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【ナレッジインタビュー】
事業人 宇尾野氏
想像力・共感力と冒険心が人事をおもしろくする

公開日:2023.09.14

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【ナレッジインタビュー】 事業人 宇尾野氏 想像力・共感力と冒険心が人事をおもしろくする

株式会社事業人 共同代表/Co-founder
宇尾野 彰大 氏

ナレッジインタビューvol.006は、人事や事業リーダーの経験を経て、組織づくり全般の支援など社外CHROチーム提供サービスを行う、株式会社事業人 共同代表の宇尾野彰大氏です。人事のご経験があるからこその視点から「事業とヒト・組織」「人事」に対する想いや、これからの人事に必要な力や経験について語っていただきました。

― 宇尾野さんは人事などのご経験を経て、「ヒトの力で人を、組織を、日本をおもしろく」というメッセージのもと共同代表として「ヒトの力を高め合える環境づくり」、人や組織にかかわる外部支援を行う事業をされています。「おもしろく」とはどういう状態を指し、組織として何を目指しているのでしょうか。

私は、「人」は個としてはもちろん、集団となったときに至る所で未来に対して意味を感じている、活力がある・活性化している状態が「おもしろい」をつくっていくのではないかと思っています。個人では「元気でありたい」と思うことや、はたらくことを含めさまざまな活動に熱心に取り組んだりすること。それが人生や充実につながっていき、さらに個が集団になれば、単純に「1+1」ではなく相乗効果を生むことができます。そのような状態が最大になった先に、抽象的な表現ではありますが、よりおもしろく、よい状態、「ひとつ突き抜けたような環境」になるのではないかと。少しずつでもそのような活力が、個も集団も見られる世の中になったらいいなと思っています。

反対に、つくりたくない状態は「白けている」状態。その組織に所属しているのに、なんだかつまらない、興味が湧かない、退屈である状況って、誰にとっても幸せではないですよね。そんな状況を一つでも解消したいです。

リスキリング、学び直し、という言葉が社会全体でもよく言われるようになっていますが、まだまだ10年前20年前の価値観が「普通」であることが多いです。そのような状態を変えるには、社会の構造から変えていく必要があるのではないかと感じています。
私は企業の人事経験があるのでそれを活かして活動していますが、事業人はさまざまな専門・バックグラウンドがあるメンバーが集まったチームです。同じ想いや問題意識を持ち、かつさまざまな経験やスキルを持つ…掛け合わせることでよりよいものを生み出せるメンバーを集めました。まだまだ世の中に影響を与えられる段階ではありませんが、社会の構造を変えるために、活力がありおもしろい日本への一歩を企業の組織づくりのサポートから少しずつ始めています。

とあるデザイナーの方が仰っていたのですが、生物学で海と陸の間のことを「エコトーン」というそうです。そこは生物が多様な状態で整えられているエリアであるとのことでした。それを聞いたときに、企業活動や個人のはたらくことにおいても、このようなゾーンがあるのではないかと思いました。完全に白か黒かではなく、そのまだらな状況の中に新しい可能性があるのではないかと。エコトーンと言われる「つながるゾーン」のような人や場所などを創ることで、活動範囲や人とのつながり、そこから何かが生み出されるきっかけになるのではないかと思うのです。
例えば私は組織をつくること全般的に支援していますが、一見関係のない職種の方、デザイナー、エンジニア、マーケターの方とか、アーティストの方などとかかわる機会をつくることで、新しいことや別の視点での発見や発想することができたり、新しい何かを生み出せることがあります。また、越境学習などで得た経験を自組織に持ち帰ることによって何か違う変化をつくるといったことも、一人の中でエコトーン的な感性を磨いているのではないかと思うのです。そのような小さな活性が広がっていけばよいと思いますし、自分たちもそういうきっかけ、ゾーンのような存在になれたらと思っています。

