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特定派遣とは?一般派遣との違いや特定派遣廃止の背景について

公開日:2023.06.26

人事ナレッジ

派遣形態の一つとして知られる特定派遣は、派遣スタッフの不安定なはたらき方を改める目的で労働者派遣事業制度が見直されたことを受けて、労働者派遣法改正に伴い2015年に廃止されました。さらに2018年には経過措置の期間も終了しています。特定派遣と一般派遣との違い、特定派遣が廃止された背景、特定派遣の廃止がIT業界に多大な影響を与えたと言われている理由などを解説します。

特定派遣とは

特定派遣(特定労働者派遣事業)とは、派遣スタッフが人材派遣会社との間に常時雇用契約を結んだ後、案件ごとに派遣先企業に派遣され、就業するはたらき方のことです。労働者派遣事業制度の見直しが行われ、2015年9月30日に廃止にされています。

特定派遣は、労働者派遣法16条(現在は削除されています。)により厚生労働省への届け出を必要とするものの、一般労働者派遣事業のように許可制ではありませんでした。

一般派遣とは

一般派遣(一般労働者派遣事業)は、派遣スタッフが人材派遣会社に登録してから、派遣先企業を紹介するはたらき方です。派遣先での就業が決まった段階で雇用契約を結び、派遣スタッフは派遣先企業に派遣され、一定期間就業します。具体的には、登録型、臨時、日雇いの派遣が該当します。

2015年に労働者派遣法が改正されたことで、「一般労働者派遣事業(許可制)」と「特定労働者派遣事業(届出制)」の区別が廃止されています。つまり、すべての労働者派遣事業が許可制となり、労働者派遣事業を行う場合は、厚生労働大臣の許可を受けなければなりません。

特定派遣と一般派遣の違い

同じ「派遣」でも、特定派遣と一般派遣の内容は異なります。この章では、両者の違いについて詳しく解説します。

まず、契約形態について、特定派遣では常用型雇用契約となりますが、一般派遣では登録型となります。一般派遣では登録した時点では人材派遣会社との雇用契約は結ばれず、派遣スタッフが派遣先企業への派遣が決まった際に雇用契約の締結となるため、常用型雇用契約の特定派遣とは大きな違いがあります。

雇用主については、特定派遣も一般派遣も人材派遣会社となるため、雇用主における両者の違いはありません。

業務・業種の違い

専門性の高い業務では、派遣スタッフ個人が持つ知識、スキルなどにより、仕事の仕上がりも大きく変わってきます。派遣業務として活用が多かった「26業種」は以下が該当します。

  1. ソフトウェア開発
  2. 機械設計
  3. 放送機器等操作
  4. 放送番組等演出
  5. 事務用機器操作
  6. 翻訳、通訳、速記
  7. 秘書
  8. ファイリング
  9. 調査
  10. 財務処理
  11. 取引文書作成
  12. デモンストレーション
  13. 添乗
  14. 建築物清掃
  15. 建築設備運転、点検、整備
  16. 案内・受付、駐車場管理等
  17. 研究開発
  18. 事業の実施体制等の企画、立案
  19. 書籍等の制作・編集
  20. 広告デザイン
  21. インテリアコーディネータ
  22. アナウンサー
  23. OAインストラクション
  24. テレマーケティングの営業
  25. セールスエンジニアリングの営業、金融商品の営業
  26. 放送番組等における大道具・小道具

2015年までの旧労働者派遣法では、同一の派遣先で同じ派遣スタッフを受け入れられる期間を最長3年と定めていました。しかし、専門26業種はこの上限3年ルールの適用対象外、つまり3年を超えても契約更新が可能でした。

2015年の旧労働者派遣法では、26業務に対比して、自由化業務がありました。これは派遣禁止業務を除く、26業務以外のあらゆる業務に対応しているのが特徴です。派遣期間は3年の上限がありますが、これは「就業から3年経過する前に契約を終了するべき」というものではなく、派遣スタッフの雇用を安定させるために設けられています。労働者派遣法では「派遣就業は臨時的かつ一時的なものであることを原則とする」と定義されており、3年を超える期間で人材が必要な場合は、自社(派遣先)で直接雇用すべきという考えのもと定められています。

特定派遣は現在廃止されている

特定派遣は、労働者派遣事業制度の見直しにより2015年9月30日に廃止され、「派遣事業」に一本化しました。しかし、急に特定派遣事業がなくなると混乱を招くことから、2018年9月29日までは経過措置期間として特定派遣事業の継続が認められていました。現在はこの経過措置も終了しています。

