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ファシリティマネジメントの必要性と具体例を分かりやすくご紹介

公開日:2023.08.08

更新日:2023.12.11

企業の課題

企業経営に不可欠な資源として「人材」「資金」「情報」「施設・環境」が挙げられます。このうち、建築物などの施設や環境を最適な状態で保有、維持管理する手法がファシリティマネジメントです。コスト削減やCSR活動、社員のモチベーションアップにもつながるため、多くの企業から注目を集めるようになりました。しかし、従来の施設管理との違いや具体的な取り組み方が分からないという方も多いでしょう。

今回は、ファシリティマネジメントの概要と共に、目的や具体例などをわかりやすく解説します。ファシリティマネジメントを通して経営資源を最適化させたい方は、ぜひ参考にしてみてください。

ファシリティマネジメントとは経営資源を最適化させる経営手法

企業では建物や設備、土地などさまざまな固定資産を保有しています。単にこれらの施設を保有するのではなく、戦略的な観点から最適な状態で維持管理する経営手法が「ファシリティマネジメント」です。景気低迷が進む1970年代後半のアメリカで生まれた概念で、日本では1980年代半ば頃から知られるようになりました。

当時の日本では、古くなった建物を壊してあたらしく立て直す「スクラップ&ビルド」という手法が一般的だったため、ファシリティマネジメントは長い間浸透しませんでした。多くの企業に注目されるようになったのは、バブルが崩壊した後のことです。企業は資金調達が難しくなったことから、建物をはじめとする施設を長く活用する必要に迫られ、ファシリティマネジメントの重要性が改めて理解されるようになりました。

ファシリティには「設備」「施設」に加えて、「便利さ」「融通」「容易さ」という意味があります。ファシリティマネジメントにおける「ファシリティ」とは、経営活動における施設や機器、それらを含む環境や使用する人材のすべてを含む言葉です。企業の経営活動で不可欠とされる「人材」「資金」「情報」「施設・環境」に続く経営資源として、経営に大きく影響する重要な要素とされています。

ファシリティマネジメントとは

ファシリティマネジメントの担当は主に総務部

企業において、ファシリティマネジメント管理を担う部署は主に総務部です。総務部は社内の備品管理や施設管理、来客の対応など幅広い業務を担っています。いずれも社員が安心してスムーズにはたらくために、なくてはならない業務です。中でもファシリティマネジメントは、経営に直結する業務として総務部の実力が試されます。


ファシリティマネジメントの認定資格

ファシリティマネジメントを行うにあたり、必ずしも資格は必要ありません。しかし経営面やコスト削減などを踏まえた上で、施設や環境を管理するスキルが求められます。その際に役立つのが「認定ファシリティマネジャー」という資格です。

公益社団法人日本ファシリティマネジメント協会と一般社団法人ニューオフィス推進協会、公益社団法人ロングライフビル推進協会が協同して行う資格制度で、ファシリティマネジメントに必要な管理能力や知識に加え、企画立案のスキル、人間性、社会性などを備えた人材を育成するために実施されています。


ファシリティマネジメントの対象

ファシリティマネジメントの対象となる施設は多岐にわたります。主な対象は以下の通りです。

オフィス、工場、学校、店舗、病院、銀行、図書館、美術館、駅、空港

これらの共通点は、多くの人がはたらく場所であり利用する場所であるということです。上記のように、ファシリティマネジメントの対象には、民間企業だけでなく公共の施設も含まれます。


施設管理との違い

ファシリティマネジメントと類似する業務の一つに施設管理があります。施設管理は「ビルマネジメント(BM)」と呼ばれることもあり、その目的は建物や設備の維持・保全です。日常的な維持管理に加えて、不具合が発生した際の修繕や交換なども該当します。一方でファシリティマネジメントには、施設管理にはない経営的な視点が含まれる点が大きな違いです。

例えば空調が壊れた場合、施設管理では修理もしくは新調しますが、ファシリティマネジメントでは空調の必要性から検討し、最適化を図ります。場合によっては、建物自体の断熱化や省エネが期待できる空調を採用するケースもあるでしょう。

ファシリティマネジメントと施設管理の違いは以下の通りです。

施設管理 ファシリティマネジメント
業務内容 施設の管理 施設経営・戦略を踏まえた管理
業務の目的 維持・保全 施設や資産の最適化
対象 施設 すべての固定資産
基準となる時点 現状 現状・将来(導入から廃棄までのライフサイクル)
担当部署 総務部 総務部もしくは外部の専門業者
関連する知識やスキル 建築・不動産・設備機器などの知識や修繕スキル 建築・不動産・設備機器などの知識や修繕スキル
財務・経営・情報に関する知識
環境・心理・人間工学に関する知識

プロパティマネジメント(PM)との違い

不動産管理という意味では、プロパティマネジメント(PM)もファシリティマネジメントと類似しています。プロパティマネジメントは、不動産の所有者から委託を受けて賃貸不動産の管理業務をするケースが一般的です。業務内容として入居者の募集や契約業務、家賃の回収、修繕、清掃などが挙げられます。

