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【人事ライン】
タペストリー・ジャパン 柏倉氏
ビジネスに貢献し、多様な個を活かす仕組みをつくる 

公開日:2023.09.25

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【人事ライン】 タペストリー・ジャパン 柏倉氏 ビジネスに貢献し、多様な個を活かす仕組みをつくる 

タペストリー・ジャパン合同会社 人事部長
柏倉 良子 氏

「他の会社の人事ってどうやっているんだろう」「同じような悩みを抱えているのかな」
ちょっと知りたい、知っておきたいさまざまな企業の人事インタビュー『人事ライン』。
今回は、新卒から外資系企業の人事部門のキャリアを積み、現在はタペストリー・ジャパンにて、人事部長として社長のビジネスパートナーの役割を担っている柏倉良子さんです。柏倉さんの人事としての想い、小売・ファッション業界の人事として、コミュニケーションやカルチャー、そして女性や販売職への取り組みについて伺いました。

― 最近オフィスのリノベーションをされたんですよね。とても綺麗で素敵なオフィスです。開放的でいろいろなスペースがあるのですね。

ハイブリッドで働きやすいオフィスにしようということで、7月末にリノベーションが終わりました。在宅勤務の日もあれば、オフィスに来る日もあるという働き方をする中で、オフィスでは同僚や他のチームと会って話しやすい、話が盛り上がりやすい環境を作ろうと思いました。それで、カフェの横にスペースを作るとか、ちょっと離れたところにソファー席を作るなど、コラボレーションしやすいオフィスに形を変えたんです。
このリノベーションにはもちろん人事もかかわりましたが、ほぼ全部門からタスクフォースメンバーを募り、社員の声をたくさん集めて考えました。「対面で話せる場所も欲しい」「関係者が限られるミーティングもあるから、個室ブースのような小部屋でオンラインミーティングができる場所も欲しい」など、たくさんの意見が出ました。いろいろな立場の、いろいろ人たちの声をできる限り多く聞いて、すべてを叶えることは難しいかもしれないけれど、皆にとって出社することに意味があるオフィスにしようという思いを持って進め、完成しました。

― それでは、柏倉さんの今までのキャリアと現在のお仕事を教えていただけますか。

業界はさまざまですが、新卒からずっと外資系企業の人事部門の仕事をしています。タペストリー・ジャパンは3社目になり、入社してちょうど10年が経ちました。入社した頃はグローバルファッションブランド「COACH」を扱うコーチ・ジャパン合同会社でしたが、2019年に「タペストリー・ジャパン」に商号変更し、現在、日本では「COACH」と「kate spade new york」の2つのブランドを展開しています。グローバルでは海外セレブからの人気が高い「STUART WEITZMAN」というシューズブランドもあり、現在はマルチブランドの会社になりました。
HRのキャリアとしては、新卒から人事に携わり、給与計算から採用、研修など、幅広く一通り経験をしてきました。現在は、日本におけるCOACHブランドと、それを支える管理部門を統括する人事部長を担当しています。人事部長としては、全体を見ながら、「社長のビジネスパートナー」という位置づけの役割が大きいです。

― 人事部長という立場になられたときに、ご自身にはどのような変化がありましたか。

3年前に今のポジションについたのですが、それまでプレーヤーとして仕事をしていた時は、自分ができることや仕事のボリュームを、どれだけ増やしていけるかということを常に考えていました。立場が変わり、全部自分でやることはできないし、やるべき立場でもないということを考えたときに、チームの皆に頼れるところは頼る、任せるところは任せる、つまり、手を離して、いかに仕事を任せることができるかということに意識をシフトしました。まだまだチームと一緒に成長している過程ですが、意識を変えることで、私もチームの皆も、さらに一段成長したと実感しています。

自分自身は社長のパートナーとして、またリーダーシップチームの一員として、時間や頭の使い方をシフトできてきたのかなという感じがするので、そこの意識が一番大きく変わったところだと思います。