人材派遣会社と雇用契約を締結し、雇用期間の上限もなく安定したはたらき方に思える特定派遣は、なぜ廃止されたのでしょうか。続いては、特定派遣が廃止された背景と廃止による影響を解説します。

特定派遣が廃止された背景

特定派遣は、特定派遣契約を結んだ派遣スタッフを守るために廃止されました。特に1990年代は、Webが急速に普及し、あたらしいビジネスモデルがWeb上で誕生して、情報通信産業が大きな転換期を迎えました。

この時期に誕生したIT企業は、スキルを持つ労働者を求めていました。そこで資格やスキルを有している労働者をよりスムーズに集めて、希望する企業のもとへ派遣するために整えられた制度が特定派遣でした。

特定派遣が届出制により、一般派遣よりも参入ハードルが低く設定されたのは、専門的なスキルを有する派遣スタッフと常時雇用契約を結ぶことを前提としていたためと考えられています。

常用雇用労働者とは、雇用形態を問わず、「期間の定めなく雇用されている労働者」、または「1年以上継続して雇用されている労働者」、および「採用時から1年以上継続して雇用されると見込まれる労働者」のことを指します。正社員だけでなく、契約社員やパート・アルバイトでも、この定義に当てはまることがあります。契約社員という名目で短期間での有期雇用を繰り返す人材派遣会社もあったことから、「特定派遣は安定している」とは断言できず、派遣スタッフの立場が不安定になることがありました。

特定派遣では、人材派遣会社は派遣スタッフに対して給与を支払います。派遣先が決まっていない期間でも人材派遣会社には給与支払い義務が生じることから、業績悪化に伴う人員整理の名目で、特定派遣の派遣スタッフを解雇する企業も出てきました。

こうした問題が発生したことを受けて、派遣スタッフが安定してはたらけるようにすることを目的に特定派遣の制度そのものが見直された結果、労働者派遣法が改正され特定派遣は廃止に至ったのです。

特定派遣廃止による影響

2018年9月29日で特定派遣が一切認められなくなって以降、無期雇用派遣スタッフは毎年増加しています。

無期雇用派遣スタッフの増加

2019年になると無期雇用派遣スタッフの数自体は2017年よりも増加します。これは、雇用元の人材派遣会社が雇用安定措置を講じたことと、派遣スタッフを同じ部署に3年以上派遣できなくなったことがきっかけとなり、派遣スタッフの無期雇用が進んだことが理由と考えられます。

特定派遣が廃止されて特に影響があったIT業界

労働者派遣法改正により特定派遣が廃止されると、派遣事業のあり方が大きく変わりました。中でも特にIT業界への影響は大きいものでした。特定派遣の廃止以降、一般派遣の許可を取得できなかった人材派遣会社は派遣事業ができなくなりました。

特定派遣の廃止によりIT業界に起きた変化

特定派遣が廃止されたことを受けて、IT業界ではSES(System Engineering Service)が注目を集めるようになりました。SESとは、一般的にソフトウェア開発に必要なエンジニアを作業に従事させ受託業務を遂行する契約形態で、エンジニアの作業時間に対して報酬を支払います。SESは準委任契約、業務委託、タイマテ(タイム・アンド・マテリアル)と呼ばれることもあり、現在では多くのIT企業でSES契約が行われています。

SESは派遣先企業の指示を受けて業務をすることが禁止されています。偽装請負とみなされ法令違反となることがないよう注意が必要です。

特定派遣廃止は派遣スタッフの不安定な立場を解消するための施策

本記事では、特定派遣について解説しました。特定派遣は、派遣法改正により2015年に廃止されました。これにより、「一般労働者派遣事業(許可制)」と「特定労働者派遣事業(届出制)」の区別が廃止され、すべての労働者派遣事業が許可制となりました。そのため、労働者派遣事業をするには、厚生労働大臣の許可が必要です。

一見して安定しているように見える特定派遣ですが、派遣スタッフが不安定な立場に置かれる可能性が高かったこと、短期間での解雇などの問題も存在していました。

派遣事業をとりまく法令は、派遣スタッフが安定就業できること、派遣事業が適切に運営されることを目指し定められています。法の主旨を理解し、派遣サービス活用のポイントをおさえ、活用していきましょう。

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