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【ナレッジインタビュー】
カゴメ 有沢 氏
皆さんにお伝えしたいことと私の使命

公開日:2022.11.28

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【ナレッジインタビュー】 カゴメ 有沢 氏 皆さんにお伝えしたいことと私の使命

カゴメ株式会社 常務執行役員CHO(最高人事責任者)
有沢 正人 氏

今回のナレッジインタビューはカゴメ株式会社CHOの有沢正人さんです。
2022年12月に開催のHRナレッジセミナー2022 Winterに昨年から続き、ご登壇いただきます。人的資本経営を軸に、秋に出版された法政大学の石山先生との共著書の内容にも触れていただけるということでとても楽しみです。
さまざまな講演のなかで、人事の幅広い領域・テーマについてお話をされている有沢さんですが、HRナレッジセミナーの前に、今回のセミナーで皆さんに伝えたいことやご自身の大切にされていることについてお聞きしました。

― 今、人的資本経営についての講演や本が今数多く出ています。しかし実際には、「講演を聞き、内容について腹落ちはするけれども、その後自社に当てはめたときにどうしていったらいいのか」「自社でやってみてもうまくいかない」など迷われたり悩む声もよくお聞きします。

人的資本というものを考える前に、企業風土の醸成や人事制度作りがやはり大事です。人事制度は経営のメッセージなので、しっかり設計しなければいけません。そのためには、まずはHR自らが変わらないとならない。エンゲージメントや人材育成などが重要なミッションです。
今までと「はたらく」ということが違ってきています。会社・人事としても、資本とするものの考え方や、経営戦略との連携が問われています。

私がカゴメでどのような施策を講じてきたか、それは何のためでどうなったのか、ということは12月のセミナーで詳細をお話させていただきます。これまでの話も含めながら、「今」を追加し、バージョンアップした話をお届けしたいと思います。カゴメでは、HRとしてさまざまなプロジェクトでアプローチを重ねています。各プロジェクトは何のために行い、何につながっているのか。大事なもの、やらなくてはならないものはたくさんあります。

人が挑戦するには何が必要だと思いますか。それは自分で決めること、キャリア自律が大事であり、キャリア自律の実現はさまざまな課題の解決につながっていきます。キャリアを自分の価値観で決めて多様なはたらき方ができる、キャリア自律。これは人的資本の拡充に必要なことだと思っています。後に続いていく人事制度も大事ですが、先程もお伝えしたように人事制度にメッセージが入っていなければなりません。
また、人事制度を変えることも大事だけれどメッセージが基本的に入っていなければ駄目だということや、エンゲージメントについてもセミナーでお話をしようと思っています。

― 「戦略人事」「人的資本経営」など流行り言葉のようになってしまっている側面があるように感じます。具体的に人事がそれぞれをどう捉え具体的に何に向かって動いていけばよいのか、その目線が経営と合っているのか、ということもありますよね。

実際、経営と人事の目線が合っていないというようなこともあると思います。
例えばジョブ型の話にしても大半の企業ができていない。理由は年功型が残っていることだと思います。“仕事に値段を付ける”という当たり前のことをしなければなりません。相変わらず人ベースで値段をつけている。ジョブディスクリプションを作ることに時間をかけている実態がある。

ジョブディスクリプションを作るだけでいっぱいいっぱい!というのは明らかにジョブ型の本質ではありません。ジョブ型とは仕事内容を明確化して、その仕事に値段をつけ、そしてその業務にどういう人材を配置させていくかを決めることです。だからジョブディスクリプションを入れたら、その仕事に対して値段をつけて公開し、それにどういった評価をする…そういった中でそこの部署に行けるのかという確認をする、ということと考えます。だから必ずしも社内全体のジョブディスクリプションを作らなければならないということではないと思います。ただ弊社は中途採用についてはジョブディスクリプションを作るケースもあります。私は今まで4社に在籍しましたが、4社とも原則ジョブディスクリプションを作成してきませんでした。

