないとか、面接に全然通らないことが多いのです。
よく食材に例えるのですが、20年、30年のキャリアがあるということは、冷蔵庫を開けた時にたくさん食材は入っている人なんです。それだけの期間はたらいてきているのですから、何もやってない、スキルがないということは有り得ない。リンゴや人参やたくさんの食材が入っているんです。問題は、入っているのだけれども、それで何が作れるのか、何を作ったらいいのかわからないということなんです。
「自分はカレーが作れます」とか「肉じゃがが作れます」という、完成物をアピールすることが大事なところです。そんな時には「じゃがいもと人参と玉ねぎがあるのだったら、カレーが作れますよ。ルーだけ買ってきましょう(=リスキリングしましょう)」とか、「同じ食材で肉じゃがも作れるかもしれませんよね。肉じゃがが作りたい(=これをやりたい)ということであれば、肉じゃがのつくり方を知りましょう」「肉じゃがが作れる人としてどうアピールしたらよいのかも考えましょう」とアドバイスします。
経験の少ない方であれば、新しい食材(=スキルや経験)を足さなければ料理にならないですが、ミドルシニアは冷蔵庫の中の食材の数や種類が人それぞれ違います。
肉じゃがを知らない人は「この食材で肉じゃがが作れそうだ」ということは思い付きません。ミドルシニアは「新しい食材を入れなければ」という事ばかりではなく、自分の持っている食材から何が作れるか、何を足したらどのようなものが作れるのかという視点で考えていくが大事です。そこがミドルシニアならではのリスキリングです。

「新しいスキルを身に付けることが必要」という考え方が多いように思いますが、私は「それぞれが持っているリソースに注目してください」とお伝えしています。そこに軸足を置いた上で、掛け算するためのもう一つ新しい食材を持ってきます、であればよいのですが、今持っている食材、経験やスキルを全く無視して、新しいところに目が行ってしまうことが多い。それはミドルシニアのリスキリングと活躍という意味ではよくないのではないかと思います。

「新しいことを学ぶ」という考え方をやめてみる。そのような視点でミドルシニアのリスキリングを行っていくと、さまざまな年齢層の方々が活躍できる組織になるのではないでしょうか。

― 企業でリスキリングについて、さまざまな施策を行っています。どのようにご覧になっていますか。

欧米と違い、日本では企業が従業員リスキリングするという形になっていて、リスキリングの主語が企業で、目的語が個人従業員になっていることが多いですね。しかし、すべてを「企業が従業員に行う」のではなく、「従業員本人発のリスキリングを企業が応援する」というスタンスを取っていくほうが会社全体としてパワーになっていくことが多いのではないかと思っています。
当社のお客様でも、受講料をすべて会社が負担するのではなく、会社が半分補填する形で支援をすると、本人も自分のお金払っているということもあり、受講に対して主体的になり好循環が生まれています。
今いる従業員がリスキリングし強い人材になり、より活躍してもらうための最初のステップとして、自己負担もしてもらいながら従業員に支援していくような形は、日本企業にマッチしたやり方ではないでしょうか。

― 都築さんがおっしゃる「強い人材」とは、どのような人材なのでしょうか。

いくつになっても自分のキャリアを自分で決められる人、自分の食いぶちを自分で稼げる人が「強い人材」なのではないかと思っています。自分で決められる人、決める前にちゃんと自分で考えられるというか自分で選択できる考えを持つということですかね。与えられることを待つのではなくてつかみ取れる能力を持ってもらうことです。
もう、「この会社の中でしか生きていけません」という考えや座って仕事が降ってくる状態では、長い期間、活き活きとキャリアを重ねていくこと、活躍できる人材であることができなくなってきているのです。定年がきた後、80歳まであと15年、あるいは20年をどうするんですか、ということに必ずなります。そうならないよう、ミドルのうちに個人としても対策をしていただきたいですし、企業側もこの層に対しての支援に力をいれていただけたらと思っています。

― リスキリングについて、これからの企業と個人はどうなっていくと思いますか。

人材不足が進んでいく中で、現在は採用課題がない企業でも、10年後、20年後には今と同じように採用できるというわけにはいかなくなります。そのような課題に直面している中で、まずは求職者側、特にミドルシニアが変化しパワーアップして強い人材になってもらえたらと思っています。
これから、世の中の流れで、ミドルシニア自らが「変わらなきゃ」「やらなきゃ」と思う人がもっと増えてくると思っています。自分の強みを知って磨きなおし続ける、自分で気付いて学ぶ、学び続けていくミドルシニアが増えていくことで、日本の「はたらく」が、活き活きとした世界になるように尽力していきたいです。

人事課題として多く挙がっているミドルシニアの活躍とリスキリングについて、都築さんの視点でお話いただきました。ミドルシニアが思うリスキリング、企業側が求めるリスキリングとのギャップや、ミドルシニアが今までの経験を活かし、これからも活躍しつづけるための「ならでは」のリスキリングは多くの方のヒントになるのではないでしょうか。また、“「新しいことを学ぶ」という考え方をやめてみる”という視点も、さまざまなやり方を施行錯誤していく中で、ひとつの方法かもしれません。

Profile

ライフシフトラボ 都築 辰弥 氏

株式会社ライフシフトラボ
代表取締役
都築 辰弥 氏

1993年生まれ。東京大学工学部システム創成学科(コンピュータサイエンス)卒。学生時代は、世界最大級の学生NPOアイセックで活動した後休学し、バックパッカーとして世界を一周。新卒でソニーに入社し、スマートフォン「Xperia」商品企画担当として2019年フラグシップモデル「Xperia 1」や海外専売モデルをプロデュース。2019年「世界に100億の志を」という志を掲げ、HRスタートアップである株式会社ブルーブレイズ(現ライフシフトラボ)を創業。2022年、45歳からの実践型キャリアスクール「ライフシフトラボ」を開始し、人生100年時代における中高年のキャリア形成に取り組む。40代・50代の複業・転職・リスキリングなどのテーマで寄稿歴・取材歴多数。フルスタックエンジニア。国家資格キャリアコンサルタント。

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