― 小売業界の人事課題として、販売職のキャリアなどの課題を伺うことが多いのですが、タペストリーではどのような取り組みをされていますか。

タペストリーでは、私たちの商品、ブランドストーリーをお客さまへ直接届けるストアスタッフの人材育成・開発に力を入れ、長く活躍できる職場環境やキャリアパスを大切にしています。ストアでキャリアをスタートして販売職を極めたり、管理職になったり、社内公募に手を挙げてオフィスワークに異動したりすることができます。また、オフィスの仕事はどんな感じか、自分に向いているかを知るために「ジョブ チャレンジ プログラム」という制度も作りました。これは3~4カ月、短期間の制度で、ストア所属の社員が手を挙げて、面接を通過すると、オフィスのポジションで働いてまたストアに戻ることができるものです。
ほかには、わたしたちが持つ「COACH」と「kate spade new york」、2つのブランドのその違いを経験できる「ブランド留学」という制度もあります。通常であればブランドを超えて働こうと思ったら転職しなければなりませんが、マルチブランド企業である特性を活かし、もうひとつのブランドに行き、2週間ストアで働いてまた自分のストアに帰ってくるというというものです。
転職というと、まだまだ日本人にとってはリスクを伴う、人生にインパクトのある出来事だと思うのですが、社内にいながら、転職のように異なった環境を経験することで、新しい自分を発見したり、今まで働いたことのない社内の仲間と働くことでお互い刺激を受けたりする経験はとても大きな財産になると思っています。

このような制度をつくるにあたっては、まず試験的に運用する、狙い通りの効果が出るかを確認して、改良しながら正式にローンチする。いろいろ試作して小さく始めて、学んで、いい部分を伸ばす、課題は潰す、というようなことを愚直に繰り返す。うまくいったら、そこをちゃんと目立たせて、社内にコミュニケーションしていくことを繰り返していくようにしています。クリエイティブに新しい仕組みを作ってくれるメンバーたちがいることや、一緒にトライしてくれる他部門のリーダーたちがいることは、本当に心強く、ありがたいです。

― 女性社員が多いと思うのですが、ライフイベントが人員配置や定着にも影響することも多いのではないでしょうか。

当たり前のように女性が多く、特別なことはしていないのですが、女性が妊娠・出産をきっかけに退職するということもほとんどなく、戻ってくる人が多数派です。「特別なことをしなくても働き続けるのが当然」というふうに、皆思っているのかなと感じています。
しかし、ストアではシフト制なので、どうしてもお子さんが小さいうちは、時短勤務したい人、遅番に入れない人が多くなります。ストアによっては、時短勤務の人が多くなると、シフトを組むのが難しいなどの課題が起きています。ただそれも、皆が戻ってくること、職場復帰が当たり前だからこそ、起こる状態なのです。ですので、そういう場合は遅番に入れるパートタイマーを採用するなど、いろいろ工夫をして、皆が仕事を続けられるように取り組んでいます。

出産後に、みんなが復帰して働き続けてくれると、だんだんストアマネジャー、その上のジェネラルマネジャー、さらにストア組織のリーダー層にも理解が深まり、時短勤務や遅番に入れない状態を自分の体験をもとに解決していこうとする管理職が多くなります。そうすると「それだったらこういうシフトの組み方があるよ」とか、課題解決の引き出しも増えてきます。大事なことを決める人たちの中に、さまざまな課題を抱える当事者がいるということは、とても大事なことだと思っていて、まだ全部の課題が解決されているとは言えないかもしれないですが、確実によい方向に進んでいるという実感があります。
また、幹部会と言われるようなレベルのリーダーシップチームは、男女比がほぼ均等の構成です。女性のためにこうしようと声高に言わなくても、意思決定する人たちの半分が女性ですし、ジェンダーに限らず国籍や経験も多様で、さまざまなバックグラウンドを持つ人それぞれの事情がありますよね、ということが前提となっています。ママや女性のために、なにか制度を作るということもひとつの方法ですが、本来は目指すところはそこではない、多様性を持つバランスの良さではないかなと思っていて。リーダー層の中に多様性があるので、自然に多様な人たちが集まって働きやすい環境になっているのかなと考えています。