誤解を恐れず申せばジョブ型を導入した方が人的資本の推進はしやすいと思います。でもジョブ型は人的資本経営の必須条件では決してないことはあえて申し上げておきたいと思います。
人的資本経営はそもそも資産の裏側にある人件費という考え方からから人的資本投資っていう人的投資、いわゆるコストだからインベストメント(投資)への切り替えです。「何のためにこれをやるのか」というようなところまで落とし込んで考えられる方が現実的にはまだまだ少ないのかもしれません。

これだけ人的資本といっても、理解が「女性管理職比率をあげること」や「男女の賃金の格差をなくすこと」のみに矮小化わいしょうかされているケースが見られます。やはり「人件費」という捉え方をすると「コスト」ということがついてまわります。くどいですが人的資本の考え方のベースは「投資」です。したがってこれからの人事担当役員と人事部長は「人件費」ではなく「人的投資」をベースに施策を展開していくように頭の転換をしていただかなければならないと思っています。

人事部の方々だけではなく、経営者の方のご理解がまだまだ不足していると感じることもあります。だから「他の企業も導入しているから自社もジョブ型を導入しなさい」と経営者がおっしゃって、途方に暮れている人事担当役員や人事部長の方からお話をお聞きすることも多いです。
大切なことは心理的安全性の確保に努めることです。人事制度はさまざまな観点から熟慮を重ねて設計すべきものですし、導入に際しては社員の皆さまの疑問点を解消せねばなりませんので、心理的安全性がとても大切となります。したがって、人事部を管轄されている方はまず、心理的安全性を確保するという考えを大切にしてもらいたいと思います。

― 有沢さんは大学教授の方などと一緒に講演やセッションされることも多いですよね。今秋には法政大学の石山先生との本も出版されました。

何度もご一緒していると、お互い個性が違うから芸風のようになってしまって。有沢は独特の芸風を活かせとよく言われますよ(笑)突っ込みを入れながら、人事の話をいろいろな方としますね。最近、戦略人事とサステナブル人事などについて法政大学の石山先生と本を書きました。
経済産業省や金融庁から人的情報の開示についていろいろ情報をいただきますが、依然として企業の動きがやや鈍く感じます。経営者も人事も開示に際し戸惑っていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。

やはり、それは誤解を恐れず申せば、まだまだ覚悟が足りないからだと思います。人的資本経営に切り替える覚悟を決めるのなら今の制度適用でどこまでいけるか、ということをまずはよく考えなければいけない。くどいですが、ジョブ型にしたら何でも解決するわけではないですし、ジョブ型が万能でもない。ただジョブ型を入れたほうが人的資本経営はやりやすいことは事実、というだけです。

― 有沢さんはさまざまなところで講演されていらっしゃって、複数回聞かれてる方はとても多いと思います。
何回でも聞きたいと思う魅力が、有沢さんにあるのですよね。

もちろん、毎年お話する内容は少しずつ変えてはいます(笑)でも「伝わっているのかな」と思うこともあって。例えば、皆さんの関心が高い、心理的安全性の担保とかモチベーション、さらにキャリア自律について。これを前に進めるためには、会社がしっかりと担保してあげることが必要です。ですので、これこそ、これからの人事としての最も大事な仕事だと、意識して伝えています。
制度を入れたけれどうまくいかない、こうやってみたのだけれどうまくいかない…その時に考えていただきたいのは「そもそも何のためになぜやるのか」。WHYだとかWHATとかがはっきりしていなければ、基本的にうまくいくはずはありません。「自分は何のためにやっているのか」、悩むたびに調整していけばよい方向に行くのではないかと思っています。

― 昨年のHRナレッジセミナーのセミナーにご登壇いただいた際、参加者の皆さんからたくさんの質問をいただきました。質問がしたい、聞きたいっていうふうに思わせる何かが有沢さんにあられると思うんですけれど、ご自身でどう思われますか。