― 市場や価値観の大きな変化の中、事業も組織の在り方も変化しているように感じます。その中で宇尾野さんがおっしゃる「個も集団も活性化した状態」になっていくために、人事はどうしていけばよいでしょうか。

これからはさまざまな企業が、新しい試みをプロジェクトベースで小さく試してみるような動きをしていくと思います。既存の事業や組織とは別のフィールドで新しい種や事業を作りにいくようなことが、これから増えていくのだろうという気がしています。いわゆるオープンイノベーションといわれているプロジェクトもその一つです。また、越境学習や企業間の留学のような組織間での交流の動きも含まれます。
そのような動きは人事という部門においても必要になってきています。

他の職種と比べ、持っている情報の特性から社外の人との交流をしても、当たり障りのないコミュニケーションになってしまったり、会社の垣根を超えた人事のコミュニティがあっても、深い議論がなかなか行われたりしないことも、実際多く見受けられます。しかし、そこをある程度オープンにして、人事が知見を共有したり、共に考える場を持たなければ、会社の動きを本当の意味で理解し、その組織をつくっていく、人を活かしていくことはできないのではないでしょうか。個人のメタ認知と同様、自組織を相対化して、強みや特徴、課題をより強く自覚するきっかけにもなります。
人事という枠組みの中で他の会社の人と交流を持つことも大事ですし、今まで特に人事として必要とされていないと思われた、表立って必要な能力や経験とされていない、人事とはかけ離れたような経験、例えば新規事業開発やそれこそ小さくても会社経営をやってみるなど、自分と違った知見を持つ人との交流や自らの経験も必要になってきていると思います。

― 異なる会社や職種、属性の人との交流は、具体的にどのようなことにつながっていくのでしょう。また、交流すること以外に大切なことや、やってみるべきことはありますか。

人事は個々に対し、会社としてどのようなサポートができるのか、どのようにスキルを発揮してほしいのかなどを、経営に確認しながら議論していると思います。私自身が人事を担当していたころも思っていましたが、そういった議論の際にはさまざまな想像力や共感力を働かせなければなりません。自分の経験や置かれている環境以外を知ることや、想像力、共感力を持つことは、対話の武器となり、それを人事が持っているかどうかが人事の在り方やできることに大きくかかわります。それは、異なるフィールドの人との交流を持つことで鍛えられると思います。

会社の中にはさまざまな人がいます。同じような会社に同じように新卒が入り、同じように10年20年勤めてきた人たちであれば、そのプロセスを辿るような価値観の一致や共感というのは芽生えやすいと思います。
しかし、その個々を見たときに、育児をしている人、介護をしている人、シングルファザー・シングルマザーの人…さまざまな人がいます。また、年齢や職種による考えや環境の違いもあります。人事は、多様な環境の違いを巻き取りながら、その人がどうやったら活力を上げられるのかということを考えなくてはなりません。自分の人生で触れたことがないような人たちの価値観や経験、環境に対しての処方箋を提供しなければならないとなると、単純に研修をやりましょうとか、画一的な考えや施策だけでは従業員の活力を上げることはできないのです。
プライベートに置かれているそれぞれの環境を、人事が自身自分で体験するには限界があります。職種やプライベートなどさまざまに掛け合わさっているものに対して、興味を持ち、想像力と共感力を持つことがまずは必要です。「よく考えれば自身で想像できるよね」というものもあれば、他の視点や経験を持つ人と仲間になることで想像できるものもあるでしょう。

多様な違いがある中で、人とつながって知識を得ることがすごく求められるのだろうと思います。地方に住んでいても東京の仕事ができるというようなことも当たり前になってきていますし、さまざまなバックグラウンドを持つ人がジョインしています。実は考えているよりもっと多様な人が組織の中にいるはずで。それを踏まえた組織デザインの難易度は確かに高いです。しかし、非常にやりがいのあることだと思います。