― 柏倉さんご自身のお話に戻りますが、ずっと人事のお仕事をされている中で、人事という仕事のどこが魅力でしょうか。

ビジネスに貢献できるところだと思っています。コロナが起きて、誰も出かけなくなって、消費が減りましたみたいなことはコントロールできることではありませんが、社内でのさまざまなことを考えると、全部人がやっていることじゃないですか。人に関する問題を解決すれば、ほとんどの問題を解決できる。ビジネスへの貢献を考えるときに、人をよくするというとおおざっぱな言い方なのですが、元気があってやる気があって、正しいマインドとスキルを持った人が揃っている状態であれば、大体のことは解決できてしまうのではないかと考えています。
人にまつわることは大変難しくもありますが、そこがうまくいけば、いろいろなことが進み、解決し、ビジネスにつながっていく…それが一番面白いところです。

― 人事として、心がけていることはありますか。

人事をして、いつも心がけていること、そして、これからもそうしていきたいと思っていることは、やはりビジネスに貢献することが自分の存在価値であるというか、そうでなければ意味がないと思っています。ビジネスに近くいる、ビジネスが成長する、あるいは、そこにいる人たちが成長できることに、いちばん近くで貢献できる立場でありたいということです。
何でも代わりにやってあげる人事ではなく、ビジネスをやっている人たちやリーダーたちが、自分でできるようになることを可能にしてあげる人事でありたいと思っています。

例えば人材育成で、「こんな風に言ったら、チームのメンバーがうれしいと思いますよ」とか「モチベーション上がりますよ」ということを私が言うのではなく、リーダー自らが気付き、チームのメンバーに話してあげることができるようなかかわり方を、人事として今までもしてきたつもりですし、これからもそうしたいと思っています。

― そのようなかかわり方をするために、コミュニケーションはどのようにとっているのでしょうか。

定期的な各部門リーダーとの一対一のミーティングの機会や、皆で集まる場面で「相手が好むコミュニケーションのスタイルや場面のセッティングというのはどういうものか」ということを考えるようにしています。「リモートでも、深い話までできる」という人には、どちらのスタイルでもセッティングしますが、「対面で五感を使いながら話すほうが好きなタイプだから、対面のほうが聞いてもらいやすい」という人には対面で会うシチュエーションを用意するようにしています。また場面でも、真面目な形がいいのか、ちょっとお茶を飲みながらの方がよいのかなどは人によって違うので、そこも気をつけています。働き方がリモートとオフィスのハイブリッドという環境になってから、今まで以上に、単純にそのコミュニケーションの頻度や長さとかではなく、どうコミュニケーションを取るかというところを意識しています。
また、なるべく自己開示をするように心がけています。柏倉はこういう人間ですよとか、4歳の子供がいてリアルにはこういう生活があってとか、包み隠さずに話すようにしています。そうすることで、人事だからといって構える必要はないと感じてもらいたいと思っています。「COACH」ブランドのパーパスは「Courage to be Real(リアルに生きる勇気)」というものですが、そのリアルな自分、本質的な姿を見せることを率先することで、そういった姿勢が推奨されている会社なんだな、ありのままの自分を見せてよいカルチャーなんだというのを感じていただけるようにしています。

― コミュニケーションといえば、柏倉さんは社外でも他の会社の人事の方との交流をされていますよね。

コロナが始まって最初の2年ぐらいは、誰も出かけない、ネットワーキングできない状況が続いていたので、情報収集に苦労しました。その上、私はコロナの真っ最中の時、人事部長になりましたので、同じような新人の人事部長さんと知り合う機会が全然ありませんでした。やはり、他の会社、人事の方がどのようなことをやっているかを知りたいですし、簡単にコピー&ペーストはできないかもしれないですが、「こういう取り組みをやってうまくいった」というような面白い話を常に聞きたいと思っています。昨年の秋ぐらいから、少しずつ、いろいろな人事関連のイベントやネットワーキングなどが復活してきたので、できるだけ出かけて新しく多くの人とつながりたいですね。
また、人事制度やシステムやツールなどは自分たちだけで考えていても限界があるので、他の会社の話を聞くことはとても有意義です。社内的にも、アジア・リージョンやグローバルの仲間と話をする時などに、「日本でこういうことをやっている会社もあるよ」とか「こういうものが世の中には存在しているよ」というような情報を持っていると、「そんなのもあるんだ」という新しい発見になったりもします。
新しく入社してくる人や、これからもしかしたら外へ出ようとしている人は、私たちよりも外の情報量が多いので、オフィスに固まっていると置いていかれちゃうかもという危機感もあります。そういった意味でも、社外の人事との交流、情報交換はとても大事なことだと思っています。