一方でファシリティマネジメントは建物を管理するだけでなく、オフィスにおける執務環境の改善なども業務の対象です。現状の維持・保全に加えて、よりよい施設にするための最適化も行います。


ファシリティマネジメントが注目されている背景

少子高齢化が進む中で、日本の生産年齢人口比率も減少の一途をたどっています。こうした中、経験や実績が豊富な人材の確保や、バブル期のような利益を生み出すことは容易ではありません。施設を維持していくためのコストは増える一方であり、経営に大きな影響を与えています。また経済状況が下り坂であっても、企業は経営活動を継続していく必要があります。そこで注目され始めたのが、ファシリティマネジメントです。

加えて、働き方方改革により社員の価値観が多様化したことも、ファシリティマネジメントが重要視される要因となっています。各社員が快適に業務を遂行するためには、オフィス環境の改善が必要です。はたらき方の他にも、特に大企業では社員のエンゲージメントの向上が大きな課題に上がっていますが、ファシリティマネジメントによって行われる快適な空間づくりは、社員のエンゲージメントを上げて離職率を下げることにもつながります。

このように、ファシリティマネジメントは現代社会で必要とされている経営手法です。また、ファシリティマネジメントを担う総務の重要性も高まっています。これまでは他部署をサポートする印象が強い部署でしたが、今後は経営戦略を踏まえた管理業務がますます求められるでしょう。


ファシリティマネジメントの目的

ファシリティマネジメントの主な目的は以下の5つです。それぞれの目的について解説します。

コストを削減する

ファシリティマネジメントを実施する大きな目的は、コストの削減です。例えば従来の設備や機器、システムなどを最新型に変更すると、業務の効率化が期待できます。それに伴って人件費や修繕費など、トータルでかかるコストの削減につながるでしょう。

さらに、業務の効率化によって担当者の人数を減らせた場合はスペースに空きが生まれ、施設や設備の効果的な活用や最適化も見込めます。


資産価値の低下を抑制する

固定資産の経年劣化による資産価値の低下は避けられませんが、ファシリティマネジメントによって定期的に整備することで良好な状態を維持できます。良好な状態を維持できれば長期的に活用できるだけでなく、テナントとして貸し出して収益化することも可能です。

一般的に建物や設備は時間の経過と共に劣化しますが、適切な管理ができれば耐久年数を延ばせるため、資産価値の低下の抑制にもつながります。


施設・設備利用者の生産性を向上する

ファシリティマネジメントでは単に施設を管理するだけでなく、より快適なオフィス空間をつくることも重要な任務です。いくら経験や実績が豊富な人材を確保できたとしても、施設の状態が悪ければ業務に支障をきたすでしょう。

ファシリティマネジメントで施設を安全、清潔に保つことで利便性が上がれば、社員のパフォーマンスも向上します。その結果、企業全体の生産性が上がり、利益アップも期待できるでしょう。


将来的な経営環境の変化に柔軟に対応する

ファシリティマネジメントでは経営的な視点を持って建物を整備・管理しながら、常に職場環境の改善に努めます。その結果、企業側のメリットだけでなく、自然への配慮にもつながります。例えば、オフィスの空調を環境にやさしい性能を持つものに変えると、脱炭素化に貢献できるでしょう。

このように、将来的な経営環境の変化に柔軟に対応することは、ファシリティマネジメントの重要な目的と言えます。


CSRへ貢献する

近年、企業の社会的責任を意味する「CSR(Corporate Social Responsibility)」という概念が浸透しています。CSRとは厚生労働省によると、「企業活動において社会的公正や環境などへの配慮を組み込み、社員、投資家、地域社会などの利害関係者に対して責任ある行動を取ると共に、説明責任を果たしていくことを求める考え方」と定義されており、2000年以降に頻発した企業の不祥事がきっかけで、日本でも再注目されるようになりました。

CSRの観点から見ても、ファシリティマネジメントは重要な手法です。例えば、企業を継続的に発展させるためには、社員が安心してはたらける快適なオフィス環境が求められます。また、環境汚染を防ぐ設備を活用すると、自然と共存する企業のイメージを与えられ、顧客からの信頼が得られるでしょう。このように、ファシリティマネジメントは、CSRに大きく貢献します。

このように、ファシリティマネジメントにはさまざまな目的があります。目的を理解した上で取り組みを行うと、より高い効果が得られるでしょう。またファシリティマネジメントは、企業活動におけるレベルによって取り組む内容が異なります。例えば経営層が留意するべきポイントと、日常業務で対応する取り組みは同じではありません。次の章ではファシリティマネジメントのレベルについて解説します。


ファシリティマネジメントのレベル

ファシリティマネジメントのレベル

ファシリティマネジメントは、企業の上層部だけが実施することではありません。企業活動において大きく分類すると、以下の3つのレベルに分けられます。

  1. 経営レベル
  2. 管理レベル
  3. 日常業務レベル

それぞれのレベルにおいて、どのような違いがあるのかを解説します。

経営レベル

経営レベルとは、経営的な視点を持って統括的にすべての施設・設備のファシリティマネジメントを行うレベルです。組織全体におけるファシリティマネジメントの戦略を立てて、将来的な方針を決めます。経営レベルで具体的な計画を立てておくと、他のレベルも円滑に進めることが可能です。