ありがたいことに時間内に答えられないぐらいたくさんのご質問をいただきました。時間内で全ての質問に答えられなかったので、後日追加イベントをしましたね。私のセミナーは質問が多いほうなのですが、あの時は今までで一番多かった気がします。
質問していただけるということは、聞いてくださっているということじゃないですか。聞いていて、「なぜだろう」「どういうことだろう」と思うことが大事なのではないかと思うのです。そう思っていただいているというのは、真剣に聞いていただきたいているということですから。

― 自社の中で課題を解決させるというか、導いていってくれるような存在がいる、育てるというのは、難しいものですよね。

そうですね。前半でお話したように自分で覚悟を決めなければなりません。自分の行動変容が会社の変容につながるということをしっかりとご理解いただくことが大事だと思います。その点はいつも特に意識してお伝えしています。人的資本を高めることにますます注目が集まっているわけですから、単に開示項目に対して対応すればよいわけではなくて、これを機会にいろいろ変革に取り組んでいただければと存じます。

大学の先生はお話されるのが本当にお上手だといつも思います。そして私は実社会・実務に置き換えたらそれはどうなるのかということをお話させていただいています。ですから大学の先生方とご一緒するのは大変光栄です。

私は企業で38年やってきて62歳になりました。その経験をお伝えすることも、私の使命だと思っています。
カゴメはすごく人に優しい、良い会社です。こんなに素晴らしい人たちが集まっている会社は見たことがないくらいです。でも、外から来た私にとっては、改革することを期待されている。それに応えなければいけないと思っています。

― 「まずは覚悟を決めなさい」というお話の中で、法政大学の石山先生との共著『カゴメの人事改革―戦略人事とサステナブル人事による人的資本経営』のタイトルにあるように、やっぱりサステナブルに、そして継続させていくこともひとつの覚悟ですね。

そうです。石山先生がサステナブル戦略とおっしゃっているのは、決して今のサステナブルという時流に合わせておっしゃっているのではなく、人事戦略そのものがサステナブルでなければならないということ、そして経営戦略と連動しているということが大事だということだと思います。そのようなことが石山先生との本に記述されています。あとは私の経験や知識・スキル、そしてカゴメでの経験をベースに、以前20年間つとめたりそな銀行の方にもご協力いただいて、人的資本経営を目指す人事の方に少しでもお役に立てればと書かせていただきました。正直複数の会社でさまざまな経験ができたことは私にとって非常に大きいです。

― 人事の方で、ここまでいろいろ幅広くお話ができて、たくさんのご経験を語れる方は、少ないのではないでしょうか。だからこそ質問も殺到してしまうのだと思います。今回のHRナレッジセミナー2022 Winterも、ものすごく皆さん、楽しみにされていると思います。

例えば質問にはやっぱり最後まで全部答えるのが、皆さんの満足度に大きくつながると思っています。次回も有沢の講演を見たいかとか人に勧めたいと思うか、やっぱりその点は大事だと思っています。最後まで時間の許す限り、皆さんが納得できるまで基本的にご説明させていただきたい。それが講師としての役目だと僕は思っています。

さまざまなイベントやセミナー、記事などで拝見しているカゴメの有沢さんですが、周りの方々への感謝の気持ちを忘れず、またご自身の経験を日本のHRのために伝え、応えていく。有沢さんが多くの人事パーソンから尊敬されるお人柄が伝わるインタビューでした。
本講演のアーカイブ動画やセミナーレポートもぜひご覧ください。

Profile

カゴメ株式会社 有沢 正人 氏

カゴメ株式会社
常務執行役員CHO(最高人事責任者)
有沢 正人 氏

1984年に協和銀行(現りそな銀行)に入行し、主に人事、経営企画に携わる。2004年にHOYA株式会社に入社。人事担当ディレクターとして全世界のHOYAグループの人事を統括。2009年にAIU保険会社に人事担当執行役員として入社。ニューヨークの本社とともに日本独自のジョブグレーディング制度や評価体系を構築する。2012年1月にカゴメ株式会社に特別顧問として入社。カゴメ株式会社の人事面でのグローバル化の統括責任者となり、全世界共通の人事制度の構築を行っている。2018年4月より現職となり、国内だけでなく全世界のカゴメの最高人事責任者となる。

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