― 社外の方との情報交換では、やはり人事トレンドのお話も多いのではないでしょうか。

人事の世界って面白いことに、トレンドみたいなものがありますよね。人的資本経営とかD&I(ダイバーシティ アンド インクルージョン)とかエンゲージメントとか。でも結局それが自分の会社においてはどういう意味があるのかとか、自分の会社の言葉で語ると何なのかみたいなところがとても大事だと思います。表面的な流行に惑わされずに、自社にとってはどういう意味があるのか、自社にとってそれが本当に必要かみたいなところも含めて、「皆が人的資本経営って言っているからやらなきゃ」ではなく、経営側からも促されて、あまりよくわからないけど何かしなくてはいけないみたいなことでもない。そんな言葉をわざわざ使わなくても、うまくやれている会社もあるでしょうし、流行にアンテナを張る必要はあるけれど、飛びつかず、飛び乗らず、みたいなことが大事だと思っています。

― お話を通して、多様な個々に目を向けることと同時に、企業全体のカルチャーをとても大事にされていると感じました。

もしかすると、企業や組織のカルチャーはトップが作っていくようなものと期待されている人が多いかもしれませんが、当社では皆で作っていくものだという意識が高く、そこがいいところだと思います。皆のものだから、皆で声を上げて作っていこうというところですね。
オフィスだけでなく、ストアで働いている人たちの声もいろいろな形で吸い上げることを実践しています。当事者意識を一方的に持ってもらうことは難しいですが、やはり「聞いてもらえた」とか「自分の声が反映された」「自分のやったことが認めてもらえた」という実感があると、また声を上げようという気持ちにもなれると思います。
一つひとつのアクションは地味で小さいものかもしれないですが、その繰り返しを積み重ねて、カルチャーができていると思います。

私たちはマルチブランドの会社であることをフル活用して、オフィスとストアの間、ブランドとブランドの間、また、オフィスでも部門と部門の間の異動に、従業員自らが手を挙げて挑戦できるようになっています。いろいろな人が働き、選択肢がたくさんあり、多様な経験にトライすることができる環境です。
私たちのEVP(Employee Value Proposition=企業が従業員へ提供できる価値)は、「多様性が輝きを生むDifference Sparks Brilliance」という価値観を掲げています。違うものと違うものがパッと出会ったときにキラキラと火花が散る、バチバチした火花ではなくキラキラと輝くというのが、私たちが会社として社員に提供できるユニークな価値だと信じています。そんな経験をする人が実際に増えてきていることが、他の会社では味わえない面白いところの一つだと思います。
一人ひとりの個性を活かすことで、お互い刺激されて、さらに新しいアイデアとか発想が生まれる。それを信じて、皆同じ気持ちでやっているので、意見があれば声を上げやすいカルチャーができていますし、人事として最大限サポートできるよう、これからもさまざまな取り組みをしていきたいです。

事業もコミュニケーションも「愚直に小さく積み重ねていくこと」や、言葉や取り組みに対して「本質的でありたい」と語る柏倉さん。一つひとつの課題に向き合い、細やかに丁寧に取り組まれていることがお話の中から伝わりました。
「カルチャーは皆のもの。だから皆で声を上げて作っていく」との言葉通り、多様な個を活かす仕組み、そこから生まれるものを信じて、人事が最大限サポートしていくことに本気であり、当たり前であるという言葉が、とても印象的でした。

Profile

タペストリー・ジャパン柏倉 良子 氏

タペストリー・ジャパン合同会社
人事部長
柏倉 良子 氏

1999年、津田塾大学学芸学部英文学科卒業後、新卒から一貫して人事畑を歩む。業界の異なる外資系企業で、HRBP × COE(採用、人材・組織開発)および日本ローカル × APACリージョナルという2軸×2軸でキャリアを形成。2013年7月、コーチ・ジャパンにHRBPと採用を兼務する形で入社し、会社がマルチ・ブランド企業であるタペストリーへと進化する中、オフィス部門向け・ストア組織向け両方のHRBPを歴任。2020年より現職。

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