管理レベル

管理レベルとは経営レベルで立案した戦略をもとに、業務効率化やコスト削減に直結する維持・管理を行うレベルです。例えば設備の見直しや買い替え、修理を依頼する企業の選定などが挙げられます。

場合によっては、現場に携わることで見えてくる課題もあるため、管理レベルから経営レベルへのボトムアップ方式で意思決定をすることも大切です。


日常業務レベル

日常業務レベルでは、実際に設備の整備や清掃、修理、環境改善に貢献する業務を担います。その他、現場ではたらく社員に対し、環境維持のためのレクチャーを担当することもあるでしょう。

日常業務レベルはファシリティマネジメントの土台にあたるレベルであり、ファシリティを維持した経営活動において重要な役割を担っています。


ファシリティマネジメントの具体例

ファシリティマネジメントは広範囲で行う取り組みであり、施設や設備、状況によって活動内容が異なります。具体的な取り組み方がイメージできないと、実際の業務で活かすことが難しいでしょう。ファシリティマネジメントの具体例を、4つのパターンでご紹介します。

施設・設備の定期的なメンテナンス

従来の施設管理と同じく、ファシリティマネジメントでも施設や設備のメンテナンスを定期的に実施します。経年劣化や破損した状態を放置すると、資産価値が大きく下がりかねません。また、業務に必要な設備が故障した状態になっていると、生産性が下がります。こうした問題を回避するためにも、定期的なメンテナンスが重要です。

メンテナンスにはコストがかかるものの、大規模な修繕費を考えると、トータルで見た場合のコストは削減できるでしょう。劣化や破損のリスクを避けるためにも、メンテナンスは半年に1回程度は行う必要があります。

パーソルテンプスタッフは総務アウトソーシング・BPOを通して、ファシリティマネジメントの一部である施設・備品管理を請け負っています。総務アウトソーシング・BPOについては、以下ページで詳しく解説していますので、ご覧ください。


オフィスのリニューアル・レイアウトの変更

オフィスのリニューアルやレイアウトの変更も、はたらき方や業務内容に合わせて快適な環境をつくる上で大切です。例えば、オフィス内の動線を変えるだけで、社員の交流が活発になる可能性があります。相互理解を深めるためには、気軽にコミュニケーションが取れるスペースを設けるのも一つの手段です。

また、在宅勤務が増えた企業では、広いスペースが不要になるケースもあるでしょう。このように企業の状況を踏まえて、スペースの有効活用やオフィスの見直しが必要です。


省エネ対策

以前から活用している設備をメンテナンスしながら長く使うことも大切ですが、高性能なものに入れ替えることを検討する業務もファシリティマネジメントの一つです。特に省エネ対策に関連する設備は、長期的に見るとコスト削減や管理の負担軽減につながります。最新機器を導入するだけでなく、施設自体の断熱や防湿を見直す方法もよいでしょう。

また、ファシリティマネジメントによる省エネ対策は、社会貢献にもつながるため、企業イメージの向上が期待できます。


防災やセキュリティの強化

地震や異常気象などに見舞われることが多い中、ファシリティマネジメントでは防災やセキュリティの強化も重要視されています。万が一施設や設備が損傷してしまえば、企業経営が立ち行かなくなることもあります。こうしたリスクを未然に防ぐためには、より耐震性や耐火性のある素材を導入して施設を守る必要があります。

また、有事の際に避難できる場所を確保しておくことも重要です。その他、盗難や情報漏えいの被害を防ぐための対策も必要でしょう。このように、ファシリティマネジメントによって施設の安全性が高まることは、社員の安全にもつながります。


ファシリティマネジメントで生産性の向上やコスト削減を実現しよう

ファシリティマネジメントは、単に施設や設備を維持・管理することではありません。経営的な視点で戦略を立てながら、最適な活用方法を見出す総合的なマネジメント手法です。

対応内容は多岐にわたり、自社だけでは手が回らないと悩む企業も少なくありません。より効率的にファシリティマネジメントを行うためには、アウトソーシングの活用もよいでしょう。

パーソルテンプスタッフでは総務アウトソーシング・BPOにおいて、施設・設備管理に対応しており、多くのお客さまにご選択いただいています。その理由として、お客さまのもとに常駐するオンサイト運用により、状況に応じて柔軟な対応ができる点が挙げられます。また業務設計のノウハウを持っており、現場ではたらく人材の目線に立った運用体制の提案が可能です。ファシリティマネジメントについて、お困りのことやご相談がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。

近年、オフィスリニューアルやオフィス移転に伴い、総務コンシェルジュ(社員向けの総合窓口)を設ける大企業が増えています。パーソルテンプスタッフでは総務コンシェルジュに関する業務全般を、総務アウトソーシング・BPOとしてお引き受けすることが可能です。総務コンシェルジュやファシリティ管理の事例もございます。詳しくは、以下のページをご覧ください。

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