また、今まで培ってきた人事の経験だけを求められる場所ではなく、異なる優先順位や価値観で結果や行動を求められるというような、少し軸をずらした経験をすることにぜひチャレンジしていただきたいです。今まで自分とは全く無縁だった人と仕事をしたり、全く違う職種の仕事に興味を持ち、実際に飛び込んでみる…そのような冒険が人事の方にこそ必要なのではないかと思っています。

これからの人事には、広範囲でいろいろなことに対する想像力や共感力を持っていなければならないし、興味を持って自分が今までやったことがないこと、かかわったことのない場所に対してもチャレンジしていくような冒険心が必要なのです。

― これからの人事はどうなっていくでしょうか。また、これから人事に携わる方にどうあってほしいですか。

これからの人事とは何かと表現するならば、おもしろい未来を表現するアーティストだなと。他の表現をすると、多様な才能を束ねる指揮者であるとも言えるし、修羅場をくぐり抜ける総合格闘家のような表現もできると思います。
この3つに共通するものは「まだ見ぬ未来に向かって、あらゆる手段を持って、複雑なものに対して向き合い、自分たちなりの決めた何かを表現する」ということです。表現者ですね。複雑なものを調整したり、複雑なものに対して自分の想像力を持って向き合うという能力は、人事制度の難しいルールメイクをするなどの手腕とは全く違うものです。

それこそ、人事とは別の職種なんじゃないかなと思うくらいのものだと捉えてよいのではないかと思っています。
そのような今までとは異なる能力を身に着けるには、外部の専門家・コンサルなどを組織に入れることにより、異なる視点で何かを感じたり経験をすることもひとつですが、自分をまず変えようという意識を持ち行動をすることが必要です。越境学習や副業、ボランティア活動で他の職種を経験したり、外部の仲間から情報収集をすることなどが、そういった能力を身に着けるための第一歩なのではないでしょうか。

現状、人事という職種自体が「やり切った先の最終地点が見える仕事」になっているように思え、もったいなさを感じています。本来、人事は最終地点が無く、常に変容しさまざまなテーマを取り扱う部門であるはずです。
「今、こんな経験やスキルが必要だね」「やっぱり新規事業開発などの視点も必要だよね」「多様な人のさまざまな部分に共感する視点も必要だね」など、“このスキルや知識があればよい”ということで人事の仕事を片付けてほしくないなと思います。

人事は、人事以外の広い経験や視点を活かせるおもしろい魅力的な仕事ですし、これから型にはまらずに変わっていく個と組織を自らが主体となってつくっていく部門なのです。そして、広いフィールドでの経験をして人事が楽しそうに活き活きとしていると、社内の見る目が変わり、会社の雰囲気は大きく変わると思います。

「人事という領域の『答えのない問い』に応えていくことをなりわいに自ら意思決定し、自己規律できる人事を増やしたい。結果的に、人事が会社組織をよりおもしろくする。そして、人事がなりたい職業の一つになる」、そのためにご自身の経験とさまざまな人事や組織を見ている宇尾野さんの、ヒトを信じ活性化していこう、おもしろくしていこうというワクワクした想いを伺うことができました。
それは決して若い人だけの最先端の考えということではなく、ひも解いていくと非常にベーシックなメッセージであったように思います。

Profile

事業人 宇尾野 彰大 氏

株式会社事業人
共同代表/Co-founder
宇尾野 彰大 氏

早稲田大学卒業後、株式会社リクルートにて営業、人事企画、事業開発、事業企画など、複数事業で複数職種を経験。その後、ゲーム開発会社にて開発部門の統括・PMOを担当。株式会社ユーザベースで人事統括を経て、株式会社ニューズピックスの人事責任者・HRBPを担う。 並行して、事業人を複業起業。2022年より経営に集中、現在に至る。
株式会社インバウンドプラットフォーム社外取締役他、複数組織で人事顧問・コーチや「戦略人事実践塾」の主幹を担うなど、経営者・人事向けに幅広く活動中。

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